※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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うっすら性描写場面あり
次回からしばらく一日一話更新


離れない離さない

 

 

——それから約10分後

 

 

 気絶しない。エッジの名前呼ばない。

 リディアはそう念じながら、ツクヨミと一緒に達することが出来た。

 珍しく自ら後処理を終えてから。身体に大きなタオルを巻いて、ベッドの端に座る。

 

「ツクヨミさーん」

『……』

 

 シーツをかぶり、身体を横たわらせている男に向かって、声をかけるも返事はない。

 

「ねえ、起きてよ……」

 

 身体を軽くゆすっても、ツクヨミはぴくりとも動かない。

 絶頂に達したと同時に、彼は意識を失ってしまったのだ。

 息はしているから死んではいない(はず)。

 

(大丈夫かなぁ……)

 後処理を終えると、手探りで彼の身体を動かしてシーツにくるんでから。

 こうして様子を見ているが、目を覚ます様子がない。

 

 ツクヨミの中の人が意識を失うなんて、生まれて初めて。

 そもそも、『呪淫』でヤリ終わった後、気絶するとは聞いていない。

 あまり起きないようなら。ウリエルを呼んできて、診てもらわなければならない……。

 などと、この後の予定を考えていたらシーツが大きく揺れた。

 

『……』

「あ、起きた」

 

 ツクヨミが目を覚まして、上体をむくりと起こした。

 そのせいで、シーツがぺろりとめくれて裸体が露わになってしまった……。

 

「お、お茶淹れるから待ってて」

 

 一瞬焦ったが、上半身ならいいだろう。

 自身をそう納得させてから、リディアは書机に向かった。

 

「はい、どうぞ」

『……』

 

 書机に置いてあったティーポットから、カップにお茶を注ぐ。

 ベッドに戻り、ツクヨミにカップを手渡すと、うなずいてから受け取ってくれた。

 

 お茶は保温状態になっていたが、沸騰後に比べたらぬるい。

 ツクヨミがお上品に三口四口に分けてお茶を飲み干してから。カップを返してくれた。

 

「おかわりあるよ?」

『……』

 

 ツクヨミが黙って首を横に振り、『いらない』とアピールしてきた。

 

(どうしちゃったのかな?)

 ここまで、ツクヨミが何も言葉を発しない。

 そのことを不審に思いながら、書机にカップを置くと。

 ベッドの端に座り、上体を倒してツクヨミにぐっと近付いた。

 

「……声出ないの?」

『……』

 

 ツクヨミは黙ったまま、首を縦にうなずかせた。

 

(こういう時に声が出なくなるの、女の人の方なんじゃないの?)

 ツクヨミはろくに話していないのに、いつどこで喉を傷めていたのだろう。

 

(声が出ないなら、筆談だよね)

 書机の引き出しに、新品のノートが何冊かあったことを思い出した。

 

「ちょっと待っ……え??」

 

 書机に向かうために、ベッドから離れようとしたら。

 ツクヨミが力強くリディアの腕をつかみ、自身の顔を耳元に寄せてきた。

 

『……この状態でなら、声は出ますよ……』

「ひっ!?」

 

 ささやき声なら、会話は可能。

 耳元でそうアピールしてきたツクヨミにぎょっとする。

 

「や、やだ……待ってっ!」

『っ!』

 

 あせあせしながら、ツクヨミの胸を両手でぐっと押してから、こう叫んだ。

 

「ひっ、昼間、明るいうちはそんなことしちゃだめっ!」

 

 ささやき声での会話を拒否したのに、またツクヨミが顔を寄せてくる。

 その際、肩肌に当たったお面がやけに冷たく感じた。

 

『……今の時間ならよいと……』

「は……!? ノ、ノート持ってくる!」

 

 言葉尻を捕らえてきたツクヨミの身体を目いっぱい押すと、大きくぐらついた。

 その隙を見計らい、慌ててベッドに向かう。

 

(あたしのばか! 昼も夜も筆談!!)

