※この作品はR-18です。

【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話   作:月見ハク

35 / 53
第35話 聖女見習いの救出

 防護魔法を展開すると、隣にいる聖騎士が目を見開いた。

 

「これほどの精度とは……」

 

 驚くのも無理はないだろう。

 

 野営までをも包む広範囲の結界など、相応の魔力量の持ち主でないと難しい。

 

 しかも今展開した防護魔法は、敵の魔力探知にも引っかからないほどに薄い。魔力制御を極めた者でなければ不可能な技だ。

 

 今回は、しっかり睡眠をとった甲斐があった。

 

「大司教様、ここからどう動きますか?」

 

「背信者たちの様子を見つつ、合図をしたら一斉攻撃だ。君たちは魔力を練っておきなさい」

 

「承知しました」

 

 結界を張ったことで、大規模な戦闘になってもその音は第一王子やマイの元へ届かない。

 無闇に心配させたり、自分たちも救援に行かなければなどと思われたら困る。

 

 ――遠視の術。

 

 念のためまぶたの裏にマイを映す。

 

 彼女は言いつけどおり馬の上に座っていた。目を閉じ、胸の前で手を組んでいる。口元には慈愛のこもった微笑みを讃えていた。

 

 静かに祈りを捧げる聖女そのもの。

 

 その場にいる誰もが彼女の姿に見惚れ、心を落ち着かせているのが分かる。

 あの血気盛んな第一王子ですら、地べたにあぐらをかいて聖女をじっと見上げていた。

 

 本当に、マイは物分かりのいい子だ。

 

 俺の意図をなんとなく察していたのだろう。

 

 いくら第一王子といえど、静かに待ち続ける聖女に「やはり森へ行こう」などとは言いだしづらいはずだ。

 

 俺は彼女の祈り姿をしっかり目に焼き付けると、遠視の術を切った。

 

「もう少し背信者たちに近づくぞ。各自、狙いを定めておくように」

 

 五人の聖騎士がコクリとうなずいた。

 

 

 

 

「……ただの賊ではないですね」

 

 隣にいる聖騎士がささやく。

 

 俺たちは野営近くの茂みから、背信者たちの様子を探っていた。

 

「どこの手の者が分かるか?」

 

「口調に帝国訛りを感じます。酔っていても隙のない所作。盗賊の振りをした帝国の隠密部隊の可能性があります」

 

「私の見立てと同じだ」

 

「くそ、背信者どもめ、聖女見習いにあのような不埒な真似をっ……」

 

 常に精神を鍛えているはずの聖騎士が、ギリと奥歯を噛み締める。

 

 それもそのはずだ。

 

 背信者たちは焚き火を囲みながら、隣に座らせた聖女見習いたちに淫らな行為を働いていた。

 

 聖女見習いはペトラを含めて四人。平民の服を着ている者もいれば、聖女見習いのローブを身にまとっている者もいた。その全員が手首を縛られている。

 

 ある娘は麻服の中へ手を突っ込まれ、ある娘はスカートをめくられ太もも撫でられている。

 

 彼女たちは目に涙を浮かべ、耐えているようだった。

 

 辛うじて穢された様子がないのは、聖女見習いが処女を尊ばれるからだろう。

 

 純潔を失った聖女見習いは裏市場で価値が下がるし、治癒の力も失ってしまうことが多い。

 

(やはりマイを、ここに連れてこなくてよかった)

 

 この光景を見たら、きっと平静ではいられないだろう。

 

 どこまでも無垢で純真な彼女には、できるだけ世界の汚らわしく残酷な裏面を見せたくない。

 

「まず狙うのは聖女見習いに触れている四人と、奥に座っている頭目だ。それぞれに二発ずつ攻撃魔法を撃ち込め。決して聖女見習いを傷つけぬよう、よく狙いを定めるんだ」

 

 聖騎士たちがうなずく。

 

「聖女見習いから背信者を引き離したら突入だ。彼女たちを一カ所に集めて私の防護魔法で護る。君たちは残りを排除しろ。決して逃がすな」

 

 もし逃げても、俺の薄く張った防護魔法から出た瞬間に察知できる。追撃はそう難しくないだろう。

 この作戦では、背信者を一人も逃がすつもりはない。

 

「応戦してきた場合はどうしますか」

 

「最低三人は生かして捕らえたいが、やむを得ない場合は生死を問わない」

 

「承知しました」

 

「合図は私が出す。少し待て」

 

 俺はさらに野営地へ近づくと、背信者たちの会話に耳を澄ませて隙をうかがう。

 

 俺の地獄耳が、彼らの一言一句を捉え始めた。

 

