フェイクラバーズ 作:かえで
(今話のベースはFF4TA小説版の一場面)
——翌日 3の月1日 夕方
沈んだ意識が少しずつ鮮明になっていく。
「おーい」
「リディア、しっかり」
「ちっとも起きねーな」
「けど……がここまで……とは思わなかったな……」
「相手が……じゃ……なら連れてってもらえたのになー」
誰かと誰かが話す声がかすかに聞こえてきて、ゆるゆる目を開く。
「……っ」
「あ、起きた」
「大丈夫かい?」
「……ギルバート……パロム……?」
眉目秀麗の男性。そして、少し小生意気な青年がリディアを見下ろしていた。
背中がやけに冷たく、固いことから。地面——魔導船の外で仰向けになって倒れていると気付いた。
その瞬間。なぜこんなところで倒れているのか。脳裏につい先ほどの出来事が蘇る。
「——エッジはっ!?」
勢いよく上体を起こすと共に、リディアを置いていった男の名を口にすると。
ギルバートとパロムが、何とも言えないような表情でこう答えてくれた。
「さすがにまだ帰ってきてないよ……」
「おまえが倒れてから、10分経ってねーぞ」
「……っ、そうなんだ」
***
——10分ほど前
帰還予定時刻が過ぎた。それなのに、探索に向かったセシルたちが戻ってこない。
大広間でエッジやギルバートたちが集まり、やきもきし始めてから数分後。
本日の伝令係であるゲッコウが魔導船に戻ってきた。
「苦戦??」
「ガキが現れたのか!?」
「いえ。大きな化け物でしたが、メテオばかり使ってきました。それを倒さねば先へ進むことが出来ないようで、誰か援護にきてほしいと……」
現在セシルたちは一時撤退。同じ階にある安息ポイントで待機中。
ゲッコウから、そんな報告を受けてすぐ口を開いたのは、やはりこの男。
「オレが行く」
「エッジ、待って」
「なんでだよ!?」
「ひとりだけじゃ危ない。誰か連れて行くんだ」
(よかった、止めてくれた!)
ひとりで合流しようとしたエッジを、ギルバートが止めに入ってくれた。
リディアは安堵しながら、ふたりに向かってこう言った。
「それなら、わたしも」
「——おまえは来なくていい」
もしかしたら一緒に連れて行ってくれるかもしれない。そう思って志願したものの。
エッジからぴしゃりと居残りを言い渡されてしまった。
「……どうして?」
「足手まといは要らねえんだよ」
「!」
納得出来ず不服をもらしたものの。エッジから更に厳しい一言を浴びせられてしまった。
(うそつき!!)
なぜ連れて行ってもらえないのか。その理由を隠すために。
エッジが『足手まとい』とごまかして、突き放してきたことに、腹立たしくなった。
「うわ、きっつー」
「エッジ、その言い方はないだろう……!」
「——アーシュラ。オレと一緒にこい」
「はい! わかりました!」
呆れるパロムや、たしなめるギルバートを無視して。エッジがアーシュラに声をかけた。
ヤンの愛娘で将来有望なモンクが経験を積むにはいい機会。そう考えたのだろう。
「エッジさん、わたしも連れて行ってください」
「おまえも?」
「ええ。おふたりを後方で援護します」
アーシュラに続き、ポロムがエッジに同行を志願した。
ローザの身を案じて手助けに行きたいのか。それとも、経験値積みの絶好の機会だと思ったのか。
エッジに真剣なまなざしを向けるポロムから、リディアは成長を感じた。
「いいぞ、おまえもついてこい」
「ありがとうございます……!」
「この面子ならいいだろ?」
「ああ、十分だよ」
自身もアーシュラも、攻撃に専念出来る。そう思ったのか。
エッジがポロムの訴えを受け入れて、ギルバートにもお許しをもらっている。
その様子を見ているうちに、胸に不安が湧き上がる。
(あの時と似てる……)
アーシュラとポロムを連れて行くにもかかわらず。
