※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点


俺でいいのか

 

 

——1の月31日 午後6時過ぎ

 

 

『お腹空いちゃったし……ごはん食べよう!』

 

(色気より食い気か!)

 エッジの心の叫びもむなしく、リディアはお夕食を選ぶと。

 すぐに寝室に引っ込み、いつもの服に着替えてしまった。

 

§

 

 それから10分後。

 人生初の料理をリディアに召し上がっていただくことになった。

 リディアがたまご、そしてハムのサンドイッチに舌鼓を打ってから。

 マグロのサンドイッチにぱくついた。

 

 サンドイッチに使うマグロは、缶に入った油漬けのもの。

 その油分をどれだけ切れるかで美味しさが変わる。

 

「っ、うわぁ……全然ぎとぎとしてない……!」

 

 ほぼ完全に油切りされたマグロを味わい、リディアが感嘆の声をもらす。

 それを横目にポタージュをすすりながら、心の中でほくそ笑む。

 

(油切りなら、これからいくらでも手伝ってやるぞ)

 殺意(?)を込めて、マグロを両手でぎゅうぎゅうに絞り、油切りした甲斐があった。

 

「お料理もやればできるね」

『……』

「今度からここに来たら、晩ごはん作ってくれる?」

『!!』

 

(それじゃ、オレがおまえが作ったメシ食えねえだろ!)

 よからぬことを口にしたリディアに向かって、ぶんぶん首を横に振って拒否する。

 

「冗談冗談。今度はわたしと一緒につくろうね」

『……』

 

(それならいくらでも)

 二度うなずいて共同制作案に同意すると。リディアが今度はスプーンを手に取った。

 

「うん……にんじんしてなくて美味しい……」

『……』

「すごいね、ツクヨミさん。こんなの面倒で作ったことないよ?」

 

 リディアがにんじんのポタージュをすすり、賞賛してくれた。

 

(味じゃなくてポタージュ作ったから褒めてんだな)

 リディアが作る汁物料理は、もっぱらスープ。

 それなら小さく切った野菜を入れた鍋を煮込み、味付けするだけで終わる。

 

 ポタージュは野菜を茹でてこす作業があり、手間がかかるからだろう。

 『エッジ』の頃から食べたことがなかったし、一度も作ったことがないと思われる。

 

 ポタージュを作るのは面倒。エッジもはじめはそう思った。

 しかし、懐に忍ばせている小太刀をまな板が壊れない程度に叩きつけて。

 茹でたにんじんとたまねぎをピューレ状。……力一辺倒でやれば何のことはなかった。

 

「作らなくて済むってだけで、こんなに美味しくなるんだね」

『っ……くくっ……』

 

(至れり尽くせりだからじゃねえよ!)

 恋人が作ったものを、恋人と一緒に食べるから美味しいのだ。

 心の中でそんなツッコミを入れながらも。リディアのズレた認識に笑いが抑えきれない。

 

「何よ。笑ってないで、ツクヨミさんも食べてよ」

『……』

 

 リディアの勧めにエッジはうなずきで返事をしてから。

 大皿に手を伸ばし、マグロのサンドイッチを口の中に放り込む。

 それを咀嚼しながら、手元に置かれていたノートの横に転がっていたペンを手に取る。

 

 食事中でもマナー無視で、筆談を強要されているため。

 ノートに文を綴り、リディアにそれを見せてあげた。

 

【いかがでしたか、挙式】

「ミネルバがすごく綺麗で……じーんときて、泣いちゃった」

『……』

「あとはね……ちょっと堅苦しかった」

 

(だろうな)

 リディアがそんな感想を持つのもうなずける。

 

 新郎アルベルトは、バロンの上流貴族の次男。挙式は神聖かつ厳かな雰囲気だっただろう。

 セシルやローザの結婚式でも、リディアは最後くたびれてベランダに避難していたぐらいだ。

 

「でもね。おじちゃんやおばちゃんは大真面目にエスコートやベールダウンしてたよ」

 

 バロンやトロイア、ダムシアンで行われる挙式では。

 エスコートやベールダウンと呼ばれる儀式を行うことが多い。

 