「――隊長、ほんとにこの娘たちをヤっちゃだめなんですかい」

「ならん。我らが(あるじ)は処女をお望みだ。お前も分かっているだろう」

「分かってますが、こんな上玉を前にして我慢しろってのも酷ですぜ」

「そうだぜ隊長、今回の狩りでは一人か、二人捕まえられりゃ御の字だって話じゃないすか」

「そうっすよ、幸運なことに四人も聖女見習いを狩れたんだ。一人くらいヤっちまってもいいでしょう」

 

 なるほど。ここにいる聖女見習いは焚き火のところに座らされている四人で確定らしい。

 いくつか張ってあるテントの中にいないのが分かってよかった。これであの四人の救出に集中できる。

 

「堪えろ。処女を失った聖女見習いは使い物にならない」

「でも女としては高く売れますよね。元聖女見習いってだけで高く買う貴族もいますよ」

「抱いた娘はこっそり売っちまえばいいでしょ。今回の狩りで捕えた聖女見習いは、最初から三人だったってことにすりゃあ」

 

 部下と思しき男たちの訴えに、隊長と呼ばれた男がため息をつく。

 

「仕方ない。ただし抱くのは一人だ」

「へへ、やった」

「ならこいつがいいや、この中で一番そそる」

 

 男の一人が腕を掴んだのは、ペトラだった。

 

 耳が隠れる程度の短い黒髪が、引っ張られた弾みでふわりと浮く。綺麗に切り揃えられていたはずの前髪は乱れ、目には泣きはらしたあとがあった。

 

 だが彼女は悲鳴を上げることなく、ぐっと唇を引き結んでいる。

 

 その整った美貌に、男がゴクリと喉を鳴らすのが分かった。

 

 「許さん」とつぶやき前のめりになった聖騎士を、俺は腕で制止させる。

 

「まだ動くな」

 

 俺がささやくのと、隊長の男が立ち上がるのは同時だった。

 

「その娘は我慢しろ。幼いが見た目は一番(あるじ)好みだ。この黒髪も希少だ。しかも王国の今の聖女も黒髪だったはず。主もたいそう気に入るだろうな」

「ええ~、じゃあこっちの娘にしますか」

 

 男が今度は別の聖女見習いの腕を掴む。

 

 「やぁっ」と悲痛な声を上げた少女は、ローブの胸元が破かれ素肌が露出している。

 

 するとペトラが男の手にしがみついた。

 

「やめてっ、私が……私が代わりになります」

 

「へぇ〜」

 

 男がローブの少女から手を離す。ペトラはその間に入って少女をかばった。

 

 すると隊長の男が興味深そうに近寄る。

 

「聖女見習いのくせに威勢がいいな。いや、その自己犠牲はむしろ聖女見習いだからこそか。だがお前は、これから自分がどんな目にあうのか分かっているのか」

 

 ペトラの頬を、男の骨ぼったい手が撫でる。

 

 彼女はうっとたじろぐも、ローブの少女を背中にかばい続けていた。

 

「俺たちに明け方まで凌辱され、それを何日も何日も繰り返された挙句、性奴隷として売られて下卑た貴族の慰み者になるんだ。心が壊れて使い物にならなくなっても、そんな元聖女見習いを好む奴だっている。散々に弄ばれ、最後には廃人になるか、良くてスラムの娼婦だ」

 

 男の手がペトラの顎をさすり、首筋をいやらしくなぞる。

 

「高貴なる我が(あるじ)の孕み袋になったほうが、はるかにいいとは思わないか?」

 

 ペトラは目端に涙をにじませながらも、隊長の男の嗜虐的な視線から目を逸らさなかった。

 

 襲いくる恐怖にまっすぐ立ち向かう目だ。

 

 以前村に立ち寄ったときは頼りなく、常に怯えていたように見えたが。

 

「マイ様が、なれるって言ってくれた……」

「あ?」

「私は、なにをされたって……聖女に」

 

 あの夜、マイが微笑みながらペトラに言っていたのを思い出す。

 

 ――ペトラちゃんも大丈夫。修練を欠かさなければ、いつか立派な聖女になれるよ。 

 

 マイのその言葉が、ペトラに勇気を与えているのだろう。

 

 逆境にあっても、決して希望を捨てない。

 聖女として、大事な資質の一つだ。

 

「くく、面白い娘だ。ここで俺たちに穢されても、果たして聖女になれるかな」

 

 隊長の男がペトラの麻服の襟元に手を掛ける。

 

「うぅッ――」

 

