朝。スマホを見るとひとりから連絡が来ていた。
ど、どうしよう!湊くんりライブハウスでバイトすることになっちゃった…!?!私なんかの接客じゃあ〜〜うんたからかんたらなんら…
といった感じの長い文章が送られてきた。長ぇ……やっべ、どうでも良いわ。
俺はスマホの画面を閉じてそのまま充電機に繋げて、二度寝しようとする。充電するの忘れてたなぁ…。
しかしもう一度鳴った通知音にめんどくさがりながらスマホを見る。
「……は!?!」
俺は身体を飛び上がらせてすぐさま起きる。
「…あーあいつら返さんとなぁ…!!…。ほら起きろー!家帰れー!」
布団を剥ぎ取り、カーテンを開け、電気をつけて皆を叩き起こす。
「んあ、なにぃ…?」
「うるせえぞ湊……」
まだ眠そうに目を擦ったり唸っているが関係ない。全員をシャワーにぶち込み、洗う。
ついでにこいつらのおにぎりも作る。
「ちょ、はよ帰れ!!いいから!」
「んーー…」
「ありあとなー……」
服を着せておにぎりを渡して、玄関へと案内して友達を早々に帰らせる。よし!これでオッケー。
「掃除…!!」
あとは掃除…!洗濯!!…匂い!匂いもやばいな!消臭剤!ドタドタと動き回ること1時間。俺の家に誰か来た形跡は無くなった。
ピンポーン…と音が鳴り、急いでドアを開ける。
「…おーおー、そんな早く出迎えんでもええよ」
玄関を出るとそこにはアニキが立っていた。血は繋がってないけど。両親が死んでから俺の世話をしてくれる存在だ。この家も生活費も全部アニキから貰っている。
「ど、どうしたんすか…。呼んでくれたら俺から行くっすよ!」
アニキは俺の命の恩人みたいなもんだし、返せる恩は返したい。
「いやこの目でちゃんと見てみたくてなあ……顔は良いな。スタイルも良いし…お前バイトしない?」
「何するんすか?」
「人と話すだけや、良いなら夜。新宿行くぞ」
「良いですけど…新宿って……。」
新宿。いやまぁ普通の店もあるけど……。この人のことだし歌舞伎町のホスクラとかだろ…。
「おーしっじゃ、夜、連絡するわ」
「了解す」
二度寝するか。……いやひとりに連絡いれとくか。
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うう…!!湊くんから連絡がこない!!もうだめだ…風邪をひいて休もう…何て愚かなことをしたんだ…!!常に友達といる湊くんが私なんかのメッセージを見てくれるはずがない…っ!!!け、けさな、消さなきゃ!!このメッセージを……はっ!?!!
「き、き既読ついちゃった…!」
どうしよう。よく見るととても変な文章な気がする。それに無駄に長い。あ、引かれたかな。…め、めんどくさいとか思われて…話せなくなったら……私の精神が崩壊するぅぅううう…っ!!!
________バイト代とか余ったらどっか行こうぜー。2人で落ち着けるカフェとかさ。あ、フェスとかライブでもいいけど____
こ、これは所謂……
「デーーーーートっ!!?!!!」
休もうと思っていたバイトに少しだけやる気が出る。こんなことでやる気が出てしまうなんておかしいかもしれないけど…私にとって結束バンドと田中湊くんの存在はとても特別で大切な物なのだ。だってこのままだと落ちていくかもしれなかった私の人生が、あの日から、夜空を彩る星のように確実に色鮮やかに輝き始めている。
「…よしっ……!……でもやっぱり…いやでも!!……。」
行かなきゃ…になると行きたくなくなるのはどうしてだろうか…!いやでも湊くんとデートする為にも…バイト頑張らないと…!
「が、頑張ってみよう……っ」
私はそう心に決めて立ち上がって拳を掲げていると、そーっとお母さんがこちらを覗き込んでることに気づいた。
「ひとりちゃん…?デートって聞こえたけど…例の彼氏…?」
「へ!!あ、うん…!」
ど、どうしよう!全然忘れちゃってた!こ、今度連れてくるとかなんだとか言ってた気がする!!
「いつ我が家に来れそうなのかしらー…一度しっかり会ってみたいのよねー」
「……こ、今度の休みの日に来てくれるって!!」
「あら、そうなのー?ふふ、楽しみだわー…!」
終わりだーーー…っ!!!
