大局的なシーンになると、どうしてもキラは一兵士のポジションとなってしまいますからね。そうした面の補完をするためにも、マリューさんが必要になってきます。
次回からはアークエンジェルとドミニオンが共闘しての最終決戦。ドミニオンのローエングリンを使わなかったのは脚本ミスです。
マリューたちとラクスが合流してから3か月後。連合、ザフトの双方に与さないジャンク屋組合などの支援を得て、アークエンジェル、エターナル、クサナギの3隻は整備を終えようとしていた。
「地球軍はいよいよ、プラント本国を落とすつもりでいるみたいね。」
『はい、既に大規模な艦隊が月基地へと集結し、ボアズへの攻撃準備を整えているようです。』
マリュー、ラクス、元オーブ軍レドニル・キサカ一佐の3人による会議。3隻の艦長級の人間が各艦の艦橋モニターを通し、戦況の確認をする。
『地球からの情報によれば、既にザフトは地球上の戦力の大半を喪失しており、最大の要衝であるカーペンタリアで防戦を続けているという状況とのこと。地上でも連合の優勢は揺るぎないようだ。』
『このまま状況が進めば、近いうちにプラントは大西洋連邦を主体とした地球軍に制圧されるでしょう。』
険しい顔のまま、故郷であるプラントが陥落しようする事実を語るラクス。マリューにとっては古巣となる大西洋連邦が、プラントを蹂躙するという事態に複雑な心境となる。
プラントを拠点とするザフト軍にとって、宇宙での戦闘は地の利を得て優位に進めることが出来るものであった。しかし、その質ともかく数は地球軍に遠く及ばず、物量差による蹂躙が目に見える状況でもあった。
「個人的な意見になってしまうけれど、プラントが現在の大西洋連邦に制圧される事態だけは避けたいわね。」
コーディネイターを人とも思わぬような軍人が蔓延る組織。ブルーコスモスの傀儡となった古巣に対し、マリューは不信と憎悪を向けざるを得ないのであった。
『それでも、ザラ議長はおそらく最後の一人となるまで戦い続けるでしょう。』
ラクスの言葉に、彼女の傍にいたアスランが苦々しい表情となる。父親を止めることが出来なったことへの後悔、それが彼を苦しめていた。
「やはり私たちは、双方の軍に介入をしないといけない状況のようね。」
『エターナルに搭載された火力支援ユニットを使用すれば、数的不利はある程度緩和されるでしょう。』
「キラくんたち……フリーダムとジャスティスを頼みにするしかないようね。」
再びキラを戦場に向かわせることとなるマリュー。この戦いにどれほどの意味があるのか、彼女はそれを理解出来ずにいた。
『ラミアス艦長?』
「あっ……いえ、なんでもないわ。それでは全ての準備が整い次第、我々は連合、ザフトの交戦が予測されるボアズへと向かいます。」
双方の陣営へ停戦を呼びかけ、敵機を無力化しているという無謀極まりない行為。しかし、それに賛同する者が少しでも現れればと、彼女たちには一縷の望みをかけて戦場へと向かおうとしていた。
◇
メンデルを出発する直前。フリーダムが本来の搭載艦であるエターナル収納されるため、アークエンジェルから離艦することなったキラとマリューは最後の会話をしていた。
「あなたは、本当にこれでよかったの?」
「例え無茶だとしても、他に方法が無いのであれば、こうするしかないんだと思います。」
双方の軍を制圧し、停戦を呼びかけ無力化させる。マリューはもちろんのこと、キラもまたその方針へ懐疑的な見方をしているのであった。
「大西洋連邦はおそらく、プラントへの直接攻撃も躊躇いなく行うでしょうね。」
「はい。もしそうなってしまえば、これまでよりも多くの人が犠牲になってしまう。血のバレンタインよりも、もっと多くの人たちが……!」
ブルーコスモスが示した、プラントを拠り所とするコーディネイターへの敵意。その意思の代弁者として、マリューの古巣である大西洋連邦は、地球に生きる者の総意であると喧伝してプラントを攻撃しようとしていた。
「ねぇキラくん、一つ聞いてもいいかしら?」
「はい、なんですか?」
マリューはこれまで、キラに対して彼自身の明確な信念や理想、価値観というものを問わずにいた。しかし、彼女はそれを聞いておく必要があると感じていた。
「あなた自身、コーディネイターという存在をどう思っているの?」
