【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話 作:月見ハク
窓から差し込む夕闇が、執務室を朱く
俺は魔力を練りながら、念話の術を発動した。
『聖騎士長、首尾はどうだ』
『はっ、聖騎士たちも各自配置に付いております』
『襲撃があるとしたら夜明けにかけてだ。警戒を怠るな』
『承知しております』
十人以上の背信者を捕らえた今、敵は焦っていることだろう。
一方の俺たちは、近衛騎士長という重鎮を捕らえたことで油断している。――そう考えるはずだ。
聖女を手に入れるなら今夜が絶好の機会。むしろ今夜しか好機はない。
コンコン、と執務室の扉が叩かれた。
「誰だ」
「大司教様、ニーナです」
「入りなさい」
半分ほど開いた扉から、桃色髪の聖女見習い――ニーナが、遠慮がちに入ってくる。
その頬が赤いのは、夕陽のせいだろうか。
「あの、大事な用があると、
「ああ、君に頼みたいことがあってな」
「わたしに、ですか? な、なんでしょうかっ」
近寄ると、ニーナが胸の前でぎゅっと手を握った。
少し緊張した様子なのは、俺が淫らな要求をすると思ったのかもしれない。ゴーゼ司教のように。
「あ、あのわたし、大司教様の頼みなら、なんでも――」
「聖女を守るために、協力してほしい」
「へっ? ……あ、はい、もちろんですっ!」
一瞬呆然としたニーナだったが、すぐに目を輝かせて俺を見上げた。
「ありがとう。説明の前に、魔力の詰まりを見ていいか」
「え、ぁ……はい、大司教様……」
彼女はさらに顔を赤くすると、嬉しそうにつぶやいた。
恥ずかしそうに下を向き、色っぽい雰囲気をにじませている。
相変わらず表情がころころ変わる子だ。
幼く天真爛漫で、少し勝ち気で、かと思うとはっとするような色気を見せる。
こういう娘に、世の男は魅了されるのだろう。
「んッ……ふ、うッ……」
ローブごしに肩をつかんで魔力を流し込むと、ニーナが苦しげな声を漏らした。
彼女の中に、以前ゴーゼ司教に刻まれた「呪い」は微塵も残っていない。
「ぁっ、大司教様……前より濃い、ですっ……」
「辛かったら言いなさい」
「いえっ、あッ、お腹のおく熱い、ですけど……んッ、だいじょうぶ……です」
小さい体を満たすように、魔力を浸透させていく。
これでニーナは当分、外部からの洗脳や支配の術を跳ね返すことができるだろう。
「では説明するよ、もし――」
彼女の耳元に、頼みごとの中身をささやく。
ぶるりと肩を震わせたニーナが、驚きに目を見開いた。
魔力を解き、華奢な肩から手を離す。
優しげな顔を作り、うつむいたままの彼女に声を掛ける。
「君には、辛い仕事だろう。嫌だったら断ってくれてもいい」
するとニーナは顔を上げ、訴えるように見つめてきた。
「断るなんてそんなっ、マイ様を守るためならこれくらいっ」
「君の身も危ないかもしれない。だから無理強いはしないよ」
こう言えば、きっと彼女は。
「やります、やらせてくださいっ……わたし、マイ様も……だ、大司教様も大好きですっ……だから、お役に立てるならわたしの身なんて」
「大丈夫だ。万が一危険が迫ったとしても、必ず私が守る」
低い声で言うと、ニーナの瞳が熱っぽく揺らいだ。頬をゆるめ、にっこりと笑う。
「なら、こわくないです……」
みぞおちのあたりに飛び込んできた桃色髪を、ポンポンと撫でる。
「助かるよ、ニーナ」
「……大司教様」
「なんだ?」
「もし、お仕事上手にできたら……そしたら、たくさん褒めてくれますか」
「ああ」
「やったっ」
ぱっと顔を上げた彼女は、作戦成功とでも言わんばかりに目を細めた。
ニーナの出て行った扉をぼうっと見つめる。
純粋な聖女見習いを利用したことに、罪悪感めいたものが湧く。
マイを守るためとはいえ、これではまるで――。
「ゴーゼ司教と同じだな」
自嘲し、それをごまかすように俺は遠視の術を発動した。
――まぶたの裏に、マイとロレンティアの姿が映し出される。
彼女たちは今もなお、光の柱の中で祈りを捧げていた。
ふと、ロレンティアがうっすら目を開く。
大地の力に当てられて、その瞳は虹色に煌めいていた。
「……マイ、少し休む?」
「……いえ、ティア姉さま……まだ平気です」
