※この作品はR-18です。

【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話   作:月見ハク

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第41話 悪徳大司教の粛清

 昼の陽光が、執務室を温かく満たしていた。

 

 窓から外を見ると、昨夜の大雨が嘘のように晴れ渡っている。

 

 俺は隣に立つマイに声を掛けた。

 

「まだ印は消さないのか?」

 

 彼女の着ている謁見用のローブ。その首元に、赤い吸引の(あと)が覗いている。

 

「はい、リンゼさまが残してくれたものなので……もう少しだけ、だめでしょうか?」

 

 まるで初めてわがままを言う少女のような顔で、マイが懇願してきた。

 

 頬は朱く、情事の余韻がまだ消えないらしい。乱れた黒髪も一生懸命手ぐしで直したが、毛先が少し跳ねている。

 

 昨晩は、媚薬を抜くためにマイを抱き潰した。

 今朝も起きてから、彼女の魅力に抗えず三度抱いた。朝食もとらずに。

 

「もうすぐロレンティアが来る。それまでには消しておきなさい」

 

「ありがとうございます、リンゼさま」

 

 マイは、俺と二人きりのときはそう呼ぶことに決めたらしい。

 

 大司教さまと呼ぶときよりも声色が弾んでいる。嬉しそうに俺の名を口にする彼女を見ていると、再び股間に血が集まってきてしまう。

 

 

 そのとき、コンコンと執務室の扉が叩かれた。

 

「誰だ」

 

「大司教様、ロレンティアです」

 

 遠視の術を発動すると、執務室前に金髪の元聖女が一人で立っている。付近に人影はない。

 

 彼女には先ほど伝書鳥を送り、マイの普段使いのローブを持ってきてほしいと頼んでおいた。

 

「いま行く」

 

 扉に近づこうとすると、くいとローブの袖が伸びた。

 

 見ればマイが、控えめに袖を引っ張っている。金色の瞳は潤み、「ぁっ……」と何かを言い出そうとしていた。

 

 また、この表情だ。

 ためらいがちに、わがままでも言おうとしているような顔。

 

「リンゼさま、もう一度……魔力を確かめてもらえないでしょうか?」

 

「……ああ、もちろんだ」

 

 彼女の頬に手を添え、唇を重ねる。

 

「んっ……ぁ……」

 

 しっとりとした唇の感触が広がる。ふんわりとしていて温かいのは、まだマイの体が火照っているせいだろう。

 

 迎え入れるように開いた唇の隙間に、舌を挿れる。微弱な魔力を流し込めば、彼女の肩がビクンと震えた。

 

「魔力に異常はないな」

 

 優しく微笑みかける。

 

「はい、ありがとうございます。……大司教さま」

 

 マイは先ほどよりも顔を赤くして、はにかんだ。

 

 

 

 

「待たせたな、ロレンティア」

 

 扉を開けると、金髪の元聖女が静かに執務室へ入ってくる。

 

「いいえ、構いません」

 

 口元に涼やかな微笑を浮かべ目を伏せている様子は、まさに元聖女というべき雰囲気だ。

 

 部屋の真ん中に立っているマイを見やると、その瞳が安堵したように細められた。これも、いつものロレンティアだ。

 

「聖女マイ、おはよう。昨晩はこちらへ戻ってこないから心配したのよ」

 

「ロレンティアさま、ご心配おかけしました……あの」

 

「マイが毒を盛られた。酒だ」

 

 俺が言葉を引き継ぐ。

 

「お酒、ですか」

 

 ロレンティアの顔に緊張が走る。目を見開き、今にもマイのもとへ駆け寄りそうだ。

 

「ああ。だが彼女の身に問題はない。毒も私が一晩かけて抜いた」

 

 最小限の説明だが、それだけでロレンティアは安堵のため息をついた。

 切れ長の瞳がさらに細められ、目端には涙が浮かんでいる。

 

「大司教様、聖女を守っていただきありがとうございます」

 

「大司教として当然のことだ。だが今後は酒の危険について、聖女見習いたちにより徹底する必要があるな。教義に抵触するので控えていたが、薄めた酒で耐性を得る修練も行ったほうがいいだろう。ロレンティア、協力してくれ」

 

「もちろんです」

 

 ロレンティアがまっすぐ見つめてくる。大司教としての俺を信頼し、覚悟を宿した目だ。

 

 その視線が、ふっとマイのほうへ向く。

 

