――そして、数か月が経過。
つい一週間ほど前に、正式に付き合い始めた恋人である■■と別れの挨拶を交わしての下校。
……後ろめたさもあるが、今が幸福だと感じている自分も、間違いなく存在している。
結局の所、これが一番良い選択だったのだろうと……改めて思う。
そして帰路へと急ぐ道中、人気のない裏道に入った直後、ばったりと出くわした人物は
中性的な美貌にも、滲み出る様な胡散臭さも変わりがない。
以前会った時と同じように、気安い調子で片手を上げてこちらに話しかけて来る。
「や、少年。久しぶり」
「……どうも」
しかも、なんの冗談か知らないが、俺が通っている高校の
そんなこちらの心境が表情に出ていたのだろうか。
彼女は、その場でくるりと回って笑う。
「……ん?ああ、この格好かい。
君に会う為に用意してきたんだけどね。似合うかな?」
「……どうだろうな」
「はは、そう邪険に扱わなくてもいいじゃないか少年。
結局、全部私の言った通りになったろう?」
まあな、と目の前の女――に生返事を返しつつ、頭をガリガリと掻きむしる。
そう。結局俺は――目の前の女の言葉の通り、組織を裏切る選択肢を取った。
あの後すぐ指定された場所に急いで向かった結果、ある一人の少女と出くわし、その
まあ、詳細を語ればいくら時間があっても足りないが、結果だけ述べてしまえば。
件の
その過程で、
やらかした事が事だけに、俺もそうとうきつい
なんとか、こうして元の生活に戻る事も出来ている。
「基本的に彼らは善良だからねえ。
ちゃんと禊を済ませた後なら、そう悪い結果にはならないだろうさ。
それと、例の彼女とちゃんとした形で正式に恋人になったんだろう?
おめでとう、って言ったらいいかな」
「……こうなる事も、あの時点で分かってたのか?」
素の状態の■■から、正面から告白されたその時に――それを受けるべきか否か、正直戸惑った。
彼女達には――戦闘員に改造されていた時の記憶はない。
人格を元に戻すと同時に、生活に支障が出ないよう、辻褄を合わせる程度に記憶に手を加えざるを得なかった――と、件の
――俺は……何も知らない■■の傍に居て、いいのか?
俺にそんな資格などあるのかと葛藤したのが少し前の事。
あの肉欲に溺れた、諦観の混じった退廃的な悦楽を貪り続けるだけの時間は……振り返ってみれば、己の醜さを思い知られるには十分なものだった。
有り得たかもしれない未来での、俺の醜態もそうだ。
ただの一般人だった俺が組織に抗う術などなかったかもしれない。
それでも何かやれたことはあったのではないかと、今更ながら思う事はある。
「いいや、可能性の一つとしてそういった
他の誰が決めた訳でもない。君と彼女の選択の結果だ。
そこは胸を張りたまえよ」
「そう……か」
自然と、ため息が出てくる。
――償う術が見つからない等と嘯いて腐るくらいなら、逃げるな。
そんな事を真正面から
伊達に正義の味方などやっているわけではないという事だろうか。
実際に接してみると……正直、彼女を俺が如何こうできた未来がありえた、というのは信じがたい。
「なあ……幾つか、聞いていいか」
「何なりと。私に答えられることなら答えるよ」
「あんた……一体、何者なんだ。
他の組織の人間でもないが……あの
少なくとも……件の彼女、彼ら達は、この女の事を誰も知らなかった。
いや、一人だけ心当たりがあるような事を口にしていた奴はいたのだ。
ただ、『放置しておいても害はないだろう』とも言ってもいたが……?
「……強いて言うなら、色んなアクのソシキの、シュリョウさまとやらの同類、同郷――ではあるけどねえ。
彼らがやってたような事には……単純に面倒で興味が湧かないんだよ。
この
「その……未来予知?の事を言ってるのか」
「いーや、ちょっとばかし時間軸の進みの早い並行世界を観測してるだけさ。
この間君に見せたのもそれだよ。
だからまあ、
本当の事を言っているとも限らないが――あっさりと能力の種をばらした女に、呆れ半分で返す。
「俺に……言っていいのか、それ」
「ま、私から君への信頼の証だと思ってくれたまえよ。
後はまあ――それなりに喧嘩も強いつもりだよ。
正義の味方の皆さんと戦ったら、普通に負ける程度だけどねえ」
比較対象として、あの連中が出てくるあたり……暗に並の人間をはるかに上回る力を持っている、と示しているのだろうか。
……多分だが、他に何かしらの隠し玉くらいは持っているんだろうな、とも思うが。
それがどんな類の物なのかは、流石に見当もつかない。
「じゃあ今日のところはこれでお暇するよ。
忙しいところ呼び止めて悪かったね、しょうね――」
「いや、待ってくれ、最後にもう一つだけ!」
大声で言葉を遮られて、ん-、と唸ってから、なんだい、と聞き返した彼女へ、かねてからの疑問をぶつけた。
「あんた……何で、俺に助け舟なんて出したんだ」
目の前の彼女が……あの黒装騎の誕生する
だが、それだけが目的ならもっと簡単な、手っ取り早い手段だってあった筈だ。
「強いて言うなら、何も死ぬことはねえだろう――って思っただけ、って奴さ。
要はただの気紛れだよ」
女は、どこかで聞いたような台詞を笑って冗談めかした調子で投げかけつつ、
「他にも
あそこで忠告を聞けないくらい頭が
正直、その程度にはどっちでもよかったんだよ」
そう言葉を切り、じゃ今度こそ、と片手を上げて目の前の女はくるりと背を向けて、こちらに告げる。
「縁があったら――また会おうじゃないか」
去っていく女の足取りは軽やか。
それに既視感を感じたのは、多分気のせいだろう。
あの女と■■に共通点など、殆どないはずだ。
強いて言えば外見上は同世代に見える程度……くらいか。
そう言えば、名前をまだ聞いていなかったな、と気付いた時には既に彼女の背中は見えなくなっていた。
それに礼も言い忘れた。失敗したかな、とも思わないでもない。
ただそれこそ、彼女自身が言ったように――
「縁があったら……また会う事もあるか」
袖擦り合うのも多生の縁。
なんとなくそんな慣用句が頭に過る。
……きっと、そのうちまた、言いそびれた感謝の言葉を伝える機会も巡ってくるだろう。
少しばかり道草を食ってしまったが、俺も帰ろう。
……
ようやく俺は、何の変哲もない平穏な日常という奴に、戻る事が出来たのだから――
とりあえず第一部完、みたいな感じで。
第二部というか、主人公が欲望に負けた選択肢を選んでしまった、破滅/堕落ルート(仮)みたいなものもぼんやりと考えてはいますが、予定は未定です。
では第二部なり、もしくはまた別の話なり。
また次に何か書いた時に、時間があったら見てやってください。