※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点


素顔のままで

 

 

 —— —— ——

 今後も『ツクヨミ』として、リディアと恋人生活を送るために。

 相対的に『エッジ』を下げて、嫌われ役に徹し続けた結果。

 リディアに『ツクヨミ』の正体を暴かれてしまった。

 

 それは泡沫の存在並びに、およそ1年続いた至福の日々に終止符が打たれたということ……。

 —— —— ——

 

「ねえ」

「……」

「何とか言ったらどうなの??」

 

 リディアに責め立てられながら、思案を巡らせた結果。

 エッジはある忍術を使うことに決めて、印を結ぶ。

 

「……『影縛りの術』」

「効かないよ?」

「!!」

 

 一字一句間違えずに呪文を唱えたはずなのに。リディアは自身の服をつかんで立っている。

 

「なんで効か」

「——これのおかげ」

 

 リディアがエッジの身体から離れて、自身の胸の下に忍ばせていた赤い何かを。

 こちらに見せるように、少しだけ引きずり出す。

 

「リボン……!」

 

 色だけでわかる。それが状態異常を防ぐアクセサリだと。

 

 13年前と同じように『影縛りの術』で、麻痺状態にされる。

 リディアが、そんな可能性を想定していたとは思わなかった。

 

「昔のわたしとは違うんだよっ」

「く、っ……」

 

 悔しさを隠し切れず、下唇を噛み続けていると。

 リディアがリボンを胸の下に再び隠しながらこう言った。

 

「もう帰るね」

「何!?」

 

 突然の話し合い打ち切りに、不意打ちを食らった気分に陥る。

 

 なぜ『ツクヨミ』の正体に気付いたのか。エッジがそれを知りたいのと同じように。

 リディアもエッジにいろいろ聞きたいことがあっただろうに……。

 

「まだ話終わってねえだろ」

「もういい。エッジがまともに話し合いする気がないってよくわかったから」

 

 リディアが呆れたようにそっぽを向いた。

 

「っ、そんなつもり」

「——嫌われ演技して、麻痺にして問い詰めるつもりだったくせに。命賭けるのも辞める気ないんでしょ?」

「……」

 

 —— —— ——

 いつどこでどうやって『ツクヨミ』の正体に気付いたのか。

 リディアを麻痺状態にして事情を聞けば。『エッジ』を嫌ってくれるに違いない。

 その後、リディアの盾として命を落としても、リディアは悲しむことはないだろう。

 

 仮に運良く、生きて青き星に帰ることが出来たら。

 『ツクヨミ』に代わる新たな泡沫の存在として、リディアに容易に近付くことが出来る……。

 —— —— ——

 

 今後の戦いで死んだ後。そして、生きて帰れた後。

 エッジはそのどちらも想定して『影縛りの術』を使ったつもりが。

 後者の構想をリディアに見破られてしまった。

 

「好きな女を護るのが……そんなにだめなのか」

「エッジは死ぬ前提で、わたしを守ろうとしてるから大問題なの」

 

 元来、男という生き物は女を護りたい本能が備わっている。相手が好きな女なら尚更だ。

 本能論を盾に訴えたらわかってくれる。エッジはこの時まで、本気でそう思っていた。

 

「仮にそうなったら、エブラーナのみんなに申し訳が立たない。合わせる顔がないよ……」

「!」

 

 リディアが悲しそうな声で心情をもらして、我に返った。

 

 ……重大な過ちを犯してしまった。

 正々堂々と話し合いをする気がない、思慮分別のなさに加えて。

 真月を追っ払い、民やリディアの命が助かれば自分は死んでもいい。

 そんな利己的な男にリディアは激しく失望している、と。

 

「話し合って妥協点見つけられると思ったけど、独りよがり相手じゃ無理だったよ」

 

 過ちを自覚させられたものの、リディアは厳しい口調でなおも続ける。

 

