なかなか都合がつかずに間が空いてしまい申し訳ありません。
その4『1人じゃ怖い夜には……?』
「はい、吾輩の勝ちー!いろはのざーこ!」
「ふーざーけーんーなー!!」
高笑いと悲鳴が響いた。
「ふはははは!まあ吾輩が?ちょっと本気出せば?こんなものっていうか?」
「何が本気だよ完全に運だったじゃねえか!途中までかざま勝ってたのにー!」
「結果よく見ろー!WINって出てるのどっちか、駄々こねのおこちゃまにわかるかなー?」
「うるせー!!クソガキがよぉ!!」
煽り全開の総帥にブチギレるいろはだが、結果は変わらなかった。まあ、配信を見ていた視聴者も完全に勝ちルートだったいろはが土壇場で運に見放されていたのを観ていたので、同情のコメントは大量に流れていたが。
「じゃあ、罰ゲームは配信前に決めたやつな?なんだったっけ?」
「クソがよぉ……。『ホラーゲーム1つクリア耐久配信』だよぉ!」
「おーおー、負け犬の鳴き声は気分がいいなあ」
悔しそうに内容を告げるいろはと満面の笑みのラプラス。コメントも一転して大はしゃぎである。
「うぐぐ……、ホラーは苦手なのに……」
「そりゃあそうだろ。じゃなきゃ罰ゲームにならんし」
「お前やる時絶対呼ぶからな!」
「あ、吾輩この後ライブの関係で暇な日ないから無理なんだな」
「」
口をぽかんと開けて固まるいろはの肩をポンと叩いて、
「頑張れよ!」
「ふーざーけーんーなー!!!」
満面の笑みでサムズアップするラプラスに、またしても叫ぶいろはだった。
「話の流れは分かったけど、それがどうして僕がここに呼ばれることになるの?」
日は変わること数日後。いろはの家に呼ばれた彼女のパートナーは首を傾げていた。
「まさか、僕が君の配信に出るわけにもいかないし。そもそも今日やる予定ではなかったよね?」
「合ってるでござる。今日は予行練習でござるよ」
「予行?」
いろはは彼の問いにあっさり答えた。
「当日指定されてるゲームは別物でござる。でも、その前日譚?のゲームがあるらしくて。ラプ殿に聞いたらそっちはやってもやらなくてもいいって話だったの」
「あ、やるものはもう決まってるんだね」
「勝手に決めてきたんでござるよ……」
苦笑する彼と渋面のいろは。
「んで、前日譚の方もまあ普通に怖いって聞いたから、どうせなら予習も兼ねて配信外でやろうかなって。だけど怖いものは怖いから、貴方に見守りしてもらうでござる」
「あー、なるほどね。わかりました」
意図を理解した彼は頷いた。
「というわけで、ご飯を食べたら今夜から早速始めるでござる。準備はいいでござるか?」
「休みだし問題ないよ。映画気分で眺めてるから、頑張ってね」
「絶対負けない……!」
ぐっと拳を握りしめて気合を入れるいろはだった。
「きゃああああ!?」
「うん、まあそうなるよね」
無理だった。開始10分である。
「なんでここにいるの!?」
「いや、さっきのファイルにこの部屋から始まったって書いてあったよ……?」
「そんなの覚えてるわけないじゃん!」
最初は配信を想定していろはが1人で椅子に座り、それを彼が後ろからソファでお茶を飲みながら眺めるスタイルだった。
「うぅ〜」
「あの、そんなに握りしめても、僕の腕はコントローラーではないよ?」
だが、ホラゲーあるあるな最初の恐怖演出を見た瞬間、いろはは配信部屋からわざわざ持ってきた椅子を放り出し、ソファに座る彼の前に座り込み、腕を自身に回させて抱え込む形に早変わりした。あまりに素早すぎて、彼が気づいた頃には完璧に収まっていた位である。
「…………(ぎゅぅぅぅ」
「痛い痛い」
彼の抵抗も虚しく、そのまま固定されて今に至るのだが、そもそも恐怖のあまり全然進行しないので、彼としてもどうしようもない状況だった。
「とりあえず先に進めようよ。終わらないとダメなんでしょ?」
「そ、そうだけど!これ絶対化け物出てくるやつじゃん!」
「そりゃそうでしょ。それを躱して出口に向かうのが目的なんだし」
「簡単に言わないでよ〜!」
とりあえずいろはを応援するしかない彼だったが、1つだけ誤算があった。
「うぅ……」
「あー、とりあえず腕離したほうがゲームしやすくないか?」
「ダメ。離れたらもう動けないもん」
「……さいですか」
今夜のいろはは、最近の熱帯夜もあってか非常に薄着であり、彼相手なら馴染んできたこともあってか、そもそも身体を覆う布面積も小さい物を着ていた。
