緑谷出久は甘酸っぱい青春の日々を送っていた
夏休みには地母アメとプールに行ったり、自転車で2人で遠出して親から宿泊同意書を貰い、初めてホテルで寝泊まりした時の興奮は今でも忘れられない(ヤることはヤった)
それからキャンプをしたり、海に家族と一緒に出掛けたり、勉強合宿をしたり……あれ? ほぼ毎日地母アメさんと居るような?
「アメさんは他の友達と遊ばないの?」
「夏休み後半にチョロっとあるけど、出久君とデートしたいなぁ。ダメ?」
「いやいやいや! 凄く嬉しい!」
一方爆豪勝己は一人黙々と山登りをしたり、勉強や個性の強化トレーニングを行っていた
「爆豪、今日はゲーセン行こうぜ」
「気晴らししようぜー」
「うっせぇ! お前ら宿題俺に泣きついてきた癖によ」
ファミレスにて勉強を取り巻き達に教えながらそう言った
「爆豪よくもまぁ毎日勉強や個性のトレーニングしているよな。サボろうとは思わねーの?」
「思わねーよカス、俺は雄英に行ってオールマイトを超えるんだよ。その為にはデカ女を超えなければならねぇ!」
「デカ女って……クラスのマドンナの地母さんをそんなこと言うの爆豪だけだぞ」
「全部でかいよな。背も胸も尻も! そこらのグラビア女優よりも完成した体と顔つきしてるから俺地母さんでしか抜けなくなりそう」
「頭に精子が詰まってるからこんな問題も解けねぇんだよお前は!」
「でもよ、緑谷がマジで羨ましいぜ……あんな美人を捕まえられてよぉ……」
「学校の七不思議の1つだよな。緑谷と地母さんが付き合ってるの。この前仲良くサイクリングしてるの見たぜ」
「くうぅ、俺もそんな青春してぇー」
「馬鹿言ってねーでお前ら勉強しやがれ! 志望校落ちるぞ」
「志望校って爆豪みたいに雄英目指してなきゃ1年から気張る必要ねーだろ」
「向上心持てや! テメーら!」
緑谷出久とは対照的な爆豪勝己の夏休みであった
夏休みが終わり、運動会練習が始まり、集団ダンスの練習やリレー練習が始まり、鍛えまくっていた緑谷は着実に成果が出ていた
「100メートル12秒ジャストとかめちゃくちゃはえーじゃん」
「緑谷足そんなに速かったっけ?」
「毎日走り込みして鍛えてたら自然に……」
「何々お前噂には聞いていたけど本気で無個性で雄英目指してるの?」
「う、うん。駄目かな?」
「駄目じゃねーけど無個性じゃきちーかもしれねーが、夢に向かって鍛えるのはカッケーと思うぞ俺は」
「緑谷君足太くない? どんだけ走り込みしてるの?」
「毎日100メートル50本と10キロ走ってるかな」
「うわ、スッゲ! 実質15キロかよ! 学校終わった後にだろ?」
バンバンと腹を叩かれる
「うわ、腹筋もすげーわ! 見ろよほら!」
「わわ、やめてくれよ」
べろんと体操服を上に男子に捲られると綺麗に8つに割れている腹筋が見えた
「すっご!」
「綺麗じゃん!」
「走り込みだけじゃねーだろ。他にもやってるな~」
勿論緑谷も凄いが、爆豪と地母も凄かった
「爆豪11秒8とかやベーけど地母9秒9とか次元違うじゃん」
「地母さん個性本当に使ってないの?」
「使ってないよーというか私の個性でどうやって足速くするのさ」
「確かに!」
「でも9秒だよ9秒! 100メートル! これならうちのクラス3年にも勝てるんじゃない?」
「いけるいける! 緑谷っていう想定外の戦力に爆豪、地母を上手く組み合わせればマジで勝てるんじゃね?」
「爆豪気分直せよ。地母に負けたからってイラついてるんじゃねーよ」
「そうだぞ男だろ爆豪ー」
「うっせぇ! カスども! お前らは1秒でも速く走れるように努力しやがれ」
体育祭では緑谷、爆豪、地母の活躍もあり全クラス中3位に入賞し、リレーでは3年の3クラスのうち1クラスにタイムで勝ち、同じ学年では半周差をつけて余裕でゴールしたりと大健闘
中間テスト、期末テストも1位地母満点、2位爆豪、3位緑谷という順位が定着し、冬休みとなる
「はっはっはっ!」
「良いぞ出久君、拳に迷いが少なくなってきた」
「グローブ付けているとはいえ、女の子を殴るのには抵抗凄いんだぞ」