「そう、無理はしちゃだめよ」
「私、祈りたいんです……大司教さまが迎えに来てくれるまで、ご無事を……」
マイが目を閉じたまま、ふんわりと頬笑む。
「そうね……大司教様が来てくれたとき、お祈りをさぼっていたら格好がつかないわ」
「ふふ、叱られてしまいますね」
「あら、マイは大司教さまに叱られたいの?」
「……はい、ちょっとだけ」
ロレンティアが両眉を上げ、まるで可愛い生き物を愛でるように微笑んだ。
「それ、今度大司教さまに言ってみるといいわよ」
「え、どうしてですか?」
「きっと喜ぶから、あの人」
ロレンティアはマイの黒髪を優しく撫でると、再び祈り始めた――。
遠視の術を解くと、執務室はもうすっかり薄暗くなっていた。
ふぅと息を吐き、ローブの中の魔力増強剤に触れる。
小瓶同士がカランと音を立てた。
どんな手を使ってでも。
何を犠牲にしようとも、俺はマイを守り抜く。
***
夜が深まったころ。
神殿の地下最深部、壁の魔導灯が頼りなく照らす牢獄前に、二つの影が立っていた。
「うふふ、やはりゴーゼ司教はここに捕らえられていたのね。助かったわ、ニーナさん」
「はい……ヌべリエさん」
聖女見習いのローブを着たヌべリエが、ニーナの桃色髪を愛おしそうに撫でる。
針金を使って牢の鍵をたやすく開けると、ニーナの腰をそっと押した。
「牢獄の鍵はどこも同じなのね。さあ行きましょうかニーナさん、あなたのご主人様のところへ」
冷たい床が続く先、半円状の広い牢獄の奥に、ゴーゼ司教が鎖に繋がれている。
全裸であぐらをかき、目と耳は何重もの布が巻かれていた。猿ぐつわをはめられた口からはフーフーと獣のような吐息が漏れ、端からは涎れが垂れていた。
日に一度、生命維持のための水と塩しか与えられていないため、でっぷりとしていた体はだいぶ
「あのっ、ヌべリエさん……ちゃんとゴーゼ司教のところへ案内しました。どうか、マイ様を傷つけないでくださいっ……」
ニーナが涙を浮かべて立ち止まる。
「うふふ、心配しないで。約束は守ります。聖女マイ様の清らかな肌には傷一つ付けません。それよりほら、久しぶりの対面でしょう? どう、あなたを弄んでいた男がこんなふうに捕らえられている姿は。心が痛む? それとも悦ばしい?」
ヌべリエは楽しそうにゴーゼ司教へ近づくと、まるで紹介するように手を広げてニーナを振り返った。
「……わかりません」
ニーナは辛そうに顔をしかめると、ゴーゼ司教から目を逸らした。
「いろいろと聞いていますよ。この男が以前、それは自慢げに話していたから。ご家族への支援が打ち切られる、聖女見習いとしての道も絶たれてしまう、そう脅されたのでしょう? 逆に言うことを聞けば特別な計らいを与えると……この
「っ……」
なるほどな。
人の不満や恐怖を見抜き、奥底に眠る欲望を肥大化させ、操る。
魔獣討伐遠征の帰路に襲ってきたあの聖騎士も、第一王子も、近衛騎士長も、そうしてつけ込まれたのか。
「本当は、嫌だったのでしょう? 抱かれるたびに泣きたかったのでしょう? でも司教の恩情だと自分に言い聞かせ、耐えていたのよね。ああ、もしかしたら他の子にも同じことをするぞと脅されたかしら。そして利用され、搾取され、挙げ句にはこんな禍々しい呪いまで植え付けられて……この豚は以前言っていました。いい声で鳴く小鳥が手に入ったと……ほら、憎いでしょう?」
ヌべリエが懐から毒針を取り出し、ゴーゼ司教に向けた。
彼女は、ニーナの体から呪いが取り除かれたことを知らない。
だから今もニーナとゴーゼ司教に魔力的な繋がりがあると信じ、ここまで道案内をさせたのだ。
「憎いなんてっ……思ってません」
ニーナがヌべリエをじっと見据えた。溜まった涙がこぼれないよう必死に堪えながら。
「……やはり聖女見習いはお人よしですね。それとも寝床で刻まれた偽りの情愛と快楽に、まだ翻弄されているのかしら……哀れなこと」
ヌべリエの声にほんの少し動揺が混ざる。
本来、聖女見習いは嘘がつけない。ニーナが心底からゴーゼ司教を憎んでいないことに、わずかながら驚いたのだろう。
「ちがいます」
ニーナが小さい声でつぶやき、首を横に振る。
「大司教様が、教えてくれたからっ……本当の優しさと、魔力のあったかさ……だから、もうわたし、誰のことも憎くないし、こわくないっ……」
