※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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短文注意


運命の羅針盤

 

 

——2の月13日 午前10時過ぎ

 

 

 この世の者とは思えないほど大きな身体を持つ男が、その場で勢いよくジャンプする。

 そして数秒後、両足を着地させた。

 

どおおん!

 

 天地がひっくり返りそうなぐらい、大地が大きく揺れる。

 

「わぁっ!」

「きゃぁぁっ……!!」

 

 リディアとルカの身体も宙に高く浮き上がり、重力に従い地面に叩きつけられた。

 

「ああっ!!」

「っ! 痛ったぁぁ……!!」

 

 全身に強い痛みが走り、ふたりとも立ち上がることすらままならず。

 余震のごとく未だ揺れる大地に寝そべるしかない。

 

(レビテトが使えたら……!!)

 数分前から幻獣タイタンが、間髪入れずに飛んだり跳ねたりしている。

 その度に烈震が発生し、ルカのハンマー攻撃やリディアのむちはタイタンに全く当たらない。

 魔法の詠唱も中断させられて、反撃もままならない。

 

「う……」

「おねがい……タイタン……も、う……やめて……」

 

 リディアは身体の痛みに耐えながら。すがるような目で息も絶え絶えにタイタンに懇願する。

 このまま攻撃を受け続けるか。地震を起こす元凶——タイタンを止めるしかない。

 

 —— —— ——

 リディアとルカは一昨日、アガルトの鉱山で特殊鉱石アガルトタイトを入手した。

 

 一夜明けて、2の月12日。

 ルカがアガルトタイトを使って、ファルコン号とカルコとブリーナの修理に取り掛かった。

 

 夜通し行われた作業は、先ほどようやく終了。

 カルコとブリーナも再び動き始めて、リディアとルカが喜んだのもつかの間。

 突然大きな地震と共に、幻獣タイタンが島に現れた。

 

(穴を塞いで、あたしたちを地底に行かせないようにするつもりだ!)

 タイタンが向かった先は、地底世界と地上をつなぐ火口口。

 リディアとルカはタイタンの元に駆けつけ、止めに入ったが。巨体の幻獣は聞く耳持たずの状態。

 それどころか、地震攻撃でリディアたちを襲ってきた。

 —— —— ——

 

 どこからどう見てもタイタンは、何者かに操られているようにしか見えない。

 

(まさか、あの子が……!)

 あの日、幻獣を全て連れ去った少女が、タイタンに指示を出しているのか??

 

「ま、また来る……!」

「うそぉ……!?」

 

 そうこう考えているうちにも、タイタンが腰を落として再び飛び上がる態勢に入った。

 またまた大地震を起こす気でいる。

 

(もうだめ、っ……!)

 リディアがそう思って、目を閉じた瞬間。

 

「——私が相手だ」

 

 男性と思われる、低く重い声が聞こえた。

 目をこわごわ開けてみると。何者かが、こちらに背を向けた状態で目の前に立っている。

 

「だ、だれあの人?」

「知らない……」

 

 銀色の長い髪をなびかせた男は、タイタンとやり合う気でいるらしい。

 背後の姿に既視感はなく、ルカもぽかんとしたような顔で男を見ている。

 

「大人しくせよ。【……」

 

 リディアたちの戸惑いをよそに、男が呪文を唱え始めて耳を疑った。

 

(この人、フレア使えるの!?)

 なぜならその男が、リディアかパロムしか使えない高難度黒魔法を使おうとしていたから。

 

 

——それから約2時間後

 

 

 アガルトの火口口から急降下移動を難なく終えて。

 ファルコン号は地上世界から、暑い暑い地底世界に戻ってきた。

 

 リディアは、ベランダからドワーフ城の外観を一望する。

 最後に地底を離れた時とあまり変わっていないように見える。

 クリスタルを奪われてからは被害に遭っていないようだ。

 

「ドワーフ城、どうだった?」

 

 ベランダから離れて、ルカが舵を握る運転席に戻った。

 

「あれから赤い翼が来たようには見えなかったよ」

「……あの日で地底は用なしかぁ」

「赤い翼がファルコン号を襲ってきたのはそのせいなのかな?」

「だと思うよ」

 

 ドワーフ城は、先日バロンの赤い翼に襲撃されたばかり。

 幸い死者は出なかったが、城で保管していた闇のクリスタルを全て奪われた。

 しかもファルコン号を除いて、ドワーフ所有の飛空艇を全て破壊されてしまった。

 

「これだけは、何が何でも死守しなきゃ」

「そうだね」

「あっ! ちょっと、おじさーん!」

 

 リディアと反対側のベランダにもたれていた、ひとりの男性が運転席に近付いてきた。

 ルカから『おじさん』と呼ばれたが、怒っている気配は感じられない。

 

(ルカには、おじさんにしか見えないよね……)

