フェイクラバーズ 作:かえで
——その頃 午後7時過ぎ
本日はエッジが午後から公休。そのため御伽衆は、全員5時で仕事を終えている。
ミゼルは、ザンゲツの自宅で彼と酒を酌み交わしていた。
彼の妻が準備してくれたお料理は、本日も美味しい。
ザンゲツの妻は現在城下町のどこかのお店で、ジャンヌとお食事中。
ふたりともザルだから、お酒も飲んでいるだろう。
1時間ほど経ってから、じいがいつものようにザンゲツの自宅に現れた。
ところが、席につくなり、酒にも一切手を付けず。ミゼルとザンゲツにこんな話をした。
—— —— ——
エブラーナ城内は夕方5時になると、人通りが多くなる。
通常業務を終えた使用人が、次々と東の塔や自宅に帰るからだ。
それがようやく落ち着きを見せた頃。
ファブール、ダムシアン、バロンの諜報が相次いで、城に急報を送ってきたという。
—— —— ——
「本日バロンとダムシアンの海上に、隕石が落下したそうだ」
「またですか!?」
「さよう。どちらも火球だったそうよ。通常は燃え尽きるかこの星には落ちてこんのだがな……」
「落ちた先が海でよかったですなぁ」
火球は一際明るい流れ星のこと。
それが青き星に落ちてきたのは、史上初めてだと思われる。
宇宙から火の玉が飛んでくるのだ。
通常の隕石による被害に加えて、大火災につながる可能性もある。
「ファブールに落ちたのは通常の隕石ですか」
「そうなのだが、西の郊外に2メートル以上のものが落ちてきおったそうだ」
「2メートル?」
「そんなに大きいものが!?」
「集落や城に直撃しておったら、えらいことになっとっただろうな」
「大惨事ですなぁ……」
「明日それぞれの地元紙が報じるだろう」
今年に入り、世界各地で隕石の落下が多発している。
エブラーナにはまだ落下していないが、既に警戒態勢に入っている。
(何かの前ぶれか……?)
隕石が日増しに大きくなってきている。しかも、火球まで。
酔いがぶっ飛ぶぐらいには、じいの話はただならぬ内容であった。
「それでだな、ザンゲツ」
「何でしょう」
「今後の情勢次第では、若様はいつエブラーナを離れてもおかしくないとは思わぬか?」
「ははっ……お館様は動かざる者の逆を行くお方ですからなぁ」
「以前と違い、今の若様は一国の王。そなたたちにはお館様の代わりに、各地で調査してもらいたいのだ。ダムシアンの他にも調査場所を既にいくつかピックアップしてある。——なにとぞ引き受けてくれんか」
じいが姿勢を正してから、ザンゲツに深く低頭した。
(王様が真っ先に動く訳にはいかないからか……)
こんな光景をミゼルは初めて目にした。
じいが頭を下げる相手は、国外の賓客かエッジぐらいしかいないからだ。
それでも、じいがなぜそこまでしたのか理由をすぐに察した。
「あの、ゲッコウたちは何と……?」
「みな二つ返事で了承してくれた」
「さようですか」
エッジのためなら、例え火の中水の中。下手をすれば地獄まで……。
御伽衆はそれを地で行く者の集まりである。
エッジを神のごとく崇めているあの3人が、断る訳がない。
「ひとつ気がかりなことがあります」
「何ぞ」
「エドワードくんが、そう簡単に御伽衆のみなさんを送り出すとは思えません」
危険とわかっている任務を他者に命じるぐらいなら、自分が動いた方がいい。
エッジはそういう考えの持ち主だ。
「そうですな。じい様、何かお考えでもあるのですか?」
「当たり前よ。——若様が任務を命じるような空気を作ればよいのだ」
どうやってエッジに御伽衆へ任務を命じさせるか。
じいがミゼルとザンゲツに、今後の予定と言う名の作戦を淡々と話してくれた。
—— —— ——
明朝。使用人が行き交う城の玄関で、じいはエッジの帰りを待ち伏せする。
その場で本日の件を報告し、各地に調査に向かわせた方がいいと進言する。