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夜。新宿。
「姫の一言まで3、2.、1、Q!」
「____くん大好き!よいしょー」
「「「よいしょー!!!」」」
「なぁ、いいからエンジェル入れてくれよ」
「…もう無理だってっ!!今月…!」
「ディズニーでも何でも付き合うから!!」
「ほんと…?ほんとに…ほんと?」
「アルマンド信号機で!!」
「あー、またやっちゃった」
アニキに連れられて来たけど…
「っぱり水商売じゃねぇか……」
「はは、大丈夫やろ?お前なら…な?」
頭を撫でられ微笑まれる…。やっべ断ったら殺されんなこれ…。この人平気で人殴るからなぁ。尊敬はしてるし好きだけど憧れねぇ…。
「…分かりました…何すればいいっすか?」
「他の奴らのヘルプについておけばええ。あとは女の機嫌損なわなきゃええなー。あ、内勤も足りないから手伝ってくれるとええなあ…指名入ったら普通に接客もな?…他に聞きたいことは?」
「…………ないっす」
要は全部やれってことじゃねぇか。ちくしょー。命の恩人じゃなきゃ殴り飛ばしてるところだ。
「お、そーや。先に渡しとくか。ほい30万」
「…は?え、」
いきなり手渡されたのは現金30万。めっっっちゃ怖いやん。
「お前なら今日だけでそれ超えれるやろ?」
そーゆーことか。つまりこれは投資みたいなもの。……いや実際これ以下の売上出したらぶっ飛ばされて金も回収されるだろうけど。
「やってやるっす」
「はは、それでこそ湊や。…期待しとるぞーー」
それからはもう鬼のように働いた。ご案内やヘルプはもちろん客が吐いた処理までしないといけないとかマジできつい。そしてそれを理由にシャンパン入れさせて金を巻き上げるのは怖すぎた。
「…お前はやっぱり凄いのぉ、全部できる要領の良さに、顔とスタイル。やっぱり引き取って正解じゃったのぉ!!」
顔とスタイルのおかげで指名も入り、一撃60万を達成した。運が味方をしてくれた。ありがとう神様。アニキもご機嫌だ。なんとかぶっ飛ばされるのと金取られるのは回避したか。最悪な事態にならなくて良かった。
「とりあえず…おい、湊に街案内してやってくれぇ。こいつまだ何も知らんけえの」
「了解です!」
「え、今日は疲れたから帰りたいんすけど…」
「おお?湊なんか言うたか?」
「何でもないっす。」
やっぱ最悪だ!!!
「つまりな?俺らの金は姫達から来てて、姫達の金はおぢ達から来てんの。おじさんって見栄っ張りで勘違いしやすい癖に面食いだから姫達にとっては金を巻き上げられる機械みたいなもんなんだよ。食事するだけ。手を握るだけで数万、恋愛したことなさそうなおぢだと数十万それで巻き上げられる。」
「ほえーー。じゃあ…俺たちがすることって…」
「湊はやるか分からんけど…まぁ姫の育成だな。巻き上げた金を使ってもらう為に。嘘で固められた自分を演じて姫のご機嫌をとり、沼に落としていく。夜職関係に落としてさらに金を巻き上げられたら尚のこと良しだな。」
「おぢから巻き上げたお金を女から巻き上げて俺たちは生きていくってことっすか。おぢに感謝。何も知らずに女に貢いでくれてありがとう。」
「その解釈で合ってるけど、お前いつか刺されるぞ」
「アンタも大概だよ」
仕事が終わり、今は新宿ゴールデン街で食事をしてる。観光客がいて意外だったがそれよりも若い人が多くいたのにビビった。いや俺よりは若くないけど。
おばさんとおじさんしかいないと思ってたのに…。まぁおばさんおじさんは多いんだけど。
そして俺は今歓迎会ということでホストの皆さんの話を聞いているんだけど…。
「風俗業界とホストは一蓮托生なんだよ。俺らへの貢ぎをする為に夜職始めたいって子をスカウトに紹介して、紹介料もらうんだよ。そして可愛い子ならおぢがバカみてーに指名して金が入る。俺らへの日頃の貢ぎも増えていく。最高だろ?」
何だこいつらぁ。カスしかいねぇよ。
