「…あれいないのか」
家に帰ると珍しく誰もいなかった。スマホを見るとひとりんちの近くで路上ライブしてくるとのこと。こっからだとめちゃくちゃ遠いだろう。
きっと買ってあった酒をかぶかぶ飲んで、酔いに酔ったきくりの発言だろうけど路上ライブは確かに無名のバンドが人の目などの慣れや経験を積む上では理にかなってるものだろう。
夕飯もひとりんちで食べてくるっぽいし…うーんどうしようかなぁ。
「なんか、あれだな久々1人になったな。」
最近はひとりときくりがいたし…前は友達泊めてたけどある程度1人の時間はあったんよな。
「…」
とりあえずと俺は外に出てタバコを吸う。まっすぐに煙は立ち上がり暗い夜へと消えていく。それをぼーっと眺めてからまた一口吸ってを何度か繰り返す。
ひとりへの好きは、多分もう性欲じゃなくなっている。確かに触れたいとか抱きたいとかは思うけれど…それよりも離れなくちゃって気持ちが日に日に強くなっている。
ひとりが今のままで幸せになるとは思えない。
「はぁ〜…俺マジ最低」
全部最悪で最低のまま。結束バンドのライブの日が迫った。
のだが、
台風直撃。
朝、スマホを開いて天気予報を見るとその四文字が目に入る。風が強いし雨の音はすげえ。夏きたぜ。
「いや……何でこの日なんだよ」
ひとり達は沢山、本当に沢山練習をしていた。昨日は願掛けで、てるてる坊主も作って…それなのに何で。
まぁ…。
「台風ってテンション上がるくね?」
「帰りGUよらせて水やべえ」
「分かる〜…てか湊んち行かせろ」
「はいはいはい……あ、ひとりー…おはよー」
俺らには関係ないっぽい。台風ってテンション上がるしな。
「あーー!みなくんなんで一緒に来ないんだー!」
スターリーに入るときくりがべろんべろんになりながら体に付き纏ってきた。普段なら別にいいんだけど雨で濡れてるからやめてもらいたい。
「きくりちょい離れて。濡れてるから」
「えーー寒いじゃーん。あ、先輩〜。今日ライブの打ち上げするよね。居酒屋決まってる〜?」
「おい、田中…こいつどうにかしろ」
「えー俺…?」
「同居人だろ」
「最近星歌ちゃんちにも行ってるじゃないっすか」
「お前がどっか行ってて家にいない時だけだろ」
やっべ。バレてーら。
まあ、ホスクラで働いてるだけなんだけどね。姫の強い香水の匂いは移るし、酒の匂いもするから変な勘違いされてそう。その後遊んでるし、夜遊びって点は別に間違っちゃいないから誤解はそのままにしておく。
「……てかひとりに話しかけてるあの人達誰ですか?」
「あ、みなくん気になる〜??実はねこの前路上ライブした時にぼっちちゃんのファンなった人達だよ〜」
「………へー」
ファン…。それに2人も。たかだか一回の路上ライブで台風なんて関係なくライブに来るファンを獲得したってことか。あのひとりが。
モヤ…っと少しだけ俺の心が曇っていく。
「……いや流石に重すぎるだろ俺」
少しだけ心に黒い感情が渦巻く。その事実にさらに心は曇る。自分はのらりくらりとしてるくせに。ファンができたくらいでこうなるのは自分勝手すぎるし、何よりあの人達に失礼だ。
「ひとり、緊張とかなさそ?」
「…あ。湊くんっ」
あれ、やっべ無意識に声かけてたわ。
「あ、え、えっとこちら…わ、私のファン…」
失礼だとは思うが止められないものは仕方がない。俺は自分にそう言い聞かせてファンを名乗る2人の方に顔を向ける。
「ファン0号ですー。よろしくお願いします」
黒い気持ちを押し込めて笑顔を作ってみせるが、やっぱり抑えられなかったのか若干威圧してる感じになった。
「じゃあ、ファン1号です!」
「それじゃあ、私は2号ですね!」
2人は威圧的な俺にも臆することなくファンを名乗る。待ってめっちゃいい人達やん。やば。申し訳な。
「ファン同士ひとりのこと応援しましょ。てか雨大丈夫でした?タオルありますよ?」
「急に優しくなった…」
「おい湊俺らにもタオルくれよ」
「えー…お姉さん達とお前らじゃお姉さん達優先だろ」
ライブが始まるまでベラベラと喋ってようと思ったが、本番直前になってもあまり人は来ず、やはり台風の影響かがらんとした少し寂しいライブになりそうだ。
俺らで盛り上げればいいんだけど。
そう考えていると他のバンドのファンが結束バンドの話をしてるのが聞こえてきた。
「ねぇ、一番目の結束バンドって知ってる?」
「知らなーい興味なーい」
あぁ?とはならなかった。だって俺も結束バンド以外正直興味ないし。ただここで結束バンドに興味を持ってくれればとは思う。
「何あいつら?」
「やってまう?」
「いや俺らも結束バンド以外知らねーしな?」
「それはそう」
俺たちがどうこう言ったところで何も変わらない。これを変えられるのは彼女達だけ。これからもバンドを続けていくのなら、こういう理不尽も…逆境も全部乗り越えていかなきゃいけない。
俺らは応援することしかできない。
「…頑張れ」
俺の顔はきっと不安で泣きそうな顔だろう。きっと見たら、離れなくちゃいけないって分かる。俺じゃふさわしくないって分かる。でも目を逸らすことはしない。ちゃんと見てなきゃいけない。失敗しようと成功しようとこの目で全部見届ける。