話を聞けば、エッジは『見に行ってくる』と城から飛び出そうとするだろう。
じいが引き留めたら、その場に居合わせた使用人も一斉にエッジを止めに入る。
そこに御伽衆が現れて、エッジに調査任務を志願すればよい……。
—— —— ——
「エドワードくんを止める使用人は、みんなサクラ……仕込みですか?」
「さよう。この後、わしは城に帰ってから、城に残っておる使用人に事情を話して根回しすることにしておる」
「数の力と情で押して、お館様をしばらくお城に留まらせる作戦……それならなんとかなりそうですね」
「そうですな。——じい様。それでいきましょう」
じいの作戦に、ミゼルとザンゲツは揃って賛同の意を表した。
リディアに直接関わることでないので、エッジは融通を利かせるだろう。
「頼まれてくれるか?」
「はっ、御意でござる」
「そう言ってくれると思うとった。……感謝する」
じいが申し訳なさそうな表情で、ザンゲツに向かって再び頭を下げた。
エッジは政治手腕に長けているだけでなく、人を惹きつける魅力にあふれている。
民からの人望の高さは、初代国王にも匹敵すると言われている。
ザンゲツは、日々お館様からの雑な扱いを嘆いているが。
こことぞいう時には、国やお館様に身を捧げる覚悟が出来ている。
ザンゲツだけでない。城の使用人は、そんな気概を持っている者がとても多い。
ノアと姿と身分を偽り、ミストで一緒に暮らしてくれた御伽衆のあの子どもも……。
(何かしてあげたいって思ってしまうところも、ニクスとそっくりだ)
もしエブラーナに生まれていたら、使用人になっていただろう。
ミゼルはエブラーナで働くようになってから、そう思うようになった。
§
それから、じいとザンゲツが話し合いした結果。
明朝エッジがミストから戻る前に、みなで集まって打合せすることに決まった。
「やれやれ……気つけに一杯いただいてから帰るとするか」
「どうぞ」
話し合いが終わると、じいが気が抜けたような声でそう言いながら。
机の上に置かれていた、じい専用の盃を手に取ったのを見て。
ミゼルはすかさず、それに紫微星を注いであげた。
「ああ、いつもすまぬな」
「いいえ。ぼくはこれぐらいしか出来ませんから」
「何を。話が早くて助かっとるわい」
「……ありがとうございます」
じいはうわばみ。おちょこ10杯飲んでも仕事に支障は出ない。
「リディアさんとエドワードくん、今頃いちゃいちゃしてるんでしょうね」
「ほとぼりが冷めるまで、会いに行く余裕はないでしょうし、今宵は楽しんでもらいたいですなぁ」
「今日が最後の逢瀬にならねば」
「——じい様」
「っ!」
「縁起でもないこと言ってはなりませぬぞ」
「す、すまぬ……」
ザンゲツから厳しい口調でたしなめられて、じいが肩を小さくさせながら。
盃に残っていた酒をぐいっと飲み干す。
すると、捨て犬のような目でこちらを見てきたので、苦笑しながら酒を注いであげた。
§
それからもしばらく雑談していたが、じいが腰を上げた。
「そろそろ戻らねばな……」
いつまでもここにいる訳にもいかない。じいはそう思ったのだろう。
続けてミゼルやザンゲツも立ち上がり、3人で玄関へ向かう。
本日じいは、紫微星を盃3杯口にしただけ。
やはり情勢が情勢だけに、いつもより少なめであった。
「せっかくの酒席に水を差して悪かったのう」
「とんでもないです」
「わざわざご苦労様でしたな」
じいが草履を履き終えて、玄関を開けようとする前に。
ミゼルとザンゲツの方を向いて軽く一礼してくれた。
「当面酒席など開く余裕はないからのう、ふたりとも今日は楽しむがよい」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます」
「して、ザンゲツ」
「はっ」
「……朝まで楽しむのだぞ」
「言われずとも」
(こ、これは……!)