てか俺16歳なんだけど。16歳でそんな世界知りたくなかったんだけど。タバコとかお酒してるけどさぁ…。大人になりたくねーな。一生子供がいーわ。
まぁでも言いたいことはよく分かるな。
要は女の子達がアプリゲームのキャラで俺たちは運営ってことだな。女性のメンタルケアとかもアプリのメンテナンスみてーなもんだな。でユーザーがおぢって感じ。
すげえ、やっぱ人生って大規模なゲームだなぁ。
「じゃ、俺らアフターあるから。そろそろ行くわ…あ、迎え呼ぶ?」
「いや、大丈夫っす。タクシーで帰れるし…なんかあったらアニキが来てくれるんで」
「ほーかー。じゃ、また飲もなー?これからよろー」
「ふぁーい」
別にタメにもならない。最低な話を聞かされたけど、案外いい人なんよなぁ。でも今日は疲れたから最後は1人で飲みてえ。
そう思い1人で飲み進めていくとギターケースを背負った女性が来店して来た。
新宿って怖ぇ…。
「こんばんはー!」
…見た目は可愛い。20代…後半くらいか?…てかスタジャンに下駄履きってパンチありすぎるだろ。
「最近来てないから寂しかったわよー」
マスターとも親しげに話しているとこを見ると常連さんってぽいな。
「いやーライブで忙しくて…それにちょっと金欠で…」
そういうと2人は目を合わせて、何かは分からないけれど意思疎通をする。
「おねーさんお金ないのー?」
俺は少し興味があり、声をかける。
「そーなんですよー売れないバンドマンやっててー」
やっぱりバンドか。ここで連絡先とか交換したいな。ひとりの師匠とかになるかもしれん。
「ほえー…ギターとか弾いてくれたりします…?あ、もちろん奢るんで」
音楽で飯食ってる人に失礼かもしれないと思ったけど、やらない後悔よりやる後悔。失礼だったら謝ればいーし。
「…任せて!お酒何杯でもいい?」
「まぁ、今日はお金あるんで」
「イェーーイ!お姉さん少年のこと好きー!」
それからは________廣井きくり。彼女の音楽を聴き、彼女のバンドSICKHACKの動画を見してもらったり。
何を思ったのか。酒の力なのか。両親がいないことやアニキについて。ひとりのバンド活動についてなど色々と話してしまった。
そして
「「うぇーーーい……っ!」」
俺たち2人は俺の家で宅飲みすることにした。
もう意識も曖昧で何がなんだかんだ分からないが、多分意気投合して俺んちならいくらでも飲めますよーって感じで来た。知らんけど。
彼女の幸せスパイラル。
この論理は俺も好きだからね。俺はお酒だけじゃないけど。人間なんて基本何かを求めて、依存して、供給されて、幸せになっての繰り返しだ。
どーせ仕事がなんだ税金がなんだと言われて未来に希望もないつまんねー世界ならリスクなんて考えずに幸せな方を選んで生きていく人生のほうが楽しいし、価値がある。
そして俺たちは2人でお酒を飲みまくった。
「ぷはぁ〜〜〜っ!!!いやぁ、少年はいい子だねぇ…でも危ないからね?私みたいなダメ人間を簡単に家に招いちゃ」
「楽しいならいいじゃないっすかぁ……未来に絶望するより!ロックに生きなきゃ!そうっすよねぇ!きくりさーん!」
「……そうだねぇ。ねぇ、湊くんは将来どうなりたいとかある?」
「ないっすねぇ……。誰かに育ててもらった記憶なんかあんまないし…結婚とかは出来ないっすねぇ。子供は好きだけど育児なんか絶対できないし…将来はつまんねー人間になってると思いますよー。はは」
「…湊くんもベース始めてみない…?」
「うーん…ベースはクズが多いって聞いたんすけど…俺クズだと思われてますぅ?」
「そりゃあねぇ…あんなにアプローチして来たのに本命のギター少女ちゃんがいるなんて聞かされたら」
「別に本命じゃないっすよ」
「へー遊びなんだぁ。」
「うるさい。酒クズがぁー」
2人で酔っ払って頭も回らずに言いたい事を言い、聞きたいことを聞いていく。きっと朝起きたら忘れるだろうけど、お酒の力は偉大だ。
勝手に口が回って傷を晒していく。