 —— —— ——

 ベールダウンは花嫁の母か親族の女性が、入場前に花嫁の頭上にベールを覆ってあげる。

 エスコートは花嫁の父か親族の男性が、花嫁と腕を組んで式場に入場する。

 どちらも花婿に花嫁を託す意味があると言われている。

 —— —— ——

 

 ミネルバは、13年前の火災で家族親族全員亡くしている。

 今はミゼルたちの自宅の隣で暮らしており、ふたりを兄姉と慕っているぐらいだ。

 本来花嫁の両親や親族が担う役目を、ふたりに頼んだらしい。

 

「ふたりとも泣かないって言ってたのに、泣いてたしね」

【良い意味でその場の雰囲気に流されたのですね】

「そうそう、そんな感じかも」

 

(そういう時は泣いちまうもんなんだよ)

 挙式が厳かな空気だと、結婚するという実感が湧き上がりやすい。

 場の空気に影響されて、ミゼルたちも感無量とばかりに泣いてしまったのだろう。

 

【来月ミストでは、どのようなお式を】

「……前に話さなかったっけ?」

『……』

 

(いいえ、全然?)

 きょとんとしたような顔でたずねられて、エッジが首を横に振ると。

 リディアが来月14日に行われる式の概要を教えてくれた。

 

(酔っ払いどもが騒ぐし、バロンとは大違いだな)

 ミストでの挙式は、人前式と呼ばれる形式で執り行われる。

 人前式は、主役のふたりが式の段取りを全て計画する、いわゆる『手作り挙式』。

 ミストの住民なら誰でも参列出来るし、飲食飲酒も自由。

 従来の挙式と違い、花嫁花婿は神ではなく参列者全員に永遠の愛を誓うという。

 

【準備もミネルバさんたちが行うのですか】

「ううん? ここの人たちで準備するの」

『……』

「誰が何担当するか、もう決まってるよ」

 

(客が準備して、祝福まですんのかよ)

 何と贅沢な挙式だ。話を聞いて、エッジはそう思ってしまった。

 

【リディアさまは、何かお手伝いを?】

「広場でお花の飾りつけ。お花はライザが前に働いてたお花屋さんに注文したら、割引してくれたの」

『……』

「それで、アリサが舞台監督やるんだよ」

『……!』

 

 うんうんうなずきながら、話を聞いていたら。

 リディアの口から、妖怪口お化けの名前が出た途端。ぴしりと固まってしまった。

 

「ラルフさんが神父さんの代わりをやるから、アリサが裏方を取り仕切るって張り切っちゃって……!」

『……』

 

 楽しげに話すリディアとは対照的に、お面の下で顔をひどく歪ませる。

 

(あいつ、オレをこき使う気でいるだろ!)

 式場に早く来ようものなら、ろくな目に遭わない。

 14日は、時間ぎりぎりに駆けつけよう。そう心に誓いながら。

 ノートに新たな質問を綴って、リディアに見せてあげた。

 

【なぜ人前式にされたのでしょう】

「今のミストになってから初めての結婚式だし、今は移民の人が多いから、どこかの国の結婚式に固定しないようにしたの」

『……』

「あ、ベールダウンとエスコートはこっちでもやるんだよ」

 

 他の国での挙式での催しは一部取り入れるらしい。

 そうなると気になるのが……。

 

【以前こちらでは、どのような結婚式を】

「——それがひどいんだよ!?」

『!』

 

 質問を書いたノートを見せる。

 すると、リディアが表情を険しくさせて机の上をどんと拳で叩いた。

 

「火事が起こる前は、どっちかが召喚士じゃないと式を挙げさせてもらえなかったの」

『……』

「ゼロの人は参列させてもらえないし、仲が良くても魔法があまり使えないと後ろの席に回されちゃうし」

『……』

「ミネルバは小さい頃にそれを見てから、こんな結婚式絶対やだってずっと思ってたんだって」

 

(また露骨だな)

 以前のミスト——魔法実力主義社会に呆れてならない。

 リディアがひどいと言った時点で、大方の予想はついていた。

 それでも、召喚士絡みでないと結婚式も挙げさせてもらえないとは……。

 

