『帰ったわ』
「おかえりなさい」
女性としてはかなり低めの声が聞こえた。部屋の主である男が、椅子に座ったまま目の前の画面から首だけで振り返ると、青みがかった黒髪の、ナイスバディな持ち主の女性が微笑みながらこちらに歩いてきていた。
「おつかれさまだね」
『ありがとう。でもJPの先輩達とたくさん話せたから、今日の収録も楽しかった』
そのまま彼女が彼の座る椅子の横から彼に抱きつき、その身体を彼に押し当てつつ彼の頬に口付けた。
「楽しみにしてたうどん屋さんは行けたのかい?」
「ええ!とても、おいしかったわ!」
少し片言ながらも日本語で話す女性、ホロライブENに所属する『Ouro Kronii(オーロ・クロニー)』はそう言って喜びを表していた。
「みんなも、喜んでくれたから、良かった」
「調べておいてよかったね」
「見つけてくれた、貴方のおかげ。ありがとう」
そう言うと彼女は立ち上がった。
『シャワー借りてもいいかしら?』
『うん。君用の物は洗面台の下に置いてあるよ。ゆっくりしておいで』
『ありがとう。じゃあ行ってくるわね』
軽い足取りで部屋を出ていくクロニーを見送って、彼は再びパソコン画面へと視線を戻すのだった。
ちなみに、本人の弛まぬ努力によって、時折詰まりつつも日本語での会話が出来るようになった彼女だが、彼が割と英語を日常会話レベルでこなせるのもあってか、どちらでもナチュラルに会話が起こるのがこの2人にとっては自然である。あと、基本的に彼が日本語で話すようにしているのは、クロニーがリスニング力を鍛えたいと要望したからである。
『戻ったわ』
「おかえりなさい。身体は癒やせたかい?」
『ええ。日本のお風呂は身体を沈めやすいのが良いわね。おかげでお風呂が好きになったわ』
「あー……、たしか、向こうはシャワーがメインなんだっけ?」
『そうよ。湯船があってもそこでシャワーを浴びるから、身体を湯に浸からせるっていうのは珍しいの。あくまで身体を洗う場所って認識って感じかしら』
ホコホコとした様子のクロニーが戻ってきた。
『貴方は?お風呂入ったのかしら?』
「まだだよ。このメールが片付いたら行こうと思ってたから、君が出てくるのもちょうどいいタイミングだった」
PC画面の電源をを落としながら立ち上がる彼。
『それなら今からかしら?』
「うん。そういえばご飯は良いんだよね?朝出かける前にそう聞いてたから、僕はもう食べてしまったけれど」
『ええ、出先でちゃんと食べてきたわ。だから貴方もゆっくりしてきて。戻ってきたら、マッサージしてあげるわ』
「いいのかい?」
『昨日は私がしてもらったから。おかげで今日の仕事とお出かけの間、とても楽だったもの。その御礼よ』
「わかった。楽しみにしてるね」
横を抜ける際に軽く抱き合ってキスをすると、彼は部屋を出ていった。
「いらっしゃいませ~」
「……なんでそんなに怪しげな日本語なの?」
「あら?雰囲気、でてなかった?」
言葉通り、いつもより気持ち長めにお風呂を堪能してから寝室へ戻ると、諸々準備をしていたクロニーがニコニコとした様子で待っていた。なぜかいつもより間延びした口調だったことにはしっかりツッコんだ。
「こういうお店の応対は、こんな感じって、あー、まつりセンパイが、言ってたわ?」
「良い声過ぎて、逆に怪しいよ。言いたいことは凄くわかるけど」
「今なら、貴方専用で、VIP扱い、受けてみませんか〜?」
「……わかったよ。よろしくお願いします」
一向にわざとらしい口調の日本語を崩さないクロニーに、根負けした彼が苦笑しながら受け入れると、笑みを深くした彼女がポンポンとタオルを敷いた布団を叩いた。
「ふふっ。冗談はおいておいて、まじめにやるわ。最近の身体の、んー、調子はどう?」
「特別悪いところはない、と思うな。疲れはあるだろうけど」
「OK、ならまずは、全体の確認からしていくわね」
彼が大人しくそこに横たわると、彼の肩口からそっと手を当てて、そのまま背中全体を擦るように動かし始めた。そのまま軽い問診。真面目にやると言ってからは英語に切り替わった。
『んー、張りは特になし。痛みは?』
「今のところはないね……、あ、でも腰は少し押されると効く感じがしたかも」
『なるほど……』
それを聞いたクロニーが腰から足の方へ手を下げると、彼の反応が少し変わった。
『ん?……この辺りかしら』
「かも……、おおぉ……」
『やりがいのある良い声ね。なら、今日は下半身がメインかしら』
「君のほうが良い声なのに、どうしてこうも意味が違うのか……、うおお……」
『あら、口説かれてるのかしら?嬉しいわね。これは気合入れなくちゃ』
「今更すぎる……、あぅっ!?」
ニコニコと笑いながらもぐっと押し込む力は強い。本人のぱっと見では分かりにくいが、クロニーは時間を司る存在とのことで、少しだけ純粋な人から『外れ』ているらしいが、本人も詳しくはわかっておらず、彼も深くは考えたことはなかった。
『うん、このあたりが少し反応強いわね。最近屈むこと多かった?』
「ど、どうだったかな……。あ、でもオフィスの掃除でデスクとか運んだから、それかも……?いてててっ!?」
『Oh……、それはダメージ凄そうね……。少し乗るけどいいかしら?』
「か、構わないよ……」
クロニーは彼の背中を跨ぐようにして後ろ向きに座ると、太腿や膝裏に手を当てて押し込み始める。背中に当たる柔らかい感触を楽しむ間もなく、強まる刺激に彼の反応も顕著になり、そのまましばらく呻き声と荒い息遣いだけが続いた。
「はーい、おつかれさまでしたー」
「あ、ありがとう……」
「ふふっ、しっかり伸びてるわね」
クロニーの優しい声に伸び切った声で答える彼を見て、彼の背中から降りながら微笑む彼女。
「気持ちよかったかしら?」
「おかげさまで、思ったより軽くなったよ」
ベッドの上で足をパタつかせながら、その感覚に驚いたように答える彼。
「正直な話、自分でもこんなに疲れてたのかって位だよ」
『この間レッスン中に先生に言われたのよ。人はある程度の疲れは無視しちゃうから、気付いたときには溜まり過ぎてて抜けるのが遅くなることが多いって。貴方は身体動かす訳では無いから尚更じゃない?』
「なるほど。実感したら説得力が違うね」
タオルを除けた後、するっと彼の隣へ入り込んで横たわるクロニー。そのまま彼の顔を見つめると、優しく微笑んだ。
「いい顔、してるわ?」
「……あ、ありがとう?」
そのまま顔を寄せて優しく口づける2人。
「……今日は、このままで、いいかしら?」
「もちろん。寒くないかい?」
「ええ。心も、身体も、暖かいわ」
お互いに密着するように身を寄せる。バスローブのみを纏ったクロニーの身体がギュッと彼に当たるが、それも当たり前のように抱き締める彼。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
そして、そのまま2人とも目を閉じるのだった。
一応ですが、特に海外勢のお話において、
「」←日本語
『』←日本語以外(英語、インドネシア語)
のつもりです。今回も少し意識しましたが、あまり難しく考えなくても大丈夫です。