炒飯……もといディアッカは初登場となります。バスターに乗ってアークエンジェルを援護してくれてはいたんですけどね。言動が軽い割には良識がある、作中随一の良心かと。
とはいえディアッカがアスランのポジションを担えるかといえば、そんなことはなさそうなので、結局はヅラにも出番が出てきています。
次回はキラマリュの本番2シーン目。マリューがキラを介抱するシーンから始まります。
「体調の方は、もう大丈夫かしら?」
「はい。すいません……ずっとマリューさんにいてもらっていたみたいで。僕も……戦うことが出来なくて。」
艦長としての仕事の傍ら、マリューは空いた時間を見つけてキラの看病をしていた。ラクスやカガリ、そしてアスランも手伝ってはいたが、彼や彼女たちはマリューに対しキラの傍にいるよう促してもいた。
「別にいいのよ。あれから連合が……ナタルたちが来ることもないし、周辺の警戒はアスランくんやクサナギの部隊で足りていたから。」
憔悴状態にあったとはいえ、かつてないほどに苦戦を強いられ意気消沈といった様子のキラ。体調自体は回復していたものの、彼の心は沈んだままであった。
「アスランくんもずっと、キラくんと話がしたいと言っていたわ。彼もあなたと戦ったことを後悔しているようだし、話をすればすぐに仲直りは出来ると思うわ。」
「ええ……また話すことが出来て、本当に……よかったです。」
アスランという友人と再会し、カガリという家族も傍におり、ラクスという恩人、そして多くの仲間と友人が囲まれていたキラ。しかし、それでも彼は孤独を感じていた。
「本当にすみませんでした。あの研究施設の中で、僕は……自分のことを……」
「言ったわよね。私の前からいなくならないで、って。」
自らの命を断とうとしたキラ。マリューによって寸でのところで避けることは出来たものの、2人の間には些か気まずい空気が再び流れていた。
「僕はコーディネイターです。マリューさんとは違う。でも、同じコーディネイターのアスランやラクスとも違う。」
キラは自らを特別な存在と考えたことはなった。例えヘリオポリスでナチュラルの友人に囲まれていたとしても、自らがコーディネイターであることに優越感を感じることなどなく、一人の人間であることに疑問を抱くこともなかった。
「カガリとは血の繋がった家族だった……でも、血が繋がっているだけだったんです。僕とカガリは双子でも……それはただ遺伝子が……」
遺伝子上の繋がりはあったとしても、彼に明確に家族といえる人間は存在しなかった。無機質な人工子宮の内部で、受精卵の段階から成長した彼にとって、家族と呼べるものは存在しないも同然であった。
彼にとって家族、兄弟と呼べるのは、研究施設の中で培養されていた胎児らしき生命、あるいは処分されていた生命の残骸以外にはいなかった。
「そ……そんなことないわよ!カガリさんはあなたのことを家族だと思っているわ。あなただって、彼女のことは大切に思っているんでしょ!?それをただ血や遺伝子の繋がりだけだなんて……彼女を悲しませるだけよ。」
「でも違うんですよ!?僕は……誰とも、誰とも違っていた……!僕はもう、コーディネイターと、自分が人間と呼べる存在なのかだって……」
人の夢、人の望み、人の業、その全てを注ぎ込まれて生を受けたキラは、自らを人の子とすら考えることが出来ずにいた。傲慢を極めた考え方であるかもしれないが、その根源に存在するのは彼の深い絶望の心であった。
「そうね……きっと、この世界にあなたの思いを理解出来る人は誰もいないのでしょう。私も……キラくんの心が分からないもの。」
「マリューさん……」
「でもね、私はあなたが生まれてくれてよかったと思っている。あの研究施設を見た後でも、あなたの言葉を聞いた後でも。」
マリューはそう言葉を口にしながら、キラの頭を優しく撫でる。そして、彼の顔を見つめる彼女の顔は、母性と慈愛に満ちていた。