ニーナの頬を涙がつたう。それでも彼女はまっすぐ目の前の暗殺者を見つめていた。
ヌべリエが、今度こそ驚いたように体を硬直させる。
やがてゴーゼ司教へ一歩近づくと、耳を塞いでいた布をめくり上げた。
「そう……まだ呪いに囚われているのね。可哀そうに……私がニーナさんを解放してあげましょう」
ヌべリエがゴーゼ司教の猿ぐつわを外す。
すると涎れを垂らしていた口端がわずかに動いた。
「……紫、か……それにこの声は、ニーナだな……」
ニーナの肩がビクッと震える。
ヌべリエはニーナの視界を遮るように、ゴーゼ司教の目の前に立った。
「お久しぶりですゴーゼ司教。相も変わらず醜悪な佇まいですね」
「……私を、殺しにきた、か……」
するとヌべリエはゴーゼ司教に口を近づけ、ニーナに聞かれないよう声量を落とした。
ここから内密な話をするという合図だ。
「ええ、今のあなたは
あの聖騎士に「聖女を好きに抱いていい」とささやいたり、第一王子に聖女に利く酒――媚薬をすすめたことを言っているのだろう。
「ふ……紫よ、よくしゃべる女だ……」
それだけは俺も同感だ。
だがおかげで知りたいことはすべて知れた。
「……そういえば、あなたは私のことも脅そうとしたことがありましたね。あのときは、おぞましさで背すじが粟立ちました。汚らわしい色狂いの豚……もう消えなさい」
ヌべリエが毒針を握る。
するとゴーゼ司教は掠れた声を上げた。
「ニーナっ、そこにいるのだろう、助けてくれ……! ニーナ、私の可愛い――」
もういいだろう。
「もういい。黙りなさい」
ヌべリエが憎々しげにつぶやいた瞬間。
俺は術式を展開した。
「結界……!?」
思わず声を漏らしたヌべリエの周囲を、光の壁が覆った。足下には魔法陣が浮かび上がり、光柱が彼女を閉じ込めている。
以前、ゴーゼ司教を嵌めたときと同じ罠だ。
この牢獄には、いたるところに魔法陣を刻んである。
ヌべリエを拘束したことを確認し、俺は自分を覆っていた防護魔法から外へ出た。
「背信者ヌべリエ、聖女見習いへの脅迫、ゴーゼ司教の暗殺未遂、そしてたった今自白した数々をもって、君は重罪に処される」
告げながら、ニーナのもとへ歩み寄る。
「大司教さまっ……」
「辛い思いをさせてすまない、ニーナ」
静かに泣いている彼女を、目の前の光景から覆い隠すようにマントで包んだ。
「いいえ、大司教さまが見守ってくれてたから……ぜんぜん、こわくなかったです……」
「そうか」
ポンポンと頭を撫でながら、優しい父親のように抱き締める。
まぶしい光を放つ結界のほうを見やると、ヌべリエは口に薄ら笑いを浮かべていた。俺は魔力を操作し、結界内の音を外に届かせる。
「――さすが大司教様、お見事です。こんな近くにいらっしゃったなんて。この私がまったく気づけませんでした……素晴らしい」
「息を殺して隠れるのは得意なんだ」
ヌべリエは異常な聴覚と、卓越した魔力察知によって周囲を認識している。
これまでヌべリエを観察していて、それがよく分かった。
だから俺は、自らの音と魔力を閉じ込める結界内に身をひそめ、待ち伏せし、ヌべリエとニーナ、そしてゴーゼ司教とのやり取りをじっと見ていたのだ。
「どうして私が背信者だと?」
「ただの勘だよ」
本当は、わずかな違和感の積み重ねだ。
初めて王城で出会ったとき、彼女の魔力を探った際にほんの少しだけ警戒が見てとれた。
俺にしか気づけない、わずかな魔力の揺らぎ。
だが第一王子との視察へ出立する日、二度目に魔力を探ったときはその揺らぎが消えていた。
後ろ暗い企みなどないという証明だが、必死に気取られないよう魔力を操作したと邪推することもできる。
そしてロレンティアを通して彼女を視て、聖騎士長にも見張らせてきたこの間、主であるはずの第二王子へ状況を報告している素振りが一切なかった。
てっきり第二王子からマイの監視役として送り込まれたのだと思っていたから、意外だった。それは信用に足る要素だったが、一切不審な動きを見せないことで、この教会に溶け込もうとしているようにも見える。
さらに彼女は、聖女狩りの頭目が捕らえられている牢獄に連れてきた際、言った。
――他にもこのような牢獄があるのです?
