【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話 作:月見ハク
森を出ると、空は夕焼けに染まっていた。
薄暗い森の中にいたので気づかなかったが、もう半日以上が経過していたらしい。
ならばこの異常な疲労感と空腹感も納得できる。
俺たちは飲まず食わずで魔獣の猛攻を防いでいたのだ。
「マイ、テントに戻ったらすぐに食事を取って眠りなさい。明日はまた王都帰還への長旅になる。体力を回復させておくんだ」
「分かりました。……大司教さまは?」
「私は少し書類の整理がある」
夕陽に染まる野営地に着くと、俺はここまでずっと護衛をしてくれていた兵士達のリーダーを呼び止めた。
マイに聞こえないよう、彼に耳打ちをする。
「疲れているところ申し訳ないが、今夜テントの護衛もお願いできるか?」
「はっ、元よりそうするよう王子殿下に命じられております。また魔獣が暴走するとも限りませんので」
それもあるが、俺の心配事はもう一つある。
「聖女のテントには誰も近づけないでほしい。何人たりとも、絶対にだ」
「はっ、もちろんです!」
「食事の毒見も、君たちの誰かが行ってくれないか?」
「承知しました!」
一緒に死闘をくぐり抜けたから分かる。
彼らは信頼に足る者達だ。
もし襲撃者の仲間であれば、魔獣の暴走に紛れて俺を攻撃することもできただろう。しかし彼らは命がけで俺とマイを守ってくれた。
テントの周囲に兵士達が配置に付くのを待ってから、俺はマイに声を掛ける。
「ではな、マイ。今夜はしっかり休みなさい」
「はい」
「くれぐれも勝手にテントを出ないように。もし破ったら、また厳しい罰を与えるからな」
「……っ、はい……」
耳元でささやくと、彼女の耳がみるみる赤くなった。
泉での激しいセックスを思い出しているのだろう。
瞳を揺らしてうつむいてしまった。
それでいい。
マイがテントの中に入っていくのを見届けてから、俺も自分のテントに入る。
荷物を床に落としながら、簡易ベッドまでたどり着く。
そこで視界がグラリと揺れ、シーツの上に倒れ込んだ。
「まったく……俺としたことが」
体が重く、全身が泥の塊になったみたいだ。
酷い脱力感で指先一つ動かすことができない。
魔力枯れだ。
体が失った魔力を補充しようと、強烈な睡魔を呼び起こす。
むしろよく野営地まで歩いてこれたものだと思う。あの特大の防護魔法を放った瞬間、俺の魔力はほぼゼロになった。
野営地に着くまでマイの周囲に防護魔法を展開できていただけでも奇跡だ。
だが今の俺には、わずかな防護魔法を展開する余力もない。
第二王子が陣頭指揮を執り、過剰なほどに野営地の守りを固めている。
テントを見張るあの兵士達も信用できる。
ここは、彼らを信じるとしよう。
俺はまぶたの重さに抗うことができず、眠りの底へ落ちていった。
意識が浮上していく感覚がして、俺は薄く目を開いた。
視界は白いシーツに覆い尽くされている。
どうやらうつぶせで倒れた体勢のまま熟睡していたようだ。
指先を動かしてみる。
どうやらわずかばかり体勢を変える程度には、体力は回復しているらしい。
俺は寝返りを打ち、仰向けの体勢になった。
天井が暗い。テントの入り口を見ると、差し込む光がなかった。
どうやら夕暮れから夜になるまで眠っていたらしい。
「マイ……」
俺はわずかに回復した魔力を振り絞り、さっそく遠視の術を発動した。
まぶたの裏に彼女の姿を映し出す。
マイは、小高い丘の上に立っていた。
「ここは……確か」
野営地の外れにある、森を見渡せる丘だ。
彼女は儀式用のローブから普段使いの白いローブに着替えている。
どうやら誰かと話をしているらしい。
その視線の先にいるのは――第二王子だった。
おそらく王子が悪気なく強引に連れ出したのだろう。
王子の強い頼みとあれば、護衛している兵士はもちろんマイも易々とは断れない。
彼女と王子は人一人分くらいの間隔をあけて並んでいた。周囲に他の人影はない。
いや、よく見れば丘を取り囲むように兵士が配置されている。
マイを守るためのものなのだろうが、俺には彼女を丘に閉じ込める檻のように見えた。
