※この作品はR-18です。

クズとロックにぼっちを添えて。   作:ハルス

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far away eyes

服を洗ってシャワーを浴びる。きくりちゃんと2人で入ったけど特に何もなかった。というか何もする気が起きなかった。

 

「はい、水。」

 

「……ありがとうございます。」

 

まだアルコールは抜けてないが、先ほどの事件でもう普通にシラフに戻ってしまった俺達はとりあえず椅子に座って向かい合う。

 

「…きくりちゃん」

 

「……湊くん…怒ってる…?」

きっと俺は遠い目をしていることだろう。なんでこの人連れて来たんだろうとか、てかキスなんてしなけりゃよかった……。口に感触が残ってやがる…。

 

「あー…?怒ってねーよ」

 

「…いやすいません」

 

きくりちゃんはすぐに土下座して、やっべーやっちまったぁみたいな顔で顔を逸らしながら謝る。

 

「……はぁ、もういいや。……こっから帰れる?」

 

俺も酔ってたし起きてしまったことはもう仕方ないと思うしかない。他人の吐瀉物なんてマジで最悪だけど…うん。忘れようあの感触も何もかも全部忘れよう………忘れさせてくれ…っ。

 

 

「あー…実は…そのー…きくりちゃん。一文なしー…みたいな…?」

 

「金ないって言ってたもんなー。きくりちゃんのバンド…結構有名だけどそれでも生活って辛い…?」

 

SICKHACKなんてバンドじゃそこそこ…いや普通に成功してる部類のはずだ。きくりちゃんがお酒にお金ぶっぱしてる可能性もあるけど、一文なしにまでなるのか…?

 

「そりゃね、お酒とか…壊した機材代とか…?お酒ないとライブ出来ないんだけどお酒あると機材とか壊しちゃうよね…あはは!」

 

うわ、この人おかしいわ。

 

「……うわぁ…。…家とか住むとこあんの?」

 

「そりゃもちろん…………事故物件だけど」

 

やっぱこの人は危ないわ。普通に心配になってくる。夜飲み歩いてベロベロに酔って階段から落ちたりしてそのままぽっくり逝きそうな不安さがある。ひとりの師匠になり得るくらいにはオーラも実力もありそうなんだけどなあ。それに悪い人だけどしっかりと大人の面も持ってるっぽいし。

 

この人と出会えたのは案外幸運だ。

 

とても最悪の経験したけどそれ以上の価値がこの人にはある。と思う。

 

「じゃあ、うち住む?風呂も飯もあるし、防音なんでベースとか弾いてても何も言われないぞ。…あー酔ってる時に言ったかもだけど1人じゃ…不安な時あるし」

 

「……君は神の使いかなんかなの!!?」

ガシっと身体を掴まれて揺さぶられる。痛い痛い。

 

「え、いや、怖」

 

「うう、人に優しくされるって良いね……心があったまるよ…うちのバンドいつでもタダで見放題にしよう……っううう」

 

「…いいのかそれ?見れるなら超みたい」

 

「わかんない!」

 

「んだこいつ」

メソメソと泣き崩れながら勝手に冷蔵庫を開けて勝手にお酒を持ち出し勝手に飲む様はゴミクズ酒カス野郎だが、これに慣れなきゃいけねーな。

 

「じゃ、同居ってことでアニキにお願いしとくわ。おなしゃーす」

 

「イェーイ!」

その後アニキから「てめえの世話誰がしとると思ってんじゃ!勝手なことすんな」と一発ぶん殴られたものの、アニキは顔が良くて才能があるやつが好きだから、なんとか了承得て正式に同居することが決まった。俺には勿体無いくらいに広いし部屋もあまりに余ってるので俺としてはこれで良いと思った。寂しくなくなるしな。

 

アニキが諸々の手続きをしてくれてはいるがきくりの私物を運んだり、彼女のベッドなどの家具を選んだり。またわがままを通した手前、アニキからの仕事は断ることが出来ずに歌舞伎町で毎日のように働いた。時間があるときくりちゃんのバンド見に行けるからいいんだけど。

 

その週は忙しく、いつメンともあまり遊べなくなってしまっていた。いやんなこたぁ…ないな。この前電話で人狼したわ。

 

「…?…ひとりから連絡きてんなぁ…ま、今それどころじゃないし無視でいいや」

まぁそんな中でひとりから遊びませんか!わ、私の家で!と連絡が来たのだが忙しいのと親に紹介されるとめっちゃめんどくせーから後で返事しようと思い、スマホを閉じて夕食の準備をし始めた。

