【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話 作:月見ハク
村は相変わらず閑散としていた。
夜闇がおそろしいのか、村の男たちがいくつものかがり火をたいて回っている。
「ああ大司教様、ペトラがっ、ペトラが連れ去られてしまいましたっ!」
「村長、落ち着くのだ。まずは状況を整理したい」
取り乱した様子の老人がローブをつかんでくる。
聖騎士長が離そうとしたが、俺はそれを視線で制止した。
「村長よ! 賊は森のほうへ逃げたのだな!」
「あの、そちらの方は」
村長が、茶色い麻服に身を包んだ第一王子の大声に怯える。
「俺は凄腕の冒険者だ! 案ずるな、俺たちが必ず助け出してやる」
「はあ……」
今俺たちは村の中央広場に陣を張り、聞き取りをしていた。
マイは、広場に停めた馬車の中にいてもらっている。
今のところ、彼女の出番はない。
賊たちは突然現れると村の教会を急襲し、ペトラだけを攫っていったのだという。
だから幸い負傷者はなし。
そう報告する村長の表情は、絶望に沈んでいた。
聖女見習いは、その存在自体が村の
治癒の――奇跡の力を発現した、女神に祝福されし乙女。
村人のけがや病気を治し、その清らかな精神は村人の心をも癒す。
その見目麗しさも相まって、村全体から可愛がられ、その純粋な心根も育まれていく。
聖女見習いが大事にされる、表の理由だ。
裏では、村の財政を潤わせる存在とみなされている。王都教会から支給される保護支援金だ。
これが寂れた小村にとってはかなり大きな収入となる。
村人たちは聖女見習いを守り、大事に育てる。その対価に王都教会は金を支払う。
美しく、心も清らかで、おまけに治癒魔法を扱える聖女見習いは、裏市場で高く売れる。お抱えの治癒師や性奴隷にしようとする貴族や商人は後を絶たない。
実際、かつては村に治癒の力を発現する娘が現れると、教会に報告せずにこっそり奴隷商に売るところも多かった。
だから俺は大司教になったとき、真っ先に村への支援金を増額した。
王都教会に上がれるほどの聖女見習いに育った場合は、多額の報奨金も出している。
別に良心からそうしたわけではない。
未来の聖女候補、マイのような美しい娘をみすみす奪われたくないという、たんなる下心だ。
そんなことを思いながら、俺は村長のつたない報告に相槌を打っていた。
「――分かった。村長、報告ご苦労。賊……いや背信者たちはまだ遠くへは行っていないだろう。だがあまり猶予はないな」
急襲した賊は四名だったという。残されていた馬の
だが背信者が組織的な聖女狩りだとして、そんな少数で直轄領内を移動していたとは考えにくい。
おそらくあの領境にある森で、本隊と合流するはずだ。
合流したら、この夜闇に紛れて別のどこかへ――おそらく帝国方面へと逃走するだろう。その前に捕らえなければならない。
「なら急ぎ追撃しよう! 我が直轄領でそのような暴虐を働く者どもめ、俺自らが鉄槌を下してやる!」
第一王子は電撃魔法の使い手だ。
彼を護る近衛騎士も相当の猛者たちだ。
ここは彼らに任せるのが得策だろう。
第一王子が自由で無鉄砲な性格でよかった。
「よし皆の者、賊を追うぞ! 大司教殿、聖女の同行を許可いただきたい!」
「……なんだと?」
「おそらく戦闘になる。捕まった聖女見習いがけがをしているやもしれん! 治癒魔法を扱える者が必要だ。大司教殿もそれは分かっているだろう」
確かに、この国で聖女はただ守られる存在ではない。
魔獣討伐遠征に同行し、時には国内紛争や他国との戦争の前線へ赴き、傷ついた兵士や住民を癒す。それも聖女としての役目だ。
残念ながら。
「ええ、
「大司教さま」
背後で、鈴の鳴らしたような美声が響いた。
嫌な予感とともに振り向くと、そこには白いローブに身を包んだマイが立っていた。
優しげな聖女の笑みを浮かべ、俺をまっすぐに見据えている。
「……マイ」
「私なら、平気です。私も救出に同行させてください」