まるで他の牢――ゴーゼ司教の居場所をさりげなく探っているようにも聞こえた。
そして下町での襲撃で、彼女は単独で飛び出し、近衛騎士長の口を封じた。
殺しはしなかったものの、毒針を打たれた近衛騎士長は簡単には目を覚まさない。
どれも些細な違和感だ。
だがその点と点を結び合わせると、ヌべリエの一番の目的がゴーゼ司教の暗殺なのだと判断できる。
推論に過ぎないが、疑うには十分すぎた。
俺は最初から、自分の
疑わしき者は、片っ端から罠にかける。
この疑り深さのおかげで、俺は最年少で大司教にまで上り詰めることができた。
「本当に……もっと早く大司教様に出会っていたらよかった」
ヌべリエが寂しそうにつぶやく。だがその口元には不敵な笑みを讃えていた。
絶体絶命の状況でここまで平静でいられる理由。
それは切り札を隠し持っているときだ。
予想どおり、ヌべリエが魔力を練り始めた。
「無駄だ。結界からは抜け出せない」
言いながら、彼女を閉じ込めている結界の強度を上げる。
「それはどうでしょうか」
ヌべリエは顔に手を伸ばすと、目元を覆っていた布をめくり上げた。
二重で、優しげな印象を与える左目。その瞳が赤く輝いている。――義眼だ。
「魔道具か」
「ええ、切り札です」
瞬間、膨大な魔力が渦巻いた。赤みを帯びた魔力がヌべリエからあふれ、光柱を打ち破ろうとする。魔力と魔力がぶつかり合い、バチバチと激しい音が鳴る。
だが、結界はその輝きを失わない。
俺は全魔力を結界の維持に注ぎ込んでいた。
「ああ……凄まじい魔力っ……皇帝陛下から
感激したように笑うヌべリエに、俺も余裕の笑みを返す。
「無駄だと言っただろう」
正直、もう少ししたらこちらの魔力は枯れるだろう。
だが俺には魔力増強剤がある。彼女の魔道具との耐久勝負にも十分勝てるはずだ。
「そのようですね……ですが大司教様、切り札というのは一つとは限りません」
ヌべリエがもう片方の布をめくり、右目を見せる。
その瞳は、吸い込まれるような漆黒だった。
一瞬で、俺の視界が黒く染まる。
「なにっ……!」
バリンと結界の割れる音がした。動揺して魔力にわずかなゆらぎが生じ、それに乗じてヌべリエが魔力を爆発させたのだ。
視界が奪われ、周囲の状況が分からない。
だが予測は立つ。
「ニーナ、離れるなよ」
「はいっ――」
ニーナがぎゅっとしがみついた瞬間、俺は自分の周囲に防護魔法を展開した。
キンと何かが弾かれる音。おそらくヌべリエが毒針を俺に投擲したのだろう。
さらに牢獄内のいくつかの結界を発動する。本来視認していなければ展開できないが、魔法陣の位置は脳内に刻み込まれている。
少し離れた場所でキンと音がした。方向的にゴーゼ司教のいるあたりだ。
ヌべリエが暗殺を試みたとき、ちょうどゴーゼ司教の真下に配置した魔法陣が作動してしまったのだろう。悪運の強い男だ。
音を頼りに、ヌべリエのいるだろう方向へ防護魔法を放つ。
展開した魔力が彼女にぶつかり、ガキィンと衝撃音が鳴る。魔道具の力だ。だが彼女の体もその勢いでふっ飛んだようだ。
「切り札を二つ使っても即座に対応なさるなんて……素直に驚きました」
「諦めろ。魔道具の魔力も残り少ないだろう。じきに聖騎士達も駆けつける……袋のネズミだ」
