「おはよっ!えへへへ」
「あ、おは……よ…………」
次々に出て行くみんなの車の中。
俺のバイクの隣に立っていた陽菜は、自分のヘルメットをかぶって待っていた。
「出来ればノーヘルが良いんだけど。被らないとダメじゃん?フルフェイスはメイクが落ちちゃうからキャップを買った訳」
「お前の自転車は?」
「もう間に合わないよ」
俺の前で両手を合わせてお願いのポーズを決める!
「見たら分かると思うが、俺のバイクは一人乗りな訳」
「大丈夫!お兄ちゃんが前に詰めれば私の小尻がどうにか入るって!お願い!」
「無理だって、陽菜は小尻じゃねえし、車に乗れよ。それともこっちのスズキに乗って行くか?」
「うーん……バイクが良いんだけど、これボロっちくない?だったら車!」
「ボロって言うなボロって!」
名義変更が終わったAMG-G63に乗り込みながら怒った。
激おこプンプンだぞ!
「バイトで稼いだお金で初めて買ったバイクだぞ」
「ねえ、赤いのがカッコイイから後ろにシートを付けてよ」
聞いちゃいねえ
「あのなあ、シート下の素材はカーボンな訳。形状変更なんて無理無理!」
「えー彼氏にバイクでってある意味ステータスなんだけど。赤いのにシート作って作って作って!」
「五月蠅い五月蠅いうるさーい!無理なもんは無理だ!バイクに乗りたいならスズキで我慢しろ。アレは良いぞー小回りが利いて燃費も良いし――」
「赤いのが良いのー!三倍は早いんだから!変な角も付けちゃおうよ!」
「アニメの見過ぎだ。三倍早かったら学校に着く頃には裸になるぞ」
「見た事無いくせに…………みる?」
運転している俺の横でホーレホーレと胸元をパフパフさせて見せにくる。
そのブラウスに手を伸ばしもみゅもみゅと揉んでやる!
「あっんんっ!」
「まだまだだな」
「あ――――!言ってはいけない事を!私は成長期だから良いの!」
「お尻が大きくなったりして」
「ああ!それだけは阻止したいのにい!」
助手席の前にあるバーを持ってガクガク前後に揺らしている。
「デカ尻良いじゃん。俺は好きだぞ」
「うし!」
急にガッツポーズを取ってニヨニヨしだした。
目が細くなってる。ジト目で俺を見ている。
「いや、マジで」
窓を全開にした陽菜は身を乗り出して大声で叫びだした!
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
箱乗りする勢いだったので、ウエストを持って引き戻した!
「あぶねえだろ!」
「むふふ、和花姉と同じサイズの私のヒップが此処で役に立つとは。お兄ちゃんお尻フェチマチ゛デウレシイ」
尻は尻でもアナルだったりするが。
ここで言う事じゃないだろう。
「ほら着いたぞ」
そうしている内に大学へ着いた。
守衛に駐車許可証を見せている時に陽菜は車を降りた。
「育乳も頑張るからね!行って来まーす!」
声がデケエよ。みんな見てんだろ。
俺も手を振り指定の駐車場へと車を停めた。
ゾロゾロと講義へ向かう俺たちだが、俺に近づく蘭が来た。
「全員講義内容は同じだからな。行く所は同じって事だ」
「分かり易くて良いな」
そしてと続く話の内容は、この大学は桜グループの傘下と言う事で、俺達血縁族は俺達だけの休憩室が用意されていると言う事だった。
仮にも護衛が堂々と入ってこれない為、講義が無い時間は、その特別室で休んだり勉強したりと自由な時間を過ごしているらしい。
そして更に詳しい話が入った。
俺達血縁族の子供は、女子であれば直系の女子が選んだ男が愛人などにして事実上の夫婦にする事が多い。
だが、その男を選ばなかったら一般男性と結婚をするが、その時点で特別扱いはしなくなるそうだ。
だからこの兄妹姉妹の誰かが、俺以外の男や女と結婚すれば、その子供はその他の一般人と同じ扱いに変わる。
桜グループの入社は実力で入らないといけないらしい。
だから親達は結婚を諦め、愛人になれるように進める事が多いと言う事だった。
だから秘書のマリアさんは俺に娘であるユリアを進めていたのかと理解した。
だから男子達は、自分らまでは良いが、子供の世代は個人的にコネを作るか、実力で入社するか。他の企業を選ばなければいけない。
割と結婚も普通に一人とするらしい。
蘭もこうやって説明すると言う事は、俺に懇意にしてもらって子供の世代を安泰にする必要があると言う事だった。
「それは否定出来ないな。結婚する意欲もあるし、今の内に色々コネクションを作るのも俺らの務めだと思っている。武蔵も同じさ」
子供達までは男尊女卑が強い企業だが、それも一代限り。
甘い汁を吸っているだけに、その後は厳しい。
だが、その子供達はいつも俺らと同調している訳ではないと言う事だ。
