昼休みの食堂。
俺は、砂村と向き合う形でテーブルに着き、昼飯に学食のカレーを口に運んでいた。
どろっとした、濃いめの味付けのそれは――まあ、悪くはない。
肉は固く、人参やジャガイモといった具の数も少ない気もするが……値段を考えればこんなものだろう。
ただ――此処に、いつもなら姦しく騒いでいるだろう鈴音の姿は無い。
きっと今頃は、教室で水守あたりと話に花を咲かせているのではないだろうか。
ぼそり、と目の前の砂村が、平坦な……囁くような声でその事に触れてくる。
「三村君、日村さんは……」
「水守とか他の
まあここんとこ、ずーっと俺等だけで飯食ってたしなあ……
……ってか、今更だけどよ。
「……ん。今日は私もお弁当、用意……できなかった、から。
だから……教室で、ご飯が……食べられなかった」
つまりは、俺と同じか。
実の所、俺も母さんが寝坊して弁当を用意できず……購買部のパンも買えなかった。
だから
細々としたじゃがいもを、カレーから掬い、ライスと一緒に口に運び、噛み砕いて味わっていると、じっと、砂村が俺の事を見ているのに気づいた。
なんだよ、と呟くと視線をこちらに合わせたまま、彼女は
「三村君、今日の……学食のカレー、美味しい?」
「まあまあかな。砂村こそラーメン食ってるけど、旨いのか?」
「こっちも……まあまあ。
野菜は……そこそこ、入ってるけど。
スープも……麺も……業務用の、やつだと……思う」
そんなもんかねえ、と無表情でちゅるんと麺を啜り始めた砂村に相槌を返す。
鼻腔を擽るスープの香りや見た目は悪くないように思うのだが。
砂村は小さな頬を膨らませ、もぐもぐと咀嚼して嚥下した後、首を傾げて言葉を続けてくる。
「日村さんがいないと……やっぱり、寂しい?」
「別にちょっと離れて飯食ってるだけだろ。
餓鬼じゃねえんだからよ」
そこで会話が途切れ、喧騒の中で黙々と二人で飯を食べる時間が暫し続く。
鈴音がいないだけで、話がうまく回らないのはどうしたものだろうか。
会話がなくなれば、自然と飯を食べるペースが上がっていき――
丁度、目の前の飯を粗方平らげたところで、砂村が少しだけ目を細めて、切り出してきた。
「……三村君」
「あん?」
「今日も……誰もいないところで……話がしたかった、けど。
多分……今からは、無理だから。
代わりに放課後……時間、貰える?
体育の後だから……汗の匂いとか、すると、思うけど」
言われて、思い出す。
ああ……そうか。今の砂村は……
もう
とはいえ、虚を突かれたような形になったのはごく一瞬だけの事。
俺も……大分このイカれた状況に慣れてきたのだろうか。
表向きは平静を装ったまま、砂村と会話を続ける事ができている。
「今日は……時間とか、大丈夫なのか?」
「……ん。大丈夫。
この前よりは……できると思う」
「そうか」
俺は、からん、と空になった皿に、スプーンを置いた。
砂村の方も、どんぶりの中身がスープだけになっており、飯ももうない。
「じゃあ……頼めるか」
「ん。それじゃ、また……三人で。
日村さんには……私から、
「ああ、わかった」
……そろそろ行くか。
染みついた習慣で、ごちそうさま、と呟いてから席を立つ。
砂村も同じように俺に続いて、一緒に返却テーブルに向かい、空になった食器を返した。
砂村とはつい昨日、致したばかりだというのに……我ながら随分と落ち着いているものだ。
「三村君……顔、にやけてる。
……すけべ」
「え、嘘だろ?」
唐突な指摘に、愕然とする。
いや――まさかそこまで浮かれていたのか?
とっさに頬に手をやって確かめようとすると、当の砂村は、憎らしいほど平坦な調子で先ほどの言葉をすぐに否定した。
「……ん。冗談。
でも……どこか、浮ついてる、感じは……するから。
気を付けた、ほうが……いい」
「ああ……そらどうも」
……本当にこういうところまでいつも通りか。
砂村の態度に鼻白みつつも……まあ実際、気持ちが浮ついていると言われれば、否定はできない。
気を取り直し隣に居る彼女と、歩幅を合わせて歩きながら、食堂を出た。
「……ご飯、足りた?」
「それもまあまあだったな。大盛りにしときゃよかったかね――」
取り留めのないことをだらだらと喋りながら、二人で廊下を歩く。
胃に血液が回っているせいか、頭がぼんやりとしてきた。
数分もしないうちに、教室には着くだろうが……
まだ鈴音達は飯の最中だろうか、とあくびを噛み殺しながら、そんなどうでもいい事を考えた。