恋なんてしたことはなかった。そもそも恋なんて、人を好きになるなんて、そんな曖昧で不確かな感情なんて、当てにならない物だと思っていた。
「ぼっちちゃん家もう少しで着くよ」
「たのしみですね!」
けれど確かに胸はときめいて、ギターを弾く少女に見惚れていた。
後藤ひとりを魅力的だと思った。
「湊くんもありがとねー?」
「んあー、大丈夫。暇だったし、ひとりんち気になるしな」
「…後藤さんだから?」
覗き込むようにいう郁代から眼を逸らし俺は口を開く。
「いや、皆んなの気になるっしょ。俺的にはリョウせんが一番気になるわ」
「確かに!リョウ先輩はきっととてもオシャレな家に住んでるはずだわ!…今日リョウ先輩も来れば良かったのに……」
「おばあちゃんが今年で10回目の峠らしいよ」
「それ絶対峠じゃねー…」
今俺達は、ひとりの家へと向かっている。目的は結束バンドのバンドTシャツのデザインを考えるため。正直俺はいらないと思うが…虹夏が誘ってくれたのと、ひとりに会いたいので来ることにした。
「んで……これは何だろうか」
見えてきたのは、歓迎!結束バンド一向とひとりちゃんの彼氏!!癒しのひと時を!と書かれた横断幕。旅館か?って言いたくなるほどの歓迎っぷりだ。
「…そ、それだけ楽しみにしてるってことですね!」
「そ、そうだね!喜多ちゃんいいこと言うー!…ぼっちちゃーんきたよー!」
ピンポーンとインターホンを鳴らしてひとりを待つ。そして俺らは出てきたひとりに驚愕する。
「い、いぇええええい!ウェ、ウェルカム〜〜〜」
誕生日パーティーでふざけて被ったりつけたりする、ドンキに売ってそうなパーティーグッズをフル装備して出迎えてきたのだ。
「ぼっちちゃん楽しそうだね」
「…あ、はい」
スベッたひとりはパンッと刹那げに最後のクラッカーを鳴らした。
うん、歓迎してくれてんだよな。ありがとう。
「こっちです…」
明らかにテンションが落ちて暗い空気が増している。ひとりの暗い空気って伝染してくから怖えんだよなぁ。今日はあんま近寄らないでおこう。
「私おすすめの映画持ってきたのよね!」
「…お、それ俺も好きなやつ。最後泣けるよな〜…恋愛映画って最高」
「この前、寝てたじゃない…」
「いや、それはアニキんとこで朝まで働いてたからで…」
俺と郁代が2人で盛り上がると虹夏が割って入ってくる。
「今日は遊びに来たわけじゃないんだからね!」
口をむってやる虹夏。やっぱ可愛い。こう仕草一つ一つが女の子なんだよなぁ。なんて考えているとひとりが家に貼ってあった飾り付けをぶちぶちと剥がし始めた。虹夏やったなこれぃ。
「…ぜ、全部片付けますね…」
「やっぱりちょっとは遊ぼうかな!」
あらら、負けちゃった。…いやでもそりゃそうだよな。家の飾り付けはクリスマスパーティーか?ってくらい豪華で風船に、星にキラキラシールみたいなやつに紙テープの飾りだったり凄い。
「あ、の、飲み物取ってきます…」
「俺も行くわ」
「ありがとー!」
「あ、後藤さんこれお土産!」
ちゃんとお土産用意してんの偉いな。俺何も持ってきてねーや。なんて考えながら、俺はひとりについて行く。
「今日は…家、きてくれて…ありがと…」
「俺も来たかったし感謝いらんよ…てか横断幕に彼氏って書かれてたけど…」
「……ぁ、えと」
階段を降りるとそこにはひとりに似た女性がいた。見た目は若いけど多分お母さんか。
「…あら…?…ひとりちゃんその…人」
「あ、お母さん…っ…ぇと、あ…か、彼氏!!」
「………っぱそうなるん?」
何となくそんな気はした。だって最近のギターヒーローの動画の概要欄まんま俺のこと描かれてるし…いや嬉しいんだよ?初恋相手にこんなことされるのはさ、嬉しいんだけど…。
あの概要欄の文…だいぶきちぃんだよな。
「ほ、本当にひとりちゃんの彼氏…かしら?」
「…えー、はい」
とりあえずひとりの嘘に乗っかっておく。否定するのもめんどいし、そもそも好きな人と嘘でも恋人関係って名乗れるんだから俺に取っては役得だ。
「本当にひとりの彼氏なのか…!?」
バッ目の前に現れたのは目が隠れて…ノリの良さそうな男性。バンドマンっぽいけど、父親かな