甘い汁を忘れられず、逆に俺達に恨みや嫉妬をあからさまに見せて来る者や、スパイのように他企業からの優秀な子供達を引き抜く奴らもいる。
特にこの大学に入るとそれが著明になり、学生たちの間では、子供達をSクラス、その他の子供、孫、他企業らの優秀な者達をAクラスと呼んでいるらしい。
「じゃあ俺もSクラスか」
「バカ言うなよ。直系の夫だぞ。SSクラスに決まってる。色仕掛けやハニートラップ、何でもありだぞ。女に限らず男も気を付けろ。俺達の父の時代も大変だったらしいぞ」
「だから血縁者の愛人が多いのか?」
パパさんの愛人達はやはりマリアさんを覗いて皆その上の、俺からすると義理の祖父の子供達だ。
しかも、代々続くこの関係は、何故か子供がそれぞれ一人しか生まれないと言う不思議な事が起こっていた。
だからこういう不思議な関係が出来ているのかと理解をしていた。
講義講堂へと入ると、真ん中の一番後ろ一帯は俺達の為に空けられていた。
俺の左に桜花、そしてユリア。俺の右は琥珀、そして心愛。
後ろには和花を挟んで左右に武蔵と蘭が座る。
万が一の時は身を盾にして守るのも使命だと言っていた。
なんだかやるせない気持ちになって来る。
講義が始まったが、内容は流石はトップクラスの大学であり、難しい事もある程度は分かっていて当然な感じで話が続けられる。
ここでの主席は和花であり、次席から下は殆どが血縁者で埋められているとの事だった。
俺も頑張らないと!
それは講義が終わると直ぐに分かった。
次の講義があるまでに特別室へと行こうと言う時に、一人の男が近づいて来た。
「やあ春菜さん。今年も同じ講義だね」
「ええ、そうみたいですね」
少し馴れ馴れしい感じで近づいて来た男は、和花に話をしながら横目で俺を値踏みするような視線を送っていた。
「今年は春菜さんを抜かすつもりで頑張るよ。一緒に勉強でもしますか?」
「ええ、良いですわよ。お互い実りある時間を過ごしましょう」
そのまま二人は一緒に行ってしまった。
少し俺に視線を送って来たような気がしたが、気のせいか?
「あれが遠縁の親戚に当たる織田《おだ》 直人だよ。去年から和花狙いだよ。和花には理由を説明したんだが、性格が頑固だろ。言っても聞かなくてね」
「だったら俺が貰う。蘭、武蔵、みんなも協力しろ」
蘭の説明に俺も吹っ切れた。
みすみす優秀な人材を逃がす訳にはいかない。
他人にやるくらいなら俺が貰う。
桜花も俺の隣で良いわよと納得していた。
だが、男嫌いだと思った和花の血路が見えない。
琥珀には単独で調べるように頼んでいたが、まだ日が浅い為に何も解決策が無いのが事実であった。
特別室に入った俺らは次の講義まで自由時間を過ごしていた。
桜花は勉強、琥珀は何処かへと行って、武蔵は心愛狙いだからか、心愛と何やら話をしている。
蘭はパソコンに向き合い、ユリアは日の当たる場所で何かを飲みながら寝そべっている。
そんな俺もバイトと言うか、もはや仕事となっている本社金融部の仕事は週に一度の出勤で良いようになった。その代わりに調べ物を行ったり、資料を作ったりして毎日送るようにはなっていたが。
その仕事がそこそこあり、和花の事だけに集中する事は出来ないでいた。
お昼になると学食へと行く事にした。
ゾロゾロと歩いて行くが、そこは巨大なフードコートの様だった。
定食コーナーに、麺類、どんぶり物、魚系、イタリアン、フレンチとコーナーがあり、飲み物も専用コーナーが揃っていた。
「俺焼肉定食にするわ」
「俺も同じく」
そう言う男どもを無視し、ズンズン突き進む女性達。
全員肉々しい物を頼む結果になった。
俺も肉野菜炒めを頼んでいたが、一番野菜を多く摂るのは俺だったと思いたい。
食べる場所を探していると、恐れ多いのか端に先ほど和花を連れ去った織田が向かい合って食べていた。
そこに俺は特攻する。
「よいしょっと!ああ腹減ったな」
ソロゾロと二人の並びに座って行く面々。ちなみに織田の隣は武蔵が座っていた。
「君たち、声も掛けずに失礼じゃないか?普通声を掛けて座るだろ」
いきなり邪魔されて激怒するまでもないが、表情はかなり怒っていた。
「悪いな、編入したばかりなんだ。君の普通が分からなくてすまないな」
更に油を注ぐような言葉を吐きながら、頼んだ肉野菜炒めを食べだす。
チラ見すると織田は顔を真っ赤にしていた。
「はる――」
「和花さん、少し教えて欲しい事があるんだ。悪いけど頭の良い人に教えてもらいたくてね。いいかな?」
何か言いだした所をバッサリ叩き斬った。
和花は、俺と織田を交互に見返して。
そして答えた。
「いいですよ。それじゃあ織田君、勉強ありがとうございます」
よし!勝った!