「……(ビクッ」
「ぐっ」
さらに、そのまま彼の腕を巻き取ったままプレイしている上に、時折恐怖や驚きで身体が竦む度にぎゅっと身を縮めていた。
「ぎゃー!!?」
「…………」
彼女の体温や柔らかい感触が、彼の腕にダイレクトに伝わってきており、彼は正直気が気ではなかったが、いろははもはやそんな事を気にする余裕もなく、ゲームに必死な様子。
「こ、こここ、これはどこへ持っていくの!?」
「さっき通り過ぎた部屋だね……」
「おおぉぉお!?」
「ちょ、ちょいちょい!いろはさん!?」
それどころか、ますます腕を引っ張り込まれた挙げ句、手を彼女の太ももで挟まれてしまい、身動きもままならなくなってしまった。
「…………(プルプル」
「あの、足を震えさせると、感触……」
「…………(ブンブン」
「無言で首振らないで?」
彼の言葉も最早届いているのか分からない位に、涙目で彼に縋り付いて進めているいろは。恐怖から出る汗により、いつもよりガードの緩い首元や胸元が煌めいているのが見えたり、彼女の太ももが程よくしっとりしてしまっているのが彼の手に直に伝わっていたが、ここで彼がその事を言ったり、手を動かした感触が彼女に伝わってしまうと、彼女が別な意味でパニックになってしまうと思い、彼はひたすら無である努力をしていた。
「こ、ここ?ここで合ってる?」
「そうそう。さっきの部屋で拾った鍵を……、あっ」
「みぎゃあああ!!?」
「これで謎が解けて……」
「絶対敵出てくるからね、気をつけt……」
バーーン!!
「きゃあああ!!!」
「今言ったのに……」
「あ、あったよ。ほら部屋の角に光ってる……」
「どどどど、どこ!?どこ!?」
「誰もいないし出てきてないから。落ち着いて……」
探索→接敵→発展→恐怖演出→探索……の繰り返しにより、定期的にいろはの叫び声が響く。配信ならリスナー皆が大喜びする流れだが、今日聞いているのは彼1人。しかも付随する彼への試練が、なぜか個人的に辛いことになっているのだが、それが繰り返されること数時間後。
「……うわあああん!!おわったー!!!」
「う、うん。おめでとう……」
珍しくコントローラーを放り投げ、彼の腕をブンブンと振って大喜びのいろはと、少し疲れた顔で祝う彼。2人の目の前のPC画面には『脱出成功おめでとう!』と表示されていた。
「うわっ、汗凄いかいてたでござる……。風真臭くない?」
「うん、そんなに気にならないかな……」
「貴方も付き合ってくれてありがとうでござる!シャワー浴びてくるでござる〜!」
腕をずーっと拘束されていたので、匂いとか気にしている状況でもなかったのだが、満足気に笑って浴室へ向かう彼女を見て、水を差すのもなあと思い、彼は何も言わなかった。
「あれだけ触れてても気にならないくらい、集中してたって事なのかな……?」
ただ、普段の恥ずかしがり屋な様子からはあり得ないほどの密着っぷりや、不可抗力とはいえ際どい触れ方をしてしまっていたのに、全く気にしていなかったいろはを思い出して、少し不思議そうに呟く彼だった。
「それで?実際はどうだったのよ?」
「……ばっちり覚えてるでござるよ。いや、何も狙ったわけではなく、あまりに怖くて慌てた結果そうなったってだけ」
「なるほど、いろはちゃんはムッツリと」
「おい、何でそうなるでござるか!風真はムッツリではないでござる!」
「内心恥ずかしかったのか?」
「ゲームしてた時はホントに何にも余裕なかったでござるよ。直ぐ側に彼がいてくれてる安心感しか無くて。終わってシャワー浴びてる時にド密着してた事を思い出したくらい」
「出た後は〜?彼も色々とお礼してあげたんじゃないの〜?」
「汗流したら疲れがどっと出たから、すぐ寝ちゃったでござる。次の日起きたら、あの人がまだ隣で寝てたから珍しいなって思ったけど」
『……おい幹部。これって』
『……クロヱじゃないけど、たぶん彼も隣で悶々として眠れなかったんでしょうね』
『……パートナーさん、いろはちゃんと寝た次の日は、いつも先に起きてるって前にいろはちゃん言ってたよねー?』
『……うわぁ。絶対いろはちゃんからひっついてたんだろうし、無自覚にめちょ煽られてんじゃーん。とんだ悪女だなぁ』
『はぁ……。後で教えてあげないと、流石に彼が可哀想よねぇ』
リクエストは配信後だったのですが、少しだけ改変しております。