※この作品はR-18です。

【書籍化】大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話   作:月見ハク

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第50話 二つ目の手駒

 よく晴れた日の午後。

 

 俺は中庭にある温室の前にいた。

 聖騎士が厳重に見守る中、神殿大工たちが復旧工事を進めている。

 

 大きな一枚ガラスがゆっくりと引き上げられ、陽光を反射させていた。

 温室の屋根はまだスカスカで、骨組みが痛々しく露出している。

 

 見るからに半壊状態だ。

 

「これほどの有り様とは……正直驚いています、大司教殿」

 

 隣に立っている第二王子が、その美形を歪める。

 

 本当はもっと早く復旧も可能だったのだが、俺はあえて工事を遅らせていた。

 

 王子にこの惨状を見せつけるため。

 負い目を感じさせ、より多くの補償を引き出すためだ。

 

「これでもだいぶ復旧が進んだのです。以前は、とても殿下に見せられる状態ではありませんでしたから」

 

 しれっと嘘を挟み込む。

 

「誠に、申し訳ない……まさか紫が卑劣な背信者だったとは」

 

 紫とは、ヌべリエが陰の者だったときの呼び名だ。

 

 彼女はもともと第二王子からすると、直属の部下にあたる。

 わざわざマイを守るために送り込んだ者が、こともあろうにマイを害そうしたのだ。

 

 その責任と後悔にさいなまれているのか、王子の緑色の目元には濃い隈が刻まれていた。美しい銀髪もどこかくたびれているように見える。

 

「背信者には大いに手こずりました。聖騎士たちが命を賭して止めなければ、聖女の身も危なかったでしょう」

 

「……ええ、襲撃の一報を聞いたときは生きた心地がしませんでした。マイ殿が無事で、本当によかった」

 

「聖騎士にも多くの重傷者を出しましたが、幸いなことに死者はおりませんでした」

 

 少し大げさに言う。

 実際は聖騎士たちの怪我はそこまで大したことはなく、聖女見習いの治癒ですぐに全快している。

 

「……申し訳、ありません。聖域の復旧だけでなく、傷ついた者たちへの補償、それに神殿の守りを強化する費用についても、ぜひこちらで負わせてください」

 

「そんな、王家にそこまでご負担を強いるわけには」

 

「いいのです。今回の件で私を国王にという声が強まっている。なればこそ次期国王として、せめてもの償いをさせてください」

 

 ふむ。

 交渉の成果としては上々だ。

 

「そうですか……では、お言葉に甘えさせていただきましょう」

 

 にこやかに笑いかけると、第二王子は安堵のため息をついた。いくつかの重圧の、その一つからやっと解放されたといった感じだ。

 

 彼がここまで精神的に追い詰められているのは、ヌべリエの件だけではない。

 

 第二王子は王都に帰還するやいなや、兄である第一王子がマイに不埒な真似を働こうとしたことや、第一王子の近衛騎士長が背信者だったという事実に直面し、以後ずっと面倒な政治闘争を迫られている。

 

 王位継承で優位に立つべしという第二王子派の突き上げもあり、第一王子派の粛清や権力掌握に明け暮れているらしい。

 

 本当に貴族というのは不毛な争いを好む生き物だ。

 

 一歩間違えば王政が崩壊してしまうほどの事態である。城内の大混乱を鎮めるのは、政治方面に疎いこの王子にはたいそう荷の重い仕事だろう。

 

 ほとんど寝る暇もないはずだ。

 

 そうして疲労が限界を迎えただろう時期を見計らい、俺は彼を神殿に招いた。

 

 交渉事は、相手がもっとも疲弊しているときに行うのが鉄則だ。

 

 王子を見ると、顔をしかめ唇を引き結んでいる。

 何か言いにくいことをいう直前の、苦悩する人間の表情だ。

 

「殿下、どうなさいましたか?」

 

「ああ、いえ……大司教殿にこんなことを言うのは心苦しいのだが――」

 

「補償については、寄付という形で結構ですよ」

 

「寄付?」

 

 おおかた表立って復旧費用を肩代わりすると、王家の側に原因があると内外に知らせることになるので困る、とでも言いたいのだろう。

 