 

 

 

飯は作るなら2人で食うことが多い。

 

「みなえもん!ごはーん!」

「みなえもん言うな。きくりの酒もうすぐ無くなるぞ。コンビニで買ってこい。その間にできるから多分」

「あいあい、みなくんの仰せのままに」

 

風呂も2人で入ることが多い。

 

「…え、みなくん、タトゥー入れた?」

「二の腕?うん入れたー。めっちゃ痛かったわ…カッコよくて真似たけど」

「……そりゃタトゥーだもん……。なんで同じマーク?」

「…え?きくりのタトゥー良いなって思ったから」

「………はぁ、あざといなぁ」

 

 

寝るのも2人で寝る。寝るって言うかまぁ……普通にセックスになるんだけど。

 

 

 

 

「みなくん……っ…っ!激し…っおさえてぇ…っ!♡」

 

痛みや苦しみはなく、ただ快楽の波にのって俺たちは重なり合う。

 

「いや、無理ってか…っ…きっつ…っ!!」

 

洗って清らかになった身体も汗ばんできつい香りを放つ。

 

「しかたないぃ…っ!まって…っ」

 

どうしようもなく崩れた彼女の顔に悪態をついてみるがその行為を辞めることはない。

 

「おい!まじでまた吐くとかなし…っ!!」

 

クズ同士。もっと求めてもっと乱れて、深く。深く知っていく。彼女の身体と心と綺麗な指とその声に。

 

「えへへ、ベッド汚されたくないなら口塞がないと…おっ…っ」

 

前のようなオチなんてどこにもなくて、ただどこにでもあるような、男女2人のまぐわいが何事もなく終わっていくだけ。

 

「んんっ…ちゅ…んはっ…っ!んあっ!♡あ"っ…あ"ぁ…っ!!♡♡」

 

抱きしめるたびに震える身体は彼女の臆病さを表してるのかもしれない。人と繋がるのは怖い。人に知られるのは怖い。人を知っていくのは怖い。

 

けれどその果てにある快楽と幸福に…人は本能的に魅了されて踏み込んでしまうんだ。

 

「…はぁ…っ♡はぁ…っ…♡……みなくん……激しい…よ♡…もっとさぁ…はぁ…優しくしてもらわないと…ぉ…♡」

 

「…はぁ…っ…普通に…。んぐ…はぁ…気持ち良すぎた…」

 

「……なら、よ、よかったけど…っ…はぁ…♡………お酒飲も?」

 

「おーう」

 

数週間か経つと彼女は完全に家に馴染んだ。

 

 

 

ただ少しだけ問題がある…。

 

 

「増税増税増税……。ただでさえ少子高齢化の世界で…私、みなくんに拾われてなかったらどうなっちゃってたんだろう…………みなくん嫌わないで…」

 

お酒が切れると暗くてめんどくさくなる。いや酔っててもめんどいけど。

 

「酒買ってきてるんで飲んで?じゃ、学校行って来まーす」

 

「お酒…っ!!!みなくん神。。行ってらっしゃい」

 

 

案外この生活は心地が良い。酒カス飲みクズ腐れ外道アンポンタンこと廣井きくりは常日頃から家にいるわけじゃないし、飯も外で買ってくることも多いからあんまり食費も気にしなくて良い。風呂と酒だけ用意しとけば良いのは実に楽だ。

それに誉め殺して調子乗らせると出前頼んでくれるしお酒も自分で買ってくるので正直お金の面ではかなり得をしている。

 

 

 

 

「…あ、ひとり」

学校へと続く道の途中で俺はひとりを見つける。そういえばロインとかも開いてねーな。めっちゃ無視してるかもしれない。どうしよ怒ってっかな。

 

「うし…」

今日はめちゃくちゃ優しくしてみよう。できればそれで無視したことも許してもらおう。

 

「ひとりはよー。バイトどんなもん?上手くやれてる…?」

 

俺は走って彼女に追いつき、肩をポンっと叩いて瞳を見つめる。するとひとりは石のように固まってしまう。

 

俺はメデューサかなんかかよ

 

「ひとりー?大丈夫か?」

頬をむにーっと横に伸ばしたり頭を撫でてみる。うーん反応ないなぁ……と思った矢先に彼女は大粒の涙を流して抱きついて来た。

 

「…湊くぅうぅん…っ!!!」

 

「おお、おう」

ぎゅうっと力強く抱きしめられると身動きが取れない。というかここ通学路だぞ。登校中の先輩とかに見られんの恥ずいんだけど!!