不敵な笑みを浮かべたじいに向かって、ザンゲツがきりっとした表情で答えた。
「ミゼル殿も奥方によろしくお伝え願いたい」
「ありがとうございます。また明日からよろしくお願いします」
「ではな……よい一夜を」
「気をつけてお帰り下され」
じいが玄関を開けて外に出るなり、空を見上げてため息をついてから。
足取り重くエブラーナ城へと帰っていった。
§
じいを見送ってからザンゲツと共に部屋に戻り、再び酒席を再開させた。
じいから去り際に『楽しめ』と言われたからだろう。
ザンゲツがお酒を呑むペースは、じいが現れる前と変わらない。
なお、彼は昨年から健康を気にして、氷割りをちびちび飲むようになった。
「久々の潜入任務になるやもしれませぬなぁ」
「ザンゲツさんは、ちょちょいのちょいでしょ。隠れ身も変化も使えるじゃないですか」
「いやぁ、変化は……」
「役に徹し切れない?」
「さようです。どうしてもこれだけは……」
ザンゲツが肩を小さくさせながら、紫微星が入ったグラスに口を付けた。
(唯一の痛みどころか)
ザンゲツはなんでもござれのほぼ万能型忍者だが、演技があまり上手ではない。
特に若様——エッジの影武者を演じる時は目も当てられない。
どうしてもザンゲツの素や感情が前面に出て、覇気のない若様に変わる。
以前じいが呆れ笑いで、ミゼルにそう教えてくれたことがある。
「気にしちゃいけません。そこらへんの人を演じるならバレやしませんよ」
「あぁ、どうもどうも」
ザンゲツのグラスの中の酒が減っている。
それに気付き、紫微星のびんをさっと手にして酒を注いであげた。
「そのおかげで、今いっしょにごはん食べてお酒も飲めるんですからね」
(お城勤が外の任務で食事する時は、普通は兵糧丸なのに、『おむすび食べたかった』だったし……)
当初ミストでツクヨミを演じていた時も、らしさと言うべきか。 ザンゲツは素をぽろぽろ見せていた。
しかし、それが縁でこうして仲良くなれたのだから何の問題もない。
「何をおっしゃるのですか」
「はい?」
「ミゼル殿は、ほぼジュースではありませぬか」
「うわ、ひどいな。ぼくにとってはこれも清酒レベルなんですよ」
ミゼルは酒席の場では、もっぱら注ぎ役に回っている。
若輩者というものあるが、何より生まれついての下戸だからだ。
下戸は下戸らしく、お料理だけたしなめばいい。
そんな風潮に耐えかねて、一昨年下戸でも飲めるお酒を考案した。
それが紫微星のほぼオレンジジュース割。
氷とオレンジジュースが入ったコップに、紫微星大さじ1弱を混ぜただけだ。
アルコール度数1%にも満たないが、酒には変わりはない。
「ああ……! いつものことながら申し訳ない。拙者だけ美味しくいただいて……」
「そうですよ。お酒強い人は超ずるいです……!」
改めて現実を突きつけられて、かなしい体質で生まれてしまった自身を嘆きながら。
橙色の液体が入ったコップに口をつける。
「じい様も、年内の隠居は厳しいでしょうな」
「おねえさま方も結婚どころじゃなくなりますね」
「……よく言いなりになられてますなぁ」
「はい?」
「ちゃっかり者で、結婚願望が高く、押しが強い……拙者には、あの者たちの相手は出来ませぬ」
ザンゲツが苦々しい表情を見せながら。氷割りのグラスをくいと傾けた。
「ザンゲツさん、今のおねえさま方と仕事したことないでしょ」
「そうですが、昔から事務方はじい様を除けば、みな腰掛け程度としか考えていない者の集まりなのです……」
(何でも出来る人だなあ……演技以外は)
ザンゲツは過去に何度も、事務方の手伝いをしたことがあるという。
仮にザンゲツがタタラに変化して、事務方で仕事をすれば。
おねえさま方に露骨に不満を露わにして、正体バレするのが目に見えている。
「でも、みなさん仕事はきちんとやっていますし、何よりぼくより先に入った方ばかりです。新入りは先輩の言いなりになるのが当然ですよ」
