※この作品はR-18です。

【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話   作:月見ハク

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第16話 新たな力

 夜明け前、空がわずかに白み始めたころ。

 

 静かに眠るマイのまぶたが薄く開いた。

 

「ん……おはようございます、大司教さま」

 

「おはようマイ。もうすぐ出立の時間だ」

 

 俺はベッドに腰掛けながら、彼女の頬に手を当てる。

 魔力を流し込み、マイの状態を確認した。

 

「んっ……」

 

 ふむ。

 長旅の疲れは取れているようだ。

 

「起き抜けだが魔力は安定している。相変わらず寝起きがいいな」

 

「……大司教さまとの修練の、おかげです」

 

 マイが寝ぼけ(まなこ)をこすりながら体を起こす。

 

「あ、服……着せてくれたのですか?」

 

「ああ。君は検査中に失神してしまったからね」

 

「……っ、ご、ごめんなさいっ……」

 

 昨夜の泉での激しい情事を思い出したのだろう。彼女は顔を真っ赤にしてローブの胸元をぎゅっと握った。

 

 ローブの胸元の紐を結んでいないので、襟元がゆるんで彼女の魅惑的な谷間がのぞいている。白い上乳には赤いキスマークが無数に刻まれ、わずかに露出している肩には俺の歯形が付いていた。

 

「跡が残ってしまったな。痛みはないか?」

 

 歯形を指差して言う。

 マイも自分の肩を見て、ますます顔を朱くした。

 

「え、あ……その、チクリとしましたけど……痛くは、なかったです」

 

「そうか」

 

「……あ、あの、どうして……その、噛む……のですか」

 

 彼女は自分の肩口を見ながら俺に問うてきた。

 

 うつむき、目元が黒い前髪で隠れてしまったのでその表情はうかがえない。

 ただ、声が少しだけ上ずっている。

 

 獣欲の発露だとは言えまい。

 勝手にテントを抜け出した罰という理由も、無用な恐怖を与えてしまう気がする。

 

「……検査を早く終わらせるためだ。噛んだほうが処女を確かめるのに手っ取り早いからな。滅多には行わないから安心していい」

 

「そう、なのですか……」

 

 マイはいまいち釈然としない様子だ。

 この言い訳ではさすがに無理があったか。

 

「ではあの、跡を付けるのも……理由があるのでしょうか?」

 

 早朝から質問責めだ。

 

 跡……キスマークをなぜ付けるのか。

 それも検査のたびに体中の隅々にまで。

 

 マイを独り占めにしたいから。

 俺のモノだという証を刻み込みたいから。

 何も知らない無垢な白肌に淫らな跡を付けるのが愉しいから。

 吸引するたびに可愛い声を漏らして震える様子が見たいから。

 

 どれも到底明かせない低俗な理由だ。

 

「私が、そうしたいからだ」

 

 本音に近い言葉を口にする。

 寝ずの番で頭が上手く働かず、適当な言い訳が思いつかなかった。

 

「そう、なんですか」

 

 マイが胸元の赤い印に触れ、ふっとため息をつく。

 恥ずかしそうに下唇を噛む様子からは、感情が読み取れない。

 

「私はテントに戻って出立の支度をする。君も儀式用のローブに着替えを。ああ、治癒魔法で全身の跡を消しておきなさい。」

 

 いつもより跡を付け過ぎた。

 首筋以外はローブで隠れるが、魔獣討伐の際に服がはだけないとも限らない。

 

「はい……わかりました」

 

 彼女は曖昧に微笑んだ。

 

 

***

 

 

 俺たちは夜明け前に出立し、早朝には目的地へ到着した。

 森のほとり、広場になっている場所に簡単な野営を構築し、魔獣討伐の準備を進める。

 

 そして。

 

「――これより、魔獣を滅せんとする勇敢な者達に、聖女から女神の祝福を授けます」

 

 口上を述べると、並び立つ百四十余りの兵士達が一斉にひざまずく。

 

 さすが訓練された精鋭だけあり、俺の隣に立つ美少女に骨抜きにされる者はいない。何割か頬を染めている者はいたが……先頭に並ぶ第二王子を筆頭に。

 

 俺はマイに小さくうなずく。

 

 彼女もコクンうなずき、兵士達の前に一歩進み出た。

 

