「いや…ひとりちゃんすげーわ…!ちょっと笑っちゃったけど…音は聞こえたし…よかった!なんかここから動き始めるっ!って感じでさ!」
ライブが終わり、俺達は彼女達…結束バンドの方へと歩み寄る。名前についてはまじでセンスないと思ったけど。
「あいつテンション高。」
「結構子供っぽいとこあるよね」
「そこが可愛いと思った奴からおちてくよね」
「「こええー…」」
とやかく言われてるが関係ない。良かったもんは良かったんだ。
「いやー!めっちゃミスったー!」
「MCスベッたね」
「俺は良いと思いましたよ」
「湊君はずっと完熟マンゴーにツボってただけでしょー!」
「…ばれた?」
「もーー!」
ポカポカと叩いてくる虹夏先輩は可愛い。てか虹夏先輩をからかうのは楽しい。リョウ先輩もそれに乗ってくれるし…今日会ったばかりだが案外気が合うというか仲良くなれそうだな。なんて思いながら会話してると、ひとりちゃんが突然立ち上がり声を上げる。
「あ、あのの!次のライブまでにはクラスメイトに挨拶できるくらいになってきます!」
「何の宣言!?」
「…じゃあ俺とも仲良くしてくれるってこと?」
「ぴっ!!!陽キャこわいこわいこわい!」
「湊くん!ぼっちちゃんからかっちゃダメでしょ!」
いや結構本気だったんだけどなぁ。面白い子だし仲良くなりたいんだけどな。ってぼっちちゃん?
「虹夏先輩、流石にそのあだ名は…」
「……え、あ違うよ!私じゃなくて、リョウが…」
「ぼっちはひとりぼっちだからぼっち。」
「ど直球すぎるだろ…っ」
いや、あだ名っていうかもう蔑称じゃん。
「ひとりちゃんはぼっちちゃんで良いのか…?」
「……ぼぼぼっぼっちです!!!」
「……いいのか…」
「まぁ、喜んでるし…良いんじゃない?」
まじか…良いのかそれで。いやまぁ…初めてのあだ名で嬉しいとかそんな感じだろーけど…ひとりちゃんにはもっと色んなことを知ってほしいな。悪い大人に騙されそう。
「ひとりちゃんってこっから家遠い?」
「け、県外で片道二時間です」
「え!?」
何となく解散ムードになって全員で帰りの準備をする中、ひとりちゃんの衝撃的な一言が皆を不安な渦へと巻き込む。いやそこまで深刻じゃないけど。
「帰れるの?!大丈夫!?」
「後藤さん着く頃には夜になるぞ?危なくね?」
「あ、じゃあ湊んちは?一人暮らしだろ?ここから近いし」
「あーー……。それでも良いけど、バイクあるから送るわ」
「え!?…そそこまでしてもらわなくても」
「いやひとりちゃん可愛いし危ないでしょ。今まで大丈夫でもこれから危険な目にあうかもしれないし。それに電車賃も浮くから一石二鳥じゃね?」
「あ、あ、ああ…はいぃ」
めっちゃ押し切ってしまったけど、普通に心配だし今日くらいはまぁ、良いだろ。
「じゃあ行ってくるわー。あ、虹夏先輩とリョウ先輩。連絡先交換しましょー」
「はーい!いいよ…!」
「お金に困ったら呼ぶ。」
「リョウ先輩に貸したら絶対帰ってこなさそーだから嫌だ。」
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皆んなと別れてひとりちゃんと2人で家にあるバイクを取りに向かう。…んだけどひとりちゃん俯いて何も話さねーな…。やっぱり無理やりすぎた…?
「…ごめん…結構無理やりすぎたよな…」
「あ、いい、いぇ……。」
ひとりちゃん返答は結構してくれるんだよなぁ。ただ人見知りなだけで仲良くなれば何とかなりそうな気がする。ただもう完全に顔がめっちゃ気まずいって顔してるから何とかしたいんだけどなぁ。うーん。身内ノリでいいか…?