「あ、ああ。また今度誘うよ」
居心地の悪くなった織田は、少し残っていたトレイを持って消えていった。
「圭君持って来たよ。はい、クリームソーダ」
「ふぁんきゅー」
「口に物が入ったまま喋るものじゃありません。食べてから話しなさい」
お母さんみたいだな。
躾が厳しかったのか?
「ごめんね、お腹減ったから」
「次からは気を付けて下さいね」
「うん」
「はいでしょ」
「はーい」
「はいは短くでいいです」
「はい……」
中々厳しいな、コレは…………
少し子供っぽい所を見せたのはダメだったか。
こうなれば作戦変更だ。
食事が終わり、俺は和花とみんなを連れて特別室へ。
そして社外秘と書かれたパソコンの書類データを見せた。
「これなんだけど。最近の株式データ一式が掛かれているんだが、この中で株価から見て投資に……いや、率直に本社が吸収合併をするべき企業はどれが良いかと、大学主席の意見を聞きたくてね」
パッと見で分かる訳がないんだ。
俺も理解するまでに半年近く掛かったんだ。これで正解したらますます伸ばす訳にはいかなくなる。
「これは……社外秘とありますが、私が見ても良いのですか? 本社の金融部とありますが、そこでお働きに?」
「もちろん部外者はダメだよ。これは血縁者だから見せているだけであって、尚且つ主席だから見せているだけ。本来は部外者に見せてはいけない物。だから他者へ教えたらダメだよ。 ここの部署は前の大学の時から臨時で働かせてもらっている。もちろん支社だったけどね。今は本社に席があるよ」
「わ、分かったわ。俺の隣に椅子を置き、熱心にパソコンを覗き、ページを捲っている。
だが、数々のデータをどう見ていいのか、それを買うための材料、現在の株価や時価総資産などをどう紐付けしたらいいかなど学校で教える事は無い。
だから分からなくても正解なんだ。
10数分パソコンを眺めていたが、遂に和花はギブアップした。
「ごめんなさい分からないわ」
「主席の君だったら分かると思ったんだけど。君に聞いたのが間違いだったね。気にしなくても良いよ。俺が一人で考えるから」
こうやって主席のプライドを擽ってやった。
「チャンスを下さい。1週間……時間を頂ければ……あるいは何とか分かるかもしれないです」
「週に一度は本社へと行く事になっているんだ。次に行くのは4日後だよ。それまでに出来るか?」
「やります! やらせて下さい」
和花は真剣な顔で俺に言ってきた。
「データは渡せないよ。終わったら部屋に来て見てくれるか?」
「分かりました。直ぐにお伺いします」
第一ゲートは通過!