「…田中湊と言います。ひとりさんとは同じ学校で…たまたま結束バンドとひとりさんの出会いにに立ち会って…それから仲良くさせてもらって…。お付き合いさせていただいてます」
見た目がチャラチャラしてて印象が悪いので、できる限り態度で印象を良くする。ひとりは可愛いし、ひとりの父親にブチギレられる可能性もある。マジで気をつけねーと終わる。
「…お、お付き合い……あのひとりに………。君…見た目は良いし……中身も良さそうだし」
ふるふると震えているひとりの父親。やっぱピアス外せとか髪、黒にしろとか言われっかな。…この前入れたタトゥーは二の腕だしバレないけど…今後もこれ続けていくならいずれバレるよなぁ。
「ひとりで……いいのか…?」
「お、お父さん!?」
「わ、私もどうしても思っちゃうわ。ひとりちゃんでいーの?って」
「お母さんまで……」
ええ……家族にそこまで言われるほどのひとりはやっぱり普通じゃないんだな。でも見た目は良いし…髪切れば……。てか俺とはもう普通に喋れてるから、何にも弊害ないんだよな。
「ひとりは可愛いし、ギター弾いてる姿はカッコいいし、時々変だけどそれも面白いし見ていて飽きないというか…そういう良いとこも悪いとこも全部…好きなんです。だからひとりがいいんです」
ひとりの前でこんなこと言うのマジで恥ずいんだけど……っ…。てか俺大丈夫か…?顔とか赤くなってたらやばい。とひとりの顔をチラッと見るけど、その顔から心情を読み取るることはできなかった。
「……そ、そう言うことだから。ああっち行って」
両親を押して飲み物を取り、こちらに戻ってくるひとり。俺はひとりが持ってきた飲み物を受け取り、部屋に戻ろうとする。
「…湊くん…ごめんなさい」
けれどひとりが小声でそう言ったので俺の体は硬直した。
「…謝ることしてないだろ?」
何で謝ったのか。何でそんな悲しそうな顔をしてるのか。分からなかった。どうすれば良いのか分からなかった。
ただ、俺の中の事実を言っただけだったけれどそれがひとりを傷つけたのだろうか。なんで…だ。何か癪に触ったのか…?何も分からない。
「わ、私に合わせて…気を使って…嘘ついて…ごめんなさい。本当は今日湊くんが来るって聞いて嬉しくて…舞い上がっちゃって…飾り付けとか自分でも引くくらいに豪華にして…両親…もいて…全部迷惑になるかもって思ってたけど…それよりも、湊くんの口で……嘘でも良いから好きって言って欲しいって……。身勝手な気持ちが」
「いや、嘘じゃねーよ」
何でだろう。分からない。そんな資格俺にはなかった。身体を許した相手が誰とでも仲良くしてて、何人とも身体の関係を築いていて……不安に決まっていた。好きでも…何でも。信頼なんてそう簡単にできないし、そもそもこの人はそーゆー人だと割り切っても心の中は穏やかじゃないんだ。
だから俺はひとりの顔を見て嘘偽りなく想いを伝える。
「…今。俺は…ひとりが好きで…多分…初恋で…。さっきのは嘘じゃない…」
「……ぇ…」
「だ、だからぁ…俺はひとりが好きなんだよ!」
気持ちが溢れるってこう言うことだったのか。自分でも分かるくらいに顔が熱くて心臓が、うるさい。
俺は今まで酷かったと分かる。
半端な気持ちで人と付き合って…テキトーに相手して…だからフラれたんだ。
郁代だって…他の子達も…。きっと緊張と期待をもって俺に告白してくれたのに…。
最低だ。
「……じゃ、じゃあ、私も湊くんの家に住んでも良い?」
「……ぇ?」
「お、お親に話してくる!!先に戻ってて!」
バッと凄まじいスピードでかけて行ったひとりは俺には見えなかった。なんて速さだ……。
先に戻ってろと言われたら戻るのが俺の性分。結露が出た飲み物がぬるくならない内に俺は部屋へと戻る。
「あ、湊くん遅いよー…てか声聞こえてたよ?…ぼっちちゃんは?」
「………っ…」
「あー、なんか両親と話あるみたいな感じでどっか行った……てかその子…妹?」
部屋へ戻るとひとりに似た小さな女の子と犬がいた。
「後藤ふたりです!犬はジミヘン!」
「俺は田中湊です!…可愛いね〜…ってちょいジミヘン!今飲み物持ってるから待ってねー」
「湊くんって子供とかの前で口調変わるタイプ?」
「子供好きですよ湊くんは」
「へー………。」
何で知ってんだ郁代。こえーよ。あと今の顔もこえーよ。