「ひとりちゃん。俺演奏のことはわからないけど楽しかったわー。ギターヒーローに対抗して完熟マンゴーで活動始めたら結構人気出るんじゃね?」
「あ…へへ」
効果ねぇ〜〜。いや面白くないのはわかるけど!!曖昧な反応も案外傷つくもんだなぁ。
「って実はギターヒーローはひとりちゃんだったりしてね?」
「あ…あ、え!?!!!!」
「え?」
「…ぁ…そそはそんな、わけないじゃないですかぁ〜」
すっげえ口元ニヤけてるなぁ。これマジでギターヒーローじゃね?……あ、ジャージ一緒じゃん。
「まじか…ほんとに凄いわ…ひとりちゃん」
「へへ…へそんなそんな…ありがとうございます…っ!」
めっちゃ分かりやすくデレデレとしてて顔がだらしない…てかもう隠す気ないやんけー!ってツッコミたいけどまた曖昧な反応されそうだしやめとこ。
ギターが高校生のレベルを超えるくらいに上手くて…髪が邪魔くさーけど…顔は可愛い。それにまぁまぁ…スタイルも良い。これ相当上玉だろ。
きっと俺が女だったら純粋に仲良くなっているんだろうけど、俺は男なわけで。そしていつめんグループ公認のクズなわけで。何が言いたいかと言うと有名な彼女に対して独占欲が湧いてしまった。
好きとかそう言うのとは別の酷く汚い感情。だからこそ俺は切り替える。先輩や友達といる時の俺じゃなくて。雰囲気が出るような俺に。
「…一曲聴いてみたいな。」
「そ、そうですか…?…あ、でも弾ける場所が…」
「俺んちとかどう?誰もいないし。アンプ?とかの設備はないけど。」
「ぁ、へ!?む、むむり!ぃ…」
「お願いひとり。一曲でいいから。」
彼女の手を握り真っ直ぐに見つめる。きっと彼女の承認欲求は人より高い。だからこそそれを利用する。
けれど彼女のギターをもっと聴きたいってのは本心だ。
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今まで生きてきて、男の子にこんなに距離を詰められたのは初めてだった。
びっくりして弾け飛んでしまいそうだったけどそんな雰囲気ではないと直感で悟ったのか。私は弾け飛ぶ事なく彼の目を見つめ返す。
「…分かりました。」
どうしようもないくらい押しに弱い私に少し自己嫌悪。でも仕方ないのでは!?だってイケメンで陽キャの田中君にこんなに言われるなんて!怖いし嬉しいしやっぱ怖いしで情緒がおかしくなりそうだ。もしかして今ほんとは授業中でこれは夢!?嫌だ…!せっかく!一歩踏み出せたのに!!起きるな私!起きるな!夢なら永遠に覚めるな!!私がんばれ!
「ほんと!?やったー楽しみだなー。何弾いてもらお」
「…へ、へへ」
眩しい!!!陽キャの笑顔ってこんなに眩しいのか身体がくだけちるぅ!!
「そういえばひとりちゃんってどんなの弾けるの?」
「あ、ええ、えっと最近の流行りのなら大体……。」
「え、まじで凄いじゃん。…沢山頑張ったんだろーな。凄いね」
「そ、そそそ、そそそれほどでもないですよ!!」
家族以外の人に褒められたの初めてかもしれない…。いやギターヒーローとしては本当に沢山のコメントが来るけど。やっぱり面と向かって言われると何倍も嬉しいし…ちょっと恥ずかしい。
「よし、着いたぞこのマンション…あ、防音だからな!そこら辺は気にしないで弾いて?」
「は、はい」
ここまで来て何だけど本当に良いのだろうか!!私ごときが田中君の家に!?何それ超リア充!?学校じゃいつも目立ってるし…。周りには人が沢山いて、先生とも先輩とも仲良さそうで…羨ましいと何度思ったことか。
「あ、あと湊って呼んでくれていーからな?」
「……湊君で」
「…ははっそれでいこう…!」
はにかんだその顔もとても綺麗で、私の目がレンズのように鮮明に被写体を捉える事ができたならと考えてしまった。
「……たでーまー。…リビングでいいか。ひとりちゃんどーぞ」
湊君の家に入るとものすごくいい匂いがした。きっとこれが陽キャが生まれた時から備わっている力なんだろう。それに家具も高そう…。あ、漫画置いてある…好きなのかな……。小説も沢山あるなぁ………はっ!?!人の家に入っておいてジロジロと目線を動かすのは失礼すぎるぅ!!?湊君は…!!?
