フェイクラバーズ 作:かえで
(幕間)続・潜入捜査
6 years later
——某施設
普段明るい時間は、傭兵見習いの少年に扮して訓練に参加している。
ところが、今日は珍しく訓練が休み。日が明るいうちに調査を開始した。
地下1階はほぼ調べ尽くした。
しかし、ゲッコウがつかんだ情報以上のそれは出てこなかった。
潜入から半年後。一旦城へ戻って現在2回目の潜入。
つい1ヶ月ほど前に、地下2階の存在を確認することが出来た。
それから毎日、各部屋の状況を調べている。
今は『変化の術』でも少年ではなく、白い猫に姿を変えている。
建物内はほぼ白で統一されており、動物なら狭い天井裏や家具の隙間に潜り込めるからだ。
本日も地下2階の部屋を調査している。
別の部屋へ移動中に、廊下で白いフードをかぶった若い女性を見つけた。
傭兵——戦闘員と思われる者は、地上階にしか現れない。
地下に現れるのは、研究員とおぼしき白衣を着用した者ばかり。
この施設内で、白魔道士の装束を身に着けている者を初めて見た。
そのため、白魔道士の女性の尾行を始めることにした。
地下にいる者は、女性を含めて全員空き時間になると。
部屋にたたずんだまま動かず、目もうつろで単独行動しない。
人間らしさが感じられないところから。全員操られていると思われる。
やがて、女性が地下2階の突き当たりで立ち止まる。
真っ白な壁に手を添えると、壁の一部分が左に動いて空洞が出来た。
(隠し扉か)
女性と扉の向こう側へ入ると同時に、気付かれないよう駆け抜けた。
何とか潜入に成功し、胸をなでおろす。
扉の向こう側は、更に下へと階段が続いていた。
女性の後を追い、自然の岩盤そのままの壁や天井を横目に階段を降りる。
(今までとはえらく雑な造りだな。ここが最下層か)
大した時間もかからず、白い木製の扉に突き当たる。
女性が素早く中に入ってしまい、潜り込めなかった。
地下3階の存在を確認できたが、今日はここまでか。そう思った矢先。
「お呼びでしょうか『エミール』様」
「早かったな」
女性が、その場にいると思われる男性に声をかけた。
エミールは、初代国王の息子。
2代目国王の座を双子の兄弟と争っていたが、破れた。
その翌日、エブラーナ城から去ったと言われている。
(もう死んでいるはず……同姓同名の別人か?)
もし今、生きていたとしても100歳近くになる。
このご時世、ここまで長生き出来る者はほぼいない。
ふと扉に小さな穴が開いていることに気付いた。
そこから中をのぞいてみると、室内は階段と同じように岩盤をくり抜いてある。
まるで地下壕を思わせるような空間が広がっていた。
「こいつが最後の実験体だ。頼むぞ」
「かしこまりました」
ベッドに横たわっている男にぎょっとした。
(なんだあの色!?)
男の全身は真緑色に染まっており、ぴくりとも動かない。
女性がその男に何か魔法をかけている。
しかし男の肌の色は変わらず、回復する気配は全く見られない。
「どうだ」
「効かないようです」
「……素晴らしい! これで全員成功だな!!」
感嘆の声を上げた、長い銀髪の男性の風貌を珍しく思っていると。
偶然こちらを向いた男性の顔が、上司とそっくりで胸がどきりとする。
エブラーナで銀髪の持ち主は、王族の血を引く者ぐらいしかいない。
この男性はエミールの子孫だろうか?
「もういい。一連の資料を全て消去しろ」
「かしこまりました」
(……証拠隠滅か)
所業を止めたいのはやまやまだが、今は潜入捜査中。
事を荒立てる訳にはいかない。
仕方なく、このまま彼らのやりとりを見守ることにした。
ふたりは実験体の男を放置したまま、部屋中の全ての書類に火を点けた。
10分ほどで書類は全て灰と化して、その間に実験体の男は息を引き取ってしまった。
「全て終わりました」
「命令だ。例の召喚士をここへ。他の住民には一切危害を加えないように」
「かしこまりました」
(リディア様じゃないか!?)
抑揚のない男の言葉に耳を疑い、すぐにその場から去った。
現在、この地上に召喚士はたったひとりしか存在しない。
階段を駆け上がる途中。一時的に変化を解いて本来の姿に戻った。
手早く隠し扉を超えると、再び白猫の姿に変化して廊下を走り続ける。
『それまでに何か重大な事がわかったらすぐに戻ってこい』
上司の命令は絶対だ。城へ早急に城へ戻らなければ……!
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