お待たせして申し訳ありません。
その3『夏バテを看病する若奥様!?』
「毎日毎日暑いねぇ……」
「そうですね、買い出し1つでも汗が凄いです」
彼の家に袋を持った2人が帰宅した。近場のスーパー故に歩いていこうとしたが、季節は夏真っ盛り。戻ってきた2人はすっかり汗だくであった。
「エアコン付けておいて良かったですね」
「もう無しでは生きられないよ……」
部屋のドアを開けた途端に流れてきた冷気で生き返る2人。手早く買ってきたものをしまって整理を終えると、お気に入りのアイスをそれぞれ持ってきて食べ始めた。
「ん〜!美味しい!」
そう言ってパタパタと動くミオ。
「……ふぅ」
「あれ、大丈夫?」
「ええ。一息つけたってホッとしてるだけですよ」
それに対して、大きく息をついている彼。ミオが心配したが、彼は笑ってそう伝えた。
「もう少ししたらご飯作るからね。ホント暑いし、ざる蕎麦とかどうかな?」
「いいんじゃないですかね?あ、麺つゆある場所わかります?」
「うん。この間使ったから覚えてるよー」
「わかりました。よろしくお願いします」
「任されました」
アイスを先に食べ終えたミオがそう言って台所へ向かうのを、彼は少しだけボーっとしながら見送ったのだった。
「はーい、お待ちどおさまー……、ってあれ?アイスのゴミ捨ててなかったの?」
「ん?あぁ、後で食器とか並べる時にそちらへ向かうから、その時に持っていこうかと」
「そうなんだ。あ、じゃあそのまま2人分のコップお願いしていいかな」
「わかりました」
少し経ってミオが蕎麦を持ってきたとき、彼はずっと座ったままの様子であった。ミオが不思議そうに聞いたが、彼の答えになるほどと納得し、そのまま彼にお願いをする。
「ありがとう。じゃあ食べよっか」
「はい」
往復して帰ってきた彼にお礼を言うと、そのまま2人仲良く手を合わせてから食べ始めた。
「うん。冷たくて美味しいね」
「ええ、つるつる入るのは良いことです」
「ウチ、啜るの苦手なんだけどね」
「ああ……」
「なんか言ってよー!」
ミオが素麺を食べる配信が、ホロライブの夏の風物詩と化しているのを思い出した彼が苦笑した。彼女はそれを見て憤慨していたが。
しばらく2人して静かに食べる時間が流れたが、途中でミオがある事に気付いた。
「あれ、もしかしてお腹空いてなかった?」
「……えっ?」
彼が不思議そうに聞き返すが、ミオは彼の手元を指さした。
「大体いつも食べてる量茹でたつもりだったけど、あんまり減ってない気がして……」
ミオがほぼ食べ終わっているにもかかわらず、彼の前には半分程度しか減っていない蕎麦があった。
「いえ、食べてるつもりですが……」
「うーん……、もしかして」
ミオが身を乗り出して彼の顔に手を当てると、
「ちょっと熱いね……、熱あるかなぁ?」
体温というには妙に高い感触に、彼女はすぐさま体温計を持ってきた。
「はいこれ、計ってみて?」
「はい」
彼も素直に受け取ると体温を計ってみたが、
「んー、平熱よりは高いですが……」
「外が暑いし、これじゃ発熱って程でもないかぁ」
特に異常はなさそうだった。
「風邪ではなさそうだし、考えられるとしたら熱中症の初期症状かも。さっきも少しボーっとしてたみたいだったし。今、自分の身体に倦怠感とか疲労とか感じてる?」
「ミオさんが折角動いてくれていたので、何となく私は動かなくていいかなーって思う程度です。疲労か?って言われたら分からないですね。喉は渇いてますけど、水分は取ってるはずです」
「ふむふむ」
顔は少し赤いものの、返答は淀みない彼。意識はしっかりしているように見える。
「これは食べ切れそう?無理しなくていいよ?」
「いえ、食欲はあるはずなので大丈夫です。ただ、もう少しかかるかもしれませんが……。すみません」
「それは全然大丈夫だよ。じゃあ、食べ終わったら少し身体休めよっか。ウチ、ちょっと準備しておくね」
「わかりました。ありがとうございます」
先に食べ終えたミオは、そう言うと何かの準備をしに動き始めた。彼もそれを見送ると、少しずつ食べ進めるのだった。
「ごちそうさまでした。すみません、やっぱり遅くなりました」
「ううん、残すかもって思ってたから、食べきってくれて嬉しいよ。あ、食器は置いておいていいから。そしたら、寝室の方に先に行ってて?」
「はい、何から何までありがとうございます」
彼が食べ終えるのを見守っていたミオにそう言われて、彼は大人しく立ち上がると寝室へと向かった。
「これは?」
「身体を冷やしてくれる衣服だよ。緩めに作られてるから、身体の熱を逃がしてくれるんだって。あ、その前に身体拭いてあげるから、脱いだら着るのはちょっと待ってね」
ベッドに置かれていた服が目に入ったので、彼が聞くとすぐ後から入ってきたミオが説明した。
「熱中症の対策は、体内の熱を外に逃がすこと、塩分と水分を補給すること、身体を冷やすこと、安静にすることなんだって」
「だからスポーツドリンクもあるんですね」
「うん。じゃあ背中向けて?」
彼が説明を受けながら服を脱いで、ベッドに腰掛けると、ミオが氷水に浸していたタオルを持った。
「ちょっと擽ったいかもだけど。脇とか首元の大きな血管を冷やすのも大事だから我慢してね」
「はい。よろしくお願いします」
ミオが一声かけてから彼の身体を隅々まで拭いていく間、彼は大人しくされるがままになっていた。
「よいしょ、よいしょ……、肌とか痛くない?」
「はい。なんかスーッとして気持ちいいです」
「それはほんの少しだけハッカ油を入れたからかな。普通の水分より空気に触れるとひんやりするんだって。でも肌荒れとかしたら大変だから、もし後で痛くなったりしたらすぐ教えてね」
「ありがとうございます」
そんな事を言いながらも手早く彼を拭き終えたミオ。その後、彼は彼女に用意された服へ着替えると大人しく横になった。
「別に眠る必要はないからね。しばらく安静にして、身体を休めるだけだから」
「はい。何から何までありがとうございます」
「あ、何か欲しいものとかある?今日はもう予定もないし、何でも出来るよ?」
ミオの言葉にしばらく考え込んだ彼は、
「でしたら、もしよければ何かお話でもしませんか?」
「お話?」
と彼女に言った。
「ええ。流石に眠気もありませんし。意識もはっきりしているので、このままだと暇を持て余しそうですから」
「わかった。なら、服だけ洗濯機に掛けたら戻ってくるから、一緒にお話しようね」
「はい」
ミオは快諾すると、彼の脱いだ服を持って部屋を出ていくのだった。
「……まああの日はこんな感じだったかな。その後はホントにお話色々して、彼も無事に回復したから良かったーって」
「……どう思う?フブちゃん」
「いやー、完全に立ち振る舞いが若奥様だよねぇ。こりゃあ我々も見習わないといけませんなぁスバルよ」
「お、奥様!?」
「奥ゆかしさが溢れすぎてるよ……」
「何気に彼氏さんも甘え方上手ですよね。ミオ先輩の母性を上手いこと擽ってるっていうか」
「まさにお似合いの夫婦」
「あやめとルイも何言ってんのさ!ウチはまだ結婚してないって!」
「看病に見せかけた盛大な惚気を聞かされたこっちの身にもなれよ!」
「「「そうだそうだー!」」」
「聞かれたから答えただけなのに……」