※この作品はR-18です。

【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話   作:月見ハク

49 / 53
第49話 好きな時間

 暗い視界の中に、ぼんやりと情景が広がっていく。

 

 淡い魔導灯に照らされ、白い湯気が立ち込める空間。

 ここは別棟にある聖女見習いたちの浴場だ。

 

 俺が足を踏み入れると、湯に浸かっている紫髪の美女――ヌべリエが顔をほころばせた。

 彼女の両目には、髪と同じ紫色の瞳が輝いている。

 

 ここはヌべリエの夢の中。俺はもう十回以上、彼女の無意識を訪れていた。

 

「まぁ大司教様、ご機嫌(うるわ)しゅう。ここは男子禁制ですよ」

 

 そう言いながらヌべリエは自身の隣を手で指し示す。

 

「ああ、昨日も言われたな。だがすまない、君と話をしたくてね」

 

「ふふ、昨日もそうおっしゃってくださいましたね。本当はお姉様を待っていたのですけど、まぁいいでしょう」

 

 悪戯っぽく微笑む様は、ロレンティアによく似ている。ずいぶん影響を受けているのだろう。

 

 俺は苦笑しながら、彼女の隣に腰を下ろす。

 

 湯の温もりが伝わってくる。体の内側に沁みいるような気持ちよさだ。

 きっと夢の主であるヌべリエにとって、この浴場が最も心地いい場所なのだろう。

 

 以前、マイとロレンティアの三人で湯浴みをしたのが、ことのほか彼女のいい思い出となっていたらしい。最近はいつもこの夢だ。

 

「お姉様、か。そろそろロレンティアをそう呼んだらどうだ? 喜ぶと思うぞ」

 

「そんな滅相もない! 面と向かって言うなんてっ……そんな」

 

「マイには自分のことをお姉様と呼ばせたがっていたじゃないか。なのに自分で言うのは恥ずかしがるとは、自分勝手な聖女見習いだ」

 

「……相変わらず意地の悪い方」

 

 夢の中では嘘がつけない。

 俺の本性も、ヌべリエにはとうにバレてしまっていた。

 

 トンと、彼女の肩が俺の腕に当たる。

 

「お姉様だなんて、こうして夢の中で大司教様に言うのが精一杯です」

 

「今日は、ロレンティアとどんな話をしたんだ?」

 

 話を振ると、ヌべリエは悩ましげなため息をついた。手を頬に当て、うっとりとした表情を浮かべている。

 

「うふふ……今日は、昔の話をしてくださいました。教会に預けられる前、お姉様は貴族の家で下働きをしていたそうですよ」

 

「そうらしいな」

 

「あら、大司教様も知っていらっしゃたのですか。私にだけ打ち明けてくださったのかと思ったのに」

 

「……まあな」

 

 眠りにつく前、遠視の術でロレンティアを視ていて初めて知った。

 

 教会の記録ではもともと孤児だったとしか書かれていない。

 

 聖女時代、寝物語にはなんでも話す彼女だったが、聖女見習いになる前のことには触れてほしくなさそうだった。だから俺も聞かないようにしていた。

 

「きっとお姉様は貴族の血筋なのです。あの気品と麗しさは俗世とはかけ離れていますもの。そうですね、マイ様が荒れ地に力強く咲いた奇跡の花なら、お姉様は荒らされた花壇の中でも輝きを失わなかった可憐な花。どちらも美しく儚げで、ああ……凡庸な私に甲乙などつけられるはずがありませんっ……」

 

 ヌべリエが早口でまくし立てる。彼女の暴走にもだいぶ慣れた。

 

 ずいぶんとロレンティアに懐いた、もとい心酔したようだ。

 以前は執着の大半をマイに向けていたが、今はそれが二倍になった気がする。

 

 俺はため息をつくと、彼女の言葉に思考を巡らせた。

 

 ロレンティアが貴族出身……か。

 