「マイ、着替えましょうか」

 

「あ、はい、ティア姉さま」

 

 ロレンティアがマイに近づき、普段使いのローブを広げる。

 

「私は壁を向いていよう」

 

「あら、必要ですか?」

 

 ロレンティアの口元が悪戯っぽく微笑んでいる。

 

「当然だ」

 

 背中を向ける一瞬。謁見用のローブを脱いだマイの白肌からは、吸引の印が綺麗に消えていた。

 

 

 

 

「では大司教さま、失礼します」

 

 扉の前で、マイがふんわりと微笑む。

 

「マイ、今日は分かっているね」

 

「はい。大司教さまの言いつけどおりに」

 

「ロレンティアも、聖女を頼んだぞ」

 

「お任せください。あの場所は、聖女にとって一番安全ですから」

 

 執務室の扉が閉まると同時、俺は魔力を練った。

 

 ――遠視の術。

 

 廊下を歩く彼女たちの姿を、まぶたの裏に映し出す。

 

「マイ、本当に体に異常はない?」

 

「はい。大司教さまが……すべて取り除いてくれたので」

 

「ふふ、よかったわね」

 

 ロレンティアが、まだ少し跳ねているマイの黒髪にそっと触れる。ほんのりからかうような口調だが、マイは素直に「はい」と微笑む。

 

「本当に、マイは可愛い子」

 

「えっと……ティア姉さま?」

 

「なんでもないわ」

 

 その顔は妹の幸せを心から祝福する姉のものだった。

 

「では、行きましょうか」

 

「……はい」

 

 

 二人が別棟に入っていくのを確認して、俺は遠視の術を解く。

 

「――さて、ここからは時間との勝負か」

 

 甘い、午前のひとときは終わった。

 

 聖騎士長から、誰かが神殿にやってきたという報告はない。

 

 大司教が第一王子に魔法を放ち、聖女を連れ帰った。

 そんな前代未聞の出来事に、王城もどう対応したものかと動揺していることだろう。

 

 その波紋は、教会やマイを奪おうとする背信者にも広がっているはずだ。

 

 あらゆる者が混乱し、揺れている。

 

 こういうとき、誰よりも先に手を打った者が勝つ。

 そのための策も仕込んではある。

 

 俺は念話の術を発動した。

 

『聖騎士長、ネズミをあぶり出すぞ。準備を頼む』

 

 事前に何度も話し合ってきた作戦の開始を伝える。

 

『はっ、承知しました。すぐに』

 

『ああ、だがその前に地下牢獄へ行く。ヌべリエを連れて来てくれ』

 

『……承知しました』

 

 

***

 

 

 教会神殿の地下に広がる迷宮。

 

 そこは古の民たちが、王族の軍から聖女を守るために構築した地下砦だ。

 

 この場所の存在を知っているのは教会でも一握り。

 その深くに、地下牢獄はあった。

 

 数代前の大司教が改築したそこは、背信者を監禁したり、司教との姦通を疑われた聖女見習いを捕らえ、性的な拷問を行っていた場所らしい。

 おそらくは後者のほうが本来の目的だったのだろう。

 

 まさに教会の暗部中の暗部だ。

 虫唾が走る。

 

「教会の地下に、このような場所があったのですね」

 

 陰惨な場所に似つかわしくない浮かれた声が、牢獄内に響きわたる。

 

 俺は今、ヌべリエと共に鉄格子の前に立っていた。

 

「他にもこのような牢獄があるのです?」

 

「いや、ここだけだ」

 

 さりげなく振り向くと、聖騎士長が苦々しい顔でヌべリエを睨んでいる。

 

『大司教様、本当にこの者を連れて来てよかったのですか』

 

『……ああ、問題ない』

 

 俺は牢の鍵を開けると、その奥で鎖に繋がれた一人の男を指差した。

 

 目を布で覆われ、猿ぐつわをはめられている。

 第一王子との視察の道中に遭遇した、あの聖女狩りのリーダー格の男だ。

 

 全裸にし、手足を拘束し、日に一度だけ生命維持に必要なだけの水と塩だけを与えている。

 これも一種の拷問と言えるだろう。

 

 マイやロレンティアが見たら、目を回して倒れそうな光景だ。

 

「ヌべリエ、君は陰の者だったな。あの男から情報を引き出せるか?」

 

 そっと耳打ちをする。

 

