ある日、少年が殻木先生の研究施設に運び込まれてきた
「先生、彼は?」
「スペアじゃ、巨悪のな」
「巨悪……」
「ワシ達のバックにオール・フォー・ワンが居るのは周知の事実じゃろ?」
「ええ、まさか文化祭で来ていた人が歴史で魔王と呼ばれているオール・フォー・ワン殿だとは思いませんでしたが」
「オール・フォー・ワンについてもう少し詳しく話そう……我らがボスの過去について……」
オール・フォー・ワン……今現在も日本の裏を支配する巨悪であり、個性黎明期……最低でも150年近く前から生きている化け物であり、世界の巨悪を友人と呼び、裏ビジネスを掌握している
本当の目的は殻木先生でも知らないが、長期的な目標は知っているとのこと
「全てを手に入れることじゃな」
「全てを?」
「あぁ、世界を支配する魔王になりたい……目的は別として大目標はこれで、中期的目標は個性特異点の超過……オール・フォー・ワンは複数の個性を体内に溜め込むことができる。ワシの個性を保管する技術もオール・フォー・ワンの細胞を培養することで実現した技術じゃ。いかにオール・フォー・ワンといえども数百は管理できても数千、数万は無理じゃからな。その為のワシじゃ」
「ただオール・フォー・ワンも不老不死ではない。【成長を止める】個性で細胞が死ににくくなり、老いにくくなったが、同時に個性の成長もストップした」
「奪った個性を自己鍛練で強化するという選択が取れなくなった代わりにオール・フォー・ワンは長い寿命を得ることに成功した」
「しかし、少しずつ個性の劣化が始まった。どんなに【健康】の個性をつけていても個性も限界点が存在する。【成長を止める】個性の因子の劣化により再び歳をとり始めている」
「だからオール・フォー・ワンは自らの新たな肉体を探しているんだ」
「なるほど、世界を支配する為と自身の寿命を延ばすために新たな肉体を作りたい……と」
「そこでワシの研究の個性特異点を超えられるマスターピースの開発に繋がるのじゃ」
「あらゆる個性に適合する肉体と無限の力を持つ存在の完成……これがワシの目的じゃ。さすれば人という枠組みからの進化をすることができる」
「その為の脳無ですか」
「脳無は複数の個性に耐える肉体は完成しておるが、強さも活動時間も、制御もまだまだ未完成よ」
「死体を動かせるだけでも凄いと思いますがねぇ」
「お前さんの改良のお陰で白脳無や黒脳無の性能を格段に上げることには成功したからな。今まではゴミ同然の個性も改良のお陰で良い個性に生まれ変わっているからな」
「一度白脳無に個性を与え、俺が改良して、個性を再び抜き取って保存ですか……いや、その関係で何度かオール・フォー・ワン殿に挨拶しましたが……」
「あくまでワシとオール・フォー・ワンはビジネスパートナー……いや、顧客と依頼人の関係に近いかも知れんな。じゃからしっかりとした部下では無いしな」
「あぁ、そうなんですか、てっきり部下だと思ってましたよ」
「明石君はどうなんじゃ? 将来的にオール・フォー・ワンの部下になるのか?」
「うーん、どうなんでしょう。表の顔も欲しいですから殻木先生みたいな感じになるかもしれません。医療免許持つのは確定ですけど先生方が複数の個性で個性特異点の超越を狙うのなら、俺は1つの個性がどこまで極まるのかに興味があるんですよねぇ」
「ほう? ならば今回の患者はなかなか良い素材じゃぞ」
「ほう?」
「エンデヴァーを知っておるか?」
「万年2位の?」
「そうじゃ。オールマイトはちと特殊な個性じゃがエンデヴァーは炎の個性の最上位に居る存在じゃな。その息子じゃ」
「全身大火傷で下顎とか無くなってますけど……というかこれ生きているんですか?」
「限りなくレッドに近い状態じゃがな。オール・フォー・ワンに治療を頼まれたからには最善を尽くさねばな」
「まぁさっきから会話しながら手は動かしていましたけど……せっかくですし白脳無の素材を使って皮膚移植とかしてみます? 改良を使えば拒絶反応無く行けますが」
「そうじゃな。やってみるか」
「ところでこの子の名前は?」
「轟燈矢じゃな」
「ふーん」
全身が痛い
身体中が熱い
まぶたが重くて目が開かない
「おや、気がついたかな? 轟燈矢君」
「……だれ?」
「目を瞑ったままで良い。俺は君の治療を担当する明石改善だ……記憶はちゃんとあるかい?」
「うん……そうだ。裏山で特訓していたら枯れ葉に引火して……それで……」
「治療が間に合ったから命の危機は脱した……燈矢君は1週間ここに運ばれて眠っていたんだ」
「そう……だったんですか……僕は死にかけて……誰が助けてくれたんですか? お礼が言いたくて」
「その人は忙しいからね。そのうち会えると思うけど……」
「そうですか……親父は?」
「……正直に話すとここ闇病院なんよ。だからエンデヴァーの所には連絡行ってない感じなんだ。君の治療には個性を使った特殊医療が必要だったからね」
「そうだったんですか……いや、それでも助かった事実は変わらないですよね。ありがとうございます」
「ちなみにだけどなんで山火事になるくらい個性の特訓を?」
「僕は青い炎が出せる個性なんだけど、強い炎を出すと肉体が耐えきれなくて火傷してしまうんだ。だから炎の耐性を得ようと特訓をしていたんだ。親父は弟に付きっきりになっているけど……僕を見て欲しいんだ」
「そうか、そうか。燈矢君は見て欲しいんだね。じゃあお兄さんがなんとかしてあげるよ」