「そんな……マリューさんが僕なんかのことを……!」
「これはあなたの心を理解出来ない、私の身勝手な考えよ。でも、これだけは忘れないで。あなたの気持ちが分からなくても、私はずっとキラくんの傍にいるから。」
他者の心を理解するなど烏滸がましいこと。マリューはそう思いつつも、キラに寄り添い続けると誓う。
「マリューさん……僕は……僕はっ……!」
目に浮かべた大粒の涙を零し、マリューの顔を見つめるキラ。彼は押し寄せる感情の波を吐き出す場所を、彼女へと求めていた。
「いいのよ。泣きたいと思った時は、思いきり泣いていいの。声を出して、たくさん泣いていいのだから。」
「マリュー……さん。うっ、うぅっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
出会って間もない頃も、キラはマリューの前で大粒の涙を零して泣いていた。その時の彼女は、泣き叫ぶキラを前に困惑するしかなった。しかし、今のマリューには彼の悲しみを受け止めるだけの覚悟と想いが備わっていた。
「辛いのはあなただけじゃない。でも、キラくんが辛い時は、いつも私が傍にいてあげる。ただ、傍にいることしか出来ないから。」
「えぐっ、ひっぐっ、うぅっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
マリューの身体に抱き着き、顔を埋めてひたすらに泣きじゃくるキラ。彼女はそんな彼の背中を優しく擦り、傷ついた身体と心に安らぎを与える。アークエンジェルの医務室にはしばらく間、マリューが包み込むキラの慟哭が響き続けるのであった。
◇
アークエンジェルとクサナギがエターナルと合流を果たしてから数週間後。来たるべき戦いに備えて各艦が準備を進める中、マリューはアスランとラクスを伴ったシーゲルと再び会談の場を設けていた。
「お忙しいというのに申し訳ない。艦長である貴女に時間を作っていただけるなんて。」
「いえ、別にそれは構わないのですが……」
プラントの内情を把握している前議長、その娘と現議長の息子。一方のマリューは彼女一人であったものの、既にコーディネイターとはいえ物々しい警戒をするような関係ではなかったため、テーブルを挟んでシーゲルと相対していた。
「これからお話することはザフト……いいえ、プラント圏内では周知されている一方で、地球に住まう人々の間では知られていない事実となります。」
「私たちが……知らないこと?」
そう前置きをしてから話を切り出すシーゲルに、マリューは些か身を構えることとなる。しかしそうした一方で、彼がマリューをそうした話をするに値する人物であると認識していると受けることも出来た。
「いったい……どういうことでしょうか?」
「プラントに住まう者……コーディネイターという種に関する重大な話です。」
マリューはそうしたシーゲルの言葉に、改めて眼前の3人が自らとは種が異なるナチュラルではない者、コーディネイターであること示される。それと同時に、彼ら以上にコーディネイターであることを自覚し、苦しむキラの存在を強く意識をするのであった。
◇
「婚姻統制?そんなことまで……」
「ふざけた話と思うのも無理はないでしょう。しかし、我々は遺伝子情報をもとに決して子供が出来ない、あるいは著しく低い夫婦の存在を容認出来なくなっているのです。」
シーゲルから伝えられたコーディネイターという種の未来についての話。それはマリューに彼らの存在、あるいはプラントという疑似国家群に対する認識を大きく改めさせることになっていた。
「父やアスランのお父さまのような第一世代コーディネイターに関しては、そのようなことありませんでした。ですが、わたくしやアスランといった第二世代からは、既に出生率が下がり始めており、さらにその次の世代では……」
ラクスもまた、父親であるシーゲルとは同様の知識を持ち合わせている様子であり、そうした現状を語る彼女の顔には悲痛な表情が浮かんでいた。