誰かを守るためではなく、自らの意思で戦場へと赴き、引き金に指を掛けることとなる今後を考え、マリューは彼に覚悟と考えを問おうとしていた。
「僕は……僕という存在を作った人たちのことが今でも許せません。このコロニーの中で、どれほどの命が犠牲となり、僕が作り出されたのか。それを考えれば……」
未だに自らの生に対して疑問を持ち続けるキラ。人類の理想を体現した自身の存在を、彼自身は否定していた。
「やっぱりコーディネイターなんて存在は、この世界にあってはいけないんだと思います。もう二度と、僕たちのような存在を生み出さないためにも。」
『僕』ではなく『僕たち』。メンデルの内部に保管されていたキラの兄弟たちと呼べる生命の残骸。キラは永遠に生を受けることがなかった者たちへ、贖罪をする運命を与えられていた。
「それはつまり、ブルーコスモスの考えに近いってことじゃ……」
「でも、コーディネイターの存在を否定したとしても、今この世界に生きる人々の命を奪うのは間違っているとも思うんです。ナチュラルでもコーディネイターでも、いまを生きている同じ人間なんですから。」
キラはブルーコスモスの思想に理解を示しつつも、彼ら行動を容認しようとはしなかった。そして彼のコーディネイター技術に対する憎しみは、兄弟たちへ贖罪と共に永遠に消えることがないものとなる。
「僕は戦います。人と人が憎み合う世界が続くというのであれば、僕はその世界と戦う。コーディネイターという存在が生まれてしまったこの世界で、僕は……」
最高のコーディネイターとして生を受けながら、自らを含めたコーディネイターの存在を否定したキラ。自らの相反するような考えに、彼はマリューを前に自嘲の笑みを浮かべる。
「おかしな話ですよね。自分の存在まで否定しようとするなんて。でも、僕は僕自身の存在を決して……」
「……いいえ、おかしいとは思わないわ。どんな形で生まれたとしても、あなたには人を思いやる心がある。ナチュラルもコーディネイターも関係ない、多くの人を思いやる気持ちが……」
夥しい憎悪と贖罪を抱えながらも、世界と人々の未来を守りたいというキラ。そんな自嘲の笑みを浮かべる彼の顔に、マリューは優しく手を添える。
「マリューさん……」
「あなたに背負う罪を降ろしてほしいとは言わないわ。でも、なんでも一人で背負おうとしたらダメよ。」
今までも、そしてこれからも、彼の傍にいることしか出来ないと自覚するマリュー。しかし、それでもキラを守りたいという意思だけは、より強固なものとなる。
「マリューさん……ありがとう。」
敬語を使わずマリューに対して感謝の言葉を口にするキラ。眼前で微笑み、全てを包み込むように受け容れてくれる年上の女性艦長。そして彼はマリューの身体を抱き寄せると、互いの思いを確かめ合うように口付けを交わすのであった。
◇
「地球軍艦隊、ボアズの制圧を完了した模様です。」
「思っていた以上に早いわね。やはり、ドミニオンとあの3機以外にも多くのモビルスーツを備えているから……」
地球連合軍は月基地を拠点として、ストライクの簡易量産機、ストライクダガーを中心とした大規模なモビルスーツ艦隊を編成してザフトの防衛線を瞬く間に突破していた。
『ですが、ザフト軍のボアズからの撤退も些か早すぎる気もします。』
エターナルからの通信で懸念を示すラクス。彼女の言葉通り、宇宙要塞ボアズから撤退するザフトの判断は迅速を越えた作為的なものをマリューも感じるのであった。
「地球軍の戦線を伸ばすため?でも、ボアズを拠点として明け渡してしまえば、補給線は確保されてしまうけど。」
『何か……とても不吉で怖ろしい意思を感じます。ザラ議長の意思に支配された、プラントの……』
ラクス・クラインという少女の指導者としての片鱗が、彼女の本能に恐怖と警告を教えようとしていた。そして、アークエンジェルを始めとした3隻の艦が戦場となる宙域へ向かうこの最中、ラクスの感じた意思が形となって現れる。
「プラント周辺に高エネルギー反応!」
「っ……!どうしたの!?」
「わかりません!でも、これは……この反応は指向性もって……地球軍艦隊とボアズに向かって……!」
それは、艦に搭載されたレーダーを確認するよりも、人間の肉眼で漆黒の宇宙を視認したほうが鮮明に見えるのであった。
