「かんぱーい!」
可愛らしい声と共にジョッキのぶつかる音がした。
「いやー、今日もレッスン頑張った!ほら、貴方も食べて?」
「お疲れ様です、いただきますね」
金曜日の夜といえば、飲み会やらなんやらで盛り上がることが多い。
そして、その場所といえば居酒屋はド定番だろう。
「うーん、美味しい!」
「なんというか、ほんとに何回見ても似合いますね」
片手に大ジョッキを持ちながら大きな唐揚げをモリモリと食べているのは、なんというか普通の居酒屋に存在したら違和感の凄い金髪の美女だった。しかしながら、その姿は堂々としており、むしろそれが当たり前に見えてくるのは本人の雰囲気ゆえだろうか。
「当たり前じゃない!このアキロゼが自ら探し求めた最高のビールと唐揚げを出してくれる店なんだから!」
端から見ても大きい胸を張りながら、ふふんとドヤ顔をしておられるこの女性。
「ありがとうございます。でも、店主の私がこうして座っちゃってるのも……」
「今更ですよ店長。アキさんが来たらうちらで回しますって」
「そうそう、行きつけにしてくれる彼女さんなんだからちゃんと御相手してあげなきゃ」
困ったように笑う男にバイトの学生たちが声をかけてそのまま通り過ぎていった。
「うふふ、気のきく子達ね」
「……ええ、ありがたい限りです。また今度色をつけてあげないと」
ホロライブ1期生、アキ・ローゼンタールことアキロゼはそう言って笑うと再び彼氏である店長のジョッキと合わせて飲んでいた。
「てんちょーう、唐揚げそろそろなくなるっすー」
「わかった、なら今日は店仕舞いかな」
「暖簾下げてきますねー」
バイトの呼び掛けに応えると、男は席を立った。
「おしまい?」
「ええ、待たれますか?」
「もちろん、一緒に帰りましょ?あ、支払いはこれで」
「わかりました」
アキロゼは男に応えると食器の下げられたテーブルに頬杖をついて、作業をする彼を眺めていた。
「アキさん、次の配信っていつっすか?」
「あら?観てくれてるの?」
「もちろんです!この店のバイトはたぶん全員観てるんじゃないっすかね?」
「あら~、ありがとね」
掃除をしているバイトから声をかけられたり、
「今度彼とデートなんです!」
「まあ!ならとびっきりおめかししなきゃ!」
「この時期のおすすめってなにか知ってます?」
先に作業を終えた子から相談を受けたりもしていたが、もはやこの店の恒例行事と化していた。
「お待たせしました」
「ううん、眺めてるの楽しいから平気よ?」
「君たちも、今日はありがとう。残り物だが、夜食にでも食べてくれ」
「「あざーっす!!」」
バイト全員に包みを渡して送り出したあと、店を施錠して男はアキロゼと共に歩き出した。
「今日は仕込み良かったの?」
「ええ、明日と明後日は休みにしているので、月曜に仕込みで少し早めに向かうくらいで」
「ひょっとして、私に合わせてくれたの?」
自分の配信休みにぴったり合っているため、確認しようと横目で見ると、
「……ええ、前回の休みの時は団体の予約で合わせられなかったので」
少し頬を赤くして目を合わせないように答える彼の姿があった。
「……ふふっ、ならいっぱい甘えちゃおうかしら」
嬉しさに口角が上がるままに彼の腕に抱きつくアキロゼ。そのままそっと彼の頬に口付けをした。
「アキさん?外ですよ?」
「いいじゃない、もうすぐ家だし」
「いやまあ、そうですけど……」
そのまま2人が帰宅するまで、アキロゼは腕を離すことはなかった。
「先にお風呂どうぞ」
「いいの?なら甘えちゃうね」
彼が部屋に荷物をおいて片付けるのを見て、アキロゼは先にお風呂をいただくことにした。レッスンで酷使した身体を労るようにケアし、汗もしっかり流して出ると、彼はノートに何かを書き込んでいる様子だった。
「出たわ、貴方もどうぞ?」
「ありがとうございます」
ノートを閉じると、机に置いたまま彼はそのまま浴室へと消えた。