 ミネルバはゼロではないが、魔法があまり使えなかったため、キロンたちに見下されていた。

 そのせいもあって、自由度が高い人前式にしたのだろう。

 

【リディアさまのご両親は?】

「断ったの。お父さんもお母さんも、キロンさんたち嫌いだったから」

 

 エッジを含めて、当時ミストの事情を知っている者なら。

 主役ふたりに、権力者たちが『早く子どもを産んで、純血の召喚士を(略』と。

 祝福より、圧力を掛ける式になるのが容易に想像出来る。

 

【さすがに何もしないということはなかったでしょう】

「お互いの家族が集まって、お食事会したって聞いたよ」

『……』

「それから、夜におじちゃんやおばちゃんとお酒を持って、外れの森で4人で朝までずっと宴会したんだって!」

『……』

「おじちゃんたちが結婚した時も、同じことやったらしいし……それが結婚式だったのかもしれないね」

 

 リディアの両親とミゼル夫妻の新たな逸話を、またひとつ教えてもらった。

 

(本当に仲良かったんだな)

 リディアから話を聞く度に、4人の絆が予想以上に深かったと感じてならない。

 

 現にジャンヌは、親友エスタの影を未だ追っている。

 ミストドラゴンのたまごから、日増しに親友の気配がだだ漏れしていると感じて。

 ラルフに懇願し、リディアに許可をもらってまで。

 ラルフが自宅で預かっていたたまごを、昨年から自宅に引き取ったぐらいだ。

 

 話題が一段落したため、ここで別の質問を振ることにした。

 

【ところでリディアさま。その髪型はご自身で?】

 

 本日のリディアは、髪を頭頂部でひっつめにしている。

 帰宅後、いつもの服にすぐ着替えたが髪型はそのままである。

 

「わたしが出来ると思う?」

『……』

 

 渋い表情で答えたリディアに向かって、首を横に振る。

 

(出来ねえから、普段ひっつめにしねえんだもんな)

 リディアは髪梳きは怠らない。

 ところが、あまり器用ではないからか。ひとりで髪をまとめたり、ひっつめに出来ない。

 おそらく、練習したこともない。

 

「化粧と髪型は、アリサにお願いしたの。そういうのすごく得意なんだよ」

『……』

 

(チャラチャラしてっからな)

 あの女は、化粧なしでも見た目は華やかである。見た目だけは。

 しかも若い頃。ダムシアンの町を朝まで遊び歩いていたという。

 娘への洗脳教育が失敗に終わり、今もなお各地で行われるギルバートの演奏会へ。

 ひとりおめかしして足を運んでいるから、おしゃれには相当敏感だろう。

 

「それでね、3日前におばちゃんのおうちでドレスを試着したんだけど……」

 

 ジャンヌは服に関する目利きが鋭いが、手先が不器用。

 アリサのように、化粧や結髪といった細かな作業は不得手。

 リディアは上手く人を使い分けているとも言えよう。

 

「ちょうどおじちゃんも、ウリエル先生のところからおうちに帰ってきて、ドレスを見せてあげたの」

『……!』

 

(何だと!?)

 式の当日の前に、ミゼルがドレス姿のリディアを見ていたとは。

 他の男に先を越されて、腹立たしい思いでしかない。

 そんなエッジをよそに、リディアが話を続ける。

 

「そしたらね。後ろ向いてサングラス外して大泣きしちゃったの」

【いつもの嘘泣きではありませんか】

「違うよ。うそなきならおばちゃんに蹴り倒されてるけど、笑って見てたもん」

【奥様は?】

「おばちゃんは、13年前のドレスがぴったりでびっくりしてた。あっ、きれいってほめてくれたよ??」

 

(まず嫁が泣くと思ってたが……意外だな)

 話を聞いて腹の虫が一気におさまり、一区切りとばかりに。

 書いては見せて、書いては見せてを繰り返していたノートとペンを置いてから。

 たまごのサンドイッチを口にする。

 

「でも、おじちゃんが泣くとは思わなかったなぁ……」

 

 リディアがそうつぶやいてから、ハムのサンドイッチを一口かじった。

 