 ビリッと音がして、彼女の服が縦に引き裂かれた。無垢な白肌が無残にさらされる。

 

「ほぉ、小娘かと思っていたがなかなかイイじゃないか」

 

 その場にいる十を超える男たちの注意がペトラに向く。

 

(今だ)

 

「撃て」

 

 次の瞬間、聖騎士たちの手から光球が一斉に発射された。

 

 不意に飛んできた攻撃魔法に背信者の誰もが対応できない。

 

「ぐあッ」

「敵襲だ!」

 

 光球は四人の男を的確に捉え、全弾が命中した。

 

 だが隊長の男だけは瞬時にしゃがんで避けると、ペトラに手を伸ばした。彼女を人質か盾にしようというのだろう。

 

「無駄だ」

 

 俺は攻撃魔法が放たれた瞬間にはもう走り出していた。

 隊長の男に距離を詰めて射程圏内におさめると、防護魔法を二重に展開した。

 

「なっ!?」

 

 内側に作った結界で隊長の男だけを弾き飛ばし、外側に張った結界にぶつける。そのまま内側の結果を広げて外側の結界との間に挟むと、男の口から「ぐえッ」と潰れたカエルのような声が漏れた。

 

「隊長格を縛っておけ、自害もさせるな」

 

「はっ」

 

 見れば背信者のうち十人程度はもう、地に伏していた。

 テントも全てひっくり返っており、そこにも背信者が倒れている。

 

 残りの背信者は五人。長剣や短刀を構え、低い姿勢でこちらの出方をうかがっていた。

 人数差がないので、逃げるよりも応戦を選択したのだろう。好都合だ。

 

「ペトラ、よく耐えたな」

 

「えっ、だ、大司教様……?」

 

 ペトラが俺をポカンと見上げている。

 

 俺は羽織っていた白いマントを外すと、彼女の肩に掛けた。

 

「君たちを助けに来た。私のそばへ来なさい」

 

 厳かながら優しい印象を与える声色で、聖女見習いたちへ呼びかける。

 

 彼女たちは思った以上にすんなり俺の近くに寄ってきた。

 ペトラが驚きながら「大司教様」と呼んだのが効いたのだろう。

 

 四人の少女を護るように、強固な防護魔法を展開する。

 これでひとまずは安心だ。

 

「ちっ、こいつら聖騎士だ。見られた以上は皆殺しにするぞ」

 

 背信者の一人が低い声で言う。

 

 彼らは手のひらに光球を浮かべると、一斉に放ってきた。

 かなり高威力だ。ますますただの賊にできる芸当ではない。

 

 背信者の放った攻撃魔法はしかし、俺が聖騎士たちの前に張った防護魔法に弾かれた。

 

 ゴン、ゴンと結界に光球が当たる音が響き、魔力がまぶしい光とともに霧散する。

 

「守りは私に任せろ。君たちは攻撃魔法に専念するんだ」

 

 聖騎士たちはうなずくと、攻撃魔法を連射し始めた。

 

 光球が地面をえぐり土ぼこりが舞う。背信者の体が宙を舞い、明滅する魔力が闇夜を照らす。

 

 あっという間に、背信者は一人残らず倒れた。

 

 

「大司教様、制圧が完了しました」

 

「よし、各自打ち漏らしがないか捜索を。まだ息のある背信者がいたら拘束しろ」

 

「はっ」

 

「ああその前に、全員マントを脱いでくれ」

 

 俺は聖騎士たちからマントを回収すると、聖女見習いたちに渡した。

 

「この場の安全が確認できるまで君たちは防護魔法で守る。安心しなさい」

 

 するとローブ姿の聖女見習いがおずおずと口を開く。

 

「あ、あのっ……本当に大司教様なのですか? さっきペトラちゃんが言っていたの、きこえて……」

 

「ああそうだ、私は――」

 

「この方は本当に大司教様です! 前に、聖女様と村へ豊穣の儀式をしに来てくれたんですっ」

 

 ペトラが大きな声で訴えると、素直な聖女見習いたちはすぐに安堵の表情を浮かべた。

 

 俺も柔和な顔を作って微笑みかける。

 

「皆も、よく耐えたね。辛かっただろう。だがもう大丈夫だ、明日には故郷へ帰れるよ」

 

 やっと緊張の糸が切れたのか、彼女たちが地面にへたり込む。

 

 ペトラもずっと気を張っていたのだろう。ふらりと俺のほうへ倒れ込むと、ガクガクと全身を震わせ始めた。

 

「大司教様っ、た、助けてくれて、か……感謝いた、いたしっ……」

 