彼が何を書いているのかを知っているアキロゼはそれをそっと開いた。
「……」
そこには今日お店で出した揚げ物の反応や売り上げの様子が細かく書かれていたが、それよりもアキロゼが気になっているのは、最後のところ。
「『今日は箸の進みが良かった。肉は少し大きく、塩分を少し強めにしたが、恐らく汗で流した分も含めてお酒も進む味になっていたと思う。空腹なら大きさも気にならなかったみたいだ。』相変わらずほんとに、しっかり見ているのね……」
アキロゼが店にいく日を伝えると、彼は必ず調整した唐揚げを出してくれる。そして、その反応をこと細かく記録しているのだ。
「いただきました……、ってまた見てるんですか」
「置いておいたら、私が見ちゃうって知ってるのに置いてるのが悪いのよ~」
お風呂から出てきた彼がチューハイの缶と何かの料理を持ちながら部屋に戻ってきた。そのまま片方をアキロゼに渡し、向かい合うように椅子に腰かけた。
「これは?」
「今日出した唐揚げの調味料が残ったので、豆腐にまぶして揚げたものに出汁をかけたおつまみです」
「まあ!またお酒の進みそうな物を出して」
いそいそと缶を開けると、乾杯をして早速いただくアキロゼ。
「んー!美味しいわ!」
「良かったです、今日は全体的に濃いめの味がお気に入りのようなので」
「確かに、自分では気づかなかったわ?」
アキロゼがもきゅもきゅと食べて飲んでいる間も、彼は相槌を打ちつつノートにその様子を書き込んでいた。彼の料理に対して研究熱心な所は、出会った頃から変わらない。そこも彼女が好きなところだ。
「このあとも?」
「ええ、記憶がしっかりしているうちに思い付きは試しておこうかと」
そういう彼は、確かにノンアルコールを飲んでいた。この後の調整に酔ったままではいけないからだろう。
「……ねぇ?」
しかし、アキロゼはお酒で上がった体温とお互いが休みだというさっきの言葉を思いだし、身の内に沸き上がる熱を発散したかった。
「どうしまし……っっ?!」
アキロゼはお酒を口に含むと、徐に立ち上がり彼の後ろから抱きついてそのまま口を合わせた。
「……はっ!」
そのまま口移しでお酒を飲ませると、彼は目を白黒とさせていた。
「お酒飲んじゃったし、もう細かい事はできないわね?」
そういいながら彼の手を引っ張って立ち上がらせると、そのまま寝室へと連れていく。
「少し強引だったかしら?」
「まあ、強引ではありますけど」
「けど?」
「嫌ではないです」
今度は彼の方からしっかりと抱き締め返して口づけされた。
夢中になって返す2人の間で、アキロゼの大きな胸がむにゅりと潰れた。
「アキさん、もしかして下着つけて……」
「だって、久しぶりの休みだし期待するじゃない?」
お風呂から期待していた事がバレて、舌を出して笑うアキロゼ。
「ごめんね?貴方の仕事なのは分かってるけど……」
「大丈夫です。やりたいことはメモしておいたので、明日の買い出しに付き合ってくれたら」
「もちろんよ。当然、試食もついてくるわよね?」
「ええ、そのつもりです」
その返事に満足げに頷くと、アキロゼは彼を引き倒してベッドに横になった。
「そういうことなら、今日のお詫びと明日のお礼が必要ね」
「……そうですね」
「ふふっ、貴方だけのご馳走があるんだけど、独り占めして食べて貰えないかしら?」
「……極上過ぎて勿体ない気がします」
「あらあら、それなら明日の試食をとっても楽しみにさせてもらうから」
「わかりました、気合を入れておきます」
アキロゼはそのまま覆い被さってきた彼を受け入れると、
「存分に召し上がって、ね?」
耳元でそう囁いて、彼に身を任せるのだった。
その夜は身体の隅々まで美味しく食べられて、翌朝気怠げながらも満足そうに笑う彼女の姿があったという。
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