天使と悪魔。存在理由や目的からして相反する存在であるが、大昔には種族を越えて愛を育み、結ばれて子を成した者がいたとされる。それは2つの種族の特性を併せ持ち、莫大な力を持つものが多かったことから、忌み子とも祝福の子とも言われ、時代や世界に合わせて良くも悪くも様々な扱われ方をしてきた。
現代においては、親である天使や悪魔よりも幻獣に近い扱いこそされるものの、希少ながらも確かに存在する生物として認められており、なにより本人達も自身を特別扱いすることなく、のんびり気ままに生きているものも多い。
そんな彼らの事を種族としては『ネフィリム』と呼ぶのだが、ホロライブにも1人ネフィリムがいる。生まれ落ちたのが海外であったためにEN支部に加入しているが、『日本の漫画を日本語で読みたい』という非常にオタクな理由で独学で日本語をマスターし、類い稀なる歌唱力で人々を魅了する歌姫、『IRyS』である。
「うーん、こっちの方がいいと思うけどなー?」
「あの、それはいくらなんでも大きくないですか?」
店員が、通りすがりに聞こえてきた会話に思わず振り向くほど流暢な日本語。それを話しているのがあり得ない程美人な海外の人であったために、ますます驚くことになっているが、当の本人が気づくことはなく、隣に立つ彼と腕を組んで何かを言い合っていた。
「私達それなりに身体大きいし、一緒に寝るなら広い方が良いじゃない?」
「それはそうだけど、部屋の大きさ考えて欲しいです。どうみてもこんなベッド入らないですって」
「……あっ」
IRySはその言葉にはっとした様子だった。
「……お気づきになられましたか」
「そうね……」
がっくりと肩を落とす彼女。
「普通にダブルくらいなら入りますから。もう少し部屋の大きさとか配置をちゃんと把握してからにしましょう」
「そうね……、ごめんなさい」
「はりきってくれるのは嬉しいですから。大丈夫ですよ」
彼が組んでいる腕をほどいてから、彼女の手を握り直してあげると、IRySは嬉しそうに笑った。
「……ふふっ、楽しみだね!」
「そうですね」
現在、IRySは日本に引っ越している。恋人が日本にいることも幸いし、頻繁に彼の部屋を訪れていたのだが、理解あるマネージャーからの打診もあり、彼との同棲を始める準備をしていた。ちなみに、IRySは彼の存在を公言しており、ファン(IRyStocrats)も惚気エピソードや彼と関わると増えるとされているPONエピソードを楽しみにしている(独自設定です)。
「お部屋、スタジオに近いから出勤しやすいのも良いのよ?」
「そうですね。防音室も置いていいそうですし」
帰り道、背にある羽をパタパタを揺らしつつ、嬉しそうに話すIRyS。
「引っ越し終えたら、べーやカリオペ達も来たいって言ってたわ」
「彼女達も日本に居ますからね。ぜひ呼んであげてください」
「あ、でも彼女達に見とれたら駄目だからね?」
「それぞれお相手居るでしょうに……。それに、私はIRySさんが1番ですから」
「それならいいわ」
彼がそんなことするわけないと知りつつ、甘える口実としてそんなことをいうIRyS。彼の反応も予想通りだが、それでも嬉しく思う彼女は、控えめに見てもだだ甘であった。
「あなたはいつも、私の嬉しいことばかり言ってくれるね」
「本心ですけどね。まあ、流石に分かりやすいのもあります」
「なによー、私そんなに単純な女じゃありませんケドー?」
彼の言葉にジト目を向けるIRySだが、実際結構単純なのは自覚しており、ただのポーズである。
「ふふっ、ならそういうことにしておきます」
「もー、なによそれー」
不服そうにしながらも、笑顔で再び腕に抱きつくIRySだった。
「いつもながら貴方のご飯は美味しいわね」
「ありがとうございます」
帰宅した後、彼お手製の夕食を戴いた後である。
「あんまり食べすぎると良くないんだけどなあ」