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「初めまして結束バンドです。今日はお足元の悪い中お越し頂き誠にありがとうございます〜!」
「あはは、喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎ〜…!」
「…………」
「…ぶはっ…滑って…いって」
「…湊」
「…はい」
しん…とした空気の中。…いや湊くん達は笑ってる。空気とか関係なく笑えるのすごい。陽キャ怖い。
けれど他のお客さん達は静まり返っている。冷めた目で私達を見ている。そんな中、私達の演奏が始まる。いつも通り。そう言えるほどに練習してたのに。
みんないつもと違う。
虹夏ちゃんさっきからドラムもたついてる。
喜多さんもミスかを多い。リハではできてたのに。
リョウさんも息があってない。
上手いとか下手とかそういう段階ですらない。そもそも勢いが足りない。
いつもと全然違う。
チラリと湊くんの方を見た。この演奏を聴いてどんな表情をしているのだろうかと思って。
「……っ」
それは私の見たことのない表情だった。誰かのためにそんな苦しそうな顔をする湊くんを見たことがなかった。
そんな表情をさせてしまった。
「…頑張れひとり…」
そんな声が聞こえた気がして、私は顔を上げ、音を繋いでいく。
苦しく険しい森の中で風が吹いていくように。暗い洞窟の中で一筋の光が見えるように。
こっからだ。私達はここから。
「…すげえ」
「本当すげえわ」
「ちょっといいじゃん」
「ね…」
「…ふん」
「…見事なドヤ顔…」
後から聞くとそんな声が上がっていたらしいけど、私にはそんな音は聞こえなくて、ただ必死にギターを鳴らした。
次第に結束バンドは普段のリズムを取り戻し、いつも通りの演奏が出来た。先ほどまでの険しい顔ではなくて私も…きっと他のみんなも笑っていると思う。
曲が終わり、ぷるぷると震えながらも後ろを見ると、私は気づいた虹夏ちゃんがにこりと笑ってぐーっと親指を立てる。雰囲気は明らかに良くなり、私達はまとまった。
「ひとりー!最高だー!!」
「すげぇぞー!!」
「ひとりちゃん天才!」
湊くんのグループの方から盛大に褒められる。ふへ、ふへへへ。承認欲求が満たされていくぅ…!
「じゃあ次ラストの曲です!」
最後の曲。私たちは結束バンドとして最高の演奏をした。
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「お疲れ様ー!」
カンッ!とグラスをぶつけ合い乾杯をする。
「今日はよく頑張った私の奢りだから飲め」
その言葉にきくりは目を輝かせ、星歌ちゃんにベタベタひっついていく。俺は手を合わせ拝みながら、日本酒を一口。うめぇ!
「…てか田中友達は良かったのか?」
「ん、ああ大丈夫っすよ俺んちいると思うんで。俺はほらきくり持って帰らないと」
「それもそうか」
きくりは今日ベロベロのデロデロに酔うだろうしな。
「先輩好き〜」
「星歌ちゃん最高ー!」
というわけで今日何もしてない俺達2人はがぶかぶとお酒を飲み始めた。
「…ちょ、湊くん!?」
「虹夏…!しーっ…な?」
虹夏の口先に指を当ててウインクする。いやもう俺酔ってるかこれ?わかんねーけど…いいや。楽しーし。
「んっ…もう…湊くんほどほどにしないとだよ?」
「はーい。虹夏せんぱーい」
いやこれ酔ってるわ。まぁ楽しいからいーわ。しゃーなし。しゃーなし
俺は切り替えて枝豆と軟骨唐揚げを食いながら、黙ってお酒を飲む。今日は結束バンドのライブお疲れ様会なわけでいつものようにでしゃばってはしゃぐなんて言語道断なのだ。
「というか何で廣井さんがいるんですか?」
「誰よりもみなくんとベースを愛してるからね。昨日ベース忘れたけど」
と思ったけどきくりがめちゃくちゃ適当なこと言って郁代の脳を破壊しようとしてるので流石に口を挟む事にした。
「答えになってねーだろそれ。あとベースは見つけたから家にあるわ」
「さすがみなくん…好きっ…」
首に手を回しちゅーっとキス痕つけてくるきくりはうっとーしすぎるけれど。どけんのも面倒くさいのでそのままにしておく。
「………湊くん……ぁ……。ちょ、ちょっといいの?後藤さん…。後藤さん…?」
トントンと郁代がひとりの方を叩くとそこには真っ白に燃え尽きたひとりがいた。かわいそうに。
「おい、郁代。ひとりをいじめてやるな」
「……湊くん?だれ???その名前」
「郁代。ギター初めて四か月でよく頑張った。」
「っ!?!…リョウ先輩まで!!」
顔を赤くして狼狽えた郁代に俺とリョウせんは楽しくなってついからかいはじめる。え?いじめ?違うこれはいじり。
「郁代はよく頑張ったよ」
「郁代えらい」
リョウせんは郁代の頭に手を置き撫で始めたので、俺も撫でることにした。待って髪めっちゃサラサラやん。何?どこのヘアオイルや。それともドライヤーか?