「言葉遣いを無理しなくていいよ。今はとにかく休みなさい。君はよく頑張った」

 

「ん……ぅぅ……」

 

 俺のお腹に顔を埋めて泣き出した少女の黒髪を、俺はポンポンと撫でた。

 

 

 

 

「大司教様、背信者の拘束と付近の捜索が終わりました」

 

 聖騎士の一人が報告に来る。

 

「そうか。では君は第一王子の隊へ報告に向かってくれ。我々もすぐに森を出る」

 

「はっ」

 

「……いや待ちなさい、君は腕を負傷しているのか?」

 

「折れていますが、問題ございません」

 

 問題ないわけがないだろう。

 

 少人数の部隊では一人の負傷が命取りになる。だからけがをしたら早急に報告しなければならない。

 

 彼としては興奮状態で痛みを感じていなかったのだろうが。

 

 ちらりと聖女見習いを見るが、彼女たちは消耗して疲れ果てていた。これではまともな治癒魔法は期待できないだろう。

 

「森を出たら聖女に治してもらうぞ。それまで私の結界内にいなさい」

 

「いえ、そのようなご心配は無用で――」

 

 俺が遠視の術でマイの様子を確認しようとしたとき、聖騎士の背後にのそりと動く影があった。

 ひっくり返ったテントの下から這い出ようとしている。

 

「残党がいたぞ!」

 

 大声で叫ぶと、聖騎士が一斉にその背信者へ手をかざす。

 

 次の瞬間、薄く張った結界内に複数の気配が入ってくるのを感じた。

 

(誰だ――)

 

 するとまぶしい稲光が俺の横をかすめて背信者に直撃した。バチッという激しい電撃の音が響く。

 

(まさか)

 

 最悪の予感のままに振り向くと、そこには得意げにこちらを指差す第一王子の姿。

 

 そしてその隣には、マイが立っていた。

 

 

「マイ、なぜ来た」

 

 思った以上に低い声が出てしまう。

 

「……っ」

 

 マイは落ち着いた聖女の表情を浮かべながら、びくっと肩を震わせた。

 

「大司教殿、俺が来てくれと命じたのだ! 木々の間から攻撃魔法の光が見えてな。戦闘が始まったと判断して駆けつけたのだ! 加勢するのは当然だろう?」

 

 第一王子が指先にジジ、ジジと電撃魔法を練りながら近づいてくる。また残党が現れたらすぐに撃ってやると、顔に書いてある。

 

「そして戦場で傷ついた兵士を癒すのも、聖女の当然の役目であろう」

 

 第一王子が、腕を負傷した聖騎士を指差した。

 

 確かに、彼の言うことも一理はある。

 

 だが。

 

(馬鹿王子め)

 

 危険で凄惨な現場にマイを連れてきた青年に、怒りが募る。

 

 同時に、王子の命とはいえ、のこのこと付いてきてしまった彼女にも苛立ちが湧く。

 

 マイの側にいた聖騎士長に視線を向けると、すまなそうな顔で思念を送ってきた。

 

『申し訳ありません。一度は止めたのですが』

 

『……いや、君が謝る必要はない』

 

 聖騎士長としても、加勢が必要かもしれないと迷いが生じたのだろう。

 彼の身になれば理解はできる。

 

『次からは事前に報せるように』

 

『はっ、申し訳ございません』

 

 とはいえ、念話の術にはそれなりの集中力を要する。

 

 暗闇で足場の悪い中、マイを補佐し警戒しながら術を発動するのは、彼には至難の業だ。

 

「ふぅ」

 

 俺は小さく深呼吸をした。

 

 来てしまったものは、もう仕方がない。

 

 ならばここで王子やマイに感情をぶつけても醜態をさらすだけだ。外聞も悪くなる。

 

 俺は感情を切り替えると、穏やかな大司教の表情を作った。

 

「マイ」

 

「はい、大司教さま」

 

 彼女が一歩前に出る。その所作は落ち着き払っているが、握った両手には力がこもっていた。

 

 俺に咎められると怯えているのだろう。

 

「よく来てくれたね。けが人を治してくれるかい?」

 

 これが、今大司教として取るべき最善の振る舞いだろう。

 

「はい、すぐに治します」

 

 表情のわずかな変化で、マイが内心安堵したのが分かった。

 

 

 

 

「聖女様、感謝いたします。腕に違和感一つありません」

 

 腕の調子を確かめながら、聖騎士が頭を垂れる。

 

「そうですか……よかったです」

 

 マイは心底安心したという口調で、ふんわりと微笑んだ。

 

 それを目の当たりにした聖騎士が口を半開きにして、ぼうっと見惚れる。

 