 たとえ大きな声を発したとしても、男の耳には布が詰め込まれているので聞こえはしない。

 

「ええ、できますとも。あの男は背信者なのです?」

 

 不謹慎にも、ヌべリエの声には喜色が浮かんでいる。その様子は新しい玩具を目の前にした少年のようでもあり、巡ってきた好機に応えようとする少女のようでもあった。

 

「ああ。聖女見習いを(さら)おうとした賊の頭目だ。まったく口を割らなくてな。裏で糸を引いていた者がいるかを知りたい」

 

「まあ、なんて下劣なのでしょう! 清らかな聖女見習いを汚い手で穢そうとするなんて、ああ、万死に値する男」

 

「……殺すなよ」

 

「うふふ、もちろんです。せっかく大司教様が与えてくれた機会。女神様にあだなす者たちを全て吐かせてみせましょう」

 

 言いながら、ヌべリエはローブから何本かの針を取り出した。

 

「毒針か」

 

「ええ、預かっていてください」

 

 俺の代わりに聖騎士長がそれを受け取る。するとヌべリエがその腕をつかんだ。

 

「一つお願いが。私のローブをびりびりに破いていただけますか?」

 

「なっ……!」

 

 聖騎士長が咄嗟に腕を離す。朴訥(ぼくとつ)で生真面目なこの男には難しいだろう。

 

「私がやろう」

 

 俺はヌべリエの肩をつかむと、ローブを左右に引き裂いた。

 露出した白肌から、聖騎士長が慌てて目をそらす。

 

「下着もお願いします」

 

 簡素なブラジャーを破き、シミ一つない乳房を外気にさらす。

 服を暴かれているというのに、ヌべリエは楽しげだった。

 

「では行ってまいります。大司教様がたはそこでお待ちくださいませ」

 

 彼女はサンダルを脱ぐと、ひたひたと冷たい石床を歩き出す。

 

 鎖で繋がれた男に近寄ると、その頬に優しく手を添える。

 ガシャと音がして、男が怯えたのが分かった。

 

 ヌべリエは男の耳から布を引き抜くと、耳元にそっとささやく。

 

 俺の地獄耳がそれを拾った。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

 心底心配しているという口調で、声色に甘ったるい響きを含ませている。男であれば誰でも魅せられてしまうような声だ。

 

 ヌべリエがいたわるように男の猿ぐつわを外す。

 

「……」

 

「す、すみません、突然話しかけてしまって……」

 

 無反応だと見るや、ヌべリエは声色から甘みを消し、今度は透き通った響きで男にささやいた。まるで聖女見習いのような、清らかな声だ。

 

「……誰だ」

 

 男が初めて口を開く。

 

(見事だな)

 

 相手が最も油断する声を探り、瞬時に切り替える。さすが第二王子直属の隠密部隊。そして彼女は、やはり()()()()()()が専門なのだと分かる。

 

 俺はヌべリエの仕事ぶりをじっと観察することにした。

 

「あ、あの私……聖女見習いの、ヌべリエと申します」

「……刺客か?」

「シカク? え、えと、あの……よくわかりません」

「俺を殺しに来たんだろう」

「あのっ、私……司教様と、い、いかがわしい仲だと疑われてしまって……それで、ここに」

 

 喉が震え、涙のにじんだ声。誰もが同情を誘われる響きだ。

 

「……」

「そうしたら、あの……あなたがいたので、その、とてもお辛そうだったので……すみません」

「はッ……聖女見習いというのは本当にお人よしだ」

「本当は、あなたと口をきいてはいけないと、きつく言われたのですが」

「……いいのか?」

「ほうって、おけません。それに、今は誰もいないので」

「……お前、治癒魔法は使えるか」

「ごめんなさい、私……」

「そうか」

 

 男の声に、わずかな憐れみがにじむ。

 あらぬ嫌疑をかけられ酷い罰を与えられ、治癒の力を失ってしまった哀れな少女。そんなふうに思っているのだろう。

 

 平時ならもっとヌべリエに疑いを持ったのだろうが、男はまともな食事を与えられず疲弊している。まともな判断力が減衰した今、彼女の清純な雰囲気に心を持っていかれるのも無理はない。

 

 というか。

 

(マイを真似ているのか)

 

 ヌべリエの口調や声の早さ、抑揚などがマイにそっくりだ。

 それが少し苛立つ。

 