「湊お兄ちゃん!背高いねーー!ふたりのことおんぶできる?」
「おう、任せろ…肩車ー!」
「わーっ!高い!凄いね湊お兄ちゃん!」
何これちょー癒される…。子供って最高じゃない?子育ては大変だろーけどさ。
「…ぁ、湊くん」
ふたりちゃんを肩車しながら犬に追いかけられてる俺。ひとりに見られんの恥ずかしいな。てか待って。お父さんとお母さんも見てるじゃん。
「あらあら…さっそくふたりとも仲良く…」
「ひとり幸せな家庭を築くんだぞ」
何言ってんの?2人とも
「あ、てか俺やることないんでなんか手伝えることあります?食事とか」
「料理もできるのね!ひとりちゃんも一人暮らしって言ってたものねー」
バンドのTシャツは3人に任せて俺はまた部屋を出てひとりの親について行く。一人暮らしで良かったかもな。今はきくりいるけど…。一通りの家事が出来るのはやっぱり印象も良いと思うし。
「…お、唐揚げ良いですね…ひとりの好物っすか」
「…お、そうなんだよ!この唐揚げはね〜……」
後藤家特製唐揚げのレシピやこだわりを教えて貰いながら、料理を手伝った。あんま見た目で人判断しないのかな……まぁひとりがピンク髪だし。
「え、そうなんすね。今度うちでも作ってみます」
「うん、ひとりに作ってやってくれ」
「………ん?」
「ほら、これからひとりが住むだろ?」
「……え、……あ、はい」
「やっぱり学校に片道2時間って辛いだろうし、ひとりにとっては一石二鳥だからね……くれぐれも!ハメ外さないように!気をつけてくれよ?」
「………はい」
断ることもできずに返事をすることしかできなかった。
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料理が出来上がったので、ひとり達を呼びに行く。
「おー料理できたぞ……って」
扉を開けて部屋に入ると赤いリボンが特徴的な服にタイトスカートとまるで女の子みたいな服を着ていた。いや女の子なんだけどさ。
「え、めっちゃ似合ってる。可愛いじゃんひとり」
「ぁ…み、湊くん助けて…っ!」
「やっぱ可愛いよね!!」
「後藤さん普段の奇行で分かりずらいけど…!可愛いですね!」
素直に似合ってる。てかやっぱり顔いいけど…髪邪魔だなぁ…
「前髪セットしねぇか?」
「「うんうんうん!!」」
女子組が気合いを入れて同意する。可愛いものをさらに可愛くするんだからそりゃテンションも上がるか。こういうノリにひとりは我慢出来ずに爆発しそうになるが俺がさせない。
「可愛いひとり見たいし、ダメか?」
「……うっ……わ、分かりました…」
ヘアアイロンで毛先を内に巻いてナチュラルなセンター分けにする。また表面の髪を真上に持ち上げ、根本まで巻き込んでふわっと下ろし、スタイリング剤をシャンプーをする容量でわしゃりとつける。
「まってすっげえ…いいな」
「…きゃーっ!!かっこいいわね!!後藤さんこっち向いて!!」
「…服…ストリート系にしたら化けそうだね。…喜多ちゃんひとりちゃん怯えてるからやめたげて」
郁代がスマホを取り出しカシャカシャと写真を、撮っていく。俺も撮っとこ。
「…ぁ、あ……う"ぅ……」
するとひとりはどんどんと溶けて行って…死んだ……。
「…あーあ。死んじゃった」
「…新しいギター探さないとですね」
「2人とも冷たいよ!!」
だって、粉々に散ってったし…もうしょうがないよ…!
なんてお決まりのやり取りをしてから、ひとりの考えたバンドTシャツの柄を見てだせーとかだせーとかだせーとか思いながら形が戻って行くのを待ち…いや唐揚げ冷めるか。
「あ、そういえば唐揚げ揚げたんだった。はよ食べ行きましょ」
好物ということもあり、身体を瞬時に合体させて形を取り戻し、ハッと意識を回復したひとりに化け物やんと思いながらも、頭を撫でる。
「……」
「ぁ、え…湊くんの手料理…!食べます!」
「……お、おう」
…好きな人に手料理食べられるのって案外緊張するな……。
その後美味しそうに食べるひとりは凄く可愛くて、愛おしかった。
そして来週から俺とひとりときくりの3人生活が始まることが確定した。
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次回えち