今回以降、日本語以外の会話は『』を使っています。
ご都合展開も少しあります、ご了承ください。
『むー、なんで来てないのよ!めっちゃ暇!』
『ごめん、今向かってるから!』
魔界とも言われる東京の某駅にてスマホの電話口に叫ぶ小柄な女性。道行く人が怪訝な顔をしているのは、それが日本語ではないというのも大きいかもしれない。
『早くしないと、誰かに拐われちゃうかもー』
『冗談にもならないから、周りにはホントに気を付けて?というか、同期の方々は?』
『カリとキアラは二人でお買い物、イナはこっちで買った本に夢中でホテルから出てきてない。アメは多分彼氏とデートじゃない?なんかむっちゃくちゃにめかし込んでた』
『で、ぐらは一人で来たの?』
『うん、暇だったから!貴方も休みって予定聞いてたし』
見えてもいない電話相手にサムズアップしている『ぐら』と呼ばれた女性こそ、ホロライブENに所属する伝説の海底都市の末裔である『がうる ぐら』である。
『せめて、動く前に連絡してよ……。いくらなんでも急すぎるって』
『だーって、思い付いたのタクシー乗ってからよ?そういえば会えないかなーって』
『それは嬉しいけど、僕は普通の人間。ワープとか出来ないからね?』
そう言いながらも急いでいるようで、時折荒くなる息づかいが聞こえてくる。その様子に先程までの不機嫌さは鳴りを潜め、むしろ上機嫌になっているぐら。
『見えた!ぐら、後ろ!』
『!!』
その声にスマホをしまって振り向くと、手を振りながら走り寄ってくる、ぐらと比べても少し大きい程度の小柄な男性の姿があった。
『遅くなった!ごめん!』
『ホントよ!って言いたいところだけど、来てくれたから許すわ』
男性の謝罪を何故か上から目線で答えるぐらだが、彼も動じてない辺り、いつも通りのやり取りなのだろう。
『それで?今日は何処に連れてってくれるの?』
『いや、今来たばかりだし、休憩させて?というか、僕が連れていくの!?』
『暇って言ったでしょ~?こういう時にエスコートするのがパートナーの役目って聞いたけど?』
『それは、普通にするデートの時であって、いきなり呼び出されてそれは、無茶が過ぎるよ……』
息も絶え絶えな様子の彼に笑顔で無茶振りするぐら。
『と、とりあえずカフェでいい?喉乾いたし……』
『オーケー、行きましょ?』
そう答えて差し出された手を繋ぐと、並んで歩きだした。リュックサックを背負った少女とその手を引いて歩く男。端からみれば兄妹のように見えるその姿に、道行く人が振り返っては微笑ましそうに眺めていくが、本人達はそんな事には気付かず、楽しそうに話をしながら歩いていくのだった。
『そういえば、尻尾は?』
『あるわ。でも目立つの嫌だから、シオンに日本にいる間だけ見えなくしてもらってるの。向こうはだいぶ慣れてくれてるけど、日本の方が私は有名なんでしょ?』
『そもそも、ENやIDの方は一部を除けば基本的にこっちにいないから、珍しく思われるのは確かだね。それにしても便利な魔法だねぇ……』
全国的に展開している緑のマークのカフェに着いて、二人でメニューを決めながらそんな話をしていると、レジが空いた。
「お待たせしました!御注文をお伺いします!」
「僕はキャラメルマキアートのトールで、ぐーちゃんは言える?」
「イエス、アノ、ダークモカチップフラペチーノ、ショート、オネガイシマス」
「かしこまりました!」
二人で受け取り、席に着くと彼がふぅと大きく息をついた。
『お疲れ?』
『それなりに急いだからね……。それにしても、また日本語上手くなった?』
『ふふん、勉強してるもの。JPメンバーともっと遊びたいし』
『おー、それは良いことだね。JPの方々も英語学んでる人が増えてきてるし、お互いに歩み寄ってるのは素晴らしい』
『それに、貴方の母国語は是非とも使いこなしたいわ?いずれ、御両親にも挨拶しなければならないのでしょ?』
『……それは、嬉しいね。僕も英語もっと頑張らないと』