「あの、お腹減っていませんか。少ないですが、私の食事があります」

「いらない」

 

 男の回答を無視し、ヌべリエがこちらへ戻ってくる。

 

 俺は手に持っていたお盆の布をめくった。

 煮詰めた芋に塩をふりかけ、お湯に浸しただけの芋粥だ。それを彼女に渡す。

 

 ちなみに俺のお手製だ。

 

「……どうぞ、食べてください」

「いらん、お前が食べろ」

「このままだと、死んでしまいます」

「それが本望だ。とはいえ、奥歯に仕込んだ毒も抜かれ、今じゃ舌を噛みきる力もないがな」

「……生きて、ください」

「……」

「お願い、生きて」

 

 ヌべリエが、涙で言葉をつまらせる。

 

「……聖女見習いには、酷な言葉だったか。だがすまんな。俺は死にゆく運命だ」

「だめです……あなたを、死なせません」

 

 彼女は芋粥を口に含むと、不意に男へ口づけをした。

 

「ぐっ……ん、ぉ……お前、なにを」

「お願いです、食べてください」

 

 ヌべリエが紫色の髪をかき上げ、またも口移しをする。もし男の目隠しが取れていたら、その健気で妖艶な姿に見惚れていただろう。

 

 次第に、男の喉がコクコクと動き出すのが見えた。

 

 

「……ちゃんと、飲み込めましたね。よかった……」

「お前、どうしてここまで……いや、聖女見習いには愚問か」

「味、感じられましたか?」

「ああ、薄味だが、こんなにうまい粥は初めて食べた」

 

 味覚が弱っている者ですら薄く感じるとは。

 もしマイに振る舞うときはもっと塩を足すことにしよう。

 

 すると、グウとお腹の鳴る音が響いた。

 

「……お前も、空腹なんじゃないか」

「私も、二日食事を与えられなかったので……でもあなたに比べたら、へっちゃらです」

 

 ヌべリエは自在に腹を鳴かせることもできるらしい。その芸の細かさに驚く。

 

「……すまないな」

「いえ、私も……生きてほしいなんて、白々しいですよね。大司教様、おっしゃっていました。あなたも私も、近いうちに処刑されると」

「そうか……お前もなのか」

「はい」

 

 しばらく沈黙が流れる。

 

「ぅっ……」

「どうした?」

「ううん、少し……寒くて」

「そうか」

「……あの、体を……くっつけてもいいですか?」

「やめておけ。もう何日も洗ってない」

「そう、ですか」

「……だがまあ、お互い明日死ぬ身だ。気にしても仕方ないか」

「ありがとう、ございます」

 

 ヌべリエがあぐらをかいた男の膝の上に、おっかなびっくりといった感じで乗る。そして露出した上半身をぴたりと男の胸にくっつけた。

 

「っ……お前、服が」

「はい、大司教様に、破かれてしまいました」

「穢されたのか」

「……司教様の手籠めになったのかどうか、調べてやると言われて」

「はは、腐っているのは大司教も一緒か」

「でも、不思議です……あなたに触れていても、嫌な感じがしない」

「買いかぶり過ぎだ。死の恐怖で感覚が麻痺しているのだろう」

「そう、かもしれません。私……死ぬのがこわい、です……」

 

 まるで泣くのを必死に堪えるような声で、ヌべリエは男の胸に顔を埋めた。乳房をむにゅりと押し付け、太ももがちょうど男の股間に当たるようにしながら。

 

「ちっ……すまん」

「……男の人は、みなさん、こうなるものなのですか?」

 

 ヌべリエがそっと男の肉棒に触れる。

 驚いたことに、男は反り返るほどに勃起していた。食事をとったからだろうか。つい先ほどまで半死半生だったとは思えない。

 

「触れるな。穢れるぞ」

「つらそう、です……こうしたら、楽になれますか?」

「ぐっ、待て……うッ……!」

 

 ビュっと男の先端から汁がほとばしった。

 