 男性は筋骨隆々の黒みがかった肌をしており、腰回りに黒い布を巻いている。

 タイタンを彷彿とさせる風貌をしているが、自身の名を名乗らない。

 外見からルカが『黒衣の男』と命名したが、呼びづらかったのだろう。

 すぐ『おじさん』呼びに変わった。

 

「……何だ」

「バブイルの塔に何かあるの?」

「何度も言っているではないか。『忌まわしい過去が繰り返される』と」

「それもう、聞き飽きたんですけどー」

 

 黒衣の男から、ぶっきらぼうな口調で返事をされてルカが食傷気味にぼやいた。

 

「それより、まだ着かないのか」

「っ……あと、もうちょっとっ!」

「早く向かえ」

「これでも精いっぱいなんだよっ!」

 

 黒衣の男がそう言い残すと、再び元の場所に戻っていく。

 ルカが顔を真っ赤にさせながら、男の背に向かって言い返した。

 

「何あれ。えらっそーに」

「ちょっと……」

「助けてやったからって、顔でかすぎ」

「そんなこと言わないの。恩人なんだから」

 

 リディアは困惑しながら、ぶうたれるルカをなだめた。

 

(あの人も、言葉が足りなさすぎるよ……)

 黒衣の男も、もう少し丁寧に説明してくれたらいいのに。

 

 —— —— ——

 暴走したタイタンが連発する地震攻撃で、倒れる寸前だったリディアとルカ。

 そこに現れた黒衣の男が、高位魔法と体術の合わせ技でタイタンを追い払ってくれた。

 ところが……。

 

『このままでは忌まわしい過去が繰り返される。——私も行く』

 

 黒衣の男がそう言って、一方的にファルコン号に乗り込んできただけでなく。

 ルカに『バブイルの塔に向かえ』と命じた。

 

 これからバロンに向かう。何度そう言っても、男は頑として聞かない。

 仕方なく向かってみれば、塔全体が不気味な光を放っている。

 

 リディアが再稼働の目印となるそれを目にしたのは、13年ぶりだ。

 今から塔の中に入るのだろうか?

 そう思っていたら、なぜか黒衣の男がこんな指示を出してきた。

 

『地底から回って塔に行け』

 

(地上のバブイルの塔の様子、見にきただけ??)

 そう疑問に思いながらも男の指示に従い、つい先ほど地底に突入したばかりである。

 —— —— ——

 

 ルカがいらいらしてしまう気持ちも、よくわかる。

 ファルコン号が直ったと言っても、しょせん出先での修理。完全修復には至っていない。

 無謀な運転で突然故障するかもしれない。

 

 しかもバブイルの塔になぜ向かうのか。ルカが何度も黒衣の男にそうたずねるも。

 『忌まわしい過去(略)』『早く向かえ』の二点張り。具体的に説明してくれない。

 

「やっぱ、強さは大正義だね。リディアまでおじさんの言いなりだもん」

「そんなことないよ」

「でも、全然文句言わないじゃん」

 

 リディアは黒衣の男に対して、静観の姿勢を取っていた。

 

 男はタイタンの地震攻撃から救ってくれた恩人だ。

 ルカのように、男から直接『早く向かえ』と急かされていないのもある。

 

「文句あるよ」

「えー、何?」

「あの格好……なんとかしてほしい……」

 

 黒衣の男がいる反対側に首を向けて、ぼそぼそつぶやいた。

 唯一不満な点、それは服装だ。

 

(アリサが見たら『視覚の暴力』って名付けちゃいそう)

 黒衣の男は腰回りに布を巻いただけ。全裸と大して変わらない。

 飛空艇での移動中、強い風がぴゅうぴゅう吹く。その度に布がぺらぺらめくれる……。

 刺激が強過ぎて、どこに視線をやればいいのかとても困る。

 

「あのおじさん、リディア以上の露出狂だもんね」

「一緒にしないでちょうだいっ!」

「タイタンがちっちゃくなったようなもんだし、気にしなくていいでしょ」

「げっ、幻獣と人じゃ、また違うでしょ!?」

 

 からかい交じりに笑ってくるルカに、必死で言い返していたところ。

 

「——何を話している」

「!」

 

 ぺちゃくちゃしゃべっているのを咎めにきたのだろう。

 またまた黒衣の男が、運転席に近付いてきた。

 

「い、いえ……」

「何もしゃべってませーん」

「……まあいい。塔が見えてきたぞ」

「え、どこ……?」

「まだ見えない……あっ」

 

 リディアとルカが首をかしげていると。

 遠くに地底の天地を真っ直ぐつなぐ一本の筋……バブイルの塔が見えてきた。

 

「上と同じ……!?」

「下も稼働始めたんだ」

 

 バブイルの塔が不気味な光を放っている。

 地上で目にしたそれとまるっきり同じで、思わずごくりと息を呑んだ。

 

「そのまま、まっすぐ塔に向かえ」

 

 目的地に向かって、ファルコン号が灼熱の地底を全速力で突き進む。

 その先で、一体何が待ち受けているのかわからぬまま……。

 

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