「ぁ…ぁ…何かに目覚めそう」
俺がそう関心していると郁代は顔を赤くしながら、何かに目覚めそうになっていた。俺とリョウは後々が怖いので撫でるのをやめ、悶えている郁代を放置することにした。だってほらなんかめんどくさいし。
「……放置プレイ…?…っ!」
けれどさらに身体を悶えさせて目を瞑る郁代に俺は戦慄した。
こいつもう目覚めてんだろ。
「でも本当、最後は盛り上がったし良かったよ〜」
郁代の引くくらいの性癖開花に場は少しだけ盛り下がるが虹夏が話を切り替えて空気をリセットする。
流石虹夏。このスルースキルすごいな。
「お客知ってる人ばっかでしたけど」
「全員満足してたじゃん。特にみなくんなんて大満足だと思うよ?こんなすぐ酔ってるとこ見たことないし」
「ん、酔ってねーよ。きくりの方が酔ってる」
「そうだね〜お酒おかわり〜!」
「俺も〜!」
「……2人ともほどほどにね…特に湊くん!」
飲み会。……いや、違ったお疲れ様会も順調に進み、お酒も美味しくてサイコーになった頃。
「……ふぅぅ…っ」
俺は外に出てタバコを吸っていた。すると虹夏が近づいてきて隣に来る。
「臭いだろ…?そんな近くきちゃ。」
「別に大丈夫だよー。湊くんなら」
また勘違いをするようなことを言ってくる。けれどそれは単なるイタズラ。こーゆー時は何か別に話したいことがあるか照れ隠しかの二択だ。
「ぼっちちゃんってさ…。」
「…ギターヒーローのこと?」
「…何で分かったの?」
「…まぁ虹夏とはそこそこ仲良くさせてもらってるからな?」
「…ふーん…ぼっちちゃんとも仲良いみたいだけどね。喜多ちゃんとも」
ジトーっとした目で見られる。いやだってしょーがないじゃん。俺だってもうよく分かんねーんだから。
「…私達の前から、いなくならないでね。」
加えていたタバコをつい落としてしまう。何故そんなことを言うのか分からなかった。いやもちろん自分がそういう考えをしていたのは事実だが、悟られるほど表に出してはいない。
「…なんで」
「オーディションの時も…今回も歪んでたよ顔。」
「…俺は…クズだし…ほら女遊びもやめられなくて…」
「それって寂しいからでしょ?わかるよ…私は遊んだりはしなかったけど…さみしー気持ちは分かる。」
やっぱり俺達は少し似ていて違う。俺はこんなに優しくない。その優しさは毒だ。お互いによくない毒。
「…なら、虹夏は?」
「……どうだろうね?……み、湊次第じゃない?」
「隠しきれてねー…」
多分…恋とか、愛とかとは違う。もっと重くて暗くて怖くて。
醜い感情だ。
「あ、虹夏ちゃん…湊くん……何してたんですか」
「お、ひとりー。タバコ休憩」
「私は涼んでたんだー」
「さ、最近はもう夜は涼しいですもんね」
…これはあれだな。俺いない方が良いな。多分虹夏もギターヒーローについてとか聞くっぽいし。
「じゃ、俺は行くわ。今頃きくり吐いてそうだし…って何だよ」
店の中へ戻ろうとするとひとりにてを掴まれる。別に話すこともないと思ってたので結構驚いた。あと気軽に触れられると心臓に悪い。ほらひとりからのボディータッチってセックスの時しかないし。
「…あ、うん…湊くんっ…今日ずっと見てて…くれてありがと…う」
「…あー、うん…見れて良かったわ。こちらこそありがと」
少し照れ臭くてひとりの頭をぐりぐりと撫でる。するといつものようにふへへと笑い始めた。なんでちょっと乱暴に撫でてんのに笑ってんだこいつ。
「…虹夏もありがとな」
「……私には?」
「しねーよ」
「…湊のいじわるっ…」
「…ちょ、ちょっと2人とも仲良くなってないですか?」
「じゃーなー」
戻るときくりはうるせーし、郁代は郁代って呼ばれすぎて壊れてるしで色々とカオスだったが…とても楽しい日になった。ひとりと虹夏も戻ってきて、ひとりは顔面が崩壊したりして多分一番うるせぇグループだったと思う。
けれど確信した夜だった。結束バンドはこっから始まるというのが。
きっと成長していく。ここから始まっていくんだ。
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どんどんドロドロしてきてる気がする。
感想、評価諸々ありがとうございます!!!遅くてすいません!!!!