「温かい、です……大司教様のものと、同じ」

「……お前、そんなこともさせられたのか」

「はい……許してください、私は潔白ですって、何度も、何度も訴えたのですが……でも、信じてもらえなくて」

「利用され、搾取されたのか。哀れだな」

「え?」

「……いや、はは、俺もか」

「あの……ちがいます、私は……大司教様を、信じています」

「どこまでもお人よしだ」

「あなただって、悪い人には見えません」

「俺はお前とは違う」

「違いません」

「違う。俺は(あるじ)に忠誠を誓い、何もかもを犠牲にして仕えていた……つもりだった。だが今にして思えば、捨て駒の一つに過ぎなかったようだ」

「そんなことないです。あなたは、捨て駒なんかじゃ」

「はははっ、おかしいと思ったんだ。直轄領に入り込めなんて」

「あの私、ぜんぜんわからないですけど、きっとあなたの主さんは、あなたを捨て駒になんてしようとは……」

「ああ、王都に入り込んだ奴らの独断かもな。どっちにしろ権力を持った野郎に利用されたんだ。それで仲間も犬死だ、笑えるぜ」

「そんな、そんなこと、言わないでください」

「……悪い」

「きっと、なにかの間違いです。王都の人たちだって、あなたを利用しようなんて……そんなこと」

「まったく、聖女見習いってのはこうまで――」

「私、明日、王城に呼ばれてるんです」

「は?」

「王族の方が、私が潔白かどうかを、見定めてくれるって」

「……ろくでもないな」

「え?」

「どうせ大司教にされたみたいに、酷い目に遭うだけだぞ」

「そんな、王族の方はそんなこと」

「はは、笑えるな。俺を嵌めたのもその王族様だぜ、第一王子だ」

「え、なに……を」

「ああ正確には近衛騎士長か。あの野郎、俺たちをあんなとこに手引きしやがって」

「そんな、第一王子殿下が……?」

「いや、あのボンクラ王子はどうせ何も知らねーさ、けどあいつも相当な色惚けだぜ。聖女見習いとありゃあ見境なく押し倒すって聞いて――」

 

 ふぅ、とヌべリエがため息をつき、男から体を離した。

 

「他に情報は持っていないのね、下っ端」

 

「は? お前なにを言ってっ……」

 

「第一王子の近衛騎士長が、下劣な者どもの親玉。それだけ聞ければ十分」

 

「おい、急にどうしたんだ」

 

「その声も体も汚らわしい。女神に愛されし聖女見習いを攫っておきながら私に憐れみを向けるなど。でも結局はあなたも同じ下劣な男。聖女見習いの手淫はさぞ気持ちよかったでしょう……ふふ、これが慈悲。ありがとう、おかげで私も憧れの聖女様に少しだけお近づきになれた気が……」

 

「もういい、ヌべリエ」

 

 俺は彼女の肩を叩くと、聖騎士長に命じて男に耳栓と猿ぐつわをさせた。

 

 男は何が起きたのか分からないといった様子で、呆然としている。

 

「いい手腕だった。この短時間で背後の人物を洗い出すとはな」

 

 真の誘導尋問とは、こちらからは何も聞かず相手が自然と話してしまうものだ。ヌべリエは見事にそれを披露してみせた。

 

 俺のことをずいぶんと悪しざまに言っていたのは許容しよう。

 

 まあ、欲望のままにマイを手籠めにしている俺も、ヌべリエの語った卑劣な大司教とそう変わらない。

 

「うふふ、光栄です。大司教様」

 

 半裸のままはしゃいでいるヌべリエをよそに、俺は念話の術を発動した。

 

『聖騎士長、あちらの準備は整ったころか』

 

『はっ、そろそろかと』

 

『では行こう。先に上がっていてくれ』

 

 小さくうなずいた聖騎士長が、牢獄から去っていく。

 

「私たちも出るぞ」

 

「どちらへ?」

 

「聖女を狙うネズミどもをあぶり出す」

 

「まあっ……! 素晴らしい」

 

「ヌべリエも協力してくれ。……その前に着替えを用意しよう」

 

 俺はヌべリエに持参したマントを羽織らせると、地下牢獄を出た。

 

 

***

 

 

「では出発します」

 

 馬車の外から聖騎士長の声がする。

 ガタンと体が揺れ、馬車が神殿の正門から出立した。

 

 俺は今、平民用の質素な服に身を包み、商人の馬車に乗っている。

 

 隣には灰色の外套を着た女が座っていた。フードを頭から被っているので、その整った顔立ちも(あで)やかな髪も隠れている。

 

 だがその清廉な佇まいは、見る者が見れば聖女だと判別できるだろう。

 

「君はできるだけ、じっとしていなさい」

 

「はい……大司教様」

 

 ガタガタと振動を響かせる馬車が、王都の下町へと入る。

 

 俺は念話の術を発動した。

 