一瞬にして、どす黒い殺意のような感情が沸き立つ。
急いで体を起こそうとするが、背中が少しだけ浮き、すぐにベッドに沈んだ。
歩けるようになるには、もう少し掛かるらしい。
いざとなれば、
副作用はあるが、致し方ない。
俺は胸元の小瓶に手を置きながら、マイと王子の会話に聞き耳を立てた。
「――マイ殿、本当にすまなかった。今後あなたを随行に呼ぶときは絶対に同じようなミスをしない。どうか許してほしい」
第二王子が頭を下げる。
「あの、頭を上げてください。そんなに何度も謝らなくても、私は元より全員が無事に帰還できたことを喜ばしく思っていますから」
どうやらこの丘でもさっきから謝罪を繰り返しているらしい。
「そ、そうですか」
「はい」
マイはふわりと笑う。誰もが赦されたような気分になる聖女の微笑みだ。
「あなたは……マイ殿は、本当にお優しい」
「そんなことはありません」
「優しいあなたには、今回の魔獣討伐は酷だったのではないですか? 魔獣もこの世界に生きるものの一つだ。万人を愛する聖女にはさぞお辛い光景だったでしょう」
やはり、微妙に会話が成り立っていない。
彼女も困ったように微笑んだ。
「私は……森の外れの農家の娘で、幼い頃から教会で暮らしていました。どちらもとても田舎で、時おり魔獣の脅威にさらされていました。その恐ろしさを、私は十分に知っています。決して人とは分かり合えないことも……」
魔獣は、人や動植物が魔力を過剰に摂取し、思考を失った成れの果てだ。
ただ魔力を――魔力を帯びた血肉を食らうために生きている。
言葉や情は、そもそも通じない。
「意外ですね。聖女ならば魔獣にも慈悲をお持ちかと」
「歴代の聖女様は、そうだったかもしれません。私もそうであったらと思います。でも、現実を見なければとも思うのです。聖女の力には限りがあって、だからこそ祝福を授ける相手を選ばなければいけないときもあると……そう教わりましたから」
これは、俺の教えだ。
聖女の優しさには際限がない。
かつて魔獣にも慈悲を与えようとした聖女は、現実とのギャップに気を病んで治癒の力を失ってしまった。
だからマイには、魔獣とは分かり合えないのだと口酸っぱく教えてきた。
そのせいで――。
「――でも、だからこそ私は人を信じたいと思うのです。どんな人とでも、いつかはきっと分かり合える。女神の前に人は皆平等で、手を取り合える存在なのだと、私は信じたいです」
彼女は、人に対して底なしの優しさを発揮してしまう。
それはマイの美徳であり、弱点だ。
世の中には、ゴーゼ司教のように決して分かり合えない人間もいる。
いや、俺のような人間に騙され体を差し出してしまう彼女のことだ。
もしかしたらゴーゼ司教にすら、慈悲をかけようとするかもしれない。
「分かり合う、ですか。……私も、あなたと分かり合うことはできますか?」
王子がマイのほうを向き、真剣な眼差しを送る。
その瞳には熱い恋慕の情がこもっている。
「ええ、きっと」
一方のマイは穏やかな聖女の笑みを送り返す。
王子の真意には微塵も気づいていない様子で。
その純粋な笑顔に、王子は呆れたような苦笑いを浮かべる。
「……あなたは、体だけでなく心のほうも無垢なのだな」
「えっと」
「先ほど、女神の前に人は平等と言いましたね」
「はい」
「では、あなたも自由に恋をしてもいいのではないか?」
「えっ……」
「あなたも恋をする権利はある。でないと不公平ではないですか」
「こ、恋……?」
マイは目を見開き、顔に戸惑いを浮かべる。
さっきまでの凛とした雰囲気は消え、年相応の少女に戻っていた。
「皆恋をして、むつみ合い夫婦となる。それが人であるはずだ。なぜ聖女にだけそれが許されない」
王子がマイに一歩近寄る。
手を伸ばせば抱き締められる距離だ。
一方の彼女は、思い詰めたように下を向いている。
やがて、覚悟を決めたように王子を見上げた。
「王子殿下、男女のむつみ合いとは……どのようなことをするのですか?」
「なっ……」
マイの真剣な眼差しに、王子の顔が真っ赤に染まる。
「く、口づけだ」
「……口づけ」
マイは指先で、自分の唇に触れた。
しなやかな指がしっとりと色づく唇を撫でる。
