――時間は遡って、昼休みの食堂の一角。
俺と鈴音と、
砂村は、相も変わらず一切表情を動かさないまま、囁くような声音で、途切れ途切れに告げてくる。
「二人共、ようやく、付き合う事に、なったんだね……おめでとう。
仲直りしてから、そんなに……時間経ってないし、少し、驚いた……けど
えっと……その、らぶらぶ?」
「うん、ユキちゃん。私達とーってもラブラブなんだよ。
ね、みーくん?」
「あんまり茶化すなよ……まあ鈴音と付き合う事になった、って言うのは間違いないが」
二人との会話に応じつつ、弁当のおかずであるミートボールを咀嚼する。
甘酢のソースで味付けされたそれは、食べなれた悪くないもの。
なぜこんな話になっているのか、というと……
今朝、
鈴音は、幼げではあるが整った容貌と、豊かな
ちなみにその情報の出どころは、一年の時には、割とよく話す機会のあった級友の一人。
その頃にはほとんど交流を無くしていたというのに、鈴音と幼馴染であることをやたらうらやましがられつつ、語られたことを覚えている。
何かと騒がしい男だったが、今となってはクラス替えであまり交友が無い。
と、余談はさておき……鈴音が駄目で元々、くらいの勢いで、先輩、後輩、同級生の男子から告白されるという
もっとも、その
娯楽に飢えた一部の連中は、それは誰だと面白半分に囃し立て……
丁度最近仲直りした、という
――内実を明かせば、敢えてひけらかすことはしないが、他の男に迫られるか、或いは誰かに勘繰られたら……
俺達が交際関係にある、と敢えて答えると、鈴音と決めてあったのだが。
知られて拙いのは、組織の存在や
ならいっその事、一部分だけでもバラしてしまったほうが面倒がないのではないか、という事だったのだが。
実際、内心は兎も角としてクラスの連中からは『一応』祝福された。
ひょっとしたら一部の男からはやっかみくらいは受けているのかもしれないが、
まあ――人の色恋沙汰を面白がることはあっても、それを茶化した上でぶち壊してやろう、等と行動に移す程には悪辣ではなかった、と言う事だろうか。
「真面目な話、付き合う事になったのって一週間前ぐらいからなんだけどね。
丁度、みーくんと仲直りした時なんだけど」
間にもぐもぐ、と――今日は弁当の唐揚げをひとかじりして飲み込んでから、ぱっちりとした瞳を輝かせて、砂村に話を振る鈴音。
付け加えるなら、
「ね、ユキちゃんは誰かそういう人いたりする?
好きな人って言うか、気になる人とか」
「私は……そういうの、今は、いいから」
二人のやり取りを眺めながら、鈴音が口にした……好きな人と言う単語が、妙にひっかかって聞こえた。
理由は……分かっている。
改造される前の
少なくとも、俺の事は友達か、家族の延長線上でしか見ていなかった、というのは当人の口から耳にしている。
だが、そういった対象が他にいたのか否かまでは……聞いていない。聞こうとさえ思わなかった。
今になって振り返ってみれば、そこに触れたくなかったが故に……無意識で避けていたのだろうか。
今更、気にしたところでどうなるものではないとは思う。
もう
醜い開き直りなのは自覚しているが、誰にも渡したくはない。
――それでもどこか後ろめたいものを感じてしまうのは、俺が、
と、没頭していた思考が、とんとん、と肩を叩かれたことで、中断させられる。
我に返り、視線を呼ばれた方向に向けると、むくれた面の鈴音の姿。
「……ねー、みーくーん?聞いてるー?」
「三村君……日村さん、さっきから、ずっと呼んでた。
お弁当の……おかず、交換しないか。って」
どうも、いつの間にやら、砂村の恋人云々の話は終わっていたらしい。
やっちまったかと、とりあえずは素直に詫びておくことにする。
「悪い……ちょっと考え事してて聞いてなかった」
それに、別に怒ってないよーだ、と拗ねた様な口調で返す
見るものが見れば、茶番としか思えないこの光景、いや実際に茶番なのだろうが――に、酷く懐かしいものを感じていた。
中学時代は、大した感慨もなく、いつも当たり前の様にそこにあるものとして扱っていた関係。
それが壊れるときはあっさりと壊れるものだと理解してしまった今では、手放したくないものだ、と強く思う。
――それが例え、何れ必ず崩れ去る……仮初の時間にすぎないのだとしても。