「え? どうやって?」
「俺の個性は改良、君が熱に耐えられる肉体にすることはできると思うよ」
「そうすれば……親父にまた見て貰える! 先生やるよ!」
「明石か改善で良いよ」
「改善さん! 僕やるよ!」
「まずはゆっくり眠って回復するんだ。寝ている間に進めておくから」
「はい!」
殻木先生から機材を借りて個性因子について解析した結果、燈矢君は冷却に強い耐性を持ちながら炎系の個性とアンバランスな体をしていた
これではいくら高熱の炎を出せても肉体が持たない
となると
「体は冷却して温度を保ち、熱を放出することで高熱にも耐えられる体にするしかないか?」
と俺は結論を出し、温度を操れる個性の白脳無の皮膚を使い皮膚の全身移植を殻木先生と一緒に行い、成功させた
個性が反発しないように調整をしたが、白脳無の皮膚は定着しても個性が増える事は無かった
まぁ普通臓器移植をすると個性が反発して個性が消える事例もあるらしいから個性が消えなかった時点で移植は成功とも言える
続いて改良で僅かに生きている痛覚や涙腺等の感覚の再生を始める
燈矢君が熱いと感じていたのは改良によって熱が体内に籠っていたからだ
本来熱を関知する細胞はほぼ死滅している
しかし改良によって自然治癒能力を強制的に上げることで徐々に再生されてきている
1~2年かかるが温度を再び感じれる肉体になれるだろう
治療開始から1ヵ月
ようやく動けるまで回復した
いや、全身大火傷の人物が動けるまで復活するのに1ヵ月は圧倒的に短いが、自然治癒能力の改良が良く効いたらしい
ただこれは気をつけないと癌になった時に全身転移が早くなる危険性があるので一長一短でもあるが……
「ようやく味のある飯が食える……」
「いや、1ヵ月でここまで回復できるのは凄いことだからね。食欲も治癒しようと体がエネルギーを欲している感じか? うーむ、ごめんね人体実験みたいになってしまっていて」
「いや、改善先生のお陰で生きれてますし! 本当に助かります」
「いや、だから俺まだ無免許だから医者じゃねーのよ」
「それでも改善先生は僕を救ってくれた先生です!」
「……そうか。個性の改良に着手したがまだ個性使うなよ。振りじゃねーからな」
「はい!」
「あはは、ゾンビ人間じゃん僕!」
「どうしても皮膚の移植をすると接合部の色素の違いがな」
「いやでも改善先生、生きているだけ儲けですよ! 個性使っても体に熱が籠らなくなりましたし、どういった改良をしたんですか?」
「燈矢君は元から冷却の個性を持っていたんだ。個性登録だと【蒼炎】だけど正確には【冷蒼炎】が正しいかな。炎を使えば使うほど冷却される個性なんだよ。それを俺の改良で炎の熱を放出する際に体の体温や皮膚の温度を一定に保てる様にした。冷却を熱に対しての温度調整に特化させることで高温に耐えられる身体を君は手に入れたんだ」
「ということは親父みたいに熱が籠って戦闘能力が低下することは無いってことか! スッゲーつえーじゃん!」
「そうだね。来月には退院できると思うから退院後の事を考えておきなさい」
「うっす!」
燈矢の葬式を済ませ、約1ヵ月がたった頃、家に一本の電話がかかってきた
「あなた! 燈矢が燈矢が!」
「……燈矢は死んだ。俺のせいだ」
「違う。違うの……とにかく電話に出て」
……冷がうろたえながら俺に電話を渡してきた
「もしもし」
『こんにちは轟さん。燈矢君の治療を担当している明石という者です。数日後に退院となりますのでその通知をしたいと思いまして』
「……轟燈矢は死んだ。2000度の高温に焼かれ下顎以外の骨も見つからなかった」
『いや、生きているんで勝手に殺さないでくれます? 治療費はいりません。今回の事を公言しないでください。それだけで良いので』
「なんだそれは?」
『とにかく数日後に轟燈矢君をお宅に送りますので受け入れて上げてください。あと父親ならもっと子供とコミュニケーションを取った方が良いですよ。じゃあ!』
「おい! どう言うことだ! おい! ……ち! 悪質なイタズラ電話か」
気分を悪くしたが、数日後の早朝、家のインターホンが押された
「ただいまお袋、糞親父」
「いやぁ良い実験にはなりましたけど精神が正義でしたので帰しました。彼は良いヒーローになるでしょうね!」
「全く、勝手な事をされると僕は困るんだけどなぁ」
「オール・フォー・ワンさん、文化祭の時の貸し借りちゃらってことでお願いしますよ」
「……まぁ良いだろう。今回は許して上げるよ。殻木の下で学べているかい?」
「はい、個性学や医療を中心に」
「殻木から聞いたけど君は1つの個性に魅力を感じたらしいね。複数の個性には興味がないのかい?」
「いや、複数の個性ということはそれだけの犠牲者が必要ということですよね。だから俺はその人の持つ可能性を追いたくなってしまいました。例えば轟燈矢君ですけど、確かに体質と個性が反発していましたがそれ以上に少し直すだけでとても強い個性に生まれ変わりました。欠陥品を直した時に良い個性が出来上がるのですよ」
「君は変わっているね。ヴィランらしくないよ」
「いやいや、俺はヴィランですよ魔王様、今の社会じゃ認めてくれない個性ですから」
「なら僕の下で手腕を発揮するかい?」
「いや、ビジネスパートナーでいきましょう。俺はあなたの世界征服された世界よりも今の社会の方が生きやすいですから」
「そうかい。残念だ」