(やっぱこいつの花嫁姿、見たくてしょうがねえんだろうな)

 ミゼルは赤いドレスを花嫁衣装に見立てて泣いたのだろう。

 リディアもミネルバと同じく、ミゼルたちを兄姉のようにして慕っている。

 仮にリディアが挙式を挙げようものなら。あのふたりは、大泣きすること間違いなしだ。

 

【ミゼルさんたちは、まだあちらに?】

「バロンでお食事してから帰ってくるから、もっと遅いと思うよ?」

『……』

「今日は、ブーケももらえたしね……」

 

 リディアが感慨深げにつぶやきながら、居間の窓越しにある物置台に視線を移した。

 

 そこにはコチョウランが飾られている。

 リディアが服を着替え終えてから、ブーケを花びんに生けたのだ。

 大きな蝶が舞っているかのような白い花びらが、たくさん滝のようにしだれている。

 

【よかったですね。ブーケは独身の女性客しか受け取るチャンスがないと聞いております】

 

 バロンやダムシアンなどの挙式では、最後にブーケトスと呼ばれる催しを行うことが多い。

 花嫁が未婚女性客に向かってブーケを投げる。

 それを受け取った女性は、将来幸せな結婚が出来るという。

 

「運も何も……ミネルバがわたしのところにわざと投げてくれたんだよ」

 

 わざと聞いた途端。胸の内に何とも言えない苦みが広がった。

 表情を出さぬように、ハムのサンドイッチをさっと手にして。口の中に無理くり詰め込む。

 

 —— —— ——

 エッジは死ぬまで誰とも結婚しない。

 『ツクヨミ』も、リディアと結婚だけは出来ない。

 ミストでのゆるーい挙式なんて、もってのほかだ。

 

『僕は……一生独り身を貫く所存でおります』

 

 以前『ツクヨミ』は、リディアやライザにそう打ち明けたことがある。

 昨年もリディアに『結婚しない』と改めて意思表明したら、彼女はこう答えてくれた。

 

『ずっとわたしと恋人でいるんでしょ? だったら、別に結婚しなくてもいいじゃない』

 

 心からそう思ってくれていると信じたい。

 信じたいが、無理をしていないか。強がっていないか不安になる。

 

§

 

 将来リディアとツクヨミは結婚するのか。ミストの住民も気になっているらしい。

 リディアとふたりで集落を歩いていると、よく質問される。

 

『あんたたち、いつ結婚するの?』

『え? しないよ』

『ええ?』

『大丈夫。ツクヨミさんとはずっと恋人同士だから』

『それならいいけど……ちょっともったいないねえ』

 

 リディアが笑ってそう答えても、相手は複雑そうな表情を見せることが多い。

 —— —— ——

 

(普通なら恋人から結婚に発展すっけど、オレたちは……)

 人生初の自作サンドイッチを咀嚼しながらも、それを味わう余裕がないぐらい。

 エッジはリディアとの将来について思案にふけっていた。

 

「……さん」

『……』

 

(そんで、ミネルバもついに煽ってきた……と)

 これまでミネルバは、リディアとツクヨミに先を急かしたことがなかった。

 それが本日『幸せな結婚しなさいね』とばかりに、リディアにわざとブーケを投げたようだ。

 しょせんあの女も、ここの住民と同じ穴のムジナ……。

 

「——ツクヨミさんっ」

『っ!?』

 

 名を呼ばれたと同時に、口いっぱいに塩気混じりの味が広がる。

 

(たまごじゃなくてよかった……)

 リディアが怒ったような顔で、ハムのサンドイッチを口に押し込んできた。

 

「まだ話、終わってないよ」

『……』

 

 押しつけられたサンドイッチを食みながら、リディアに頭を下げて謝る。

 

「わたししか未婚女性のお客さんがいなくて、あとはみんな小さな女の子ばかりだったの」

『!?』

「だからミネルバが『それー』って、わたしに投げてくれたんだよ」

『……』

 

(なんだ……考えすぎか)

 リディアが消去法でブーケを受け取っただけ。

 それが判明した途端。ミネルバやミストの住民に向けていた不満はぱっと解消された。

 