その吸い込まれそうな金色の瞳は潤み、熱を帯びていた。
ゴクリと、王子が喉を鳴らす。
「こうして見つめ合い、唇を重ねるのです。そうすれば……言葉は無くとも気持ちが通じ合うのです」
王子が再び半歩踏み出す。
マイのローブに王子の着ている皮鎧がくっつく。
しかし彼女は王子の接近を気に留める様子もなく、もう一度彼を見つめた。
「気持ち……相手の気持ちは、どうしてそうだと分かるのですか?」
「そ、それは……自ずと感じるものでしょう」
「自ずと、感じる……」
マイはその言葉を、まるで宝物のように噛みしめた。
自分の胸に手を当て、ほんのりと眉間にシワを寄せている。
思い詰めたような、何かに気づいたような顔だ。
「……試してみますか?」
「え?」
王子がもう半歩を踏み出した。
俺は懐に隠し持った小瓶に手を掛け、フタを開ける。
このテントから丘はそう遠くない。
が、マイは王子の体と接触する前に後ずさった。
「あっ……」
「危ないっ」
よろけて後ろに倒れそうになったマイを、王子が腰に手を回して支える。
しかしその勢いで彼女がずっと握っていたローブの前紐が
白くて豊満な谷間に、王子の視線が釘付けになる。
その無垢な素肌には、赤い跡が一つだけ刻まれていた。
「見ないでくださいっ……」
マイが慌てて胸元を両腕で隠す。
「す、すみませんっ……マイ殿」
王子がゆっくりと彼女の体から離れる。
マイはその間ずっと、胸元をぎゅうと閉じていた。
「……王子殿下、そろそろ失礼いたします」
「あ、ああ……私のほうこそ、こんな夜半に連れ出してすみません」
一瞬のことだったので、マイの胸に付けられたキスマークには気づいていないだろう。彼女の魅惑的なふくらみを見てしまった衝撃で、それどころではなかったはずだ。
王子の頬はいまだに紅潮している。
ただ、マイが明確な拒絶をしたことに、少なからずショックを受けているようだった。
俺は小瓶のフタを閉め直すと、懐にしまい込んだ。
マイが胸元を手で押さえながら、丘を下る。
下り坂だからだろう。彼女は少し早足だった。
野営地に戻ると、並び立つテントの間をまっすぐ進む。歩く速度は早いまま。
やがて一つのテントの前で立ち止まる。
俺やマイの食事を用意しているテントだ。中には、あの護衛の兵士の一人がいた。
彼女は胸元の前紐を締め直すと、一度息を吐いてからテントの中へ進んだ
「こんばんは」
挨拶をすると、兵士が勢いよく立ち上がる。
「せ、聖女様、なぜこのような場所へ!? もう王子殿下の用事は済んだのですか?」
「あの……大司教様のお食事は、まだありますか?」
「え、大司教様の……ええはい、まだお取りになっていないようです。毒見は済んでいるのですが」
「では、私が運んでもいいでしょうか」
「聖女様が自らですか!? いやいいですが……そういうのは私どもの務めでして」
「お願いします」
頭を下げるマイに、兵士は慌てた様子で両手を出す。
「あ、頭を上げてください。分かりました聖女様、ではよろしくお願いします」
「ご無理を言って申し訳ありません。ありがとうございます」
安堵したようにニコリと微笑む美少女に、兵士はしばし固まっていた。
お盆を持ったマイが、テントの間を歩く。
さっきとは打って変わって慎重な足取りで、お盆の上の冷めたシチューがこぼれないよう一歩一歩を踏み進めている。
彼女は俺のテントの前まで来ると、深呼吸をした。
意を決したようにテントの入り口をくぐる――。
「――大司教さま。マイです」
その声で、俺はまぶたを開けた。
「入りなさい」
厳かな声を発してみる。
どうやら声は出るようだ。
「失礼します。お食事を持ってきました」
「君がわざわざ持ってきたのか」
「はい、あの……えと……」
マイがお盆を持ったまま言葉に詰まる。
聖女は嘘が付けない。
このまま俺が黙っていたら、彼女は洗いざらい話してしまうだろう。
おおかた俺の不調に勘付き、心配になったというところか。
いや、王子に迫られたことで心細くなったのかもしれない。
幼い頃も、彼女は不安なことがあると、よくこうして些細な用事を見つけては俺の執務室に来たものだ。
今回も、そうなのだろう。
「大司教さま、お体の具合が悪いのですか?」
