※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点


白とグレーのせめぎあい

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 にもかかわらず、エブラーナ城の執務室は明かりが点いたまま。

 そんな室内にある来客用のソファに、ひとりの男があおむけの状態で眠っていた。

 

 

——1週間後 深夜2時過ぎ

 

 

「っ!?」

 

 『短眠の術』の効果が切れて、エッジはぱっと目を開いた。

 その瞬間、よく見慣れた天井が目に飛び込んできた。

 

(やっと解放されたか……)

 ソファに横たわったまま。左腕で顔を覆いながら、重い息を吐き出す。

 そして、夢を見た後のお約束行事でもある脳内ひとり反省会を始める。

 

「……毎度毎度……人の貴重な睡眠、邪魔しやがって……」

 

(オレが睡眠不足で死んだら、てめえも死ぬんだぞ!?)

 寝たにもかかわらず、全身がだるい。なぜ寝ただけで疲れなければならないのか? 

 見えない相手に向かって、憎々しげにつぶやいた。

 

 ***

 

——先々月の終わり

 

 その日、エッジは『ツクヨミ』に扮して、ミストの公民館へ。

 リディアから、2年越しのチーズフォンデュをごちそうになった。

 城に帰ってきて寝床についたら、生まれてはじめて夢を見た。

 

 —— —— ——

 夢の中で身体中、いばらでぐるぐる巻きにされた状態で倒れていた。

 周囲にはいばらが幾重にも張り巡らされていて、とても暗い。

 不気味なところにいたくなくて、逃げようとしたら、誰かが話しかけてきた。

 

 そいつは姿を現さなかったが、エッジの声と口調がそっくり。

 あることについて、エッジに説教してから。ああしろこうしろと、いくつか要求してきた。

 それに応じられないようなら、ああするこうすると脅してきた。

 説教は聞き流しておけばいいが、要求にはとても応じられない。

 

『そんなくだらねえ要求呑めるか!』

『うるせえ! オレの言うこと聞くんだよっ!』

 

 エッジが拒絶すると、そいつが怒鳴ってきたと思ったら。

 いばらがうごめき、そのとげで身体をぶすぶす刺された。

 

 更にはいばらが首に巻き付いてきて、ぎゅうぎゅう絞めてくる。

 息が出来ず、苦しんでいるうちに意識が遠のいていった……。

 —— —— ——

 

(人生初夢が悪夢ってなんなんだよ!)

 珍しいことに夢の中にいる自覚があり、好きなように話せた。

 ところが性質の悪いことに痛覚があった。

 首締めは普通に苦しく、とげとげ攻撃もめちゃくちゃ痛かった。

 しかも目が覚めた後。眠る前より身体がだるくて仕方がない。

 

(しょせん夢だ。同じもんはもう見ねえだろ)

 そう楽観的に思っていたら、3日後にまた同じシチュエーションの夢を見た。

 それから数日おきに悪夢を見て、くたくたの状態で目が覚める日々が続いている。

 

 ***

 

 そいつは、夢の中で動機や過去の所業もあっさり自白。

 数年前から、朝起きた直後にだるさや不快感に襲われていたが、その犯人でもあった。

 

「いい加減、諦めろよ……」

 

 姿が見えぬ犯人に向かって、ぼそりとつぶやいた。

 

(グレーで妥協しとけっての)

 白に黒が混じると、二度と白には戻れない。

 犯人もそれをわかっているはずなのに。抵抗を続けてくるから厄介だ。

 そいつに意識を乗っ取られないだけでも、マシなのか……。

 

(オレはオレの好きなようにやってくんだよ!)

 そう胸に誓えば。自問自答——脳内ひとり反省会はおしまい。

 

 顔から腕を離すと、ソファに寝っ転がったまま。両手を上げてうーんと背伸びをした。

 反省会の間に、倦怠感はほぼ取れた。犯人への怒りも大分おさまり、意識を現実に向ける。

 

「つづきすっかな……」

 

(4時過ぎたら修行しよ)

 放置していた仕事を片付けるために、執務机につくと。

 ペンを片手に、机の上に置かれていた用箋へ文字を綴っていく。

 

 エッジは先月から、こうして真夜中に仕事をするようになった。

 悪夢を見たくないのあるが、国の在り方が大きく変わることを公言したのだ。

 やることも考えることもたくさん増える。

 

 —— —— ——

 世襲制を廃止して禅譲制に移行。そう宣言してから、早1週間が経過した。

 ただし、移行する本当の理由は公にしていない。

 例のふたりと自身の胸に留めたまま、生を終えるつもりでいる。

 

 禅譲制に移ることだけでも、民に報告した方がいい。

 以前からそう思いながらも、なかなかふんぎりがつかないでいた。

 そんなエッジの背中を押してくれたのは、リディアだった。

 

 リディアは幻獣界から帰ってきてから、自ら頭を回して、周囲の力を借りてでも。

 自らの意志を貫くための努力を惜しまなくなった。

 これからも、どこにでもいるふつうの人としてミストで生きるために。

 以前なら我を張って抵抗していたことも、妥協するようになった。

 

 リディアに負けじとばかりに、やっと禅譲制移行を宣言したら。

 それまで殺到していた、縁談の釣書がぴたっと止まった。

 世襲制廃止に対して、民の大多数は好意的な反応を見せてくれた。

 世継ぎを望んでいた民も多かっただろうに。心苦しさを感じてしまうけれど。

 出来ないものは仕方がない。

 

 時代背景の変化に伴い、設立を決めた忍者学校も、年明けから開校される。

 そこでは次期国王候補と、国王を支える人材を育てる予定だ。

 

 唯一残されている問題が、現時点で次期国王候補がいないことであった。

 今エッジが死んでしまうと、国はあっという間に混乱するだろう。

 —— —— ——

 

 用箋にしたためる作業を終えた。

 今度は足元……一番下の引き出しを開けて、中から1枚の上質な紙を取り出した。

 

 机の真ん中に置いたそれは、辞令と呼ばれる文書の原本である。

 役職を任免する際に、その旨を本人に告げる命令を一枚の紙にしたものである。

 

 用紙の中央上に『辞令』と印を押してある以外は全て真っ白。

 これからエッジが、交付日から異動先に氏名など……内容を全て記す。

 最後に国王の印章を一番下に捺印すれば、出来上がり。

 

「今日中に渡してやらねえと……」

 

(明日から遠方任務だしな)

 ぶつぶつ独り言をつぶやきながら。今度は筆を手に取ると。

 ある人物の昇進辞令を作るために、丁寧に文字を書き綴り始めたのであった。

 

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