「ええ、寄付です。殿下の直属だった者が主犯であるという事実を、我々は公表するつもりがありません」

 

「……それは、なんというか……いえ、助かります」

 

「実は殿下の派閥にも背信者と繋がっていた者がいるのですが、こちらについても教会は関知しません。後ほど情報をお渡ししますので、殿下のほうで処理してください」

 

「なんとっ……そう、ですか……本当に何から何まで」

 

 第二王子はついに肩を落としてしまった。

 

 一国の王子がここまで弱気な姿を見せるのは珍しい。

 

 蓄積した疲労もあるだろうが、周囲は敵ばかりと辟易(へきえき)していたところに、こうして大きな味方が現れて感情的になってしまったのだろう。

 

 耐えがたい重圧を強いられる中、負い目のある相手から優しくされたのだ。どんな人間でも寄りかかりたくなる。

 

 そうして、王城でも自分の派閥ではなく、教会――大司教である俺にこそ全幅の信頼を置くようになれば。

 

 帝国という強大な敵からマイを守る、いい防波堤になってくれることだろう。

 

 今までは王家とは極力距離を置きつつ、襲ってきた敵を罠にかけて狩ってきた。

 だが、護りの姿勢だけでは限界がある。

 

 幸運なことに俺の魔力は増大し、強力な手駒も揃ってきた。

 

 これからは王家でもなんでも使えるものはすべて使い、マイを奪おうとする者を根こそぎ討つ。

 

 だからこそ多少のリスクを飲み込んででも、今後は第二王子に肩入れするつもりだ。

 もちろん、彼が「使える手駒」である限りはだが。

 

 半壊の温室をぼうっと眺めていると、王子が思い出したようにこちらを向いた。

 

「ところで大司教殿、紫……いえ背信者の身柄は今、どこに」

 

「……彼女は死にました」

 

 簡潔に告げる。

 王子は一瞬息を止めたが、それ以上を聞いてこようとはしなかった。

 

「そうですか。……それで大司教殿、こんなことを言うのは心苦しく思うのだが」

 

「はい?」

 

 ヌべリエが主犯だったことについては表沙汰にしないと告げたはずだが。

 

「その……マイ殿には、私の部下が関与したという事実を、伏せてほしいのです。いやもしかして、マイ殿はもう紫が私の直属だったことをご存知なのでしょうか?」

 

「……」

 

 まさか、王子の一番の気がかりがマイに嫌われたくないというものだったとは。

 

 次期国王ともあろう人間が、王家の体面よりも自身の恋心で頭がいっぱいだとは思わなかった。

 

「聖女マイは、紫が殿下より派遣された者だったということを知りません。ええ、伏せておきましょう」

 

「ありがとうございます、大司教殿」

 

 第二王子が初めて頭を下げる。

 

 誰よりも心優しいマイのことだ。ヌべリエと第二王子の関係を知ったところで悪感情を抱くことはないだろうし、そもそも王子にあまり関心がない。

 

 だが、この青年の恋慕も大いに利用させてもらう。

 今となっては純情な色惚け王子でいてくれたほうが、不埒で行動的な第一王子なんかよりよほど制御がしやすい。

 

「それで大司教殿、約束したマイ殿との面会は……」

 

「ええ、談話室に行きましょうか」

 

 俺は喜色を浮かべる第二王子に背を向けると、神殿の中へ歩みを進めた。

 

 

 

 

「ああ、マイ殿……! 本当にご無事でよかった」

 

「ご心配いたみいります、セダイト王子殿下」

 

 儀式用のローブに身を包んだマイが、穏やかな聖女の笑みを浮かべ、第二王子の胸元あたりへゆっくり視線を流す。

 

 王子は名前を呼ばれたのがよほど嬉しいのか、身を乗り出す勢いでマイを一心に見つめていた。

 

「ずっとマイ殿の身を案じていました。私からの手紙は、ご覧になっていただけましたか?」

 

 するとマイは目を伏せながら、まぶたをパチクリとさせる。

 

「いえ、すみません。お手紙……ですか」

 

