※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点/短い


回帰のきざし

 

 

——翌日 2の月1日 未明

 

 

『……』

 

 目が覚めたら、さあさあ先細るような雨音が聞こえてくる。

 エッジは首を動かして部屋の窓を見たが、外はまだ暗い。

 

 ミストの雨期は、日の出の時間と同時に終わる。

 雨雲が遠のき、青空に変わるまではまだ時間がかかるようだ。

 

 —— —— ——

 リディアと付き合うようになり、ふたりで話し合った結果。

 早朝の掃除やシーツやタオルの洗濯、朝食の準備を共同作業にしたが、特に問題はなかった。

 リディアも『ふぁー、眠い……』ぐらいしか文句を言わないし。

 —— —— ——

 

 昨夜はリディアを二度食べてから。一糸まとわない状態でシーツの海に一緒に沈んだ。

 昼間の挙式で疲れていたのだろう。

 すぐに眠りについたリディアを見届けて、後を追うようにエッジも目を閉じた。

 

 リディアの自宅に泊まる時は『短眠の術』を使わなくなった。

 歳を取ると、長時間連続の睡眠が難しくなるのだろう。

 数時間おきに目を覚まし、リディアの肌を堪能して寝るの繰り返し。

 本日の途中覚醒は、これで3回目だ。

 

 エッジの腕の中でリディアは今、すうすう寝息を立てている。

 なんとも幸せそうな寝顔が愛しく見えて。やさしく身体を抱きしめる。

 

 リディアのやわらかすべすべ肌を味わいながら。昨夜のまぐわいを頭の中で振り返っていたら。

 

「……っ」

 

 うめき声が聞こえてきて、想起の海に沈んでいたエッジの意識も浮き上がった。

 強く抱きしめたつもりはなかったが、リディアが起きてしまったようだ。

 

「ぁ……ツクヨミ、さん……」

 

(眠くなったら、また寝るだろ)

 このまま眠らせるか、それとも……。

 エッジは一瞬逡巡した後。ぽやあとしているリディアに、笑みを浮かべて見せた。

 

『——おはようございます。リディアさま』

「っ……!?」

 

 他愛のない朝の挨拶にもかかわらず。

 リディアが寝ぼけまなこをぱちぱちっと開かせて、飛び跳ねるように起きた。

 

(シーツいらねえ!)

 その際、露わになった上半身をシーツでささっと隠してしまった。

 相変わらずの羞恥の高さに、心の中で軽く舌打ちする。

 

「こ、こえ……治ったの!?」

『ええ。おかげさまで』

「っ……よかったぁ! もうひとり、諦めてくれたんだ……!」

 

 リディアが喜色満面の笑みを浮かべて、こちらに飛びかかるように抱きついてきた。

 それから自分のことのように、何度もよかったと口にしてくれる。

 そんなリディアの翠の髪を、愛しみを込めて手ぐしで梳くように撫でてあげた。

 

 —— —— ——

 ……声が出せる。エッジがそれに気付いたのは、本日1回目の覚醒時だ。

 寝ているリディアに、愛の言葉を耳元でささやこうとしたら、声が出ることに気付いた。

 —— —— ——

 

 本当は朝まで待つつもりでいたが、リディアが目を覚ました今、快癒披露と相成った。

 

『リディアさまのおかげです』

「わたし、何かした?」

『あなたからの真摯な訴えによって、抱えていた将来への不安が消えていきました。そこに、中出しのお許しをいただいたことが決定打になったと思われます』

「え、あれで……??」

 

 リディアはドン引きしたような顔をしているが、本当なのだから仕方がない。

 

 結婚してくれない。そんな理由で、いつかリディアに愛想をつかされるかもしれない。

 エッジがこの1年ほど抱えていた不安を、昨夜のセックス中。

 リディアが自身の言葉と身体をもって吹き飛ばしてくれた。

 

(ああまでされたら、そら撤退するっての)

 その勢いで『白』の縛り——失声——も解けたようだ。

 未だに『エッジ』の声は出せないが、リディアの前では出さないから別にいい。

 

「そのことなんだけど……」

『あぁ、やはり気分が悪かった』

「——逆だよ」

『!』

「ツクヨミさん、気にしすぎじゃないかな?」

『……』

「だっ、出すか、出さないか……場の空気で、決めたら……いいんじゃない……っ!?」

 

(おまえって奴は!!)