「皆さんに、女神の加護があらんことを。……どうか無理をせず、何かあったらすぐに後方へ来てください。私が、癒しますから」

 

 マイはほぼアドリブの口上を述べると、最後に兵士達を祝福の光で覆った。

 

 あたり一面が白い輝きで包まれる中、最前列の第二王子が顔を上げる。

 

「聖女殿っ、我々は魔獣一匹たりともあなたのもとへは向かわせません!」

 

 感極まった様子で、マイの言葉とは微妙に食い違う答えを返す。

 

 そもそも祝福を授けている間は頭を上げないのが作法なのだが。

 どうも第二王子は、そういったルールよりも感情が優先してしまうタイプのようだ。

 

 マイも気まずそうに微笑む。

 その微笑に、第二王子はまたも見惚れていた。

 

 

「――では、散開!」

 

 第二王子の掛け声で、兵士達が森へ分け入っていく。

 

 俺たちも数人の精鋭に守られながら最後尾に付いた。

 

 森に入ると、足場の悪さに驚く。

 太い木の根がびっしりと地表を覆い、少し進むだけでも足腰を要求してくる。

 上を見れば大木の枝葉がびっしりと天を覆い、朝陽を遮っていた。

 

「マイ、暗くて見通しも悪い。足下に気を付けなさい」

 

「はい、大司教様」

 

 彼女は緊張した様子で、慎重に一歩一歩を踏み出している。

 

 先に入った兵士達の姿はもう見えず、あたりは静寂に包まれていた。

 

「大司教様、聖女様、我々はここで待機となります」

 

 それは見上げるほどの巨木だった。この大木ぞろいの森でも群を抜いて高い。

 

「マイ、ここでしばらく休憩だ。すぐに治癒を掛けられるよう心の準備をしておきなさい」

 

「はい」

 

 すると護衛の兵士の一人が口を開く。

 

「ご安心ください、我々は森での討伐に慣れております。今回は人数も多い、それに」

 

「それに?」

 

「今日は王子殿下もおりますから」

 

 次の瞬間、ドーンとけたたましい爆発音が響いた。

 前方に真っ赤な火柱が立ち上っている。第二王子の炎熱魔法だろう。

 

 俺は思わずマイを見た。

 

 攻撃魔法で村を焼かれた彼女にとっては、トラウマを刺激されかねない音と光景だったからだ。

 

「大丈夫か?」

 

 彼女にしか聞こえない声でつぶやく。

 

「はい、大丈夫です。……聖女ですから」

 

 マイが穏やかな笑みを浮かべる。

 手元も震えていない。無理をしているわけではないようだ。

 

 知らぬ間にトラウマを克服したのだろうか。

 

「私が防護魔法を展開しているから安心していい」

 

 兵士達にも気づかれぬよう、薄い防護魔法で俺とマイの周囲を覆っている。

 低級魔獣の不意打ちくらいなら防げるし……兵士の奇襲にも耐えられるだろう。

 兵士達の中に裏切り者がいないとも限らない。

 

「はい……わかってます、ので」

 

 マイが恥ずかしそうに口元をゆるめた。

 

 微弱な防護魔法は、同じ使い手でないと中々察知できないはずだが。

 彼女は私の魔力に敏感なのかもしれない。

 

 ドーンと再び重低音が響く。

 

 前方を真っ赤に染める炎熱の柱が上がり、鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

 今回の作戦はいたってシンプルだ。

 

 まず兵士達が森に散り散りとなり魔獣を捜索する。

 出くわしたら追い込んだり挑発したり、囮になったりして、第二王子の待つ開けた場所まで誘導。

 魔獣が第二王子のもとに集まったところで、炎熱魔法で一掃するというものだ。

 

 これなら味方にほとんど損害を出さず、聖女のいる後方へ魔獣を討ち漏らすこともない。

 

 だが。

 

「まずいな」

 

 俺は防護魔法の強度を一段階上げた。

 

 第二王子の炎熱魔法の威力が強すぎる。

 

 おそらく後方にいるマイを意識して力んでしまっているのだろう。彼女に自分の魔法を見せたいという欲求も加わっているのかもしれない。

 

 だが強すぎる魔法は、必要以上に魔獣を刺激する。

 