 

「ひ、ひとり一回離そうな?な?」

 

「ううううぅぅ!!」

 

どうにか落ち着かせようとするが一向に離れる気配はない。

 

「お前また女泣かせてんのかよー!!昔から変わんねーなー!」

「道端でやると目立っちゃうよー!」

 

「分かってるっすよ!!先輩達も道端でそんなくっついてて良いんすかー!」

 

あーー知ってる先輩からからかわれんの一番だるい!!良い人なんだけどね!!だるいわ先輩!

 

どうにか話しかけてくる先輩や友達をあしらっていると困惑と…何かを疑う表情で俺を見つめる郁代と目が合った。

「……湊くん??」

 

「ヘルプミー郁代」

「うううううっ!!!!!」

 

「それ、ご、後藤さん?」

 

「…そう、多分ロインの連絡無視しまくってたからこうなった」

 

「返信の時間気まぐれだものね……」

呆れた声でそう言われると本当に申し訳ないと思う。俺郁代のロインも結構無視してたなー…。

 

「後藤さーん…?湊くんと一緒に遅刻しちゃうわよ…?」

 

「…そ、それで良いです!!ロイン返ってこなくて…なんかしたかなってなって…最近すぐ帰っちゃうし、が、学校じゃ、湊くん友達多すぎて1人の時なくて全然話しかけられないし…!お母さんからやっぱり架空の彼氏だったのね…って心配されちゃうし…!どれだけ…わ、私が…っ」

 

ギャン泣きされて制服が汚れる…ま、別に指定のジャージで過ごせば良いけどさぁ……めんどいな。

 

「え、後藤さんって彼女なの…?」

 

「いや?俺今彼女いねーよ」

ジトーっと疑いを持った目で見られる。そっか、彼女いといて抱きしめるとか何だこの男とか思ってんだな?残念なことにひとりは彼女じゃない。だから俺が郁代を抱きしめても何の問題もない……と思う。

 

「………」

 

「何だよ本当に彼女じゃねーよ。仲は良いけど」

 

「……とりあえず後藤さんを離せばいいのね?」

 

「おう、助かる」

 

「はぁ…後藤さん?湊くんに嫌われちゃうわよ」

 

「…っ!!」

郁代の言葉を聞いた瞬間にすぐさま体を離して距離を置く。案外簡単に離れたな。さすが郁代。

 

「ひとり、俺結構スマホ見ないこと多くてさ、なんかあったら直で話しかけてくれ。ひとりとはもう仲良いと思ってるし、ひとりのこと嫌いになってねーから。むしろ好きだぞ」

 

「…うん…分かった………」

 

 

「……………はぁ…」

少し間を置いてひとりが返事をしてくれる。良かった、何とか機嫌は戻ったかな?てか郁代はなんでため息ついてんだ。

 

「……と、とりあえず学校向かおうぜ?」

 

「………はい」

 

「……そうね」

 

……何この空気ちょー気まずい。

 

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今私たちは、3人で学校に向かい歩いてる。

湊くんが道路側を歩くのを譲らなかったのでその関係で湊くん、郁代…嘘です喜多さんです。湊くんに習って呼んだら辞めてくれる?って怒られました…すいませんでした……。その喜多さんを挟んで私がいる…。

 

湊くんの隣に入れないことにモヤモヤが残ってしまうのは…やっぱり私の中での湊くんの存在がとても大きなものになってしまっているから。

 

返事がないだけで…大きく落ち込んで。久しぶりに話しかけられただけで大きく喜んで心がぐちゃぐちゃになってしまう。

 

「…そうだ!今日ひとりバイトあるか?」

 

「え、あ、うん」

 

「じゃこの3人でいこーぜ…郁代は歌めっちゃ上手いんだよ」

 

「ちょっ…湊くん!?私バンドやらないって言ったわよね?!」

 

ぇ!?!!どうして!?!喜多さんと喋ったこともないのに!?!どうして!?!!はっ、そう言えば歌上手いって聞いたことあるようなないような…湊くんロスで意識が朦朧としてたから覚えてない…!!!

でもボーカルがいないのは事実だし……よ、よし!