第一王子だけでなく近衛騎士からも「おお」と興奮気味の歓声が上がる。
村長や村の男たちも、落ち着いた振る舞いを見せるマイに魅せられていた。
彼女が、握った拳を震わせているのに気づくことなく。
だが、行かせないと言ってももう無駄だろう。場の雰囲気が整ってしまった。
「よくぞ言ってくれた、聖女マイ! これで我々には女神の加護が付いた。百人力、いや万人力だ! 必ず娘を救出し、不届きな賊どもを一網打尽にするぞ!」
「おおっ!」
近衛騎士たちの士気が一気に上がる。
人心を煽り、鼓舞するのに長けているようだ。王としての才覚は第二王子以上かもしれない。
(厄介な男だ)
俺はマイに近寄ると、たしなめるように厳かな視線を浴びせた。
「マイ、今回は魔獣討伐のときとは違う。君の身に危険が及ぶ可能性は高いし、あの時よりも、さらにおぞましいものを見ることになるかもしれないぞ」
人と人の、血で血を洗う行為。
それだけでなく、賊に捕まった聖女見習いの悲惨な末路を目の当たりにするかもしれないのだ。
「大司教さま、覚悟はできています」
彼女はまっすぐに俺の目を見つめ返してきた。
「素晴らしい、それでこそ女神の
第一王子が大声で叫ぶ。
俺は小さくため息をついた。
こうなってしまっては、俺も覚悟を決めるしかない。
マイを、誰にも触れさせない。
「了解しました。ならば私も同行します」
「大司教殿がか?」
「当然です。私は聖女の守護者。防護魔法にも多少覚えがありますので」
「うむ、なるほど。それは心強いな」
真意の読み取れない爽やかな笑顔を向けてくる。
だがその表情は、言外に「お前に何ができるのだ?」と聞いてきているように感じた。
出動の準備を手早く済ませ、各々が馬に駆け寄る。
追跡に馬車は邪魔になる。馬を駆り、一気に追いつく。
「聖女マイ、俺の馬に乗るといい!」
第一王子がマイに声を掛ける。
俺はそれを手で制した。
「聖女マイは私の馬で参ります。王子殿下に負担を強いるわけにはいきませんので」
「大司教殿は馬を駆れるのか?」
「ええ、王子殿下ほどではないですが、早駆けなら並の騎士には負けませんよ」
「そうか……ふむ、ではしっかり付いてきてくれ!」
一介の修道士だったころ、まだ騎士見習いだった聖騎士長と一緒に、馬を駆って地方の視察に出かけていた時期がある。
あのとき馬術を習得しておいてよかった。
「マイ、乗りなさい」
俺は聖騎士の一人に用意させた馬に乗り込むと、マイに手を伸ばした。
意外にも軽い身のこなしで彼女が乗ってくる。
丈の長いローブを着ているので横乗りだ。安定感はないが、俺が彼女を落馬させるわけもない。
「不安かもしれないが、案ずることはない。俺がついている」
安心させるように低い声で言うと、マイはふんわりとした笑顔を返してきた。
「不安なんてないです。私にとっては、大司教さまのお側が一番安全ですから」
「……そうか、しっかりつかまっていなさい」
「はい」
ローブをぎゅっと握ってくる彼女の体温を感じながら、俺は馬の腹を軽く蹴った。
数十騎の馬が夜の平原を走る。
曇り空で月明かりもないが、敵に気づかれないよう松明や魔導ランプは灯していない。
夜目の利く斥候部隊が先導し、闇に紛れて賊のあとを追う。
「マイ、寒くはないか?」
胸元にしがみついているマイの体温が、少し上がっている。
「これくらい平気です。それに聖女は風邪を引きませんから」
「そうだったな」
心が暗闇に押し潰されないよう、こうしてたまに声を掛けているが大丈夫そうだ。
彼女は返事をする代わりに、さらにぎゅうっと抱きついてきた。俺の胴に腕を回し、胸板におでこをぴたりとくっつけてくる。
心臓の早鐘を聞かれたら、不安が伝染してしまうだろう。
俺は呼吸を落ち着かせて心拍を落ち着かせた。
「森が近づいてきた!」
第一王子が叫ぶ。
目を凝らせば、森の中から細い煙が上がっているのが見えた。
十中八九、背信者たちの野営だろう。
直轄領内だというのに、かなり油断しているようだ。