「いや、まあそうなのですが」
「——人以下の扱いされるより、よっぽどマシです」
「……」
ミゼルの言葉に、ザンゲツの顔が一瞬厳しくなった。
長い物には巻かれろ。その精神でいれば、おねえさま方は人畜無害。
幼少期にミストで受けた仕打ちに比べたら。今の待遇など屁でもない。
ただ、個人的には『タタラちゃん』呼びと、頭撫で撫でだけは辞めて欲しい。
「ああ見えてもみなさん、エドワードくんのこと敬愛しています。怖くてそばに近付けないだけなんです」
「拙者と一緒ですか」
「そうです。本当に嫌いなら、あの会とっくに抜けてますって」
「確かに、退会希望は聞いておりませぬな」
女性のいささか悪い面が目立つが、仕事が完璧なら文句は言えない。
(血の入れ替えが始まったら、真面目で仕事が出来る人たちの集まりになるよ)
じいが自身の隠居を見据えて、事務方の改革の着手を始めている。
今所属している女性たちは、長く職場に居座る気はない。
全員退職すれば、事務方はじいがいなくなっても安定した職場になるだろう。
§
その後もミゼルとザンゲツは、あの会——『お館様被害者の会』に続いて設立した互助会のこと。
ノア、もといツキノワのこと。じいが隠居した後の城内の職場環境について。
リディアとあの人のこと。職場や他人様の恋模様について……様々な話題で盛り上がった。
「あのですなぁ……」
「え?」
「拙者、どうしてもミゼル殿にお願いしたいことが出来ましてな」
ようやく話題が落ち着いた頃。突然ザンゲツが姿勢を正した。
お願いと言った彼が一体何を頼んでくるか、すぐに気付いた。
「何、お願いされるかわかっちゃいました」
「な、何ですとぉ!?」
「せーので、一緒に言いましょうか!」
「ええ?」
「じゃあ、いきますよぉー!……せーのっ」
合図の後にザンゲツとミゼルが同時に言葉を発すれば。やはり、合致していた。
「いやぁ……毎度のことですが、拙者たちは気が合いますなぁ……!」
「実はぼくもそうするつもりでいたんですよ」
「何と……!?」
以前ザンゲツから、13年前エブラーナ城を襲撃された時の話を聞いていた。
そして先ほど現れたじいの話を聞いて、ミゼルもそうしようと決めていた。
「ザンゲツさんに頼まれるなんて、めちゃくちゃ光栄です。喜んでお引き受けします」
「あ、ありがたき幸せ……!」
(ジャンヌさんとラルフくんに話さなきゃ……)
ジャンヌは、今後ミゼルが何をするつもりでいるか察している。
『好きにやれよ。あたしも好きにさせてもらうからな』と言って、お許しをくれるはず。
今回は妻だけでなく、ラルフにも話しておかねばなるまい。
とうの前よりミゼルはミストの運営から離れているが。
前任の村長として、ラルフから度々ご意見をたずねられることが多いから。
「ザンゲツさんと奥さんには大変申し訳ないと思っています」
「何を謝ることがあるのですか」
「ぼくが今日飲み会をやろうって言わなかったら、おふたりが一緒にいる時間、もっとあったでしょう。なんか邪魔しちゃったみたいで……」
明日から御伽衆は当面の間、エブラーナを離れることになった。
自分たち夫婦のせいで、ザンゲツが愛妻とふたりきりで過ごす時間が減ってしまった。
「ご心配なく」
「どうしてですか??」
「ミ、ミゼル殿と奥様がお帰りになってから……その……」
「ぶっ……!」
「明日は早出ではありませぬし……あ、朝……まで……」
「ははっ! 相変わらず奥さん好きすぎですねぇ!」
顔を赤くさせながら、しどろもどろに答えるザンゲツを見て。
ミゼルは吹き出し笑ってしまった。
(じいやさんにも煽られてたし、やっぱりやる気まんまんだったな)
この後、ザンゲツは最後の夜とばかりに。愛妻とこれでもかと夫婦の営みを行うつもりでいる。
明日はエッジが朝帰りで、朝の修行はお休み。
