※この作品はR-18です。

王の反逆!   作:ボルメテウスさん

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旅の道中

 蒼い海がどこまでも広がる水平線を背に、木製の小さな船は帆を風になびかせながら進んでいた。東方を目指す旅は幾日も続き、時折襲い来る嵐や危険種との戦いを乗り越えながら、ギラとアカメの足跡は一歩ずつ未来へと刻まれていく。

 

 その日も、夕刻が近づくころ――海中から這い上がってきた甲殻類の危険種が船に迫った。黒曜の甲羅は硬く、触手は不規則に伸びてくる。ギラは剣を携え、立ち向かう。

 

「……これで終わりだよ」

 

 軽やかな斬撃が水しぶきを上げ、危険種は静かに沈んでいった。ギラの呼吸は穏やかで、澄んだ瞳にはいつもの優しさが宿る。

 

 その背後から、アカメが近づいた。無言で立つ姿にはいつもの静けさがあったが、赤い瞳が夕陽を受けて淡く光っている。

 

「……葬った。次は、料理」

 

 アカメの短い言葉は無骨だが、そこにあるのは確かな安心感だった。ギラは微笑みを浮かべ、手早く食材の処理を始める。

 

 海風に漂う塩の香りと、甲殻類の甘い匂い。甲板の上で火を焚き、2人は無言のまま調理に取りかかった。

 

「シェーレやナジェンダ、みんな――元気にしてると思う?」

 

 弱火の上で身をほぐしながら、アカメがぽつりと呟く。

 

「もちろんさ。あの連中が、じっとしてるはずないだろう? 戦いが終わっても、いつものように笑ってると思うよ」

 

 ギラはクルリと振り返り、静かに言った。

 想い出がゆらりと胸に漂う。

 

「シェーレは子供たちを守ることに忙しいだろうな。笑顔をつくって――でも時々、ふと寂しそうな顔をするかもしれない」

 

 アカメは視線を遠くへ泳がせる。

 黒髪が風に揺れ、瞳が海面の煌めきを映す。

 

「……ナジェンダは、あの無邪気さのまま変わらない。子供たちにからかわれて怒鳴ってるかもしれない」

 

 ギラはくすりと笑った。その声は優しく、夜の波音に溶けていく。

 

「そして、僕の故郷の子供たちは――まだ『邪悪の王』ごっこを僕にせがんでくるだろうね。どこに行っても、子供たちは変わらないものなんだ」

 

 アカメの表情が、わずかに和らいだ。

 

「……ギラは、本当に子供が好きだな」

 

「……好きだよ。だって、笑う顔は誰よりも素直だから」

 

 二人の間に静かな時間が流れ、夕陽が海面を茜色へと染めていく。調理した食事は味噌の香りと共に、優しい温もりを漂わせている。

 

 やがて、食事を終えた甲板で、ギラはそっとアカメに近づいた。

 アカメは何も言わず、ただその近さを受け入れる。

 

「……あったかい」

 

 アカメの声は、柔らかく震えた。

 

「君も、いつもあったかいよ」

 

 ギラの腕がゆっくりとアカメを包み込む。強く抱きしめるのではなく、そっと寄り添うように。無言のその抱擁は、言葉以上の意味を持っていた。

 

 アカメの肩がわずかに緩み、瞳の奥に優しい色が差す。

 波音が寄せては返し、夜の帳が静かに降りていく。

 

 翌朝。淡い光が海を白く照らし、水平線の先に大陸の影が見えた。ギラとアカメは並んで立ち、その稜線を静かに見つめている。

 

「……もうすぐだね。答えが、そこにある」

 

 アカメの声は穏やかだった。旅路の重さと希望が、混ざり合っていた。

 

「うん。みんなにまた会える。笑って……過去を語り合える日が来る」

 

 ギラの瞳は、未来を見据えていた。

 アカメは微かに笑みを浮かべる。

 

「……葬るだけじゃなく、守るものもある」

 

 彼女の言葉は、冷静で、しかし確かな決意を含んでいた。

 

 二人の足元に波が寄せ、珊瑚色の光が揺れる。

 

 ――過去も未来も、海のように深く、広く。

 

 そして、共に歩むという約束だけが、確かな道標となっていた。

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