「ただいま帰りました」
「おかえりー」
男が玄関で声をあげると、部屋の奥から返事が返ってきて、そのままパタパタと足音が聞こえてきた。
「外、寒くなかった?」
「だいぶ冷えてはいましたが、この間一緒に買ったコートのお陰で暖かかったですよ」
綺麗な金髪の髪を靡かせて現れたのは、長身で褐色肌の美人。よく見れば、耳の形が尖っており、人類とは違う種であることがわかる。
「ごめんね、体調悪い私の代わりに買い物頼んじゃって」
「気にしないでください。私も、フレアさんにはよくお世話になってますから」
モコモコとしたパジャマを着たその女性は、ホロライブ3期生のハーフエルフ『不知火フレア』だった。
「今は平気なんですか?」
「うん、だいぶ落ち着いたから身体起こしてたらちょうど帰ってきてくれたの」
つい2日程前から、少々の熱と倦怠感を感じて休みを取っていた彼女。幸い流行り病ではなかったものの、念のため友人達のお見舞いは断っていたのだが、気を利かせた同期の兎がマネージャーを通じて彼に連絡し、今に至る。いきなり来た彼にフレアもかなり驚き、勿論帰らせようとしたが、ここまでの事情を聴いて断るのも微妙だった事、何より『来る者拒まず去る者追う』と言うほどの寂しがり屋であったため、孤独感が辛くなってきていた所に愛する人が来てくれた好意に甘えて、彼の看病を受け入れたのだった。
「ぺこらさんのマネージャーさんから物凄く深刻そうに言われたので、正直不安でしたが安心しました」
「気を利かせたのは分かるけど、別に死にかけでもなんでもなかったよね。いくらなんでも話盛りすぎだよ」
そんな話をしながら買ってきた医薬品やら食料品やらをしまう彼を、椅子に座って眺めるフレア。
「大丈夫ですか?」
「えっ、う、ううん!貴方を眺めていただけだから!」
ボーッとしていたのか、いつの間にか目の前に接近されていたことに気付かず、慌てて返答する彼女を見て、
「無理しないでくださいね?完治したとは言い切れませんし」
と言うと、彼は自前のエプロンをつけて台所へ立った。
「……」
しかし、フレアはというと特に動くわけでもなく、またしてもボーッと彼を眺めるばかり。
(手際いいなあ……)
手元や体の動線がはっきりしており、いかに効率的に作業をしているのかが素人目にも分かりやすい。
(かっこいいな……)
元々自炊をしっかりするタイプの彼は、所謂主夫と言われても差し支えないレベルの家事能力の持ち主。フレアもついつい頼ってしまうことが多いが、彼はいつもニコニコと笑いながら承諾し、気付けば彼なしではいられない生活になっていた。なにより、作業をしている彼は格好よく、フレアはその様子を眺めるのが好きだった。
「お待たせしました」
どれほど経っただろうか。
彼の言葉に視線を下げると、目の前には湯気の経つ土鍋があった。
「これは?」
「玉子粥です。玉子料理は好きで混ぜご飯は苦手と聞いていたので、具材のないシンプルな物ですが」
蓋をあげると、ふんわりとした匂い。
「ありがとう、覚えててくれたんだ」
「いえいえ、このくらいならすぐ出来ますから」
台所を見れば、既に洗い物も片付いており、相変わらずとんでもない手際だなあと思いながら、フレアはれんげを手に取った。
「いただきます」
少し冷ましてから口にいれると、わずかに感じる塩気と玉子のシンプルな味付け。でもそれ以上に、手料理の暖かさが身に沁みた。
「美味しい……グスッ」
「ふ、フレアさん!?火傷しましたか!?」
思わず涙ぐむ彼女に慌てて薬を取りに行こうとする彼。
「違うの、なんか凄く感動しちゃって……」
慌てて引き留めて理由を言うと、彼は落ち着いて椅子に戻った。
「ならよかった……。リスナーとして聞いていた時以上に寂しがり屋だったんですね」
「うん……。なんか、自分でもビックリしちゃった……。ごめんね?」
「いえ、病気って心細くなるものですから。僕でよければそばにいます」
彼の言葉に頷くフレア。
彼は食べ終わった鍋を素早く片付けると、彼女の手を取って寝室へ連れていき、そのままベッドへ寝かせると、彼女のすぐそばに椅子をおいて座った。
「この後は用事もありませんから、身体を温めてよく休みましょう。僕もここにいます」
「ありがとう……」
フレアは温まった身体から出てきた眠気に抵抗することなくそのまま身を委ねた。その顔は安心しきっていた。
「ホントにありがとう。何から何までしてもらっちゃって」
「むしろ、良かったんですか?洗濯やら掃除、お風呂代わりに汗拭きまでしましたけど、色々見られたり触られたくないものとか……」
「貴方に対してそんなものないよ」
さらに2日後。体温を計り、すっかり完治した事を確認したフレアは、この期間中付きっきりで看病と世話をしてくれた彼に、ベッドの上に座りながら頭を下げて感謝していた。マネージャーには彼の事を伝えており、彼がフレアの体調を見ながら上手いこと橋渡しをしてくれたお陰で、復帰の連絡や日程調整も滞りなく進められた。
「マネちゃんも感謝してたよ?『病気の時の仕事連絡って怠くなりがちなので、理解してくれる人が居てくれて良かった』って」
「元々フレアさんの配信も大好きだったので、そのお手伝いが出来たなら良かったです」
彼は何の気負いもなくそう答えた。それを見て、モジモジと何かを握り直すと、
「あの、ね?1つ提案というか、お願いというか。ずっと考えていた事があるんだけど、聞いてくれる?」
フレアは言葉を選ぶように彼に切り出した。
「勿論です。どうしました?」
「まず、私の気持ち。不知火フレアは、貴方を愛しています」
真っ直ぐ彼を見つめて言うフレア。
「……あ、ありがとうございます。改めて言われると、照れますね」