「うっし…!それじゃ聴かせて!ひとりちゃん」
くぅうう!私の考えなんて吹っ飛んでしまうくらいの眩しい顔!ほんとにキラキラと輝いてるみたいだ。
「え、えっと何が良いですか…?」
「それじゃあね_______
それからの時間は湊君の好きな曲を弾いたり、好きなバンドや音楽について話し合ったり、湊君にちょっとギターを教えてみたり。とても。本当にとっても充実した時間だった。多分湊君にとっては何でもない時間かもしれない。ただの友達……知り合いを家に呼んでギターを聴いただけ。その程度の記憶になるかもしれない。
けれど。私にとってはこの先忘れることのない一生の思い出になったと思う。
まともに喋れない私がこんなにも楽しく誰かと何かをするなんて。
湊君は凄い。本当に太陽みたいな人間だ。
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「……は?!23時…!?やばい!ひとりちゃん時間大丈夫…じゃないよな!?」
案外普通に楽しくて、時間を忘れて2人で楽しんでしまっていた。外はもう真っ暗だしこれ完全に相手の親は心配してるよな…。というか普通に仲良くなっちゃったな…。まぁ友達のままでもいっか。
「…あ、お母さんから連絡来てます……えっと、こう言う時どうすれば…」
「とりあえず安全なこと教えてあげて?あ、電話の方が良いかも。…経緯を説明して…それでもめちゃくちゃ怒られそうなら俺に代わって?」
「分かりました……。と、どこ行くんですか…?」
「ん、電話してる間に何か作ろうかなって。何か食べたいものある?」
俺は立ち上がって腕をまくる。今更めちゃくちゃ腹減ってることに気づく。まぁ今日色々あったしなぁ。てゆーか俺、腹の減りとか気付かず話し込んでたのか…。どうしてかは分からないけれどひとりちゃんと話してると心地が良かった。……ひとりちゃん恐ろしいな。結構人たらしかもしれん。無意識人たらしは一番厄介だからなぁ。
「か、唐揚げ食べたいです」
チョイスも可愛い。何だこの生物。
「んー。材料はあるけど…時間かかるな。ちょっと時間かかっても大丈夫か?」
「……あ、いや!!私何でも大丈夫です!もやし!もやしで!」
「ちゃんと美味しいの食べてほしいからもやしは駄目。とりあえず作るけど時間なさそーならUberで唐揚げ頼もうーぜ。ここら辺なら4.5分で着くでしょ」
「……そ、そうですか…すいません」
「謝んなよー!俺好きな音楽とそーゆーの誰にも言ったことなくてさ、ひとりちゃんが初めてだから。…そのあれ。友達記念ってことで。」
「…………………かっ!!!!!!!!!」
その発言は攻めすぎてたようでひとりちゃんは
バラバラに飛び散ってメンダコみたいな奴に変身してた。すげえな。超可愛い。何だこの生物。
まぁ、生きてはいるようなので俺は唐揚げを作り始める。何分かするとひとりちゃんの話声が聞こえて来たので、復活して両親に電話を入れてるんだろう。また何分かするとひとりちゃんはこちらの方にやってきて手伝います!!と大きな声で言ってきた。
「大丈夫そ?」
「は、はい!今度紹介してねって言われました。」
「彼氏かなんかだと思われてねーか?」
「………………大丈夫です」
変な間があったが気にせずに信じてみることにする。友達の両親に会うことなんてそうそうねーしな。大丈夫だろ。
俺らはその後2人で唐揚げを作り始めた。……いや、8割俺が作ってんな。
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全然大丈夫じゃない!!!!!!!!!!!
「お、お母さん…あの…今……えっと彼氏の家にいるんだけど」
「あらーまぁ………えっとそれはどの……次元の?」
「3次元!ちゃんと存在してる男の子…!」
「…………今度…明日でもいいけど……家に連れてきてね…?」
「あ、うん。それでえっと。」
「彼氏さんの家に泊まるんでしょ…?挨拶行くならお菓子とか色々あったのに…………………ほんとに存在してるのよね?」
「存在してるよ…!!後で写真送るから!」
「……そう…ひとりちゃん絶対逃しちゃダメよー」
そう言って電話は切られてしまったのだ!!!なぜか泊まることになってしまってるし!非常にまずい!湊君にも迷惑がかかる!私のせいで…どうしよう今日はもう帰って公園で野宿……。い、家まで送ってもらうために来たのにそんなことできるわけない…!!
「よしじゃあ、食べよーぜー」
「はっ!」
なんて考えてる内に晩ごはんは出来てしまった…うぅ…どうすれば!!
「「いただきます」」
2人で作った唐揚げを2人で食べる……!か、会話がないとダメかな!?湊君。気まずい思いしてるんじゃ…やっぱり私なんかがここでご飯食べてていーわけないー!
「待ってうっま…!ひとりちゃんこれ美味しいな!ひとりちゃんちの唐揚げって多分お店出せるぞ!いやまじうめえ。今度教わりに家行ってもいいか?」
……なんという幸運!!!すごい。湊君からウチに来たいなんて。今日はもう色々ありすぎて…何が何だか………は!もしかして今日が私の人生のピーク!?だってこんなに沢山イベントが起こるなんて…そうとしか考えられない!!!きっとこの先は転落人生なんだ……友達も恋人もできずに。仕事もできず。家で引きこもりニート生活。そんな人生……。うぁぁぁあ!!!想像するだけで身体がっ!!!崩壊する!!!!
「…おーい。戻ってこーい。……完全に1人の世界入ってんな。」
お母さんが貯めてた私の結婚費用もきっと私がニート生活してる間に徐々に減ってって…0になったら……捨てられる…!?!!どうしよう!そんな…!私はこの先バンドで有名になってチヤホヤされて学校中退したいのに!働きたくないのに!!あーー死ぬ!嫌な未来がっ!!目がぁぁあ!
「ほい」
完全に心が破壊される前に私は意識を現実世界に戻すことができた。口元にある感触があったからだ。見ると湊君が唐揚げを食べさせようとしていた。
「いやほら、冷めるぞ?はよ食べい」
私は何も考えずに差し出された唐揚げを頬張る。美味しい。
「お、おいひいです」
「おう、今度家行って食わせてくれな?」
そのあとはただ黙々と一緒にご飯を食べた。
不思議とその静かな食事に嫌悪感も気まずさもなくて…私は心地よさすら感じていた。
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次回えちちちち!