 それは最奥から上級魔獣を誘い出し、その気配に驚いた低級魔獣の大暴走へとつながってしまう。

 

「マイ、私の後ろに下がっていなさい」

 

「えっ……」

 

 彼女を俺と巨木との間に隠す。

 

「――南東、小狼(ころう)型が複数!」

「南西からも、ちっ……熊型が五はいるぞ!」

 

 悪い予想が当たったらしい。

 

 護衛の兵士達が俺とマイを半円状に取り囲む。防衛陣形だ。

 

「聖女様をお守りしろ!」

「西、あれは……大狼(たいろう)型だ!」

 

 彼らの視線の先、暗い茂みの奥で大きな影が動いた。

 人一人をたやすく丸飲みにできそうなほどの巨大な狼だ。兵士が縦に二人分くらいの高さから深紅の瞳がこちらを眺めている。

 

 紛れもなく、上級魔獣だ。

 

 王都の精鋭でも倒すには十人掛かりと聞く。

 ここにいる護衛の兵士は精鋭中の精鋭のはずだから、倒せないことはないだろう。

 

 ただし、相手が一匹の場合なら。

 

 俺たちは十を超える低級魔獣にも囲まれている。

 

「ワ゛ォォォンッッ――」

 

 腹に響く遠吠えとともに、大狼型が飛び込んできた。

 

「怯むなっ!」

「迎え撃て!」

 

 兵士達が攻撃魔法を打ち、剣技を放つ。

 ガキィンッ――とつばぜり合いの音がして、気づけば目の前で兵士の剣が大狼型の牙を防いでいた。兵士のかかとが地面にめり込む。

 

 魔獣は太い前脚を振り上げると、その兵士を切りつけようとした。

 再びガキィンッと音がして、別の兵士がその爪を弾く。

 他の兵士達も大狼型の黒い体躯を斬りつけ、攻撃を弾き、翻弄していた。

 

 討ち取るのは時間の問題だろう。

 

 俺は背後にいるマイに声を掛けた。

 

「マイ、そこから治癒は届くか? 兵士達が傷ついたら即座に回復させるんだ」

 

「はい、できます」

 

 彼女はもうすでに、半身を乗り出し手のひらを兵士達に向けていた。

 

「よろしい。兵士達の動きをよく見て――」

 

 バチンッ――と強烈な破裂音が鳴った。

 

「ちっ、もう襲ってきたか」

 

 目の前で、人の背丈ほどもある灰色の狼が三匹、宙空で静止している。小狼型だ。

 俺たちに飛びかかろうとして防護魔法に阻まれたのだろう。

 

「大司教さまっ」

 

「大丈夫だ、君は兵士達を見ていなさい」

 

 俺は防護魔法の強度を最硬度まで上げた。

 

 バチッ、バチッと小狼型が次々に襲ってきて、弾かれる。

 

「グオォォォッッ」

 

 低い雄叫びを上げ、今度は巨大な熊が飛び込んできた。四足状態でも俺の背丈を優に超える大きさの、熊型だ。それも二匹。

 

「次から次へと」

 

 別方向から飛び込んできた熊型は高く跳躍すると、覆いかぶさるように降ってきた。

 

 バチィンッ――と大きな破裂音が鳴り、熊型が半円球の防護魔法に乗っかる。

 俺は真上に手をかざすと、防護魔法を重ね掛けした。

 

「ギュオッッ」

 

 俺の手のひらから展開された防護魔法が、最初に張った防護魔法を打ち破り、そのまま魔獣達を弾き飛ばす。

 

「聖女様! おい聖女様の守りをっ」

 

 兵士の一人がこちらへの襲撃に気づき声を上げる。

 

「問題ない! 君たちはその個体に専念を」

 

 俺は懲りずに襲い掛かってくる低級魔獣を弾き飛ばしながら、兵士達に声を張り上げた。

 現状、一番の脅威は上級魔獣だ。あれは俺の防護魔法でも防ぎきるのが難しい。

 

 幸い、大狼型は血をだらだらと流し動きも鈍っている。

 あの個体を倒し切ってから、こちらに迫る低級魔獣を一掃してもらったほうが確実だ。

 

 それまで俺が防護魔法をもたせればいい。

 

「マイ、回復だ」

 

「はい」

 

 背後の彼女に指示を出す。

 