「ラミアス艦長は、ラクスとアスランが将来を誓い合った仲、というのはご存知ですな?」
「ええ……まぁ、一応伺っていますが。」
「それについてもまた、遺伝子情報の確認を入念に精査した上での関係なのです。」
「うぅぅ……」
ラクスが神妙な面持ちを崩さない一方で、些か顔を赤くして背けようとするアスラン。シーゲルとラクスの護衛として立ち会っていたものの、彼もまた健全な青少年であったため、こうした会話をラクスと共に聞くことには抵抗があるようであった。
「い、いずれはコーディネイターだけでは種の存続が立ち行かなくなる。それを危惧したクライン前議長は、早期に戦争を終結して連合との講和を図るつもりだったんです。しかし、俺の父は……」
恥じらいを飲み込んでプラントの現状と、自らの父に関する事実を述べるアスラン。彼の父親がナチュラルという種を憎み、絶滅戦争さえも所望しようとしていることを知り、マリューはプラントに住まうコーディネイターが一枚岩でないことを察する。
「この事実を……連合へと伝えなかった理由は?」
「知り得てしまえばおそらく、ブルーコスモスは我々をプラントに封じ込めようと、さらに躍起になったでしょう。それだけにと留まらず、未だに地球に住む多くのコーディネイターがナチュラルと隔絶されることとなる。そうなる前に、戦争の早期終結を目指したかったのです。」
「確かに……放っておいても衰退するのであれば、さらに追い打ちをかけようとするのが私たちのやり方、でしょうから。」
皮肉を込めてマリューは連合に身を置いていた自らも含め、大西洋連邦とブルーコスモスを“私たち”と表現する。既に連合とザフト、地球とプラント、ナチュラルとコーディネイターの争いを俯瞰する立場となった彼女は、種族の違いに何ら価値も見出すことがなくなっていた。
「しかし、なぜこのような大事なことを、私だけに?」
「ラミアス艦長がわたくしたちを……いいえ、キラを誰よりも理解してくださっているようですから。」
「えっ……!?」
「2人には俺から話したんです。キラに対する偏見を一切持たずに、かなり親しくなっていたようなので。」
「そ、それはあのっ……べ、別に彼とは無理にそういう関係になったんじゃなくて、戦いに一緒に赴く以上は理解をする必要が……うぅぅぅぅ……!」
アスランの善意と色恋沙汰に無頓着過ぎる性格が、マリューとキラの関係を周知させる原因となっていた。そうしたアスランを呆れた目で見るラクスと、苦笑いを浮かべるシーゲル。そしてシーゲルは改めてマリューと向き合い、彼女に多くを託そうとする。
「今さらプラントを守ってほしいなどと、都合の良いことを願いはしません。ですがラミアス艦長、あなたにはこの戦争が終わった先の世界で、キラくんと共に生きてほしい。それが私の……いえ、我々の細やかな願いなのです。」
「そ、そんな……ずいぶんと責任が重たいような気がしますけど。」
艦長という立場、さらには三隻同盟の代表者という役割、それらを上回る程の重責を抱える気分となるマリュー。それでもキラとの関係に揺らぎなどが生じることはなく、彼女はシーゲルたちを見据えて言葉を返す。
「私は……私に出来る限りのことをするだけです。シーゲルさんやラクスさんのご期待に添えるかは分かりませんが、私はこれからもキラくんと……彼に寄り添うことが出来れば思っています。」
コーディネイターという存在に対する理解が、一人の軍人、あるいはナチュラルとして深くなり過ぎたと感じるマリュー。そして彼女は改めて、想い人であるキラに対して新たな気持ちで向き合うとするのであった。
◇
友人であるアスランをはじめ、ラクス、カガリといった同世代の少年少女が集まり、キラは精神的に落ち着きを取り戻していた。
「うぐぅっ……!ま、また負けた……!」
「ストライクとルージュはほぼ同じ性能なんだけどな。これじゃあ、ランチャーで出てもバスターの足を引っ張るだけだぞ。」