「でもヒーローになるんだったら女のヴィランに手加減はできないだろ!」
冬休みは基礎トレ以外にもミット打ちを始めていた
緑谷がいくら上手く打ち込もうと地母は全て綺麗に受けきり、1発も有効打が入らない
手だけ出なく足も使い、ミットを構える地母の方も反撃が飛んでくるが、緑谷は動体視力が良いのか普通に避けることができる
連日のトレーニングでシューズが地面と擦れてボロボロとなったが、緑谷は着実に強くなっていた
「はい、お疲れー、今回はコーラにしてみたよ」
「あ、ありがとうアメさん……ぷはぁ美味しいけど、母乳で絞ったのまた?」
「ん? そうだよ。その方が嬉しいでしょ?」
「う、嬉しいけど……嬉しいんだけど凄い複雑」
「きにしなーいきにしなーい。でも着実に強くなってるよ出久君」
「そうかな!」
「そうだよ! 着実に強くなってる。努力は裏切らないよ」
「……冬休みが終われば3学期……次こそかっちゃんにテストで勝ちたい」
「その為には更に努力しないとね」
「うん!」
とある場所にて
「こんにちは漏瑚さん」
「なんじゃ? 小娘、儂に何か用か?」
鹿児島の桜島近くの民家にて、盆栽いじりをしている老人に声をかける
「オール・フォー・ワンから伝言です。『僕の次世代を育てる気は無いかい?』とのことです。いわばスカウトです」
「儂はヴィランは引退したんじゃ。帰れ帰れ」
「わかりました。今日は帰ります。お土産です。置いておきますよ」
1ヵ月に1回ペースで地母ドイは漏瑚に会いに行き、根負けした漏瑚は話を聞くことにした
「老い先短い老人になにをそんなに求める」
「いや、うちのリーダーが癇癪持ちのめんどくさい人物でして、ブレーンになりうる存在を集めていまして……」
「ヴィラン歴50年の儂に白羽の矢が立ったと? オール・フォー・ワン経由で聞いたのか?」
「いえ、存在は帝王学園の教科書で名前が載っていましたので……オール・フォー・ワンには後々確認した次第で、隠居人を引っ張り出すのは流石に気が引けたようでしたよ」
「じゃろうな……じゃが最終的に許可をしたということはそれだけオール・フォー・ワンは弱っているのか……噂としてオールマイトに負けたらしいとは聞いておったが」
「事実ですね。自身が永遠では無くなったが故に後継者を育て始めた感じです」
「なるほどのぉ……信念とかはあるのか?」
「リーダーはオールマイト憎しで固まっていますが、メンバーはまだふわふわしています。私自身派遣社員みたいなものですし」
「……リーダー自らスカウトに来ないのは気に喰わんな」
「表に出せるほど精神状態が安定していないんですよ……下手に外に出したら何人も殺し兼ねないくらい危ういです」
「後継者の人選ミスじゃろ。もっとマジなのは居らんのか?」
「数年前の一大決戦で軒並みタルタロスに収監されたらしいですから……」
「そうか……しかし、オール・フォー・ワンの名前を出された以上無視もできんな。よかろう。手を貸そうじゃないか」
「助かります漏瑚さん」
「ただ儂だけじゃ厳しいじゃろうから隠居仲間を雇え、シルバー人材でも欲しいじゃろ?」
「助かります」
「ということじゃヴィザ翁、お前も後身の育成が一息ついて暇じゃろ。こっちを手伝え」
『やれやれ、老体を酷似させようとしますね。良いでしょう。将棋仲間の頼みです。組織の名前も決まっていない様な弱小ヴィラン組織を形にするのが我々の役目ですかね』
「そうじゃろうな。やれやれ、儂らがもう20年若ければ弱ったオール・フォー・ワンをぶっ殺して闇の帝王になろうとしたものを」
『いやいや、漏瑚では格が足りませんよ。勿論私もね』
「考えを改めれば楽しいかもな」
『老後の楽しみですな』
結局三学期期末テストは爆豪が頑張り、緑谷は定位置の3位だった
「それでも着実に成長している……個性じゃないけど私の細胞入りの体液を飲むことにより体に変化が出るかの実験をしているけど……心音や食事量からして普通に鍛えるよりも体が強く成長しているのは確かだ……無個性なのが惜しいなぁ出久君は」