 伸ばされた手のひらが淡く光り、目の前で手傷を負った兵士を治す。

 

「上出来だ」

 

 黒髪を撫でてやりたくなったが、あいにく俺の両手は防護魔法の維持で塞がっていた。

 

 

 どれくらい経っただろうか。

 

 兵士達が上級魔獣を着実に追い詰めていく中、俺も襲いくる低級魔獣を次々に吹き飛ばしていた。

 

 もう何度、防護魔法の重ね掛けをしたのか覚えていない。

 

 魔獣達も何度も弾かれた衝撃や地面に叩きつけられたダメージで、だいぶ消耗しているようだ。動きがワンパターンになってきている。

 

 それでも執拗に俺たちを襲ってくるのは、魔力を帯びた人間の血肉が魔獣の大好物だからだ。

 その中でも、治癒の魔力は彼らにとって格別らしい。聖女であるマイならさぞ美味なのだろう。

 

 だからこそ、魔獣討伐で聖女は守りの厚い最後尾に配置される。

 

「マイ、魔力は残っているか」

 

「大丈夫です」

 

 そう言うマイの額には汗がにじんでいる。

 先ほどから何度治癒を放ったか分からない。彼女の魔力も限界が近いはずだ。

 

 魔獣達も自身の体力の限界を悟ったのか、捨て身に打って出てきた。

 

 十を超える魔獣が一斉に跳躍し、襲い掛かってくる。

 

 俺はいったん防御魔法を解除すると、彼らの爪や牙が肉薄するタイミングで魔力を爆発させた。

 

「弾け飛べ」

 

 最大出力の防御魔法を放つ。

 

 バチィィンッ――。

 

 一瞬にして広がった防御魔法とぶつかり、魔獣達が吹き飛ぶ。

 

 飛び掛かってきた勢いと落下のスピードをそのまま利用した。ぶつかる力が大きいほど、その反動も凄まじい。

 

 魔獣達の体は大木を超えるほど天高く舞い上がり、そのまま落ちてゆく。

 

「ギヤッ……」

 

 硬い根の這う地面に叩きつけられて、魔獣達が潰れたような鳴き声を上げる。

 魔獣がこの程度で死ぬとは思えないが、しばらくは動けないだろう。

 

 見れば、兵士達が相手をしている大狼型も、左の前脚を失い満身創痍だ。後はとどめを刺すだけだろう。

 

「ふぅ」

 

 思わずため息をつく。

 フルパワーで魔力を放ったせいか、防御魔法が一瞬解けた。

 

 そのとき。

 

「大司教さまっ」

 

 マイが声を上げる。

 その視線の先、手負いの小狼型がまっすぐ飛び掛かってきた。

 

 急いで魔力を練り上げ、手のひらをかざす。

 

 くそ、ギリギリか。

 

「来ないでっ!」

 

 マイの左手が伸びる。

 

 その瞬間、魔獣がビクンと震えて静止した。

 

 ――防御魔法。

 

 俺の手のひらから展開された魔力が小狼型を弾き飛ばす。

 

 最後の特攻だったらしく、小狼型は木の幹に体を打ち据えるとそのままピクリともしなくなった。

 

「……マイ、今のは」

 

「え……?」

 

 俺とマイはお互いに戸惑いながら、目を合わせる。

 

 すると背後でドンと音がした。

 

 振り向くと、大狼型の頭部が燃え盛っている。黒い巨体がゆっくりと倒れ込み、やがて動かなくなった。

 

「マイ殿っ、ご無事ですか!」

 

 第二王子が兵士達を引き連れて走ってくる。

 

 とすると今のは王子の炎熱魔法か。

 見事に魔獣の頭部だけを燃やしている。これなら草木の密集するここでも燃え移ることはない。

 

 最初からその見事な魔力制御を行ってほしかった。

 

「周囲の魔獣を一掃せよ!」

 

 王子の掛け声で散らばった兵士達が、次々に低級魔獣達を打ち倒していく。

 

 どうやら戦いは終わりのようだ。

 

「ふぅ」

 

 俺は防御魔法を維持したまま、もう一度ため息をついた。

 

 

***

 

 

 死んだ魔獣の事後処理を一部の兵士に任せ、俺たちは帰路についていた。

 