これで俺は和花に近づく理由が出来た。
俺を見ている和花の後ろでは、数人が親指を出してサムズアップしていた。
午後の講義が終わると、和花は直ぐにやって来た。
「少し良いですか? 現在の社会情勢を顧みて…………………………」
経済学部らしい発現だった。だが……
「それは一時的な流行りでは?それに世界情勢は常に変わる。今が安いからと言って買い時とは思えない。TBO、敵対的買収を仕掛けると言っても同じ安値ではいかないよ。時価総額を見てもかなりの大金が動くよね。株式の半数以上だと幾ら掛かると思って?」
「ッ! ごめんなさい。もう少し考えてみます」
次の講義の為に部屋を移動する。
その時、奴が現れた。
「やあ、春菜さん。次の講義はボクの得意とする物なんだけど、隣に来る?良い話が出来ると思うけど」
直接的に誘い出したな。
だが、和花の頭は俺の出した課題で一杯なんだ。
「ごめんなさい。少し考えたい事があって。今はソレに集中したいの」
「そうなんだ。また今度誘うよ」
織田は俺を見て鋭い眼光を見せて来た。
だが、俺も奴にニヤついた顔を見せてやる。腹を立てるように。
「チッ、クソが」
俺らの横を通り過ぎる際に小さく舌打ちしながら捨て台詞を吐いていた。
次の講義が終わると流行り俺に寄って来た和花。
「今すぐお部屋に伺っても宜しいですか?」
特に問題無い為、俺は了解をして桜花よりも先にマンションへと帰る事にした。
意外に彼女は日本スポーツカーの雄とも言えるGT-Rに乗っていた。
どうしてこの血縁族はバカっ早い車に乗りたがるのだろうか。
タイムイズマネーだとでも言うのだろうか。
俺の後をピッタリ付けて帰る和花。
一見すると煽られているようにも見えていた。それほど早くデータが見たいのだろう。
エレベーターで三階までのボタンを押すと、食いつく様に色んな質問が飛んで来た。
まるで会社員の様に上下スーツを着ている彼女からは、甘い香りがしているが、それには一切気が付かないんだろう。
やや背が高く、170cm近いはずの彼女がローヒールを履いていて顔が近かった。
それに気が付かない程集中しているって事だった。
抱き着こうと思えば簡単に抱き着く事が出来る。そんな位置で、俺は何もしなかった。
ガッチガチに真面目で曲がった事が嫌い。
突然告白をしてもダメに決まっている。
和花には、俺が次期CEOとしての実力を見せて、その部下になりたいと思わせる何かが必要だと思っていた。
部屋に入りパソコンをバックから出す。
狭い部屋では嫌がられると思い、リビング横にある食卓するテーブルに置いた。
すると直ぐにその椅子へと座る。
「悪いけどロックが掛かっているんだ、少し目を閉じててもらえるかな?」
「ああっごめんなさい」
椅子に綺麗な姿勢で座っている和花が目を閉じた。
まつ毛が長くスッと通るような鼻筋をしている。そしてその唇は少し厚く、キスをすると気持ちよさそうな気がする。
素もし冷たい印象だが良い感じに解れると、かなり良い美人になっていきそうな雰囲気を持っていた。
カチャカチャとキーを打ちロックを外した。
「大丈夫だよ存分に見てくれ」
「お借りします」
データを出すと和花は真剣な顔で見だした。
途中で何か気になったのか、自分のパソコンを持っていたバックから出し、ネットで何かを調べている。
俺はキッチンに行き、卵をフライパンで焼き、ハムとレタスを冷蔵庫から出してパンに挟む。同時に紅茶ポットで頂き物の高級茶葉を入れ、ティーカップに注ぎ、パンに挟んでいたサンドイッチを斜め半分に切って出した。
「少し糖分を入れた方が良いよ。召し上がれ」
「あ……すみません。女の私がする事を……頂きます」
そこへ俺の部屋の住人がゾロゾロと帰って来た。
桜花に琥珀に心愛。部屋は同じだが、寝室は4つもある。俺の愛人部屋であり、増えても大丈夫な様に作られていた。
「「「ただいまー」」」
「ああ、お帰りご飯までに時間があるから何か作ろうか?」
これでも1年の間、少しは自炊をしていた。
桜花のマンションでは桜花の手作りを食べていたが、琥珀や心愛と会う時は、殆どが俺の部屋であり、俺と一緒に料理も作っていた。
簡単な物くらいは出来るのだ。
「じゃあサンドイッチ。同じ物で良いわ」
「私は温かいホットサンドが良いなぁ」
「両方!両方欲しい!」
「飲み物は紅茶で良いかな?」
俺は同じ様に料理を作って行く。新しい紅茶ポットも出して同じ茶葉で入れていく。
この紅茶の香りだけでも府に気は西洋にいるようだった。
和花は少し気になる感じだったが、それすら集中して無心で調べ物を行っていた。