キラとフレイの関係は宇宙における誹謗中傷時点から変わっていません。最悪な状態です。よって地球降下直後に致した例のアレもないという……じゃあなんでフレイが入隊したの?という話になるんですけどね。
上手いことマリューさんが緩衝材となって事なきを得たので、次回は甲板に出てのキラマリュです。おっぱい以外もちゃんと緩衝材になっているんです。
砂漠での激闘を戦い抜き、無事紅海へと出ることが出来たアークエンジェル。未だザフトの勢力圏内ではあったものの、艦内には殺伐した雰囲気は漂ってはおらず、地球へと降下した頃と比べれば平穏を取り戻した。はずであった。
「んっ……?何かしら?」
休息を終えて艦橋へと向かう途中、マリューは艦内の一角で言い争いをする男女の姿を見つけた。
「いい加減にするんだフレイ!キラがストライク出ていなきゃ、俺たちは本当に助かっていなかったかもしれないんだぞ。」
「でも……!あんな余計なことをしていなければ、今頃普通に連合の本部に帰っていたんでしょ!?」
言い争いをしていたのはキラの友人であるサイ・アーガイル、そして彼女の許嫁とされるフレイ・アルスター。そして、その2人の間にいたのは諍いの原因であるキラ本人であった。
「キラくん……!?」
マリューはその3人に気取られるように、物陰に身を隠して会話の続きへと耳を傾ける。
「何よ……私たちを守るって言ったくせに……むしろ危険にしているじゃない!」
「………」
フレイがキラを糾弾する理由。それは大気圏外でキラが出撃をして、艦の降下地点が大幅にずれたことにより、ザフト勢力圏に降下してしまったことであった。
キラを見捨てる、あるいはキラが出撃をしていなければ、アークエンジェルは可能性が低くなりながらも予定通りに降下出来ている可能性があった。しかし、結果はキラが出撃したことで撃沈は免れたものの、予定通りの降下には失敗したのであった。
「じゃああの時、お前はキラを見捨てて自分たちだけ助かればよかったと思っているのか!?」
「そ、そういうわけじゃない……けど。」
サイの激しい剣幕に気圧されるフレイ。彼はフレイを窘めつつも、友人であるキラを懸命に庇おうとしていた。しかし
「ごめん……フレイ……サイも。僕が余計なことをしたのは本当だから。アークエンジェルに……みんなに迷惑を掛けちゃったのは本当だから。」
「キラ……?」
「僕はフレイのお父さんを守ることも出来なかったし。結局……何も守れないどころか、守られてばかりで……」
フレイの誹りを全肯定するばかりか、それ以上に自らを責めようとするキラ。しかし、そんな自虐的な態度は彼女の怒りをさらに膨らませる。
「どういうつもり?自分が悪いって、そんなにあっさり認めて……あんた、もっと言い訳とかするもりはないの!?」
「………」
フレイはただ、自らのやり場のない怒りをキラに対してぶつけたいだけであった。ところがキラは、そんな彼女の誹りを黙って受け容れ、言い返すことも泣き崩れることもない。フレイという少女を顧みないような姿に、彼女は感情を露わとする。
「もっと怒ったり泣いたりしなさいよっ!これじゃあ……私だけがバカみたいなんだからぁっ!」
「……っ!!!」
そんな罵声と共に、キラの頬を打ち抜いたフレイの平手。しかし、そんな直接的な暴力にもキラは反応を示さず、むしろ困惑と驚きを見せていたのは傍にいたサイと、物陰でその光景を眺めていたマリューであった。
「フレイっ!?」
キラに対して平手打ちをしたフレイに対し、驚きの声を上げるサイ。そんな彼を尻目に、彼女はキラに対する自身の思いを吐露していく。
「あんた……私のことが好きなんでしょ?知ってたわよ……カレッジでいつも、私のことを見ていたことも……!」
「えぇっ!?」
その言葉にサイはさらに驚くものの、フレイは気にすることなく言葉を続ける。
「そんなあんただったら……パパを殺したコーディネイターを……コーディネイターのあんたにいっぱい殺させて……たくさん苦しんで欲しかったのに……!でもっ!」
「くぅっ……!」
さすがにその言葉はキラの心に刺さったのか、フレイから目を逸らしつつも彼は苦々しい表情を浮かべる。それでも、フレイが口を閉ざすことはなかった。
「でもあんた……平気で自分と同じやつらを殺してるじゃない!自分が悪いって思ってるだけで、簡単に殺すことが出来たりしているのっ!?」
非道を極めたようなフレイの言葉。キラは歯を食いしばりながら彼女の言葉を黙って聞いていた。しかし、それ以上に黙っていることが出来なかったは、フレイの傍でその言葉を聞いていたサイであった。
「ふざけるな!」
「きゃぁっ……!」
「お前……キラがどんな思いで俺たちと一緒に……アークエンジェルに戻ってきて戦ってくれたと思っているんだ!?」
「そ、そんなことなんて……!」
キラの友人として、フレイの言葉を看過出来なくなったサイ。彼女を壁際へと突き飛ばしながら、彼は激しい剣幕で声を荒げる。