「確かに。私も恥ずかしい」
二人して顔を赤くしているが、フレアは気を取り直すと、
「んんっ、それでね?今から言うことはマネちゃんとも相談しました。色々とお互いに大変なこともあるかもだけど。それでも、最終的に貴方の意思次第でという前提で、許可を貰いました」
「は、はぁ……」
何の事か分からぬまま、フレアの話を聞く彼。
「だから、もし良ければ」
言葉を切る彼女を彼は見つめた。
「良かったら、これからも一緒に住んでくれませんか?」
彼女はそう言うと、後ろ手に持っていた紙を差し出した。
「ど、同棲ということ、ですか?」
「うん。私、思ってた以上に貴方と一緒に居たくなったの。今までも、そしてこれからも、人と比べて長生きする私だからこそ、もっと貴方との時間を大切にしたくて」
受け取った書類を見ると、COVERへの申請項目や注意事項などが書かれていた。
「一応アイドルだし、こういうことはきちんと共有しておかないと、問題になったら大変だし。今も既に何人か同居してる子も居るけど、皆ちゃんと申請してるんだって」
「な、なるほど……」
彼は書類を読みきると、フレアに向き直った。
「いきなりでごめんね?でも、前々からずっと考えてはいて、さっきも言ったけどマネちゃんとはずっと話してたの。今回、看病が目的だったとはいえ、貴方がそばにずっと居てくれて嬉しかったし、もうすぐ帰っちゃうってことを考えたらやっぱり我慢できなくて……」
「来たばかりの時より明るくなっていたのは感じてました。よほど人恋しかったのかと思ってましたが……」
苦笑した彼は、しかしフレアの手を取ると、
「こんな僕でよければ。よろしくお願いします」
と、頭を下げた。
「い、いいの?」
「ええ。僕もここ数日一緒にいて、フレアさんを独占出来たようで嬉しかったです。エルフレンドさん達にはちょっと申し訳ないですが」
彼は笑顔でそう言うと、
「それでも、一緒にいたいです。だから、フレアさんからそう言ってもらえて嬉しいです」
と続けて彼女を抱き寄せた。
「あっ……」
元々エルフレンドの1人だったが故に、普段フレアに対して主張することのほとんどない彼の、今まで見せたことのなかったその力強さに、フレアはドキッとした。
「す、すみません。ビックリさせましたか?」
「ちょっと驚いたけど、大丈夫。なんていうか、貴方から来たのは初めてだったから」
彼の腕の中ですっぽりと包まれた体勢で、どこか安心したように身体を預けながらフレアは言った。
「書類は今度説明しながら書いてもらうから。マネちゃんにも報告する必要あるし。これを出しに行くときも、出来れば付いてきてほしいな」
「分かりました、よろしくお願いします」
彼の言葉を最後に、二人は押し黙った。
「……ギュッ」
それどころか、彼に抱えられていた形のフレアの方から、彼の背中に手を伸ばしますます強く抱きつき始めた。
「フレアさん?」
「病気移したらダメだったからってあんまり触れられなかったのを思い出したら、離れたくなくなった」
彼の胸に顔を埋めながら早口で答えるフレア。
「あの、それはいいんですけど」
「ドキドキしてるね」
「するに決まってるじゃないですか……」
「貴方から来たのに」
「そ、それは勢いというか」
「そういうところはいつまで経っても変わらないんだね……」
そういうと、フレアは顔を上げて彼に優しく口づけをした。
「……」
「ふふっ」
すっかり固まってしまった彼を見て笑うと、
「ねえねえ!お願いがあるんだけど!」
顔をぺちぺちと叩いて彼に話しかけた。
「……はっ!なんでしょう?」
「お風呂、一緒に入らない?久しぶりにしっかり身体洗いたいし、折角なら貴方も洗ってあげる!」
シャツのボタンを少し外して、だいぶ扇情的な姿を見せながら誘うフレアに、ますます顔を赤くする彼。
「あの、なんか今日は大胆じゃないですか?」
「え~?ダメ~?」
同期の女騎士は別格としても、彼女の持つ戦闘力はホロライブ内でもかなりのものであることは有名だ。開いた胸元を押し上げるその膨らみに目線が引っ張られるのを、彼は懸命に堪えた。
「いや、嬉しいですけど」
「我慢してるの可愛い。見せてるんだから、見てもいいのに」
しっかりバレていた。
「ふふっ、もちろん『期待』していいよ?」
流し目で妖しく笑うフレアからは、いつもの明るい雰囲気とはまた違う、大人の女性の魅力に溢れていた。
「……よろしくお願いします」
「うん!じゃあ、いこ?」
差し出した手を取って彼に引っ張ってもらうと、そのまま腕に抱きついて、豊かな胸に挟み込みながら部屋を出ていく2人だった。
浴室からは最初、笑い声や話し声が聞こえてきたが、そのうち喘ぎ声や呻き声、そして何かがぶつかり合う音や水音が聞こえるだけになった。果たして、汗を流しに行って本当に流せたのかは、2人だけの秘密である。
PVが4万を超えていました。
拙作を楽しみにしていただけている人が増えている様で、非常にうれしく思います。
いつも応援ありがとうございます。
今回のような書き方(複数人短編まとめ)はどうでしたか?
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閑話やイベントなら良いと思う
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どちらでもいい
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閑話やイベントでも普段通りが良い
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