モビルスーツの戦闘シミュレーターで模擬戦を繰り返すカガリ。その相手はオーブ本国からアークエンジェルと共に搬出された、修復されたストライクにパイロット候補として選定されたサイ・アーガイルであった。
「サイ……あまり無理をしなくてもいいじゃない?」
「いや……俺もキラの……みんなの役に少しでも立ちたいから。ストライクが空いているっていうのなら……俺が……!」
軍属となってからも長い付き合いミリアリアに窘められるものの、サイは諦めようとはしなかった。その近くではアスランやキラ、さらに成り行きでアークエンジェルの戦力なっていたディアッカ・エルスマンが苦笑いを浮かべて眺めていた。
「まぁ艦を背にして死角に回り込む敵を撃っているだけでも、十分に役立つとは思うぞ。」
「そ、そうかもしれないけど……」
「そんなことより、いざ実戦といった時にビビって何も出来なくなるようなことだけは勘弁してくれよな。」
「うぅぅっ……!」
同じアークエンジェルの艦載機であるバスターのパイロットとして、ディアッカはサイに冗談交じりの激励をする。
「この前アークエンジェルを襲った連合の3機みたいなのが出てこない限り、モビルスーツ同士で近接戦闘になることは滅多にないからな。」
「あんな機体たちを相手にアスラン、かなり余裕だったよね。」
ジャスティスの初陣であったにも関わらず、連合の最新鋭機を相手に互角以上の活躍を見せていたアスラン。図らずもキラの駆るストライクと幾度もモビルスーツ戦を重ねた結果、彼のパイロット技量はザフト軍の中でも最上位なものとなっていた。
「以前から同僚だった俺からすれば、こいつの強さは異常だし、正規の軍人とは思えない戦い方をするからな。」
「仕方ないだろ。イージスは訳の分からない可変型機体で、相手がキラだったんだから。モビルスーツが蹴りを使うなんて、アカデミーでも聞いたことはなかったぞ。」
「うぅぅぅ……そのせいで、ストライクに乗っていた頃はマードックさんにいつも愚痴を言われていたよ。」
『モビルスーツの足は敵を蹴るために付いてるんじゃねぇ!』と整備班の主任であるマードックはキラ搭乗後のストライクを整備しながら常日頃から叫んでいた。なお、それはキラがフリーダムに乗り換えてからも同じであった。
「まぁこいつら言うことは何も参考にならないと思うぜ。少なくとも、俺からのアドバイスのほうが役に立つだろうな。」
「そ、そういうものなのかな……」
「とはいえ、俺だって戦闘機にソードをくっ付けて暴れ回る馬鹿には叶わないけどな。」
「おいアスランっ!それは私のことを言っているのか!?」
シミュレーターの傍にいたカガリがアスランの言葉を聞き、彼に食って掛かろうとする。以前の砂漠におけるカガリの暴挙は、連合・ザフト問わずに語り草となりつつあった。
「俺も間近で見ていた一人だったけどよ……ありゃ一体何をしてんだ?って思ったぜ。」
「カガリ……ルージュではあまり無茶をしないでね。」
「ぐぬぬ……お、お前らも……!」
キラとディアッカからも茶化され、顔を赤くするカガリ。その姿にサイやミリアリアも苦笑いを浮かべており、戦争という過酷な環境な中でも同世代の少年少女たちは親交を深めつつあった。
「んっ……?キラ?どうしたんだ?」
「えっ……あ、ああ……ううん。なんでもないよ。」
そうした中、時折沈黙して深刻そうな表情を浮かべるキラの姿を、アスランは見逃さなかった。
「何か心配事があるのか?俺にも言えないような、何か気になることが。」
「う、うん……そう……かもしれない、かな。」
「……そうか。だったら、無理には聞かないでおこう。」
「うん……ありがとう、アスラン。」
孤独感にも雰囲気を醸していたキラを心配しつつも、アスランは深く言及しようとはしなかった。自身の親友という立場よりも、キラに寄り添える存在を彼は知っているのであった。