 あからさまなことを口にするのが恥ずかしいのだろう。

 リディアが顔を真っ赤にしながら、たどたどしく中出しをおおむね容認した。

 その途端、エッジは小さな身体をシーツごと強くかき抱いていた。

 

「っ……ツクヨミさん……っ、くるし……」

『ああ……申し訳ございません』

 

 リディアのうめき声が聞こえて、腕の力を緩めた。

 

(またやっちまった……)

 衝動に駆られて抱きしめると、どうも力加減が出来ない。

 悪い癖を省みて、今の思いを身体ではなく言葉で伝えることにした。

 

『——愛しています。リディアさま』

 

 うっすら紅が差すリディアの耳元で、愛の言葉をささやいてから。

 小さな両肩にそれぞれ自身の両手をつき、リディアの顔をじいと見つめる。

 

『この命ある限り、身を盾にしてでも、リディアさまを、愛し、守り支え……敬い慈しむと誓います』

「……」

 

 目の前にいるリディアに改めて誓いを立てた瞬間。

 夜空を思わせる紺碧の双眸が、ゆらりと揺れたように見えた。

 

 —— —— ——

 正体を明かす、婚姻する、同居する。このみっつを除けば。

 エッジはリディアのためなら、主婦にでも、料理人でも、何にでもなれるし。

 何でもしてあげられる自信がある。

 —— —— ——

 

(おまえを守るためなら……命、投げ出せるぜ)

 アスラに誓った言葉に、挙式でのお約束を少々付け加えただけ。

 それでも、エッジのまごうことなき本心だ。

 

「わたしも……」

『え?』

「わたしも、この命ある限り、身を盾にしてでも……『あなた』を愛し、守り支え……敬い、慈しむと誓います」

 

 リディアも薄い笑みを浮かべながら。エッジとほぼ同じ誓いを立ててくれた。

 そして白狐の面の前に右手の甲を近付けて、小指に光る指輪を見せてくれた。

 

 神父や参列客はいない。指輪も片方分しかない。

 お互い何も身につけておらず、シーツできわきわの部分を隠しただけ……。

 そんないかがわしい真夜中の愛の誓いが、自分たちふたりにとって挙式のようなもの。

 エッジはそう思いながら、リディアの手を取った。

 

『……では、誓いのキスを』

「はい」

 

 準備万端とばかりに、リディアが目を閉じてくれた。

 彼女の右手を握りしめたまま、顔を寄せて唇同士を寄せ合う。

 

 リディアは知っているだろうか?

 誓いのキスは、互いに交わした誓いの言葉を。互いの口で封じ込める意味があるということを……。

 

『……』

「ん、っ!?……ん……ぅ……」

 

(取り消しさせねえ!)

 唇同士の接触だけでは、口封じは足りない。

 エッジが舌を口内に差し入れたら、リディアが驚きの声を上げた。

 しかし、右手の甲を強く握りしめてあげれば。大人しくなり、右手の指を絡ませてくれた。

 

(ここでセックスしてえって言ったら、ぶっ殺されるよな……)

 この先もツクヨミとして、リディアを幸せにする。

 エッジはそんな決意を固めたにもかかわらず、口付けを交わしながら。

 早速よからぬことを考えていたのであった。

 

 —— —— ——

 ほんのちょっぴりただれた空気に包まれた、リディアとの時間があっという間に過ぎていく。

 

 エッジはおろか、リディアや青き星のほとんどの人々は、まだ知らない。

 この星に忍び寄る影のごとく、13年ぶりにあの星が舞い戻ってきているとは……。

 —— —— ——

 

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