 そういえば彼女には王子からの(ふみ)の存在を伝えていなかった。

 確かもう数十通を超えていると、聖騎士長がうんざりしていたのを思い出す。

 

 俺は隣にいるマイに目配せをすると、王子に告げた。

 

「この間、神殿内も大あらわでしてね、襲撃の標的となったこともあり、聖女マイには外界との接触を絶たせていたのです」

 

「なるほど、それは正しい判断ですね! ぜひマイ殿には今後も安全な場所で、自由に暮らしていてほしい……私の望みはそれだけです」

 

 自由、の部分を強調しながら王子が熱っぽい視線を送る。

 

 マイはといえば、王子の熱情にピンときていない様子で涼やかな笑みを貼りつけたままだ。

 

 いや、少し表情が硬い。

 魔獣討伐の際、あの丘で迫ってきた王子のことを警戒しているのかもしれない。あまり長い時間ここに居させないほうがいいだろう。

 

 俺も、マイをこれ以上王子の情欲を孕んだ視線に触れさせたくない。

 

 すると王子は咳払いを一つして、王族らしい厳かな声で話し始めた。

 

「改めて、今回は我が兄がマイ殿に取り返しのつかないことをしました。王家を代表し、謝罪いたします」

 

 言いながら王子が頭を下げる。さっき俺にしたよりも深く。

 

「あの、頭を上げてください。私なら、平気でしたから」

 

 マイがちらりと俺のほうを見た。

 媚薬を抜くために俺とした濃厚なセックスを思い出してしまったのだろう。

 

 色香を帯びた流し目に、股間がつい熱くなる。

 

「ですが、あれは聖女にも効いてしまう類いの媚薬だと聞きました。無垢で清いあなたにそのようなものを飲ませるなど、許されることではありません」

 

 平気だと言ったのに、王子が話を蒸し返してくる。その瞳には仄かな劣情が見てとれた。

 

 媚薬に侵され、淫らに発情したマイの姿でも想像しているのだろう。

 すでにこれまで何度も想像しては、自慰に耽っていたのかもしれない。

 

(まったく、王族どもは揃いも揃って)

 

 話題を切り上げさせるために口を挟もうとすると、マイがふっと微笑んだ。

 

「確かに毒を飲んでしまいましたが、問題はありません。私は、聖女ですから」

 

 相手を一瞬で安心させ、邪な心を浄化する笑みだ。

 一寸の劣情すら抱く隙のない、どこまでも清らかな聖女がそこにいた。

 

 包み込むようなマイの笑顔に当てられ、王子が目を見開いて固まる。

 

「あなたは、本当に可憐な人だ……」

 

 どうやらさらに惚れ込んでしまったらしい。 

 

「やはりあなたのような人にこそ、学院を見てほしい」

 

「学院、ですか?」

 

「ええ、王都学院です。ご存知でしょうか? 私が中心となって予算を投じている学び舎です。今回の神殿復興には、この学院の収益金を充てさせていただくつもりです」

 

 いきなり話題が脱線し、思わずマイと目を見合わせる。

 

 王都学院の収益から復旧費用を出すというのは、初耳だ。

 そんな肝心な話をここで初披露したのは、マイに、私財を投げうって神殿復興に協力する姿を強調したいからなのだろう。

 

 王子は俺たちの反応を気に留めることなく、話を続ける。

 

「今は貴族だけですが、いずれは平民にも門戸を開きたい。それは修道士や聖女見習いも同様です。民は皆、等しく教育を受け、自らの将来を自由に選択すべきなんです。マイ殿、私はあなたに会って、その思いをさらに強くしました」

 

「それは、とても光栄です」

 

 王子の熱弁にほんの少し顔を引きつらせつつ、マイが柔らかく目を細める。

 

 彼女はピンと来ていないようだが、王子の言っているのはつまり、今後教会の若い人間も学院に通わせたいということだ。

 

 貴族と平民、そして教会の垣根を取り払う。

 

 聞こえはいいが、結局はマイを聖女という肩書きと純潔たれという教義から解き放ち、自身の妻として(めと)りたいのが本心だろう。見え見えだ。

 

 マイの笑顔に気を良くしたのか、第二王子が嬉しそうにはにかむ。

 