『聖騎士長、第一王子の近衛騎士長が現れる可能性もある。聖騎士達に周囲を見張らせろ』

 

『馬車をぐるりと囲むように潜伏させております。見つけ次第捕らえます』

 

『頼んだ』

 

 ――聖女の身を案じた大司教が、王都のどこかに聖女を隠すらしい。

 

 数刻前、そういう噂を聖騎士長に流させた。

 

 王城内がごたついている今、その混乱に乗じて聖女を隠されたらまずい。

 聖女を見失う前に、強引な手を使ってでも捕らえなければ――敵は、そう考えるだろう。

 

 焦りで判断力を欠如した人間は、簡単に目の前のエサに飛びつく。

 

 そうしてのこのこ襲撃してくる者、襲撃を指揮する者を一網打尽にする。

 

 さらにこの噂は、主に神殿内で俺が怪しいと睨んだ司教の耳に入るようにしていた。だが司教たちにはそれぞれ、異なる馬車のルートが伝わっている。

 

 どのルートに敵が現れるかで、神殿内に残るネズミをも特定できる。

 

(それにしても、近衛騎士長か)

 

 あの口髭を整えた、少し困り顔の男を思い出す。

 

 第一王子の側近に敵が潜んでいる可能性も、考慮はしていた。

 視察に行く道中で、たまたま直轄領に入り込んでいた聖女狩りと出くわすなど、やはり偶然とするには出来過ぎている。

 

 第一王子の様子を見るに、彼は本当に知らなかったのだろう。だからこそ俺も油断していた。

 

 だが近衛騎士長が、王子に知られないよう仕組んでいたのだとしたら納得がいく。

 もしかしたら、第一王子とマイの距離が劇的に近づくきっかけにでもしようと思ったのかもしれない。

 

 そんなことのためにと思うが、派閥争いではよくあることだ。

 貴族たちは、くだらない理由のために平気で多くのものを利用する。

 

(だが、一枚岩ではないのか?)

 

 (あるじ)――おそらく帝国の上層部の最終的な目的は不明だが、それにしてもゴーゼ司教や聖女狩りの男、近衛騎士長はバラバラに動き過ぎている。

 

(いや、結果的に聖女を手に入れ、教会を弱体化できればなんでもいいのか? むしろ教会どころか、王国そのものを混乱させるのが目的なのかもしれない)

 

「ふぅ……」

 

 高速回転する思考を鎮めるために、静かに深呼吸をする。

 

 敵の目的がなんであろうが、関係ない。

 

 俺は。

 マイを狙い、奪おうとする者をすべて駆逐するだけだ。

 

 

『大司教様、露店街のほうで怪しい者を数名捕らえたようです』

 

 聖騎士長が思念で話しかけてくる。

 彼は俺たちの馬車に併走しながら、町民に扮した聖騎士達と密に連絡を取り合っていた。

 

『よし。露店街の噂を流した司教を拘束しろ』

 

『はっ、神殿にいる聖騎士に鳥を放ちます』

 

 すると、ガタンと馬車が急停止した。

 

『何があった』

 

『少し先で、荷馬車が横転しているようです』

 

『……罠だな』

 

『はい、すでに聖騎士達があたりを包囲しています』

 

『襲撃の兆候があった瞬間に捕らえろ』

 

『はっ』

 

 ふと、隣に座る女が窓の外をじっと眺めていた。

 

「どうした」

 

「大司教様、あの路地の奥……近衛騎士長がいます」

 

「なに?」

 

 次の瞬間、ドンと衝撃音がした。

 

 窓から前方を覗くと、荷馬車から黒い煙が上がっている。爆発したらしい。

 

『聖騎士長、背信者の仕業だ。捕らえろ』

 

『すでに動いています』

 

『俺も出る』

 

 馬車の扉を開けると、通行人に扮していたのだろう襲撃者たちが一斉にこちらを見た。

 荷馬車の近くに七人、俺たちの馬車の近くに六人。

 

「あれだ! 聖女を捕らえろ!」

 

 襲撃者の一人が叫ぶ。

 

 俊敏な動きで迫ってくる男たちを、冷静に見定める。

 

 防護魔法でふっ飛ばしてもいいが、周りには大勢の市民がいる。彼らを素通りさせ、襲撃者だけを排除する結界を張るのはこの一瞬だと無理だ。

 

 俺は自分と馬車の周りにだけ、強固な防護魔法を展開した。

 