「あり得ないな。衣食住に満たされた貴族の家から、聖女見習いが出た記録など見たことがない。大地の恵みと飢えによる死が常に隣り合わせの貧しい農村でしか、基本的に治癒の力は発現しないものだ」

 

 断言すると、ヌべリエがすっと冷静になった。

 

「お姉様も、死が隣り合わせだったのでしょう」

 

「どういう意味だ?」

 

「貴族として生を受けても、置かれる環境は人それぞれ。たとえば貴族と平民との間にできた不義の子などは、過酷な暮らしに追いやられることも珍しくない。それにお姉様の、ロレンティアという麗しいお名前は、平民の親が名付けるようなものではありません」

 

「……なるほどな」

 

「あくまで私の推測です。なのでどうかお姉様にはおっしゃらないでください。詮索されるの、きっとお嫌でしょうから」

 

 確かに推測にすぎない。だがかなり説得力がある。 

 

 素のヌべリエと話をすればするほど、彼女の聡明さには驚かされる。

 ロレンティアとはまた別種の抜け目なさも持ち合わせている。

 

 世の男なら一瞬で虜にしてしまうだろう美貌と、どこか危うさのある色香。

 表情が豊かになってきた今だからこそ分かる人懐っこい素顔。

 そして聖騎士や俺を相手取り、追い詰いつめたほどの魔力量。

 

 もし彼女が聖女見習いの道を外れず、俺以外の者が大司教になっていたなら、聖女に選ばれてもおかしくない。

 

 加えて陰の者として磨いてきた暗殺術に、洞察力や情報収集力。

 気配や魔力の察知能力もずば抜けている。

 

 やはり、ぜひ手駒に――。

 

「君が欲しい」

 

「…………ふふ、ご冗談を」

 

 ヌべリエが涼やかな笑みを浮かべる。

 

 いかんな。

 この空間では本音がつい漏れてしまう。

 

 まあ、今さら隠し立てする必要もないか。

 

 もしロレンティアのおかげで生きる意味を見出したとしたら、どの道行き場のないヌべリエには俺の下で働く選択肢しかない。

 

「ヌべリエ、瞳をよく見せてくれないか」

 

 彼女のほうを向き、紫色の両目を見つめる。

 

「……大司教様も私の体がご所望ですか? ええ構いませんよ、どうぞご自由に」

 

 ヌべリエが俺のほうに向き直り、均整の取れた美乳をピタリとくっつけてきた。

 しなやかな手が、湯の中で俺の股間をまさぐる。

 

 その表情には、どこか寂しげな色が浮かんでいた。

 どうやら勘違いさせてしまったらしい。

 

「いかがです、大司教様?」

 

 首すじに熱っぽい吐息を吹きかけられた。

 優しく労わるような、それでいて男の性感を的確についてくる手つきで、ペニスを愛撫される。

 

 皇帝に仕込まれ、陰の者として磨き上げてきた性妓だ。

 どんな男も骨抜きにしてしまうのだろう。

 

 だがあいにく、俺はマイ以外では勃たない。

 

「せっかくの奉仕を無下にしてすまないが、純粋に瞳を見たいだけなんだ」

 

「え……? あらそうでしたか」

 

 ヌべリエが股間からゆっくり手を引く。眉尻を下げたその顔は、安堵しているようにも残念がっているようにも見えた。

 

 夢の中なので問いかければ本音をさらすのだろうが、なんとなくやめておく。

 

 どうぞとばかりに見つめてくる小顔を両手で包み、じいっと目元を覗き込んだ。

 鼻先が触れるほどに顔を近づけると、紫色の瞳が揺れる。

 

「……そんなに物珍しいです?」

 

「今君の新しい義眼を作っているのだが、色の調整が難しくてな」

 

「え……」

 

 ヌべリエが初めて動揺した顔を見せた。

 

「私は君の瞳を奪ったんだ。返すのが道理だろう」

 

「そう……ですね」

 

「視線を逸らさないでくれないか、よく見えない」

 