エッジの姿が、エブラーナ城で捨て身の行動を見せた時と一緒に見えた。
エッジがリディアを連れて行かない理由もわかっている。それでも、共に向かいたい。
「ねえ、おねがい。わたしも連」
「——行くぞ」
「はいっ」
「行ってきます」
「……!」
魔導船から少し離れたところにある、次元エレベーターに乗るために。
エッジがゲッコウに続き、アーシュラとポロムと共に大広間を出ていった。
リディアはその場に佇んだまま、彼らを見送った。
再度の志願を完全無視された苛立ちと共に、不安でいっぱいになりながら。
「心配しなくても大丈夫だよ」
「……」
「そーそー。ポロムもいる」
「——いやっ!!」
「うぉっ!!」
「待つんだ、リディア!」
なだめてくれたギルバートとパロムを振り切って。
大広間を飛び出し、操舵室を経由して魔導船の外に出た。
§
「待って!! あたしも連れてって!」
エッジたちが次元エレベーターへ走って向かっている。
その後を追いかけながら、リディアは大声で叫んだ。
ポロムが困惑したような表情で二、三度振り返ってくれたが、肝心のエッジは振り向いてもくれない。
「何よっ! いつも勝手に決めて、都合が悪くなるとだんまりってずるいよっ!!」
エッジに全く相手にされない上に、みんな足が早くて追いつけない。
「足手まといって嘘ついてっ! はっきり言えばいいじゃないっ!!」
(あたしを守りたいから、死なせたくないからだって!!)
次第に頭に血が上り、無我夢中で叫び続けていたリディアをよそに。
エッジたちは、さっさと次元エレベーターに乗り込んでしまった。
(追いかけてやるんだから!)
気勢をそがれるどころか、意気が上がる。
走り続けていたら、次元エレベーターまで後わずかのところで。
突然、目の前に大きな人影が立ちはだかった。
「リディア様」
「!?」
人影の正体は、エッジたちと一緒にセシルの元に向かったはずの男性であった。
「ゲッ」
「——っ、御免」
男性の名を口にしかけたら。突然みぞおちの辺りに強い痛みが走ると共に。
視界が真っ暗になり、そのまま意識を失ってしまった……。
***
「ゲッコウさんは?」
「おまえが倒れてすぐ、エレベーター乗っちまった」
「エッジに命令されたんだ!」
「ずりー奴だぜ。自分で止めりゃいーのに、部下にそんな役やらせてさー」
「……ほんとだよ」
パロムが呆れたような表情でエッジへの不満を口にした。
エッジではなく、エッジの部下に気絶させられた。
リディアと同じく、パロムもそれを不本意に思っているようだ。
「心配しなくても無事に戻ってくるよ。みんなを信じなさい」
「まー、白魔導士2段仕立てなら安パイだろ」
「魔道船に戻ろう。ハルにお茶を淹れてもらおうね」
「うん……」
魔導船に戻り、ハルに淹れてもらったお茶を早々にいただいてから。
リディアは外でエッジたちの帰りを待つことにした。
(ローザとポロムがいるなら大丈夫って、みんな言うけど……)
出入り口に座り、故郷の親友がくれた『元気になれる用』の香水をしゅしゅっと自分にふりかける。
すると香りのおかげで、エッジに突き放されたショックや不安が薄れた。
ところが香りが落ち着いてくると、再び負の感情が胸に湧いてきて後を追いたくなってくる。
それを必死で我慢していると、そばに誰かが近付いてきた。
「——リディア様」
「あっ、ザンゲツさん……!」
「今よろしいですかな」
「いいですよ。はい、ここ座って」
「いやいや、さすがにそれはまずいですからなぁ。拙者はこちらで……」
リディアは手で示して、隣に座るように勧めたが。
ザンゲツが苦笑しながら勧めを固辞して、リディアの前で片膝をついた。
エッジに見られる、もしくは他の者がエッジに密告するのを恐れているようだ。
—— —— ——