「あっ、そうだ。ツクヨミさん」

『??』

「あの花言葉知ってる?」

『っ……』

 

 リディアが指さした先には、コチョウランの花びん。それを見て、息を詰まらせた。

 

(何だったっけ……)

 好きな女に質問されて、知らないと答えたくない。

 1、2分ほど黙り込み、なんとか花言葉を思い出してから。ノートにそれを綴った。

 

【『幸福が飛んでくる』『純粋な愛』ですね】

「すごぉい! わたし『たち』に、ちょうどぴったりじゃない!」

『……!』

「タルトもふたつもらったし、ブーケで幸せまでおすそ分けしてもらっちゃった……!」

 

 リディアがぱあっと輝かしい顔に変わり、ミネルバに感謝している。

 

 リディアは相談料として、ミネルバから恋人成就と結婚記念に。

 フルーツタルトをそれぞれ1ホールを贈ってもらっている。

 しかもブーケまで投げてくれたのだから、まあ喜ぶだろうが……。

 リディアの反応を目の当たりにして、エッジはいたたまれなくなってしまう。

 

【デザートをお持ちしますね】

「はい、お願いします」

 

 食事があらかた進んだのを利用して、席を離れた。

 

 結婚出来ない。一緒に暮らせない。子どもも作れない……。

 リディアは、こんな男と人生を共にする覚悟が本当にあるのだろうか?

 台所の調理台に向かいながら、そう思案にくれたのであった。

 

§

 

「あっ、今日もうさぎ!」

 

 デザートのお皿を持って席に戻ると、リディアが歓喜の声を上げた。

 うさぎりんごは、彼女の大のお気に入りである。

 

「たべちゃおう!」

 

 リディアが、うさぎりんごを1匹フォークでぶっ刺してから。

 「あーん」と声を上げながら、こちらに見せつけるようにりんごをほおばった。

 

「うん、っ……おいし……」

 

 見ているこちらまでも幸せになれそうな。もやもやを吹き飛ばしてくれそうな。

 至福の笑みを浮かべながら、リディアが咀嚼を終えると。

 引き続き、お皿に載ったうさぎをフォークでぶすっと刺した。

 

「はいっ」

『!?』

 

(生まれて初めてだぞ!?)

 そのまま自分の口に入れるだろう。そう思っていたら。

 なんとリディアが、うさぎをこちらに差し出してきた。

 

「うさぎさん、食ーべーて」

『……』

「あーん」

 

(あーん!?)

 一瞬うろたえてしまったが、口を開けて素直に応じたら。

 リディアがりんごをほおり込んでくれた。

 

 口からはみだしたうさぎを手で押さえながら、しゃくしゃく噛むと。

 りんごの甘い果汁が口いっぱいに広がる。

 

「次もりんご準備しとかなきゃね」

『??』

 

 リディアの独り言の意味がよくわからず、首をかしげる。

 

 次にエッジがここを訪れる日は、ミネルバたちの挙式。そして、バレンタインデー。

 その日の夕食は、チョコレートフォンデュ。既にリディアからそう予告されている。

 

「一度やってみたかったんだよねぇ。黒いうさぎさん……」

『……!』

 

 リディアがうっとりしたような表情でそう言いながら。フォークでうさぎりんごをぶっ刺した。

 

 主食に出来るチーズフォンデュと違い、チョコレートフォンデュは、おやつの延長線。

 具材は果物やクラッカーなど、お菓子や甘いものが中心である。

 チョコレートに白いうさぎりんごをくぐらせたら、たちまち黒うさぎ……。

 

『……っ、くくっ……ははっ……!』

「え? 何か変なこと言った?」

 

(この甘味お化けめ!)

 相変わらずの甘味至上主義ぶりに笑いながら、ノートの続きに文章を綴る。

 

「えっ……!?」

 

 能天気に白うさぎをほおばっているリディアに、ノートを見せてあげたら。

 顔を真っ赤にさせながらうつむいてしまった。

 

【お片付けが終わりましたら、あなたも僕が食べて差し上げます】

 

 遠回しに『このあとヤルぞ』と書いたそれを見て、すぐに意味を察したようだ。

 

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