「種族的に太りにくいとか言ってませんでしたか?」
「ええ。でも、見た目は分からなくても体感で重くなったかは分かるのよ。ダンスレッスンとかするとすぐ気づくわ」
見た目と重さが釣り合わない種族はいくつか存在するが、ネフィリムもその1つのようである。おそらく天使の性質から変化が分かりにくいのではないかと言われている。
「まあ女性の体型をとやかく言うのは失礼なのは分かってますが、私からすればIRySも十分軽いですよ」
「そうかしら?」
彼の言葉に首を傾げる。
「ええ。たまに抱き上げてみても全然です。今のIRySも素敵ですから、私は大好きですが」
「まあこれでもスタイルには気を遣ってるからね。それが貴方の好みに合っているなら私にとっても良いことよ」
彼の前に立ってフフンと胸を張るIRyS。海外の女性特有のスタイルの良さが一段と際立ち、配信で同僚の死神にEカップとバラされた胸がフルンと揺れた。
「でもなあ……」
「どうしました?」
IRySは少しだけ俯いた。
「他のENメンバーは皆肌が白いから、羨ましいなと思うのよ。私は少し……、あー、褐色?って言うのかしら。ふーたんの肌よりは薄いと思うけど」
「そうなんですね」
JPの先輩の名が出たが、実際のところ、ENのメンバーと比べると少し違うのが分かる。それを気にしているのだろう。
「ええ。並んだりすると分かりやすいし」
「……なるほど、確かに」
スマホを弄ってENのメンバーと並んだ写真を見せるIRySに頷く彼。
「でしょ?こればっかりは生まれつきだしどうしようもないけど。あ、別に嫌ってわけじゃないわよ?」
「ええ」
「でもたまに、いいなーって思うわねって話」
そのまま彼にしなだれかかるようにしながら隣に座って抱きつくIRyS。
「まあ、貴方が夢中になってくれてるって分かってからは、割とどうでもいいんだけどね!」
「ははは、それは良かったんでしょうか……」
彼は褐色フェチであった。IRySの肌も十分にストライクゾーンである。
「いっつも触れてくれるから、私最近どんどん敏感になってきてるんだから」
「それは元々だったような」
「もっとって話よ!」
悪魔の主食である精気を吸収する際に、悪魔には快感が伴うとされる。ハーフのIRySであってもそれは同様らしく、元々人が肌に触れることに対しては敏感だったのだが、愛する彼が触れると感度が急上昇するらしい。
「それは、こういうことかい?」
「Oh!もう、こういう時ばっかり大胆なんだから!」
短いスカートから剥き出しの太腿を彼がそっと撫でると、甘い声が漏れだした。
「ふふ、してほしいのかなって」
「むー、否定はしないけど、もう少しムードとかないのかしら?」
そのままサワサワと撫でられて、ビクンと身体を跳ねさせながらも不満げなIRyS。顔は溶けているのでイマイチ説得力は無いが。
「……なら、先にシャワーでも浴びますか」
彼はそういうと、脱力していたIRySを抱き抱えてそのまま立ち上がった。
「Wow!」
「お疲れなお姫様には全身への丁寧なケアが必要だよね」
ビックリしてしがみつくIRySに笑いかける彼。
「……それから?」
「そうだね……、御希望があるならお聞きしますが」
彼の逆質問に顔を赤らめる。
「えー、私が言わなきゃだめなのー?」
「ムードが大事なんでしょ?何を求めてるのか言ってくれないとなあ」
「言うようになったわねぇ……、もぅ……」
彼がからかうように答えると、IRySは身体を寄せた。
「…………///」
「……ふふっ、分かりました。仰せのままに」
何事かを耳元で呟き、そのまま顔を真っ赤にして俯くIRySを抱えながら、彼は浴室へと向かうのだった。
一体何をお願いしたのかは定かではないが、次の日のIRySのレッスンは一緒にいたメンバーが驚く程キレのある動きで、本人も清々しい笑顔で過ごしていたという。