「ああ、マイ殿なら私の理想を分かってくれると思っていました。ぜひ一度視察にお越しください、さっそく日程を――」

 

 さっき「安全な場所にいてほしい」と言ったばかりなのに、舌の根も乾かぬうちに真逆の要求をしてくるとは。

 

 相変わらず一方的で、盲目的な青年だ。

 

 俺はいよいよ口を挟む

 

「視察については慎重に検討します。以前にもお伝えしましたが、聖女は世俗から離れ女神に祈りを捧げる存在。軽々に民と交わることは難しいのだと、ご理解ください」

 

「そうでしたね……これは失礼しました」

 

「そろそろ時間です。聖女も疲れておりますので」

 

「ええ、残念ですがお暇しましょう。ああマイ殿、一つお願いがあるのですが」

 

「なんでしょうか」

 

 マイがわずかに首を傾げる。

 

「その、ここのところ疲れが溜まっていまして……もしよろしければ、治癒を掛けていただけないかと」

 

 遠慮がちな口調とは裏腹に、王子は立ち上がってマイに近づこうとした。

 

 ピクリと、マイが肩を強張らせる。

 

(ずいぶんと軽薄だな)

 

 以前の王子は、もう少し情欲を理性で覆えていたと思ったが。

 

 自身の理想論をマイが温かく聞いてくれたものだから、調子に乗ってしまったのだろう。

 

 王家の血を引く者は、聖女を本能的に求める。

 

 俺はこれ以上王族が、いや誰であろうと、軽々しくマイに近づくことを許しはしない。

 

「殿下、お疲れならば、ちょうどよく効くお茶を用意しています」

 

 俺は手のひらで王子の動きを制止すると、にっこりと微笑んだ。

 

「お茶、ですか?」

 

 気勢をそがれた王子が、間の抜けた顔で聞き返してくる。

 

 するといつの間にか彼の隣にいた女が、すっとティーカップを差し出した。

 

「え……?」

 

 突然現れた気配に王子がおののく。

 彼女のほうを見た瞬間、いよいよその顔を引きつらせた。

 

「ムラ、サキ……」

 

「ふふ、セダイト王子殿下は私の髪色にご興味がおありで?」

 

 聖女見習いのローブをまとったヌべリエが、上品な仕草で王子に座るよう促す。

 

「これは、いったい……彼女は」

 

 ストンと腰を下ろした王子が、まるで亡霊に出くわしたかのような顔でヌべリエを見上げる。

 

 それもそうだろう。死んだと思っていた背信者が、味方のような顔で目の前にいるのだから。

 

 しかも彼女の義眼は以前の赤と黒ではなく、美しい深紫色だ。王子の理解が追い付かないのも無理はない。

 

「申し遅れました。私の名はヌべリエ、聖女見習いです。()()()()()()()()()()()王子殿下」

 

 瞳を驚愕の色に染めた王子が、俺のほうを向いた。まだ事態を飲み込めていないらしい。

 

「彼女は聖女マイの新しい側仕えです。今後、聖女の行く先々でお目にかかることもあるでしょうから、その際はよろしくお願いいたします」

 

「さあ王子殿下、こちらは私の故郷、北方で採れる薬草を煎じた疲労回復のお茶です。どうぞお召し上がりください」

 

 ヌべリエが俺とマイにもティーカップを並べる。俺たちがそれを飲み始めると、ようやく王子もカップに口を付けた。

 

「……大司教殿、私はあなたを見誤っていたかもしれません」

 

「といいますと?」

 

「あなたは、思った以上に寛大で……抜け目のない方らしい」

 

 王子が、こちらの意図を理解してくれたようでなによりだ。

 

 ヌべリエの存在は、第二王子にとって大きな弱みとなる。

 そして彼女がマイの側に控える以上、王子は易々と近づけないし変な気も起こせない。

 

 脅しとけん制。

 

 第二王子にこそ最大の効力を発揮する、俺の優秀な手駒だ。

 

 妖艶な笑みを浮かべる紫髪の聖女見習いのそばで、王子はまるで蛇に睨まれた蛙のように、無言でお茶を飲み干した。

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