「すみません」

 

 深紫の瞳がさっきよりも潤んでいるような気がする。

 なるほど、水気を含むと黒目のまわりに紅色がにじむらしい。

 

「瞳まで、北方に咲くヌべリエ花とよく似ている。花弁の奥が真紅に染まっているところまでそっくりだ」

 

 顔を離しても、彼女は俺を一心に見つめていた。

 

「たしか、夜にしか咲かない花なのでしたっけ」

 

「ああ、月明かりを養分に変える奥ゆかしい花だ」

 

「ふふ……私にお似合いですね」

 

 ヌべリエが冗談めかしく微笑む。

 

 邪気のない、透き通った顔だ。きっと以前の彼女はこうして笑っていたのだろう。

 

 ぐにゃりと、浴場の光景が揺らぐ。

 

「そろそろか。ではまた、夢でな」

 

「次こそ、マイ様を連れて来てくださいな」

 

「ここは君の夢だから、君が望めばそうなる。昨日も言ったはずだが」

 

「……そうですね」

 

 小首をかしげて微笑んだヌべリエの姿が、闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 ふわりと、頭を撫でられる感覚で目が覚める。

 

 後頭部には心地いいマイの膝枕の感触。

 顔の左側が温かい。彼女のお腹の温もりを感じる。

 

 さらりと、今度は前髪をかき分けられた。

 

 この気持ちよさを終わらせたくなくて、しばらく寝ている振りをする。

 

 彼女の膝枕を使うようになってから、もう十日が過ぎた。こうして寝たフリをするのも十回目だ。

 

 

「リンゼさま……そろそろ起きますか?」

 

「……ああ、おはようマイ」

 

 まぶたを開けると、少し残念そうに微笑む彼女と目が合う。

 こうして寝たフリを見破られるのも十回目だ。

 

 名残惜しいが、体を起こす。

 

 目頭を押さえながら、俺は念話の術を発動した。

 

『聖騎士長、ヌべリエは起きたか?』

 

『はっ、目覚めたようです』

 

 地下牢獄にいる聖騎士長から思念で応答してくる。

 

 ヌべリエは今も牢に拘束したままだ。

 

『様子はどうだ』

 

『異常ありません。頬が少し紅潮している以外は』

 

『いつも通りだな』

 

 ここ最近のヌべリエは、目覚めると頬を染めているらしい。

 

 だが夢の中で会う彼女も最近は頬が赤いので、きっとそれが素なのだろう。

 

『御苦労。見張りを代わっていいぞ』

 

 

 念話の術を切ると、ソファーから立ち上がる。

 

「マイ、ありがとう。今日もいい眠り心地だった」

 

「あ、いえ、私も……この時間が好きなので」

 

「……そうか」

 

 座っている彼女の頬に触れると、気持ちよさそうにまぶたを閉じた。

 伏せられた長いまつ毛が美しい。

 

「ヌべリエさんは、大丈夫なのでしょうか?」

 

「ああ、彼女には呪いが掛かっていたんだ。それも、もうすぐ解ける」

 

「そう、だったのですね……よかったです」

 

 マイは安堵したように口元を綻ばせ、それ以上言葉を発しなかった。

 

 俺が毎日、膝枕を借りて何をしているのか気になるだろうに、彼女は何も聞いてこない。

 

(本当に物分かりのいい子だ)

 

 その分、マイは一人で抱え込んでしまうところがある。

 

 そういうところも愛おしい。

 

「んっ……」

 

 しっとりとした唇に触れると、それだけで彼女は切ない声を漏らした。

 

「俺が寝ているあいだ、君はずっと起きているのか? 寝ていてくれてもいいのだが……とはいえ、今はまだ午後か」

 

 ヌべリエは基本的にずっと起きていて、ロレンティアが昼食を食べさせた後にほんの少し眠るだけだ。

 

 必然的に、俺も夢視(ゆめみ)の術を使うのはこの時間帯になる。

 マイが執務室に来られる時間帯なので、俺としては都合がよかった。

 