「なに……あの光は……!?」
プラント群の周辺から放たれた禍々しい光。その輝きの直後、無数の爆発が遥か遠方にいたアークエンジェルからでも確認出来るのであった。
『ラミ……長……いまの……は……!?』
「キサカ一佐、そちらとの通信状況が良くないため聞き取れません。」
「ダメです、クサナギだけではなく、エターナルとの通信も障害が発生しています。」
あらゆる電子機器に障害が発生し、高速艦であった3隻はその進行速度を大きく落とすこととなる。それでも各艦がこれから向かう戦場が尋常ではない事態であることを確信していた。
◇
「確認出来た形状から推察するに、あれは巨大なレーザー砲というよりは超大型のガンマ線照射装置と捉えるべきかと。」
通信障害から回復した3隻の代表は、オーブの技術者であったエリカ・シモンズからザフトが使用した戦略兵器『ジェネシス』についての説明を受けていた。
「シーゲルさんは、あの兵器のことをご存じで?」
3隻の乗員の多くは、ラクスの父であるシーゲルへと疑いの目を向けていた。ニュートロンジャマー、及びキャンセラーだけではなく、あの憎しみを体現したかのような兵器すらも作り上げたのかとマリューが問い質す。
『あれを作ろうとしたのは紛れもなく、この私だ。ラクスも、そしてプラントにいる多くの者が周知しているだろう。』
「そんな……!」
『元々はあのような兵器として作り上げたものではなかった。本来の用途は大気圏外の船舶を加速させる装置、宇宙におけるマスドライバーとして作られたものだからね。』
人類がより広い宇宙へと飛び立つ「創世記」の名を冠した建造物。しかし、それがプラントに住まうコーディネイターの憎悪を具現した象徴として世界に産み落とされているのであった。
『それがまさか……あそこまで悍ましいものへと作り変えられてしまったとは……』
シーゲルの顔には絶望感が滲み出ており、傍にいたラクスも沈痛な面持ちで父の姿を見つめていた。
『連合艦隊の被害状況が判明してきた。前線部隊は約60%を損失、ボアズに駐留していた部隊は指揮官を含めて全滅。旗艦ドゥーリットルは消滅。艦長のウィリアム・サザーランド大佐も戦死したとのことだ。』
「………」
呆気なく散ったマリューの元上官。憎みこそしていた一方で、このような最期を遂げたことに、彼女の心境は複雑なものとなる。
『残存艦隊はドミニオンを中心として一時後退をしている模様。それ以降、明確な動きはないようだ。』
クサナギの艦長、キサカからの報告に呆然とする各艦の乗員たち。その中で、マリューはドミニオンが健在であったことに安堵の色を浮かべる。
「ナタルたちは……まだ無事だったのね。変な話、これで地球軍がプラントへの直接攻撃を断念してくれればいいのだけど……」
そう語ることが希望的観測であることは、マリュー自身も理解していた。そして状況は、地球軍艦隊の被害を心配するほど余裕はないのであった。
「ジェネシスは前方のミラーブロックを換装することで、再度照射が可能となっている設計のようです。仕様上連射は不可能ですが、あと2回も発射をすれば戦いは終わるでしょう。」
エリカが淡々と放った言葉に、それを聞いた人間は言葉を失う。次の発射で月、そして三度目の発射で地球、それにより大半の人類は死滅し、戦争は終わりを告げるというのであった。
「とにかく、戦争を止める前にジェネシスを止めないと全てが終わりだわ。」
『しかし、我々3隻だけでザフト防衛線を突破することはいくらなんでも……』
マリューの言葉通り、この場にいる誰もがジェネシスの再発射の阻止と破壊は最優先であると理解していた。しかし、それを達成するだけの実力があるかは不透明であった。
『ラミアス艦長、ドミニオンのバジルール艦長と接触することは可能でしょうか?』
「ナタルと?ええ……艦隊指揮を代理で執っているのであれば、向かうことは出来ますが……っ!?まさか……!」
『あの憎しみの光を消し去るためには、少しでも多くの力が必要です。それが、わたくしたちに出来る唯一のことでしょうから。』
ラクスはマリューに対し、ある提案と望みを託そうとする。そしてそれは、マリュー・ラミアスという軍人にしか出来ないことでもあった。