 木の根を上ったり下りたりしながら歩いていると、第二王子がマイの隣に並んだ。

 

「マイ殿、申し訳ありませんっ……今回の魔獣の暴走は、全て私のせいです。私が魔法を考えなしに使ったせいだ」

 

 意外にも第二王子は素直に謝罪してきた。

 その顔は本当に申し訳なさそうで、良くも悪くも不器用な性格なのだと分かる。

 

 マイを助けるために走ってきたときの必死な形相といい、彼女を本気で思っているのが伝わってくる。悪い人間ではないのだろう。

 

 ただ、いつの間にか彼女の呼び方を「マイ殿」に変えているのは少し気になるが。

 

「いえ、王子殿下の隊の皆さんも怪我がなくて良かったです。私たちも無事ですから、気に病まないでください」

 

 マイが穏やかな聖女の笑みを浮かべる。

 

 その(ひたい)に浮かぶ汗に、第二王子は気づいていないのだろう。彼女の言葉に顔を明るくし、すぐに真剣な表情に戻した。

 

「今回の件は私の責任です。どうかこの後、正式に謝罪をさせてください」

 

「いえ、あの……」

 

 すると兵士の一人が王子を呼ぶ。野営の守りについて相談があるらしい。

 

 「ではマイ殿、また後で!」と言い残し、王子は銀髪を揺らしながら走り去っていった。

 

 

「マイ、いいか?」

 

「はい、大司教様」

 

 俺が声を掛けると、マイが隣に来る。

 

「先ほど、君は小狼型……灰色狼の姿をした魔獣の動きを止めた。自分で気づいているか?」

 

「あ、はい……なんとなくですが」

 

「どうやった?」

 

「どうって、えと……分かりません。あのときはただ、無我夢中で」

 

「そうか」

 

 間違いない。

 

 あれは()()()()だ。

 

 電撃魔法の亜種で、催眠魔法よりも攻撃性が高い。

 

 魔法は、使用者の精神に大きく影響する。

 どうひっくり返っても心優しい聖女が覚えられるものではない……はずだ。

 

 彼女の特殊な過去が、影響しているのだろうか。

 理由は不明だが、万が一覚えられたとしても、攻撃的な精神が影響して治癒魔法を使えなくなってしまうかもしれない。

 

 本来なら、覚えさせないほうがいい。

 だが。

 

「……マイ、あれは麻痺の術という」

 

「まひの、術?」

 

「ああ、相手の体を痺れさせて一定時間動けなくする。強力なものなら相手の脳を灼き切ることすら可能だ」

 

「そんな……それを、私が……?」

 

「君は、麻痺の術にも適性があるようだ。催眠魔法より、はるかにずっと」

 

 なぜか俺は……興奮を感じていた。

 

「マイ、覚えたいか?」

 

 低い声で問いかける。

 

 彼女はしばらく下を向いて沈黙し、やがて俺を見上げた。

 

「覚えたい、です」

 

「なぜだ?」

 

「私も……守りたいから」

 

 こちらをまっすぐ見つめる金色の瞳に、暴力的な色は微塵も含まれていない。

 ただ無垢で純粋な思いだけが見て取れた。

 

「やはり、君は面白い子だ」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。……マイ、放ったときの感覚を覚えているね」

 

「はい」

 

「ではその感覚を何度も再現しなさい。君ならすぐに扱えるようになるだろう」

 

「よいの、ですか?」

 

「それが君の望みなのだろう」

 

「あ、ありがとう、ございますっ……」

 

 マイが感極まったように下唇を噛み、うつむいた。

 

 本当に、面白い。

 

 誰よりも理想的な聖女であるのに、これまでのどんな聖女にも当てはまらない。

 俺が幼い頃から思い描いていた理想の聖女像を、たやすく(くつがえ)してくる。

 

 本当にたまらない女だ。

 

「そうだ、マイ」

 

「なんでしょうか?」

 

 俺は彼女の黒髪に手を置くと、ポンポンと撫でた。

 その頭頂部にまで汗がにじんでいるのを感じる。

 

「兵士達の治癒、見事だった。彼らの命があるのは君のおかげだ。よく頑張ったな」

 

「ん……ッ」

 

 マイは切ない声を漏らすと、一度だけ肩を震わせた。

 

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