 だが彼女にしてみたら長時間の膝枕は疲れるだろう。

 そう思って聞いてみたのだが。

 

「眠るなんて、もったいないです。リンゼさまの寝顔を……あ、じゃなくて、このソファーは心地がいいのでっ、一休みになります」

 

 彼女は目を開けると、気まずそうな顔をした。

 それがなんだか可笑しくて、つい笑ってしまう。

 

「そうか。では明日も頼む」

 

「はい」

 

 嬉しそうに微笑むマイの黒髪を撫でていると、コンコンと扉がノックされた。

 

 神殿大工のやってくる時間だ。

 

 今回の温室補修のついでに、俺は執務室の隣に仮眠室を増設させている。

 

 扉の外にいる大工たちに少し待つように言うと、マイをソファーから立たせた。

 大事な用件を伝えるためだ。

 

「マイ、明後日に第二王子殿下が訪問に来る。君も聖女として同席しなさい」

 

「はい、わかりました」

 

「では、また明日な」

 

 大司教としての仕事が山積している。

 マイとの時間をもっと取りたいのだが、こればっかりはどうしようもない。

 

「あの、大司教さま」

 

「なんだ」

 

「その、殿下の訪問の際には、あのっ……検査は、するのでしょうか?」

 

 俺のローブを控えめにつまみ、うかがうように聞いてきた。

 

 瞬間的に、情欲がこみ上げてくる。

 本当なら毎日毎時間、彼女を犯したい。

 

 だが。

 

「殿下の訪問は儀式ではない。ただの会談だ。だから検査をする必要はないな」

 

 非常に残念なことに。

 

 無理やりに口実を作れば検査することも可能なのだが、先日、俺は別棟に入ったばかりか、聖女であるマイの部屋に滞在してしまった。禁忌をいくつも破ったのだ。

 

 本来なら大司教の任を降ろされてもおかしくないのだが、これまでの品行方正で清廉潔白な仮面が功を奏し、俺を咎める声は一つも上がっていない。

 

 とはいえしばらくは、マイを長い時間拘束していると変な目で見られかねないだろう。

 今は我慢と自重の時だ。

 

 彼女を見やれば、下唇を噛んで斜め下をぼうっと見つめていた。

 

「……そう、ですか。はい、わかりました」

 

 コンコン、と再び扉が叩かれる。

 

 マイが目を伏せ、ローブから指を離す。

 

 俺はそんな彼女の腕を引き寄せると、抱き締めながら唇を重ねた。

 

「ん、ぁっ……んッ、ぇぁ……んっ、はぁ、んむっ……ん、んんっ……」

 

 舌を絡ませ、舌先から魔力を流し込む。マイの体がビクンと震え、ローブの胸元をぎゅっとつかんできた。

 

 狭い口内で舐め合うと、頭の後ろが熱くなってくる。

 すでに剛直しきった股間を柔らかいお腹に押し当て、彼女の豊満な乳房を胸板で押し潰して堪能する。

 

 じゅる、じゅると唾液の交わる音が響く。

 これ以上濃厚に絡んだら、外に漏れ聞こえてしまうだろう。

 

 コンコン、とまた音がした。

 

「ん……リンゼさま、大工さんたちが……」

 

 唇を離すと、彼女が申し訳なさそうにつぶやく。

 だがその瞳は物欲しそうに潤み、唇も求めるように上向いている。

 

 まったく。

 こんなふうに煽るから歯止めがきかなくなる。

 

「ああ、そうだな。魔力にも異常はない。明後日の会談に備え、今日はもう休みなさい」

 

「はい、リンゼさま」

 

 言いながら、扉を開けて神殿大工たちを招き入れた。

 

 すれ違いざまに大工たちが、匂い立つような色香を放つ聖女に息をのむ。

 

 俺はずいっと体を割り込ませると、彼らの視線からマイの姿を隠した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。