リグロスいいですよね……。
個性が強い面々が絡んでいるのを見てると元気が出ます。
「毎日僕のお姫様達の相手をするのは楽しいけど大変だ」
「オフでもそのテンションを維持できるのは流石というかなんというか」
定期的に行われている同期とのコラボ配信が終わり、その足で向かった彼の家で、ぐてーっとソファで伸びている女性にホットコーヒーを差し出す男性。
「オフも何も、これが僕の普通だからね」
「知ってるよ、だから凄いなって」
受け取って飲もうとして熱さに顔をしかめる彼女、そんな顔でもかなりの美形なのは持って生まれた才なのだろう。
「もっと誉めてもいいんだよ?」
「あんまり言うと調子に乗るから駄目」
「なんでだよ!」
ウガーッと吠えるも、直ぐに落ち着く辺りいつもの事なのだろう。
「青、お風呂準備できたよ」
「ん、ありがとう」
「連絡くれてすぐにし始めたからね」
『hololive DE_VIS』の『ReGLOSS』のメンバーである『火威青』は彼の呼び掛けに応じて立ち上がると、汗を流しに行くのだった。
デビュー当初は男装の麗人、イケメンの呼び声が高く、何人もの先輩も魅了していたが、徐々にその言動の面白さが露呈し、本人の意思とは裏腹にすっかり芸人としての立場を確立。それと同時にどんな状況であっても前向きに立て直しをはかる性格の良さ、それがまた次の面白さを生んでいく好循環が人気を博している。
なお、先輩の猫や天才魔女とはまた違った女誑しの気があるらしいが、基本的に相手を全肯定する性格と、持ち前の美貌、さらに本人が努力して見つけた多彩な趣味から来る話題の広さにより、場の空気を好転させるのがとても上手いからではないかと言われている。
「うん、さっぱりした」
「おかえり」
彼の家に置いてある着替えを身につけて、晴々とした様子で出てきた青。
「何してるんだい?」
「ん?メール確認だよ。職場から結構来てたから、今のうちに整理しておかないと」
「ふーん」
彼の肩越しにPC画面を見れば、確かにメールを分類している様子が見えた。
「僕たちも配信がメインだし、マネちゃんさんからよく来るからメールはやっぱり見慣れてるけど、一般的な職場のメールってやっぱり固いよね」
「まあ、友達とのやり取りとはいかないからね。個人につくマネージャーともまた違うから、そう見えるかも」
青とのやり取りの間も手を止めることは無く、仕事に励む彼。
「……」
特に会話もなく流れる時間。しかし、彼の軽やかな打鍵音は耳に入る音としては上質。青は彼をぼーっと眺めながらその音に聞き入っていた。
「……」
やがて、持ち歩いているタブレットを取り出すと、彼の背中を見ながら何かを描き始めた。
「……どうした?」
「ん?ああ、あんまりにも君が動かないから、折角なら絵にしてみようかなって」
「……モデルにしては地味じゃないか?」
「いいんだよ。誰に見せるわけでもないし、そもそも君の事を描いた事はあんまり無かった気がしたし」
そう言いながらも青の手は止まらない。漫画家を名乗っている通り、彼女の絵は達筆だが、なによりその筆の早さは有名である。ましてやモデルがあるなら尚更だろう。
「……まあいいか」
「うんうん、僕の事は気にしないで」
彼も割と青に対して寛容な性格である。直ぐに頷くと再び仕事に戻った。
「……」
「……」
カタカタ、コツコツという音だけが流れる時間が過ぎた。
「……ん」
先に手が止まったのは青だった。
「……ふふっ」
自らの絵を眺めて満足そうに笑うと、二人分の飲み物を取りに動いた。
「……お疲れ様」
「ん?ああ、ありがとう」
そして、戻ってくると彼がちょうどPCの電源を落としているところだった。青が持っていたコップを差し出すと、彼もそれを受け取った。
「タイミング良かったね。僕もちょうど描き終えたからさ」
「そうだったのか。見てもいいのか?」
「もちろん。モデルからの評価を聞きたいね」
彼が断ってから青のタブレットを見ると、彼の座っている後ろ姿を描いた物があった。本当にただそれだけだったが、一目で自分だと分かる。
「どう?」
「凄いな。情報がほとんど無いのに、僕だって分かる。特徴掴んでこんなに早く描けるものなのか」
「仕事にしてたこともあるしね。君の事は普段からよく見てるから、特に描きやすかったよ」
「なるほど、いや凄いな……」
想像以上にべた褒めしてくる彼に、少々照れたように返す青。
「そんなに喜んでくれるなら、また描いてもいいよ?」
「いいのかい?」
「もちろん。趣味の範囲で彼氏が喜んでくれるなら、僕もしても嬉しいし」
「ならまた適当な時に」
「うん」
彼の隣に腰を下ろして肩に頭を乗せる青。
「珍しいね」
「お預けされてたからね」
「それもそうか」
そのまま彼と手を繋ぐ。
「……温かい」
「お風呂入ったのに、いいのかい?」
「そんなの気にしないよ」
青の言葉に、彼も彼女の手を握り返した。
「……僕も、こうしたかったから」
「えへへ、それは嬉しいな」
犬みたいと形容される明るい笑みを浮かべる青。
「……よし、僕もお風呂入ってくるよ」
「うん、わかった」
名残惜しげに離れる青。
「……ねえ」
「なんだい?」
彼が立ち上がるのを見て、声をかける。
「……今日は泊まっていけるし、ゆっくりしたいな」
「……」
「……ベッドで、待ってるから」
「……お姫様の仰せのままに」
「ふふっ、僕をお姫様と呼ぶなんて君くらいだよ?」
「僕にとっては、って事で」
「嬉しいな。……いってらっしゃい」
立ち上がってそっと彼の背中に抱きつくと、少し赤くなった顔を見せないようにそのまま先に寝室へ入っていく青。
それを見送ると、彼も浴室へと向かっていくのだった。