家の中で鳳翔と食事をしながらそう答える
「雄英でヒーロー目指すのも潜入調査の役目があることも忘れないでね」
「わかってるよ……出久君を裏切ることになっても」
「……やっぱり心苦しい?」
「多少は……でも私は本質的にはヴィランだから。普通の人とは産まれも違う。お母さんのお腹ではなく培養液から産まれたから」
「本物の超人のみの社会改革……ねぇ」
「……短い時間かも知れないけど楽しむよ。彼氏との時間を」
2年が終わる頃には出久君は凄くたくましい体を手に入れていた
無個性でも雄英を狙う
最初は馬鹿にしていた面々も応援するようになっていた
「緑谷、雄英じゃなくても初の無個性ヒーロー期待してるぜ」
「雄英じゃないヒーロー科なら受かるんじゃないの?」
「うん、でも僕は雄英に行きたいんだ。オールマイトの出身校で学びたいし、最難関に挑戦することに意味があると思うんだ」
「頑張れよ! ヒーロー!」
「緑谷ならいけるって!」
春休みが終わり4月……進路調査で僕は雄英高校を第一志望にした
模試では地母、爆豪、緑谷の3名が学力だとA判定であり、先生方からは雄英ヒーロー科に3名が入学という前代未聞の偉業達成(一般高校から東大進学者が3名出るよりも更に難しいこと)に全力で応援してくれる
かっちゃんは無個性の僕が雄英を受験することにイラついていた
「没個性どころか無個性のてめぇがなんで俺と同じ土俵に立てるんだ!?」
「別に良いだろ? 僕は雄英に行くことが小さい頃からの目標なんだ。やってみないとわからないだろ!」
「なんだ? デク、反抗的な態度をしやがって! てめぇに何がやれるんだ!?」
「ヒーローは個性の強弱や有り無しで決まるんじゃない。心で決まるんだ。かっちゃん。反抗的に決まってるじゃないか! 人の夢を馬鹿にするんだから! 夢は追い続けないと絶対に叶わない物なんだから!」
「くそナードがぁ!」
「はい、ここまで……爆豪熱くなりすぎ、出久君もね」
「ご、ごめんアメさん」
「デカ女止めるんじゃねぇ!」
「止めるさ。爆豪はもっと大人になれよ。ヒーロー目指すんなら言動に気を付けないと人気でないよ」
「うっせー! 俺は実力でのしあがるんだよ!」
「はいはい」
「くそ女が、上から見下ろしやがって!」
「お前らー、進路希望を書く時間だぞ~喧嘩はやめろよ雄英組」
「ちっ!」
「す、すみません先生」
「サーセン」
「じゃあ出久君、今日は買い物当番だから先に帰るね。また明日」
「また明日」
この後僕は運命的な出会いを向かえることとなる
放課後家に帰る途中液状のヴィランに遭遇する
「Lサイズの隠れ蓑! ……なんだコイツめちゃくちゃ抵抗しやがる!」
「むーむーむー!!」
「くそ、暴れるんじゃねぇ! 上手く中に入り込めねぇじゃねぇか!」
僕が暴れていると近くのマンホールの蓋が吹き飛び、下から大男が這い出てきた
「もう大丈夫だ少年!! 私が来た!!」
拳圧でヴィランを吹き飛ばし、僕を助けてくれた
「げほっ! げほっ! ……お、オールマイト! 本物だ!」
「いやぁ悪かったな少年、敵退治に巻き込んでしまって。いつもはこんなミスはしないのだが、オフだったのと慣れない土地でうかれちゃったかな?」
「しかし! 君のお陰で無事に捕まえられた! 君の頑張りのお陰だ少年!」
「あ、ありがとうございました」
「じゃあ私はコイツを警察に届けるので! 液晶越しにまた会おう!」
「え、そんな! もう! まだ……」
「プロは常に敵か時間との戦いさ」
「待ってください」
「待たない!」
オールマイトはそう言うと飛び立ってしまったが、僕は咄嗟にオールマイトの足を掴んでしまった
「て、コラコラ!! 離しなさい! 熱狂的過ぎるぞ!」
「いま、手を離したら! 死んじゃう!」
「確かに!」
適当なビルに降り立ったオールマイトと僕は改めてオールマイトに聞きたいことをぶつける
「オールマイト! 個性が無くてもヒーローになれますか!」
「個性がない人間でもあなたみたいになれますか!」
「……個性が……」