 リディアの弱点は耳である。

 ツクヨミから、常時ささやき声で話しかけられたら感じてしまう。

 まともに会話なんて出来ない。

 

『く、くっ……』

 

 書机の引き出しを開けて中を漁っていると。背後からくつくつ笑う声が聞こえてきた。

 ささやき声だけでなく、笑い声も出せるらしい。

 

(いたずらなら今頃バラしてるだろうし……本当に声が出ないのかも)

 エッジならまだしも、ツクヨミの人となりからして。

 リディアを驚かせようとして、声が出ないふりをしている訳ではなさそう。

 

「はい、これ使って」

 

 新品のノートを取り出し、ペンを手にしてベッドに戻る。

 ツクヨミにそれらを手渡せば、お礼とばかりに一度うなずいてから。

 表紙を開いたすぐのページに何かを書いてから。リディアに見せてくれた。

 

【申し訳ございません】

 

(ええ……あたしなら1ページまるごと使って、それ書いちゃうよ……)

 1ページ目の行頭から、ノートの罫線に沿って謝罪が書かれている。

 しかも、丁寧な文字。そこから神経の細やかさを感じた。

 それがツクヨミとしての演技なのか、エッジの素なのか。推し量ることは出来ないけれど。

 

「術の副作用で……声出なくなったの?」

『……』

 

 声が出ない原因に心当たりがないため。『呪淫』のせいと適当にたずねてみる。

 すると、ツクヨミが首を横に振った。『違う』と言いたいようだ。

 

「じゃあ、なぁに?」

 

 再度たずねると、ツクヨミがノートに視線を戻す。

 何かを綴ってから、またリディアに文面を見せてくれた。

 

【敵は己の中にあり。僕があなたを抱いたからですよ】

「……誘ったのはわたしだし、別に強制じゃないのに……?」

 

 2行目に書かれたそれを見て、首をかしげた。

 なぜそれだけで声が出なくなるか、さっぱり謎である。

 

『……』

 

 ツクヨミも首をかしげながら、再びノートに文字を記し始めた。

 先ほどまでと比べて、綴る速度が鈍いことから。何か考えながら記しているようだ。

 

【僕の心の中に、もうひとりの僕がいるのです】

「えっ!? もしかして二重人格……!?」

『……』

 

 ツクヨミが首を横に振り、またノートと向かい合ってから。

 綴った文字をリディアに見せてくれた。

 

【小説などで主人公が葛藤する時、頭の中に天使と悪魔が出てくる場面がよくございますよね】

「あ、そういうことね……」

『……』

 

 ツクヨミの答えに、胸をなでおろす。

 

(よかった……)

 ただでさえ、今の『エッジ』と『ツクヨミ』が二重人格のようなものなのに。

 本当だったらどう対処したらいいか、悩むところであった。

 

【リディアさまもそういった機会が多いのではありませんか】

「うん。悪魔の言いなりだけどね!」

 

 ツクヨミに向かって、快活な声で堂々と答えた。

 

 —— —— ——

 リディアも甘いものが目の前にたくさんあると。

 

『太るから、おかわりしちゃだめ』

『人生は一度きり。もっと食べちゃえ!』

 

 自制を勧めてくる天使とおかわりを勧めてくる悪魔が戦う。

 そして、最後に悪魔が勝つのがお決まりである。

 —— —— ——

 

『くく、っ……』

 

 ツクヨミが肩を震わせて笑いながら。

 しばし待てとばかりに、こちらに手のひらを見せてから。ノートにまたまた何か書き始めた。

 

【僕自身は術が切れるまで、あなたに手を出すつもりはありませんでした。しかしながら、術の威力は予想以上のものでしたし、あなたからの説なるお誘いを断れる訳がありません】

「後悔してないっ??」

『……』

「ああ、よかったぁ……!」

 

 二度首を縦に振ってくれたことで、全く悔いはない。それが伝わってきて安堵する。

 引き続き、ツクヨミがノートにさらさら何かを綴り、こちらに見せてくれた。

 

【それでも、『もうひとり』は僕があなたに手を出したことに変わりなく、僕が加害者だと思っているようです】

「声が出ないのは、その罰なんだね」

『……』

「やっぱり……時間が経たないと治らないよね……」

『……』

 

 立て続けの質問に、ツクヨミが口元に笑みを浮かべて何度もうなずいてくれた。

 けれど、リディアには彼が自らを嘲り笑っているように見える。

 

(これ、じいやさんたちも知らないよね……)

 『もうひとり』が自身の心にいる。

 そのことは、エッジがひとりで抱えている問題なのだと察した。

 

(好きな人が相手なのに……厳しいよ)

 『呪淫』にかかったのが悪い。解除されるまでの3年間は、自制しろ。

 好きな女に迫られて、ヤッたら即アウト。

 『もうひとり』は、そう言いたいのだろうか?