マイが心配そうに聞いてくる。
「平気だが、なぜだ?」
「お顔が少し、赤いような気がします」
「気のせいだろう」
俺は渾身の力を振り絞って体を起こした。
「あ、あの無理に起きなくてもっ……」
「無理はしていない。食事をいただこうか」
低い声で言うと、彼女はゆっくりと俺の膝にお盆を置いた。
冷たくなったシチューとパンを眺める。
さすがにまだ食欲は湧かないらしい。
「あの、大司教さま」
「なんだ?」
「私は、治癒の修練に励んできました。だから、その……その人が不調かどうかくらい、分かります」
マイがすべてを見透かすような瞳でじっと見つめてくる。
確かに、聖女相手にこの手の嘘は分が悪すぎるようだ。
「……少し、疲れただけだ。じきに回復する」
「では、治癒を掛けます」
彼女が細腕を俺の額へ伸ばしてきた。
治癒魔法は相手の体に魔力を流し込み、活性化させる術だ。
その意味では、俺の魔力枯れの回復も早まるだろう。
だが。
「だめだ」
俺はマイの腕をつかんだ。
その小さい体がビクリと震える。
「なぜ、ですか」
「君も疲れているはずだ。それに治癒魔法はおいそれと気軽に使っていいものではない」
俺の防護魔法が心もとない今、万が一彼女の身に何かがあったとき、癒せるのは彼女自身しかいない。
俺はなるべくマイの治癒魔法を温存しておきたかった。
「大丈夫です」
マイの腕にぐっと力が入るのが分かった。
「だめだ」
「だめじゃ、ないです」
ここまで強情な彼女は初めてだ。
仕方がない。
「マイ、君はあれだけ念押ししたのにさっきテントを抜けたね。いったい何をしていたのだ?」
「それは、あの……王子殿下に、呼ばれて」
「私は絶対にテントから出るなと言ったはずだ。王都に帰ったら厳しい罰を与えるから、覚悟しなさい。あの泉でしたときとは比べものにならないくらい、きつい罰だ」
「っ……」
マイがもう片方の手で胸元をぎゅっと押さえた。
みるみる顔を赤らめ、下を向いてしまう。
そう、それでいい。
そうして俺に怯え、俺の胸の中でただ守られていればいいのだ。
「大司教さま」
「なんだ?」
「私はもう、幼くありません」
「それがどうした」
「魔力の量も、増えました。自分の限界だって分かっています」
「そうか」
確かに、そうかもしれない。
俺はつい、マイを出会った頃の彼女に重ねてしまう。
彼女の言うとおり、あれだけ森で治癒を使ったはずなのに体力にはまだ余裕もありそうだ。
「大司教さま……もっと、私のことを信じてください」
マイが下を向いたまま喉を震わせる。
肩をビクつかせ、今にも泣きだしそうだ。
しかし、その白い頬に涙は流れなかった。
その代わり、ゆっくりと彼女が顔を上げる。
「私はもう、聖女ですよ」
涙目で、穏やかに笑う彼女がそこにいた。
それは初めて会った頃の少女ではなく、誰をも安心させ魅了する聖女の微笑みだった。
どうやら、
「そう、だな……俺はマイを信じよう」
「えっ……」
彼女が呆然とした様子でこちらを凝視する。
次第に頬が赤くなり、俺の手から片腕を引っこ抜くと両手で胸元を押さえた。
「マイ、治癒を掛けてくれ。少しでいい」
「……っ、はい、今……掛けます」
マイは呼吸を落ち着かせると、おずおずと片手を伸ばしてくる。
細い指先が額に触れた瞬間、ぽうっと全身が温かくなった。
「これが、マイの治癒か」
「はいっ……」
思い返せば、俺は彼女の治癒を数えるほどしか味わったことかない。
それもマイがまだ覚えたての頃、試しに掛けさせたのと修練中に数度やらせたくらいだ。
こんなにも心地いいものだったとは。
失われた魔力が戻ってくる。
これなら、軽い防護魔法をしばらく展開できるだろう。
「マイ、今夜は私のそばにいなさい」
彼女が一瞬、息をのんだ。
俺は動けない。
彼女のテントまでを覆う魔力はまだない。
なら、ここにいてもらったほうが手間も省ける。
マイを防護魔法で一晩包むくらいなら、今の俺でも可能だ。
明日の分の魔力も温存できる。
「……はい、大司教さまのそばに、いますから」
「よろしい」
満足してうなずくと、マイはふんわりと微笑んだ。
それは聖女のものではなく、初めて会った頃の少女の笑みだった。