 キィン、と俺に向かってきた投げナイフが弾かれる。矢じりも宙を舞っているから、射手も潜んでいたようだ。

 

「聖女が逃げたぞ!」

 

 怒号を上げた襲撃者の視線の先。外套を着込んだ女が、あの路地へと向かっていた。

 無音で、尋常じゃない身のこなしで人ごみをすり抜けていく。

 

 聖女に扮した女――ヌべリエが、あっという間に路地の奥へと消えていった。

 

『聖騎士長、ヌべリエを追うぞ』

 

『はっ』

 

 聖騎士長とともに、路地へと駆ける。

 

 細く薄暗い道に、うつ伏せになった男が点々と続いていた。ヌべリエの返り討ちにあった襲撃者だろう。

 

 二度、三度と路地を曲がる。

 

 四度目に曲がったとき、道の先で男が倒れ込むのが見えた。黒い装束に身を包んだ男が膝を付き、やがて地面に伏す。

 

 そのかたわらには、手に毒針を持った女が立っていた。

 

「ヌべリエ、殺したのか」

 

 冷たい声で聞くと、女はフードをぱっと外す。

 肩までの紫髪をなびかせ、布で目元を覆った暗殺者が、愉しそうに口角を上げている。

 

「いいえ殺していませんとも。大司教様が殺すなとおっしゃいましたから。下劣な背信者は、皆生け捕りです。そうでしょう?」

 

「そうだ」

 

 ゆっくり近づき、うつ伏せになった男を足で転がす。

 上向いた顔には、見覚えのある口髭があった。紛れもなく近衛騎士長だ。

 

 本当に自ら出向いてくれるとは、幸運だ。

 

「うふふ、これで聖女様の身を脅かす害虫は駆除できましたね」

 

「ああ」

 

 今ごろ、他の襲撃者たちも聖騎士達に捕まっているころだろう。

 

 思惑通り、敵をほとんど一網打尽にすることができた。

 

 聖女襲撃の首謀者が近衛騎士長とあれば、第一王子にも当然疑いが向けられる。

 第一王子は次期王位はく奪の上、よくて国外追放だ。

 

 そして王も第一王子も、その派閥の者たちも、二度と教会へ手出しができなくなる。聖女襲撃の噂を流せば、国民からの支持も地に落ちるだろう。

 

 ゴーゼ司教に聖女狩りの頭目、そして近衛騎士長。

 主要な敵は今、俺の手の中にある。

 

 王国だけでなく帝国も、もうおいそれとは手を出せなくなるはずだ。

 

 残るは――。

 

「大司教様、私、聖女様のフリはうまくできていましたか? いえもちろん清く神聖なマイ様と比較するなど畏れ多いことですが、ええ、背信者どもを欺く程度には振る舞えていればと思っただけで……っ」

 

 愉悦で頬を朱くするヌべリエに、俺は温和な顔で微笑んだ。

 

 マイのフリなど、誰かに務まるわけがないだろう。

 

 ――遠視の術。

 

 俺は目を閉じると、まぶたの裏にマイの姿を映し出した。

 

 白い光に包まれた聖域で。

 

 マイとロレンティアは並んで座り、静かに祈りを捧げていた。

 聖女と元聖女が織りなす神秘的な光景は、この世のなによりも美しい。

 

 目に焼き付けてから、まぶたを開ける。

 

「ああ、しっかりと振る舞えていたよ。危険な仕事を任せて……すまないな、ヌべリエ」

 

「ああそんな! なんともったいないお言葉でしょうか……!」

 

 嬉しさのあまり毒針を手の中でくるくると回転させる彼女に、乾いた笑みを送る。

 

『聖騎士長、神殿に戻ったら罠の仕上げをするぞ』

 

『まだ敵の脅威が?』

 

『ああ、おそらく残る背信者は――ヌべリエだけだ』

 

『なっ……承知しました』

 

 背信者として行動に移すなら、神殿に戻ったとき。

 敵を一網打尽にしたと気がゆるんだ今日をおいて他にないだろう。

 

 だが俺は、ヌべリエの魔力も手練手管も癖も、戦い方も、もう見た。

 

 あとは罠に嵌めるだけ。

 

 

 もう一度、聖域で祈る聖女たちの姿を思い浮かべる。

 

 俺は決してマイには見せられない表情を浮かべながら、馬車へ戻った。




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