それもそうだろう。
村人が近くの騎士団詰め所に救援を求めても、出動して村に到着するまでに二日は掛かる。
まさか襲撃からこんな短時間で、それもここまでの大軍団が追ってくるとは夢にも思わないはずだ。
森の手前で、馬を止める。
煙を見るに、野営の場所はかなり近い。
ここからは徒歩で、気付かれないよう進む必要がある。
「よし、突入――」
「待ってください」
第一王子が大声を張り上げようとするのを、低い声でさえぎる。
「どうした、怖気づいたか大司教殿!」
俺はマイを馬上に残し、地面に降りた。
第一王子に歩み寄ると、さらに低い声を浴びせる。
「不用意に近づくのは危険です。ここは人数を絞り、まずは偵察を向かわせるべきだ」
「そんな悠長なことをして、賊に逃げられたらどうする!」
ごもっともな指摘だ。
「ええ、なので偵察に向かうのは精鋭中の精鋭です。行けると判断したらそのまま救出作戦に移行すればいい」
「なるほど、一理あるな。では俺を中心に偵察部隊を組織しよう」
「いえ、殿下はここに残ってください」
「なにを言う! この場では俺が最も強い! 精鋭で向かうなら俺も行くのが道理だろう」
「殿下、あなたはご自分の立場をお忘れですか」
俺は王子の隣で渋い顔をしている近衛騎士長に視線を合わせた。
「どういう意味だ!」
王子がなおも突っかかってくる。
ここまで言って分からないとは、相当平民に染まっているようだ。
「あなたは次期国王だ。万が一にも何かあったら、王国の未来にとって痛手になろう」
「問題ない! この程度の荒事、旅のあいだにもしょっちゅう――」
「殿下、ここは大司教さまの忠言に従ってください」
近衛騎士長が渋い顔のまま、王子の肩を叩いた。
彼ら近衛騎士も、王子の我がままに付き合わされて心労が募っているのだろう。
「お前まで……だが俺が行かなくては……!」
「ご安心を。偵察部隊は私が率います」
俺はここぞとばかりに背すじを伸ばし、王子を見据えた。
「は!? 大司教殿が率いるだと?」
「ええ、まず偵察部隊には聖騎士を向かわせます。彼らは防護魔法の使い手ですし、強力な攻撃魔法も習得している。もし気づかれても捕らわれた者を守りながら防戦できる」
「それなら俺の近衛騎士でも」
「近衛騎士は王子を守るのが役目です。賊の偵察など彼らの本領ではない。そして聖騎士を向かわせる以上、私が一番、彼らの指揮に慣れています」
言いながら近衛騎士たちの表情をうかがう。
彼らは一様に、俺の提案に賛同しているように見えた。
正直彼らとしても、王子の
「では聖騎士長、聖騎士を五名選抜してくれ」
「はっ」
聖騎士長がそそくさと同行する聖騎士を選び始める。
第一王子のほうを見れば、近衛騎士長が何やら説得を試みているようだった。
俺はそのやり取りを尻目に、マイの乗っている馬へ歩み寄る。
「聖女マイ、ここからは――」
「分かっております、大司教さま。私はここで皆さんの無事をお祈りしています」
彼女は意外にも素直に、ここに残ると告げた。
本当は付いてきたいのだろう。
噛み締めるような口調が、それを物語っていた。
だが同時に、自分が付いて行っても足手まといになることも痛感しているのだ。
暗闇で、足場の悪い森の中を、長いローブで素早く移動するなど、並の女には難しい。
それに、俺はさっきから有無を言わさぬ威圧感を発し続けている。
この場で何を言っても俺が認めないことを、彼女はこれまでの経験から痛いほど分かっているのだ。
「大司教さま、この五名が同行します」
「よろしい。聖女マイ、祝福を頼めるか?」
「はい」
マイが馬の前に並んだ俺たちに手をかざす。月明かりに似た青白い光が、あたりを淡く輝かせた。
「皆さんに、女神の加護があらんことを。どうか……無事に帰ってきてください」
最後の言葉は、彼女の切実な願いだった。
胸に当てた拳を握り締めながらも、声に震えや涙は混じっていない。
(いい子だ、マイ)
泣き出したくなるような状況でも、マイはしっかり聖女としての立ち振る舞いをこなした。