「ええそうですね。ここは逃げるとしましょう」
「待て、迷宮の出口はすでに包囲されているぞ」
「それは恐ろしい」
彼女が足音を消して牢獄の出口へ向かう。それを気配で感じる。
「……ニーナ、ヌべリエは行ったのか」
「はい……いなくなりました」
よかった。ニーナはヌべリエのあの漆黒の目を見ていなかったようだ。
「視界を奪われた。……ゴーゼ司教はどうしている?」
「えっ……えっと……大司教様の防護魔法が当たって、多分、意識を失ってます」
「そうか」
俺は急いで念話の術を発動する。
『聖騎士長、背信者ヌべリエを逃がした。おそらく聖域へ向かったはずだ』
第一の目的であるゴーゼ司教の暗殺は叶わなかった。
であれば第二の目的、聖女の捕獲へ向かうはずだ。
『大司教様、ご無事でなにより。迷宮の出口を包囲しますか』
『いやいい。ヌべリエは迷宮内に精通している可能性がある。それよりも聖域の護りを固めろ』
『承知しました、早急に』
『地上で襲撃はあったか』
『いえ、静かなものです』
少しだけ驚く。
背信者の、少なくとも実行役は本当にヌべリエで最後らしい。
『他の聖女見習いは?』
『はっ、大聖堂に』
『そちらの護りは薄くするな』
『構わないのですか?』
『構わない。もし聖域にヌべリエが現れたら、君たちも聖域内に立ち入ることを許可する。拘束するために攻撃魔法を放ってもいい』
『なっ……いえ、承知しました』
いったん念話の術を解き、俺は胸元にいる少女へ声を掛けた。
「ニーナ、頼みがある」
「はいっ」
「聖女のもとへ向かう。俺の目になってくれないか?」
ここからは時間との勝負だ。
俺は立ち上がると、ニーナと手をつないで牢獄を後にした。
***
真っ暗な視界の中、俺はニーナに手を引かれながら足早に迷宮内を進んでいた。
「大司教様、また十字路です」
「右だ」
「え、あのっ、左に階段があります。上へ行くなら階段に……」
そのとき、聖騎士長が思念で話しかけてきた。
『大司教様、ヌべリエが突然現れました。中庭です』
『やはりか』
俺と聖騎士長が使っている出口とは別の場所だ。ヌべリエが迷宮内をどこまで把握しているのかは不明だが……これは危険だ。
『あの女、聖域へまっすぐ……!』
『挟み撃ちにしろ』
『く、護りの聖騎士が二人やられました。突破されます』
『外にいる聖騎士も皆で突入するんだ。聖域内で捕えろ』
『はっ!』
しばしの沈黙が流れる。
俺はニーナを促し、階段とは反対方向へと進みだす。
『だ、大司教様っ……! 聖域に、聖女様の姿がありません』
『問題ない。ヌべリエをなんとしても捕まえるんだ』
ふとニーナが立ち止まり、その背中に軽くぶつかる。
「どうしたニーナ、分かれ道か?」
「はい……あのっ、どちらも下への階段ですっ……」
「では、左だ」
「でもっ……」
「案ずるな。聖女は上にはいない」
俺は遠視の術を発動し、まぶたの裏にマイとロレンティアを映し出す。
――地下迷宮の最奥。
ちょうど地上には温室が位置する、その真下。
人が三人横になれるほどに太い光の柱が、ドーム状の地下空間を明るく照らしていた。
光柱は上にいくほど細くなり、天井を通り抜け、地上の温室へと続いている。
そんな太い幹のような聖域の根元で。
黒髪の聖女と金髪の元聖女が、静かに祈りを捧げていた。