 

「………い、行きましょう喜多さん!」

 

「……え、えっと………湊くんも行くのよね?」

 

「………あっ………」

 

その目線は、恋愛初心者な私にでも分かるほどに彼を強く意識してる目だった。モヤモヤはまた大きく膨れ上がって、きっとどうしようもないものなんだと諦めがつくまで…この気持ちに向き合っていかなきゃならないことに私は今更ながら気づいてしまった。

 

「おう、行くぞー」

 

「…………………なら、行くわ」

 

「………………」

このなんとなく気まずい雰囲気は無くなることなく学校に着いてしまう。私が、私が原因……いや湊くんだ!!!全部湊くんが原因なんだ!…だってもう湊くんのこと何もわからなくなってる。嫌われたんだと思ったら普通に話しかけてくるし、バイトにもついてくって言ってくれるし…さっき頭撫でられたし……全部湊くんが悪い。

 

バイトまではそう思いながら過ごした。学校ではやっぱり話しかけられなくて…。………やっぱり湊くんは友達が多い。多すぎる。

 

お昼休みはいつも彼の周りに人がいる。男女問わずだ。それに教室を覗き込み湊くんに絡んでる先輩も多い。先生もだ。………私はどのくらい位置にいるんだろうか。…でも彼女いないって言ってたし…まだ私にも…チャンスが。湊くんの一位になれるか…も……。

 

ぁぁぁぁあああっ!!駄目だ何を思い上がってるんだ後藤ひとり!絶対に消えることのない黒歴史が増えてしまうぅう!!いやもう唯一無二の黒歴史になる。ネバーディサペアースペシャルブラックヒストリーになってしまう!!

 

黒歴史の記憶を消すように1人、暗い場所でギターをかき鳴らす…。

 

「憂鬱な日々に君は現れて、私をほどいて、乱してく………心もぐちゃぐちゃ泣いている。クレイジー愛おしいあなたへ。0時。美しいあなたへ。暗い世界にグッバイ……」

 

うう、ギターをかき鳴らしても、気分は晴れない……。

 

 

 

「すごい!本当にギター上手いのね…!」

 

「……き、喜多さんっ!?!!」

どうして!?いつの間にこんなに近くに来てたの…!?!そ、それよりもバンド勧誘のチャンス!?

 

「き、喜多さん、実は自分バンドのギタボ探してて…さっき湊くんが歌上手いって言ってたし…ぎ、ギターはこれから…?かもしれないですけど」

 

「あー、うん考えてみようとは思ってるんだけど…」

 

「わ、私以外のメンバーは明るいし…週末はBBQで半年に一回は球技大会で打ち上げはリムジンだし…」

 

「そんなパリピなバンド嫌なんだけど…湊くんだけで十分よ」

 

「え、湊くんリムジン乗ってるんですか…?」

 

「うん、ほらイソスタ見て。タトゥー入った怖そうなお兄さんと湊くんと…8人くらいの写真あげてるのよ。打ち上げーって書いてあるし…」

 

「…もう私には、湊くんが分かりません……」

 

「私にも分からないわ…掴みどころないのよね…」

 

「そ、そうなんです…っ…!」

 

「転がされちゃってるかもね、私たち」

初めての共感。好きな人が一緒なんて…仲が悪くなるだけだと思ってたけど…そんなことなさそうだった。むしろ今の心境をお互いに理解できて共感し合えるなんて…とても嬉しいと思った。

 

「…私ね、湊くんと付き合ってたんだけど…段々…今の後藤さんみたいに分かんなくなっちゃって……不安なって…モヤモヤして…このままじゃ私がダメになるって思って湊くんと別れたの。」

 

「それでね、まずは自分を変えようって思ってる時に出会った先輩に憧れて……その先輩目当てで…ギター弾けるって嘘ついてバンドに入って…」

 

「……結局また何一つわからなくて逃げっちゃったんだぁ…」

 

喜多さんは何か諦めるような遠い目をして自分のことについて話してくれた。きっと後悔とか未練みたいな物が沢山あるのに…。

 

「こ、ここで辞めたら…諦めたら…一生そのこと…引きずっちゃいます」

 

「……なら後藤さんがギター教えてよ…私の先生になって?」

私なんかに共感してくれて、私なんかに自分のこと話してくれて私なんかを頼ってくれる。喜多さんが変わっちゃったら…きっともう敵わない。湊くんは彼女のものになっちゃうかもしれない……でも

 

 

「分かりました…き、今日から一緒にが、頑張りましょう」

 

 

 

 

 

私も変わっていくんだ。

 

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