時間は飛んで、朝の教室。
鈴音を引き連れそこに入った俺は、何となしにがきり、と首の骨を鳴らす。
時計を見れば、
――遅すぎず早すぎず、丁度いい時間帯に着いたものだ、と物思いにふけっているところに、声がかかる。
「……おはよう、三村君。日村さんも」
既に登校していた連中による喧騒の中、ぼそぼそとした囁くような大きさだが、不思議と耳に滑り込んでくる途切れ途切れの声を発したのは――
小動物を思わせる、静かな雰囲気を漂わせた黒髪のショートへアの小柄な美少女。
鈴音に次いで、同年代の女の中ではよく見知った顔だ。
「ああ、おはよう砂村」
「おはよ、ユキちゃん。
なーんか、みーくんのついでみたいな感じもするけど、普通逆じゃない?」
こちらに話しかけてきた大人し気な
俺と鈴音の中学時代からの共通の友人にして、現在の
「二人に……お昼休み……話が、あるんだけど。
少し、時間、もらえない?」
「えっと、悪いんだが砂村。今日は先約が」
「……あー、そういうことか。
みーくん、聞くだけ聞いたげようよ。
断りかけた俺に割り込んできた
いや何を言っているんだ、
暇も何も、今日の昼は――いや、まさか?
「んー、みーくんさ、昨日、いろいろ言ったじゃない?
私の方も……それについてさ、ユキちゃんも混ぜて相談したかったんだよね。
あ、そうだ。話の場所……体育倉庫とかいいんじゃないかな」
あそこ、内側から鍵かけられるしさ、と続けてくる
やはり、
「うん……どうか、よろしく、です」
鈴音に続いて、ぺこり、と頭を下げて来る砂村。
……正直、混乱している。
いろいろと二人に問いただしたくなってきた程度には。
けれど、それをここで口にするほど馬鹿でもないし、とりあえずは――
「いいぜ、何の用事だが知らないが、つきあってやるよ。
……じゃあ昼休み、
もたもたしてたらすぐ時間なんて過ぎちまうだろうしな」
極力周りの目を意識して、何でもない風を装って答えた。
予想してしかるべきだったのかもしれないが……無意識のうちに避けていたのか。
鈴音と俺を間近で監視できる女生徒など、限られていると言うのに。
「ありがと、みーくん。私も今日はお弁当だからさ。
おかず分けたげるね?」
「……三村君、私のも、ちょっと、食べる?」
「いやガキじゃないんだし……
折角親御さんが作ってくれてるんだから、お前らメシくらいちゃんと食えよ。
ってか今から何言ってんだ、まだ朝だぞ」
二人の言葉に呆れたように、
いつも通りに返せているだろうか。できているよな。
少しだけ声はうわずっていたかもしれない。
大丈夫。大丈夫な筈だ。
今のところは何もおかしな事など、していないのだから。
僅かばかり息が荒くなって、心臓の鼓動がばくばくと早打っているのを自覚する。
俺は、
あれだけ鈴音に好き放題しておいて、とも思うが……今更、躊躇しているとでもいうのか。
……いや、多分、違う。
今の俺が一番怯えているのは……きっと、
確かに後ろめたさも、罪悪感もある。
誰かに気取られるかもしれないという恐怖を抱いているのも、嘘ではない。
だが、それ以上に心の何処かで今の状況に興奮を覚え、この次の展開に期待さえ抱いてしまっている自分自身に気付き、背筋が寒くなった。
ここは学校で、今は素面の状態だというのに……
朝、鈴音に小便を飲み干された時に感じたものは、きっと背徳感だけではなく――
俺はきっと、確実に狂った
それが……酷く怖かった。