「個性が無くてもヒーローになれると今まで頑張ってきたのですが……人を助けるってめちゃくちゃ格好いいと思うんです。無個性でも人を助けられるヒーローになりたいんです」
「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる! 貴方みたいな最高のヒーローに僕も……うわぁぁ! 萎んでる!」
「私はオールマイトさ」
どばっと吐血する
「恐れ知らずの笑顔ね……見られた次いでた少年。間違ってもネットに書き込むなよ。……5年前、敵の襲撃で負った傷だ」
心臓付近から左腹部にかけて巨大な傷が露になる
「呼吸器半壊、胃袋全摘……度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は今や1日3時間程なのさ」
「人々を笑顔で救い出す平和の象徴は、決して悪に屈してはならない。私が笑うのはヒーローの重圧、そして内に湧く恐怖から己を欺くためさ」
「プロはいつだって命がけだよ。個性が無くても成り立つとはとてもじゃないが口にできない」
「人を助けることに憧れるなら警察官や自衛隊って手もあるさ。立派な仕事さ」
「夢を見ることは悪いことじゃない。相応に現実も見なくてはな」
そう言われてしまった
憧れのオールマイトから直接言われたその言葉は僕の今までの努力の否定であった
悔しくて……絶望し、とぼとぼと意識なく家に帰ろうと歩いていると、自然とヒーロー達が戦っている場所に来てしまった
戦っているのは液状ヴィラン
「あ、ぁぁ!」
オールマイトの足にしがみついた時に捕まえていたペットボトルを落としたんだ!
「僕のせいだ!」
「ヒーロー棒立ち? なんでだ?」
「中学生が捕まってるんだと」
(僕のせいだ! 僕のせいで誰かが捕まってしまった。ごめんなさい! すぐ助けが来てくれるから……)
(誰か……ヒーローがすぐ……)
目があった
捕まっていたのはかっちゃんだった
その瞬間に走りだしていた
「かっちゃんを離せヴィラン!!」
「バカヤロー! 止まれ! 止まれ!」
「自殺志願者かよ!」
アイツに……液状ヴィランに有効的な攻撃手段は僕には無い!
でもかっちゃんを引きずり出せば……状況は一変する!
持っていた荷物を思いっきり投げ、ヴィランを怯ませ、かっちゃんに向かって思いっきりタックルをした
べちゃっと嫌な感触がした後、かっちゃんを液状ヴィランから引き離した
「なんでてめぇが!」
「君が! 助けを求める顔をしていた!!」
怯みから回復したヴィランが襲いかかってくる
「リセットしやがって! 邪魔をするな!!」
衝撃が来ると思って防御体勢を取ると
「情けない! 君を諭しておいて! 己が実践しないなんて!!」
「プロはいつだって命がけ!!」
「デトロイトスマッシュ!!」
拳圧で上昇気流が発生して雨が降るほどの一撃
これがNo.1ヒーロー……オールマイト
この後ヴィランはヒーロー達に回収され、僕はヒーロー達にこってり叱られ、かっちゃんは逆に誉められた
その帰り道
かっちゃんが助けなんか求めてなかったと恩を売ろうと見下すんじゃねぇと言ってきたが、元気そうでよかった
かっちゃんと別れて数分、路地からオールマイトが飛び出してきた
「少年、礼と訂正、そして提案をしに来たんだ!」
礼は僕が居なければ動けなかった、そしてそれは口先だけの偽筋になるところだったということ
訂正は
「トップヒーローは学生時代から色々な逸話を残してきた。彼らは揃ってこういう。考えるより先に体が動いていた!」
「君もそうだろ! そうだったんだろ!」
「君はヒーローになれる!」
2人目だ
だけど、その言葉がどれ程嬉しいかは変わらない
そして提案は
「君なら私の力を受け継ぐに値する!」
オールマイトからの提案
個性の継承……ワン・フォー・オール
個性を譲渡する個性の継承
「元々後継者は探していた。そして君なら渡しても良いと判断した! まぁ君次第だがね。どうする?」
「お願い……します!」
「即答! そう来てくれると思ったがね!」
この日から僕は新たなステージへと立つことができた