子どものように私情を優先させるどこかの王子とは大違いだ。
俺は彼女に近寄ると、小さい声でささやく。
「マイ、何があるか分からない。私が戻るまで馬から降りないように」
「心配しなくて大丈夫です、大司教さま。自分の身くらい、自分で守れますから」
マイはまるで幼子を安心させるような口調で、俺に微笑みかけた。
その視線を、自身の腰元へと移動させる。そこはローブの下に、彼女が短剣を隠し持っている場所だ。
(自分の身は自分で守る、か)
およそ聖女の吐くような台詞ではない。
だが俺は、彼女のそんな態度に高揚を覚えていた。
「では行こうか」
俺は、聖騎士長がマイの乗る馬の手綱をしっかりつかんだのを見届けてから、森の中に進み行った。
森を少し進んだところで、念話の術を発動する。
『聖騎士長、聞こえるか』
『はっ、大司教様』
『私が戻るまで、マイを任せたぞ』
『お任せください。近衛騎士の動きは聖騎士たちがしっかり見張っております。王子殿下からも目を離しません』
『もし背信者が紛れていたら、そのときは』
『分かっております。聖女様の馬に同乗し、一目散に逃げます』
『ああ、彼女が馬に治癒魔法を掛け続ければ、近衛の早馬でも追いつけない』
現状、王子や近衛騎士がマイを狙う可能性は低いだろう。彼らの背後関係は徹底的に調べた。
だからこれは、念のためだ。
『しかし……大司教様が向かわれることに近衛の誰も反対しませんでしたね』
『第一王子派の貴族は、教会に、特に私に対して反感を抱いている者が多いからな。近衛も貴族出身だ』
『なるほど』
『だがそのおかげで、うまく事が進んだ』
もし第一王子が森に入るとなれば、当然マイも同行させようとするだろう。
それは最も避けたい展開だった。
それに背信者たちがゴーゼ司教の言っていた「聖女狩り」なら、背後には帝国がある。
万が一、第一王子派に帝国と繋がっている者がいた場合、背信者は話を聞き出す前にその場で殺されてしまう可能性がある。
だが、先ほどの近衛たちの態度を見る限り、彼らの中にそういう者がいる可能性は低い。それが分かっただけでも良かった。
あとは。
『情報は、できるだけ教会で握っておきたいからな』
教会を、俺を、マイを狙う者は多い。
その情報を、むざむざと王族や貴族に渡すわけにはいかない。
こちらの弱みになる情報は握っておきたいし、いざというときの手札にも使える。
『大司教さ……そろそろ、術の……範囲外に……』
念話の術に雑音が混じり始める。
俺と聖騎士長の距離が離れ、術の範囲が及ばなくなってきたようだ。
『マイを頼む』
念押しをした瞬間、念話の術が切れた。
しばらく森を進むと、前を歩く聖騎士が歩みを止める。
「大司教様、野営です」
「ああ、私にもうっすら見える」
百歩ほど先。
鬱蒼とした茂みの先に、わずかに開けた場所があった。
焚き火の灯りがチラチラと茂みの隙間で揺らめいている。
警戒しつつゆっくり近づいていくと、視界の中に人影が見えてきた。
(十……いや、十五はいるか)
粗末なテントがいくつか並び、円陣を組んだ男たちが酒をあおっている。
ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべる彼らの隣には、美しい少女たちが座らされていた。全員、手首を縄で縛られている。付近の村々から攫ってきた聖女見習いだろう。
リーダー格らしき大柄な男の隣には、黒髪の聖女見習い――ペトラの姿もあった。
彼らは聖女見習いたちの肩を抱き、ある者は抱き寄せて頬に口づけをしたり、体をまさぐったりしている。
(ずいぶんと、
「大司教さま、どうも数が多いようです。戻って応援を呼びますか?」
この人数差だ。
負けることはないだろうが、ただでは済まないだろう。戻って王子や近衛騎士たちの力を借りるのが最適解だ。
だが。
「いや、このまま救出作戦に移行する」
「え?」
「ネズミ捕りだ」
俺は薄い防護魔法を展開すると、野営ごと包んだ。