サラッと言われた言葉に男は顔を赤くした。それを横目に見てニンマリと笑うと、ぐらはフラペチーノを飲む。
『んんっ!ところで、行き先を決めてほしいって言ってたけど、行きたいところはないの?』
『んー、今日と明日はマネちゃんがお休みくれたの。緊急連絡がない限り、ホントに暇なのよ?でも、予定には無かったからお出かけ計画立ててなくて』
『あー、それで今回は来てるけど暇がないって言ってたのか』
『そう。元々会えるほどの余裕はなかったから。アメがストレスで禿げそうって愚痴ってた位』
ENメンバーが来日するということは、大抵3D関係のことであり、打ち合わせや撮影なので予定がてんこ盛りな事がほとんど。日本に住む彼とは、プライベートで旅行に来た以外では中々会えない状況である。
『でも、機材の都合で急に休みが出来たからね。これ幸いとアメはすぐに連絡してたし、多分イナも部屋に彼を呼んだんじゃないかしら。私も出掛けるって言ったら誰かに連絡しようとしてたし』
『……ん?ってことは、もしかして部屋にあんまり帰りたくないのかい?』
『そうねぇ、良いホテルだけど隣室だし色々と聞こえそうよね。同期とはいえ、そういうことまで知りたいとは思わないわ』
『……もっと早くに言って欲しかったなぁ』
そう言うと、飲み終わった容器を持って席を立つ彼。
『始めから、目的地は僕の家か』
『お泊まりエスコート、よろしくね?』
リュックを持ち上げて悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべる彼女に、彼は少しだけため息をつくと頷いた。
最初の駅に戻り、電車で数駅。降りて少し歩くと、彼の住むマンションへ。
『んー、何度来ても大きいね』
『そりゃどうも。部屋片付いてないけど』
『そんなこと言って、私の家よりいつも綺麗じゃない』
『まだ写真でしか見たこと無いけどね』
来て早々に、当たり前のように彼の使うベッドを占領し、ごろごろするぐらに抱きつかれている彼。
『ホテルのよりベッドが固いわ』
『そりゃ、一般人が使うベッドなんてそんなものだよ。人を泊めるために使ってるものじゃないし』
『ここだけの話、ちょっと柔らかすぎるから私はこっちの方が好き』
お腹の辺りに顔を埋めながら甘えるぐらの頭を撫でながら、なんでもない会話をする2人。
『カリが羨ましいわ。私も日本に住みたい』
『それは嬉しいけど、移住となると色々と大変でしょ?』
『すぐには難しいけどねー。でも貴方になかなか会えない方が嫌。こっちの皆もいつか日本に!って言ってたし、住みたい子も多いと思うわ』
『たしかに、ぐらにすぐ会えるようになったら、僕も嬉しいね』
彼の言葉に抱きつく力を強めるぐら。
『貴方はいつも優しいわ』
『そう?僕は当たり前だと思うことしかしてないけど』
『見た目がこんなだから。私は自分の姿は大好きだけど、やっぱり女の子としては見られても、大人の女性として見てくれる人はなかなか居ないもの』
『それは僕も同じだよ。君よりは大きいけど、男性としてはやっぱり小さいから。見た目で判断されるのは辛いってわかるからね』
『私には色々と丁度良いから、助かってるけどね』
身体を起こすと男の頬にキスをするぐら。
『さて!夜は長いし、まずはご飯を食べましょ?来るときにピザ買ってくれてたわよね』
『好きだって言ってたからね。オリーブは抜いてあるよ』
『最高!』
彼の手を引き、寝室を出るぐらは満面の笑み。
『あ、そうだ』
『ん?』
ふと足を止めると、振り返り彼を少し見上げる。
『さっき、夜は長いって言ったけど。今夜は、期待していいのよね?』
その目は爛々と輝いていた。
『……頑張るよ』
『ふふっ、お互い期間が空くから、いーっぱい補給しないとね?』
彼の返事に満足げに頷くと、また彼の手を引くのだった。
その後、夜遅くまで部屋から物音と声が止むことはなかった。次の日、出掛けるときのぐらの表情は、艶々として非常に満足げだったそうだ。