「聖女マイ、この子たちも診てくれるか?」

 

 俺は彼女と聖騎士の間に体を割り込ませた。

 

 マイは、マントを羽織って震えている聖女見習いを見て、一瞬眉をひそめる。

 

 衣服は所々暴かれ、肌をさらした少女たち。

 マイにとってはさぞかし耐えがたい光景だろう。

 

 俺は彼女の耳元で小さくささやいた。

 

「この子たちに外傷はない。酷い目に遭う前に助けたからね。だが精神的な消耗が激しい。特にペトラは魔力が不安定だ」

 

 いまだに俺の腹に顔を埋めている少女に、視線を落とす。

 

 俺が時間を掛けて話を聞き、慰めてもいいが。

 

「マイ、頼めるか?」

 

 すると彼女は俺の目をじっと見つめてから、ふっと表情をゆるめた。

 

「はい、大司教さま」

 

 聖女ではなく、妹思いの姉のような顔だ。

 

 

「ペトラ、久しぶりだね」

 

 その包み込むような声色に、ペトラがゆっくり振り返る。

 

「こちらにおいで。治癒魔法は使える?」

 

 声に導かれるように、ペトラは俺から離れマイの側に寄った。

 

「やって、みます」

 

 ペトラが両手を出した弾みで、マントが落ちそうになる。

 マイはすかさずマントを押さえ、にこりと微笑んだ。

 

「どう?」

 

「うまく……魔力が練れないです。どうしようマイ様っ、私、このままじゃ」

 

 目に見えて動揺し始めるペトラを、マイは優しく抱き締めた。

 肩のマントを押さえながら、おでこをくっつける。

 

「私の魔力、感じる?」

 

「ん……とても、あったかいです……マイさまの、魔力」

 

「これはね、聖女の魔力だよ」

 

「聖女の、魔力?」

 

「うん。ペトラにも少し、分けてあげるね」

 

「え?」

 

 くっつけ合っている(ひたい)が、淡く光り出す。

 

 マイが祝福の光を発したのだろう。

 

 二人の黒髪の少女が額を合わせている姿は、息をのむほど神秘的だった。

 

「じゃあ、もう一度魔力を練ってみて」

 

「はい、マイ様……」

 

 熱に浮かれたような声でペトラがつぶやく。彼女の顔から、もう不安や恐れは消えていた。

 

「……できました」

 

「ほら、ペトラはやっぱり強い子だね」

 

 マイが再びペトラを抱き締め、その頭をポンポンと撫でる。

 

 その光景に、誰もが見入っていた。

 

 俺だけでなく、聖騎士や聖女見習いたち。

 王子に付いてきていた近衛騎士たち。

 

 そしてもちろん、第一王子も。

 

「聖女マイ……君はなんて……」

 

 それは初めての恋に落ちた少年のような顔だった。

 

「マイ、さすがだな」

 

 体を割り込ませ、王子の視線からマイを隠す。

 

「いいえ大司教さま、ペトラの力です」

 

 マイが嬉しそうに顔を上げ、俺にふわりと微笑みかけた。

 もし王子が見ていたら、さらに骨抜きにしてしまっただろう笑顔だ。

 

「そうだな。……ペトラ、君さえよければこのまま王都の教会へ上がってもらおうと思うが、どうだ?」

 

「え……マイ様のいる神殿に、ですか」

 

「ああ、村に戻るまでに考えておいてくれ」

 

「は、はいっ、ありがとうございます……!」

 

 ペトラが顔を上気させて俺を見つめる。

 もう彼女の中で返事は決まっているようだ。

 

「聖女マイ、君がしっかり面倒をみてあげなさい」

 

「はい」

 

 これで、被害に遭った聖女見習いを保護するという、王都に戻るための口実ができた。

 

 賊の襲撃で聖女が心身を消耗したからという理由だけでは、いささか不十分だった。

 

「聖女マイ、他の聖女見習いも診てくれるか」

 

「はい、大司教さま」

 

 マイも心の底から嬉しそうにうなづいた。

 

 

 模範的な大司教としての振る舞いは、これくらいで十分だろう。

 

「そうだ、マイ」

 

「あ、はい」

 

 振り向いた彼女の耳に、顔を寄せる。

 

「森に入るなという言いつけを破ったね。馬車に戻ったらお仕置きだ」

 

 誰にも聞こえない低い声でささやくと、マイはビクンと肩を震わせた。

 下唇を噛み、揺れる瞳で斜め下を見つめている。

 

「……はい、大司教さま……」

 

 やがて彼女は、消え入るような声でうなづいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。