 

【『もうひとり』は、あなたの前で僕がこんな姿を晒せる訳がないと思っているのですよ】

「……何それ。お面かぶり続けてる方が、よっぽど変だよ」

 

 ツクヨミが再びペンを手に取った。

 リディアもノートをのぞき込み、彼が記す字を一字一字追う。

 

【そして羞恥にいたたまれず、あなたに別れを】

「!」

【告げて消え】

「——ばっかじゃないの!?」

『っ!?』

 

 ツクヨミが『別れ』とつづったのを目にした途端。頭に血が上った。

 そして、ツクヨミが続きを書いている途中にもかかわらず。ノートを強引に取り上げた。

 

「『もうひとり』のばかっ!! どうしてツクヨミさんが消えなきゃならないのよっ!」

『……』

「あたしの方から誘ったんだし……ちょっと声出ないだけじゃない、っ……!」

 

 怒りのあまり、一心不乱にノートの中身をびりびり破っていく。

 細かい紙片がシーツの上にはらはら落ちるのも。

 リディアが怒り狂う様を、ツクヨミが微笑ましく見ていることも、全く気付きもせず。

 

「ちょっとやらかしただけで関係切ってたら、誰とも付き合えないよっ!」

『……』

 

 声が出なくなったので、あなたとは付き合えません。

 そう言われてお付き合いを辞めようと思うほど、リディアは狭量ではない。

 

 これからも何かと起こるであろう葛藤の末、リディアの前から逃げるようなら。

 今のように『もうひとり』に叱咤してやる。そう心に誓った。

 

「ツクヨミさんが消えたらあたしが困るのっ!! 解消なんかしないからっ!」

『……』

「あたしは死ぬまで……! ツクヨミさんのこと気が済まないんだからっ!」

『……』

 

 リディアは、エッジの顔に傷を付けた自責で苦しんだことがある。

 それでも、晩ごはんを一緒に食べる時間を捨てたくなくて。

 エッジの姑息な条件——何でも言うことを聞く——を、当時渋々受け入れたぐらいだ。

 声が出なくなっただけで消えるなんて、ばかばかしい。

 

 —— —— ——

『ツクヨミさんとわたし、どっち『も』気が済むまででいいんじゃない?』

 —— —— ——

 

 そんな解消条件で、ツクヨミと再契約しておいて本当によかった。

 

§

 

 その場で黙っているツクヨミ——エッジの心の中に潜む『もうひとり』に向かって。

 何度もばかと連呼しながら、ノートの中身を破っていたら。体力と精神力を無駄に消費してしまった。

 

「っ……はぁ、はあ……」

 

 荒い息をついていると、ツクヨミから肩をとんとんつつかれた。

 

「なに……?」

『……』

 

 ツクヨミがこちらに手を伸ばしてくる。

 彼の指先を視線で辿ってみたら、リディアの両手が視界に入った。

 

「あっ……!」

 

(しまった!)

 ノートの表と裏表紙と、たった数ページしか残っていない。

 破るなら、1ページ目だけでよかったのに。怒りに任せて中身を大量に破り捨てていた。

 

「ごめんなさいっ」

『……』

「いいよ。掃除するから【……」

 

 シーツの上に散らばる紙片を、かき集めようとするツクヨミを止めた。

 

 それから詠唱を唱えながら、ベッドをくるりと指で囲めば。

 小さな紙の欠片が一斉にふわりと浮かんだ。

 

 続けて、部屋の片隅に置かれたごみくず箱をさっと指させば。

 宙に浮かんだ紙片がゆらゆら揺れながら、箱の中に次々と入っていった。

 

 リディアが使ったのは、ほこりやごみだけを集めて、指示した場所に移動させる魔法。

 このお掃除魔法をツクヨミ——エッジが目にするのは初めてだ。

 

【便利ですね】

「魔法はこういう時使わなきゃね」

 

 感心の言葉を綴った、ぼろぼろのノートを見せてくれたツクヨミに。

 あられもない格好も気にせず、自慢げに胸を張る。

 