5日ほど前、リディアが探索に赴かず魔導船で待機していた時。
エッジがいない隙にとばかりに、ザンゲツが声をかけてくれたことがあった。
面と向かって話すのは、エブラーナ城に潜入した時以来。
その際、ある人物の近況も互いに共有することが出来たが。
ザンゲツが、とてもかなしそうな顔を見せたのが印象に強く残っている。
—— —— ——
「もしかして、さっきの様子見てた?」
「リディア様の声が聞こえて、遠くから様子をうかがおうとしましたら、ちょうどリディア様がゲッコウに気絶させられておりましたな」
「……すみません、お騒がせしちゃって」
取り乱した様を見られていた。そうわかり、ばつが悪そうにザンゲツに謝った。
なぜここに来たのか。大方予想はついていたが。
やはりリディアを気がかりに思って、声をかけてくれたのだ。
「イザヨイさんたちも見てたの?」
「さよう。ふたりとも、さすがに呆れておりましたなぁ」
「そうなんだ……」
(イザヨイさん、喜ばなかったんだ)
ハルがギルバートへ寄せる恋情込みの敬慕のように。
お館様を慕うイザヨイからして見れば、リディアは恋敵。
お館様にすげなくされたリディアを見て喜ぶだろう。そう思っていたのに。
「ゲッコウも好きでやった訳ではないと思います。どうか責めないでやってくだされ」
「もちろんですよ。エッジが悪いんだもん」
ゲッコウを責める気は全くなかった。
御伽衆はお館様からの命令に逆らえない。エッジが右に行けと言えば、右に従わねばならない。
ザンゲツがゲッコウと同じ立場でも、エッジの命令に従っていたはず。
「しかしながら、そろそろリディア様も我慢の限界ではございませんか?」
「正直……いつキレてもおかしくない」
「でしょうなぁ。お館様は強引にも程があります」
ザンゲツが呆れるのも当然と言えよう。
リディアですら、こんな状況でも自作自演劇を続けるエッジをばかばかしく思っている。
(アリサどころか、ライザまで……)
先日ミストを訪れた際。親友にも話したが、ふたりともエッジに呆れていた。
先ほどの出来事を聞いたら、親友の片割れはまずブチギレるだろう。
「ザンゲツさんがいてくれて助かってる。ありがとう」
「そんな、お礼などとんでもございません」
「みんな事情知らないから。エッジがおかしいって思ってないもん……」
「仮にみなさまが事情を知ったところで、お館様にがつんと言って差し上げられる、なおかつ効き目がある方は、リディア様しかいらっしゃらないでしょう」
「……ジェラルダイン家のひとだから?」
「血の習性以前の問題。男は惚れた女には弱いものです」
ザンゲツは『男は惚れた女に弱い』を体現する、とてもいい人である。
自己紹介したようにしか聞こえない。
「ふふっ、それってザンゲツさんのことだよね……!」
「ははっ……! さようですぞ!」
くすくす笑うと、ザンゲツも笑いながら堂々と認めた。
「お館様もしょせん男です。目も覚めるやもしれませぬ」
「それでなんとかなるならいいけど……」
「リディア様のお好きなように。ばっさり振ってあげても構いませぬぞ」
いつエッジたちが戻ってくるかわからないため。本日の話はこれで打ち切り。
ザンゲツがそう告げてから立ち上がり、持ち場に戻っていった。
§
それから30分ほど経ってから。セシルたち探索メンバーと増援の3人が魔導船に戻ってきた。
やはりと言うべきか、出迎えたリディアをエッジは無視してきた。
みんなが操舵室に集まって帰還を喜ぶ中。リディアはその場をこっそり離れて地下室へ向かった。
(エッジに……がつんと……)
誰もいない部屋の片隅に腰を下ろし、目を閉じて寝たふりしながら。
夜更けの作戦会議が始まるまで、延々と考えを巡らせ続けた。
……再会してからろくに相手をしてくれない、あの男について。
.