「私、高校までネクラな学生だったんだぁ」
「俺も小学校は男子に虐められてたなぁ…両親がいないなんて変だとか女子と遊んでばっかとか」
「それは半分、君が悪いよ」
「ネクラな学生なのは全部きくりさんが悪いね」
「うわぁぁあっ!!!そーゆーこと言うんだねぇ…!もっと飲んじゃうからねえ!!!」
「飲みたいだけだろ」
距離が縮んでいく。夜という時間に絆されて心の壁が少しだけ脆くなっているのが分かる。
「ううう、私だってね…頑張ってるんだよ?ベース買う時とか初ライブの時は怖いし,今だって未来がどうなるかーとか怖くなるときあるもん」
「へぇー…でも確かに魅力的な音楽だったからこの裏にはいっぱい頑張った跡があるんだろうなとは思った。その努力が見えないのが一流って感じ」
「うへーー…湊くんはあれだね、人たらしだね…けど褒め言葉は素直に受け取っとくよ!ほらもっと飲みなぁあ…」
身体は火照ってきて、なのに距離は縮んでいく。
「…熱い」
「そうだねえ…こう言う時は道路で寝ると地面が冷たくてきもちーんだよ?」
「イカれてるわぁぁぁ…!そんなんで大丈夫…??」
「…うーん大丈夫じゃないけど…今の私にはベースも…お酒もあぁぁる!!」
「……うぇええい!!」
「……湊くん…涙出てるよ」
だから。きっと泣いてしまったんだろう。
「すんません……俺も……頑張ってるんだよ…!両親がいない状況なんて…育ててくれた記憶もないなんて…寂しいに決まってんじゃん…?!でもそんなんいちいち言われたら皆反応に困るだろうし、変に暗く生きるよりもこのまま…」
漏れた感情は溢れて来て止まらない。誰かに溜まっていた本音を語ったのはこれが始めてかもしれない。やっぱりお酒の力は偉大だ。
全部晒して何もなくなってしまう。
「…湊くんも辛かったんだねぇ…ダメ人間で辛い者同士今日は」
「……してくれるの…?」
「…っ……そんな表情されてもしないからねぇー?お酒飲むだけだよ。犯罪者になりたくないしーー」
「……家きてる時点で別にいいって思ってるっしょ?きくりちゃん」
彼女を押し倒して瞳を見つめてみる。別に力は入れていない。だから逃げようと思えば逃げれる状況だ。
「…クズだね」
「お互い様」
クズ同士。慰め合う。可愛いとか酒飲んでるのに肌綺麗とか思うことはあるけど、それはどこか他人事のようで、この行為に何の意味がないことは分かった。
「んちゅ……んむ…ちゅ……ぷはっ…!人の口からお酒の味がする…あはは!」
「きくりちゃんからもするわ…げ、何この味」
「日本酒だよーおにころ、おにころ」
「うへぇ〜…かっっらい…。俺には合わんわー…」
「え、ここで止める気ぃ?酒キメてやろーよー……っ!湊くーん?」
「へいへい…んっ」
けれどやめようとは思わなかった。きくりちゃんもそうなのだろう。意味のない行為でただ後から虚しくなるだけ、気まずくなるだけ。それでもやめないのは今を、楽しく生きたい。俺達の根本にその精神があるからだろう。
つまんねー人生よりロックな人生を。
これが夢なら。目覚めた時に消えてしまうだろうけど。
何も怖がらなくていい。夜が移り変わる時が来ても
君と俺はクズ同士何も変わらないだろうから。
「あはっ…んちゅ…はむ……おいしー…うっ」
「ん?」
なんてポエムのような言葉が頭を駆け回ったのは目の前の景色が変わっていったから。目の前が真っ暗になるなんて経験なかったけどこう言うことだったのかと、か細く流れる時間の中で思った。
きくりちゃんの口から出た吐瀉物が俺の口へと入り込んだのだ。
「おええええええ、頭われるぅ…死ぬううう」
「てめ、ふざけ、ぶはっ…お、おえええええええ」
ちくしょー!今日は最悪の一日だ!!!
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廣井きくりの深酒日記みんな見て。きくりさんの魅力がめちゃくちゃ詰まっててマジでクズだなあってなれる。