「それより、もう本物の恋人だよね?」

『……』

「逃げないよねっ?」

 

 勢いよく身を乗り出し、ツクヨミの顔に迫って再度確認する。

 先ほどの返事は、快楽に染まっていた状態だったから。素の状態で答えを聞いてみたかった。

 

『……』

「よかったぁ……!」

 

 肯定とばかりに、ツクヨミが首を縦にうなずかせてから。

 リディアの右手をとり、手の甲に口付けしてくれた。

 

 姿は違うが、こうして『エッジ』が恋人としてそばにいてくれるのだ。

 一度だけならミストのみんなに、手の甲キスを見せつけてもいいかもしれない……。

 普段そんなこと思いつきもしないのに。

 それぐらい、今のリディアの心の中は歓喜で踊りまくっている。

 

「これから晩ごはんは、ここでごちそうするからね」

【ありがとうございます】

 

(お皿洗いも、お料理も……!)

 手袋をはめる必要もなくなった。

 これから夕食の際に、ツクヨミからあれやこれやしてもらえる。

 そう思っただけで、にやつきが止まらないでいると。

 かさかさと、シーツがこすれる音が聞こえた。

 

「ふぁっ!?」

 

 ツクヨミが素早い動きでリディアの背後に回り、後ろから抱きしめてきた。

 すっとんきょうな声を上げると、耳元に何かが近付いてくる。

 ……ツクヨミが何かささやくつもりでいるようだ。

 

『……抱いてもよろしいでしょうか……』

「えぇっ!?」

 

(早すぎる!!)

 ささやき声での2回目懇願に、耳を疑う。

 

『……先ほどは術のせいで……』

「あ、あの……」

『……不本意な抱き方になってしまいましたから……』

「もうちょっと、休まな……っ!?」

 

 羽交い絞めさながらに、ツクヨミが身体を強く抱きしめてくる。

 腕や身体を動かして抵抗していたら。右手がある箇所に触れてぎくりとした。

 シーツの上からでもわかるぐらい。ツクヨミのソレが盛り上がっている……!

 

(何よ、もう! もっといちゃいちゃしかったのに!!)

 リディアはヤッている間より、事後——ピロートークの方が好きだ。

 ところが、この男はリディアと逆。昔からすぐに続きをせがんできた。

 

『……その前に、白状していただきましょうか……』

「あっ、や、だっ……あぁん……!」

 

 ツクヨミがささやきながら、リディアの身を覆うタオルをそっと外す。

 すると、露わになった乳房をもみしだきはじめた。

 

『……カエルと麻痺の他に……何か使いましたね……?』

「っ……ふぁ、ああっ……! MP……0に、したっ……」

『……ストップも使ったでしょう……? それも魔法ではなく、砂時計を……』

「ああぁ、っ……!」

『……正直におっしゃってください……』

「つ……使いました……っ」

 

 ツクヨミのささやき声は優しいのに、やっていることは真逆。

 自白を強要する度に、胸の尖りをきゅうとつままれる。これでは白状せざるを得ない。

 

(やっぱりバレてた……!)

 ツクヨミの中の人は、過去に忍術やアイテムを利用してリディアにセクハラしたことがある。

 その時と、本日のリディアの作戦は似ているから気付きもするだろう。

 

『……どこで砂時計を入手したのですか……』

「あ、ぁっ……!! お、おうちに……余ってたの……っ……!」

 

 リディアの胸元をはいずり回っていたツクヨミの手が、お腹を経由して下半身に到達。

 太ももやおしりをさわさわ撫でてきて、あえぎながらも嘘をついた。

 

 ***

 

 ——1週間前

 

 その日、リディアはミゼルの自宅を訪れた。

 作戦決行日の翌日、エッジの公務を休みにしてあげて欲しい。

 そんな手紙をじい宛に伝書鳩で送ってもらおうと思ったのだ。

 

 ジャンヌは自宅に不在だったため、作戦の概要もミゼルに話した。

 

「……そういう訳で、じいやさんにお手紙送ってくれる?」

「いいけど、あの人をストップ状態にするならアイテムでしょ」

 

 時間停止魔法ストップを使うつもりでいたら。

 同等効果を持つアイテム——銀の砂時計を使えとミゼルは言う。

 

「どうして」

「一発勝負だよ? 相手誰だと思ってるの」

「あぁ、そうだった……」

 