ザンゲツは『短眠の術』も使えるから、睡眠時間を気にしなくてもいい。
ザンゲツは60手前なのに、未だ男として枯れていない。
奥方も40代後半とまだまだ若い。だから出来ることなのかもしれない。
「それにですなぁ……妻は結婚する前から、拙者の仕事に理解を示してくれておりますゆえに、突然でも動じませぬ」
「覚悟が出来てるんですね」
「さようです」
「そんな方でないと、お城勤や御伽衆の奥さんはつとまりませんよね……」
ザンゲツは妻帯者でありながら、お城勤や御伽衆——現場忍者——として長年働いている。
現場忍者としては極めて珍しい人物である。
—— —— ——
現場忍者は給金は高いが、勤務時間や日数は不規則。
家庭を持つと、大抵の者は異動願を提出して、毎日家に帰れる部署に変わってしまう。
そんな中、ザンゲツは異動希望も出さず。現在も愛妻と仲良く暮らしながら現場忍者を続けている。
—— —— ——
「長く家を空けることも多々ありました。振り回してばかりで、息子の面倒も押し付けて……申し訳ないとは思うのです」
忍者とは違う職業だが、彼のひとり息子も既に自立している。
これも妻の夫の仕事への理解と支えと覚悟——愛のおかげだろう。
「……気持ちわかるなあ」
「はい?」
「ぼくもいっしょですもん」
紫微星のオレンジ(略)を一口すすると、氷が半分溶けて薄くなっていた。
「何をまた。ミゼル殿の奥方は、それはもう幸せに見えますぞ」
「そんなことありません」
「はて……」
「最近つくづく思うんですよね。こんな死にぞこないの身勝手に、うちの奥さん、よく付き合ってくれてるなあって……」
ミゼルは自嘲めいた笑みを浮かべながら、コップにジュースを注ぎ足す。
そして、紫微星を直接コップにちょろっと垂らしてから。中身を搔き混ぜ棒で荒っぽく混ぜた。
—— —— ——
ミゼルは来たるべき時まで、好きなことをやっている。
妻はそれを黙認してくれている。
エッジに知られたら、スパイ容疑で逮捕。死ぬまで牢屋暮らしかもしれないと言うのに……。
—— —— ——
しかも、後で人生最後(たぶん)のわがままを聞いてもらおうと思っているのだから。
本当にどうしようもない夫だ。
「ずいぶん投げやりなことを口にして……じい様が来る前から、様子が変でしたし、所作にも現れておりますぞ?」
「あ……」
「何かあったのですか?」
無意識にやけっぱちな言動や仕草を取っていたらしい。
ザンゲツが怪訝そうな表情を見せるが、少しの間、ミゼルは黙り込んでいた。
「っ……!」
「ミゼル殿……!?」
意を決してほぼジュースの酒をぐいっとあおる。
やけ酒とばかりの仕草を目の当たりにしたからだろう。
慌てたようなザンゲツの声も無視して一気に飲み干す。
「はぁー」
「大丈夫ですか? 突然一気呑みされて……」
微量にもかかわらず、アルコールで腹が焼け付く感覚を覚えながら。
ミゼルは姿勢を改めてからこう言った。
「じいやさんの話を聞いて、黙って帰ろうと思ってましたが、ザンゲツさんはぼくの大事なお友達です。今からぶっちゃけちゃいます」
ミゼルは、いずれ自身に大きな転機が訪れることを知っている。
業務の都合で一昨日、じいには話した。ミストでそれを知るのも、妻を含めて3人しかいない。
(明日から大変になるのに、余計な心配、掛けさせたくなかったんだけどな)
ザンゲツにも、本日の飲み会でそれを打ち明けるつもりでいた。
ところが、じいから緊迫した情勢を聞かされて何も話さず帰ろう。
そう思い直していたけれど、取り辞めだ。
「な、何をですか?」
「実はですね……ぼくはそのうち……」
ぽかんとしたような表情を見せるザンゲツを、じいと見つめながら。
ミゼルはゆっくりと口を開いたのであった。
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