「キラが平気?そんなわけないだろ!?お前の親父さんが死んだ時だって……こいつは……こいつは……!」
そして、サイは腕を振り上げて、フレイがキラにした仕打ちと同様のことを彼女にしようとする。だが、その行動にとうとう傍観すること出来なくなったマリューが不意に姿を現す。
「待ちなさいっ!それ以上はダメよ!いくらフレイさんの言葉が酷くてもっ……!」
「くぅっ……!?ラミアス艦長……!」
サイの手を掴み、振り上げた腕を下ろさせるマリュー。そして、平手打ちを受けてもなお沈黙し、頬を赤く腫れさせたキラに一瞥すると、彼女はフレイに向かって口を開く。
「フレイさん、まず最初に言っておかないといけないことがあるわ。大気圏降下の際、予定進路を大幅に変更してストライクの回収を優先したのは私の判断です。つまり、現在この状況に陥った責任は、艦長である私にあります。」
「ラミアス艦長が……?」
マリューの言葉に呆然とした様子のフレイ。そして、マリューからさらに放たれる言葉を彼女もある程度察していた。
「フレイさんを含めた乗員の命を預かる人間として、私の下した判断が正しいものかは自分でも分からない。ただ、責められるべき相手はキラくんではなく、私だということだけは理解してほしいの。」
「そんなの……!でも、私は……キラの……彼のことを……!」
コーディネイターであるキラに対して浴びせた数々の誹り。それらが全て意味を成さないとマリューに突き付けれたフレイは、艦長としてのマリューを責めることも出来ず、キラに対して行った仕打ちを後悔すること出来なくなっていた。
「でもパパは……コーディネイターに殺されて……!キラも……そいつらと同じコーディネイターだから……!」
「たぶん、俺もフレイと同じだ。」
マリューに振り上げた腕を自らの腕を下ろされ、呆然と立ち尽くしていたサイが声を上げる。
「キラは友達だけど、やっぱりコーディネイターなんだって。あんな風にモビルスーツで戦えて、俺たちを守ってくれて……でも!」
彼は友人であるキラを信じ切れずにいた。自分たちと同じナチュラルではなく、ザフト軍の軍人と同じコーディネイターだからという理由で。
「ごめん……キラ。俺本当は……お前がラクスさんをザフトに送り届けた時、もう帰ってこないって思ったんだ。」
「サイ……僕は……」
キラの心中も複雑なものとなっていた。友人であるサイと同じようなことを、彼はマリューに問われていた。これまでの経緯をどう取り繕おうとも、キラ・ヤマトというコーディネイターの少年が、ナチュラルと共に過ごしていた異質な存在であることは変えようのない事実であった。
「お前がモビルスーツに乗って戦うのを見て、俺……改めてお前がコーディネイターなんだって思い知らされてさ。それだけなら、やっぱり凄いやってだけ済んだんだけど……」
覆しようがないナチュラルとコーディネイターの差。友人関係においてそれは、些末といえる小さな嫉妬に過ぎなかった。しかし
「フレイのお父さんが死んだ時に、俺も……キラみたいに、お前に見たいに戦えたら……もっとフレイを守って上げられたんじゃないかって思ったらさ……なんだか、すごく悔しくて……!」
「サイ、あなた……!」
キラのように戦うことが出来ない自分に、無力さを感じていたサイ。そうして膨れ上がったキラへの嫉妬心を打ち明けた彼に対し、フレイは驚きの表情を浮かべていた。
「バカじゃないの……わたし、あなたにそんなことしてほしいなんて思ってないわよ。そんな……コーディネイターみたいな、キラみたいなことなんて……うぅっ、ぐすぅっ……!」
サイの胸の内を知ったフレイは、とうとう嗚咽を漏らして泣き崩れる。そんな彼女の前にマリューは屈みこむと、フレイの背中を擦りながら声をかける。
「自分の力が足りないと感じているのは、彼らだけじゃないわ。だから……もう、キラくんのことも、許してくれるかしら?」
「ううぅっ……ぐすっ、ひぐぅっ……あぁっ、あぁぁぁぁぁぁっ……!!!!」
マリューの問いかけに頷きながら、フレイはただひたすらに泣きじゃくっていた。そして、彼女の泣き声が響き渡る中で、サイは改めてキラに向かって口を開く。
「キラ、俺は……!」
「大丈夫だよ。サイがそう思っていても、最後は僕のことを信じてくれたってことだけは分かるから。」
「っ……!ごめん……!」
マリューからだけでなく、サイからも複雑な心境を打ち明けられたキラ。彼はコーディネイターとしての自分を肯定しつつ、自身を受け容れてくれる人のために戦うことを改めて決意していた。
「僕はアークエンジェルを……この艦のみんなを守るから。サイはサイに出来ることを……自分に出来ることでフレイを守っててほしい。」
自分にはフレイの気持ちを受け止めること出来なければ、その資格もない。キラは自らの抱いていた淡い恋心に別れを告げ、サイに対して一人の友人としてフレイのことを託す。そうしたキラの思いを汲み取ったサイもまた、キラの目を見据えて力強く頷くのであった。