 魔法の詠唱は声を出さなければならない。しかも、発動までに時間がかかる。

 忍者の頭領に魔法をかけようしても、詠唱を終える前に逃げられる。

 もしくは、口を塞がれてしまうかもしれない。

 一方アイテムは、詠唱の必要がないため即発動出来る。

 

「銀の砂時計、持ってない……」

「まあ、きみはいらないよね」

 

 万能薬や金の針ならまだしも。銀の砂時計は自宅にひとつも置いていなかった。

 

「モンスター狩りに行かなきゃ……」

 

 入手方法が限られているのも問題だ。

 購入(1本9800ギル)するなら、幻獣界に行かなければならないが、今は入れない。

 

(1日へばりついていたら落としてくれるかな)

 バブイルの塔やその付近に、戦闘後に低い確率で銀の砂時計を落とすモンスターはいる。

 しかし、いつ遭遇できるか。いつ落としてくれるかわからない。

 

「うちに3本ある。行かなくていい」

「!!」

 

(そうだった!)

 ミゼルはコレクション目的で、ほとんどのアイテムを揃えている。

 以前リディアが、幻獣の町で銀の砂時計も買ってきてあげたことがある。

 

 結局ミゼルに甘えて、砂時計を1本譲ってもらった。

 

 ***

 

『……それは本当ですか……?』

「ほ、本当だってば……ぁんっ」

『……あなたには銀の砂時計は必要ないでしょう。自宅に本当にあったのですか……?』

 

 ツクヨミがまだ疑っているようだが、本当のことは言えない。

 今ここで、ミゼルの名を出そうものなら。

 ツクヨミが後日、彼にえぐい報復に出るのが目に見える。

 

「ふぁ、あっ、探したら……おうちにあったのっ……!! 信じてよぉ……!」

『……そこまでおっしゃるのなら、仕方がございませんね。そういうことにしておきます……』

「あぁっ、ほ、本当だもん、っ……!」

『……どちらにしても計画的犯行には変わりはございませんよね……』

 

 ツクヨミが右手を、リディアの足の付け根に這わせてきた。

 その付近を指先で撫でながら、耳元でささやく合間に耳を舐めまわしてくる。

 それも睡液を絡めさせて、わざといやらしい水音を出して。

 

「っ、あぁ、ん……! そう、そうなの、っ……寝込み……襲おうと思って……っ!」

 

 以前よくやられていた、ルール破りの罰ゲームさながらに。

 弱点の耳を責め立てられてしまえば、リディアは太刀打ち出来ない。

 結局、途切れ途切れに言葉を発しながら自白してしまった。

 

 —— —— ——

 調理室を去る直前。

 銀の砂時計でストップ状態にして、ツクヨミを動けぬ状態にした。

 ストップが切れてから、印を組んで忍術を使って逃げられるのを防ぐため。

 倒れた直後に、吸収魔法アスピルでツクヨミのMPを根こそぎ吸い取った。

 

 非力のリディアでは、大柄な男を自宅に運べない。

 変身魔法トードでカエルに変えたツクヨミを、バスケットの中にほおり込み、帰宅。

 

 ベッドの上でトードを解除した代わりに、幻獣マインドフレアを召喚して麻痺状態。

 後はストップが解除された瞬間。ツクヨミと視線を交わして『呪淫』を発動……。

 —— —— ——

 

 以上が『呪淫』解除目的の、寝込み襲うぞ作戦の概要である。

 あのアドニスを超える所業だが、こんな真似は本日限り。二度とやらない。

 

『……あなたに襲われるとは、一生の不覚。死ぬまで責任をとっていただきますからね……』

「っ……はい、か……しこまりました……っ!?」

 

 リディアを見下ろしながら、ツクヨミが一生の誓いを立ててくれた。

 口元を歪ませながらのそれに、中の人——エッジ——を垣間見たような気がしたが。

 すぐさまかぶりつくような口付けを合図に、2戦目に突入してしまった。

 

 —— —— ——

 ツクヨミ——エッジをそばにつなぎとめる。そんな賭けごとに、リディアは勝利した。

 

 だいすきな人が、予想以上に複雑な性格だったこともわかったけれど。

 もう二度と、この男を手放さない。

 —— —— ——

 

 *13年後につづく

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