※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点/短文注意


もう一度会いたかった

 

 

 13年ぶりに再稼働したバブイルの塔へ向かうために。

 エブラーナの坑道を進んでいたエッジの目の前に、仇敵ルビカンテの幻影が突然現れた。

 すぐに消えてしまったため、幻影に構っている場合ではない。そう判断して先を進み、程なくして塔に到着。

 

 塔に潜入してから半日の間に、御伽衆が全員エッジに合流してくれた。

 不気味な光を放つバブイルの塔を目にして、エブラーナ城に寄らず、直接来てくれた者もいた。

 

 御伽衆の報告を聞きながら、塔の中枢部——クリスタルルームへ向かう。

 ところが、そこで出くわした未見の少女が『なぜか』幻獣イフリートを召喚。

 エッジたちは灼熱の火炎を食らい、退却を余儀なくされた。

 

 13年前にここを何度も訪れて、場慣れしているこちらが有利。そう思ったのも、ほんの一瞬だけ。

 少女は瞬間移動を使えるらしい。逃げるエッジたちの前に現れてイフリートを召喚し、炎を浴びせてくる。

 隙を見て逃げるも、またもや少女が現れる……その繰り返し。

 

 リディアと同じ色の髪を持つ、あの少女は一体何者なのか。

 イフリートを召喚出来るのは、この世でリディアしかいない。そのはずが、なぜあの少女も喚べるのか。

 少女がクリスタルルームに現れた直後。再びエッジの前に現れたルビカンテと両親の幻影は、何を意味しているのか……。

 

 疑問に頭を悩ませる暇もなく。エッジと御伽衆はたったひとりの少女にじわじわ追い詰められていく。

 その果てに辿り着いた場所は、かつてファルコン号が保管されていた格納庫であった。

 

.

***

 

 

——2の月13日 昼過ぎ

 

 

 エッジが扉を開けて格納庫の中に入ると、御伽衆も後からついてきた。

 だだっ広いそこは、入口から奥へと続く簡素な桁橋が掛けられているだけ。

 

 しばらく先を進みながら、周囲を見回す。

 辺り一面暗くても、夜目のおかげで全容はすぐ知れて。

 エッジは桁橋のど真ん中で立ち止まると、小さく息をついた。

 

「ここはだめだな」

「行き止まりですか?」

「……この先は何もねえ。歩いても無駄だ」

 

 怪訝そうな声でたずねてきたゲッコウへ、首を横に振りながら答えた。

 桁橋を渡り切っても、どこかに通じる扉や穴はない。

 

(あん時パクったもんが、ここに置いてある訳ねえしなぁ……)

 13年前は、ここにあったファルコン号を拝借して逃走を図ったが。

 現在ルカが所有しているそれが、今ここにある訳がない。

 

「あとは、この下だけ……」

「ボクたち、ここまでですか」

「お館様にどこまでもついていきます。——例え地獄でも」

 

 ゲッコウが冷静に下を見下ろし、ツキノワが不安がる。お館様至上主義を徹底するイザヨイ……。

 御伽衆3人が、それぞれ『らしさ』を見せる中。

 

「お、お館様ぁ……あの娘がまた現れ」

「——うるせえ!! ちょっと黙ってろ!」

 

 何とも頼りなさげに声をかけてきたザンゲツに一喝してから。足元に視線を移した。

 

(もはやここまで、か……)

 自分たちが今立っている桁橋の下は、闇に覆われている。

 いずれあの少女が、ここに来るだろう。

 そうなると逃げ道はこの奈落の底だけ。落ちれば、ひとたまりもないのは一目瞭然。

 エッジが諦めがちに、視線を戻した瞬間。

 

『——追いかけっこは終わりだな』

 

 忌々しい気配を漂わせた少女が、宙に浮かんだ状態で、こちらに向かってくる。

 

「ええっ!?」

「もう来たのか……!」

「しゅ、瞬間移動を使うとは、ひ、卑怯でござるぞ!?」

「おまえら! 後ろ下がってろ!!」

 

 エッジは御伽衆を後ろに下がらせ、一歩前に踏み出して。少女を迎え撃つ姿勢を整えた。

 

「っ、てめえ……! 一体何が目的で塔動かしたっ!!」

『劣等種に教える筋合いはない』

「何だと……!?」

『今からおまえたちはここで死ぬ。教えても意味がなかろう』

 

 この少女に一矢報いないと、死ぬに死に切れない。

 ごみを見るような目で、こちらを見てくる少女に腹立たしさを覚えながら。

 エッジは右手を背後にやり、後ろに控える御伽衆に向けて。

 五指を意識的に動かしながら、少女にこう言い返した。

 

「……だったら、冥土の土産にひとつ教えてくれねえか」

『ひとつだけなら』

「セシルは今何してんだ」

『国王セシルは、赤い翼に命じて各地のクリスタルを回収しているところだ』

 

 淡々としたような声で述べた少女の答えを聞いて。前々から抱いていた予感が確信に変わった。

 

 各地に散らばるクリスタルの強奪。もうひとつの月の帰還。バブイルの塔の再稼働。

 突然現れた両親と宿敵の男の幻影。そして、数日前からセシルが見せる不審な行動の数々。

 ……この少女。セシルを操り人形にして、この星を手に入れようとしている。

 

「歴史は繰り返される……か」

『どういう意味だ』

「へっ、上等種のてめえにゃ、わかんねえだろうなぁ」

『!?』

 

 はっとしたような表情に変わった少女へ。にたりと笑みを浮かべながら、右手を前に戻した。

 

 この少女。ここまで事あるごとに、エッジたち——この星の人間を劣等種とけなしてきた。

 下に見ていた相手に嫌味を言われて、よほど悔しいと見える。

 

「劣等種の勘って奴だっ!!」

 

 せせら笑うように少女に叫ぶと、桁橋を超えて闇一色に覆われた奈落の底に飛び降りた。

 

 劣等種にもプライドはある。上等種になぶり殺されるぐらいなら。

 限りなくゼロに近くとも、生存の可能性がある闇に落ちた方がマシだ。

 

§

 

(おやじ、おふくろ……! あいつらだけは……!)

 御伽衆が次々と桁橋から落ちてくる。

 それを視界に入れながら。命令に従ってくれた可愛い部下たちの生存を祈る。

 

 少女と対峙している最中。エッジは彼らに指信号で『オレに続け』と伝えていた。

 ……自決せよと言っているようなものである。

 

 御伽衆の姿が闇に消えたのを見届けてから、目を閉じると。

 一面真っ暗闇の視界に愛する女の姿を浮かばせる。

 

「……あばよ……リディア……」

 

 聞こえる訳がないのに、リディアへ別れの言葉をつぶやくと。

 エッジは自身の『生』を放棄して重力に身をゆだねた。

 

(おまえのこと……地獄の底から見守っててやっから……)

 あの少女は強すぎる。

 もう一度リディアと会えるまで死ぬものか。そう思っていたが、無理だった。

 

 『ツクヨミ』としてだが、リディアと永遠の愛を誓うことが出来てよかった。

 『ツクヨミ』という男の存在を、リディアの身体や記憶に刻み付けることが出来てよかった。

 

 あわよくば、『エッジ』のことも記憶の片隅に残してもらえたら。これにすぐる喜びはない……。

 

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