「そういうことだから、ミストに帰ったら『ツクヨミ』さんは死んだって、みんなにも言っておくね」

「おい……」

「若い男の人が近付いてきても、これからは相手にしないから」

「!!」

「それじゃ」

 

 エッジに弁解の隙も与えず、リディアが立て続けに言葉を紡いでから。

 背を向けて、魔導船のある方に向かって歩き始めた。

 

(嫌だ……)

 『ツクヨミ』の正体を知ってから、非難する機会をずっと伺っていたのか。

 そう錯覚してしまうぐらい、辛辣なことばかり言われた。

 

 しかも、第2第3の『ツクヨミ』に成りすましても無駄。そう遠回しに言われた。

 生きて帰れたところで、『ツクヨミ』戦法はもう使えない。

 

 同じ地上にいるのに、手の届かない存在になってしまったら。

 エミールみたいに狂ってしまいそうだ。

 

「ま、待ってくれ……」

 

 エッジは後を追いかけ、焦燥混じりの声でリディアを呼ぶと。

 足を止めて、身体をくるりと翻してくれた。

 

 弁解を聞いてもらえる。そう安堵したのも束の間。

 

「こうして話すのも最後だから、この際はっきり言っておくね」

「何を」

「——わたしを守ろうってエッジが躍起になってるのは、自己満足に浸って死にたいからなの」

「!!」

 

 エッジは、心臓をつかまれたような衝撃を受けた。

 

 リディアを護って死ぬことが、今出来るリディアへの最大の愛情表現。

 そう思い込み、それによる死を全く恐れていなかったから。

 

「あっ、忘れてた」

 

 リディアがうつむきながら、ペリドットの指輪を外している。

 

「はい。これ返す」

「お、おい……」

 

 外した指輪を押し付けるようにエッジに手渡しながら。リディアが冷たい声でこう言った。

 

「エッジはわたしのことが好きなんじゃなくて、自分に酔ってるだけだってわかったから、もういらない」

「!!」

 

 心身共に大なたでぶったぎられたような衝撃を受ける。

 ここまで13年に渡る、リディアへの思いを当の本人から全否定されたようなものだ。

 

「おやすみなさい」

「っ……」

 

 リディアが事務的な挨拶を残して、今度こそ魔導船へ戻っていく。

 エッジが崩れ落ちるように、その場に両手両膝をついてうなだれたことに気付く訳もない。

 

 当初の狙い通り——リディアから嫌われる——になった。

 にもかかわらず、生まれてはじめて身も心も引き裂かれるような苦痛に襲われる。

 

 過去にリディアに距離を置かれたり、拒絶されたりしたことはある。

 けれど、先ほどリディアが口にした言葉や態度は。

 過去のそれとは全く比べ物にならないぐらい、嫌悪感に満ちていた。

 

「嫌だ……」

 

(あいつに誤解されたまま生きてかなきゃならねえなんて)

 リディアとはじめて出会い、恋情を寄せるようになってから。

 ここまで13年間、『自己陶酔』を繰り返してきただけ。

 リディアの厳しい指摘を、エッジはどうしても認められない。認めたくない。

 

 何にせよエッジをこれから待つのは、死ぬも地獄。生きるも地獄。

 リディアに見向きもされない人生……。

 愛する女に心底嫌われることがどれだけ苦しいことなのか。

 実際そうなってから知るなんて何とも愚かな話だ。

 

 四つん這いになったまま、絶望と悲嘆に打ちひしがれていると。

 頭の中で自分自身の声がエッジにささやいてきた。

 

 —— —— ——

 やらない後悔より やる後悔って言うだろが

 プライドや道理も筋もへったくれもねえ

 今すぐリディアに頭下げて謝ってこい

 

 それからどうすっかは おまえに任せるけどよ

 勢い余ってヤるんじゃねえぞ

 —— —— ——

 

「くそっ……!!」

 

(おまえが言うな!!)

 頭の中で聞こえた声の主にごちてから、勢いよく起き上がり、地面を蹴って駆け出した。

 

 —— —— ——

 声の正体は、エッジの欲の塊である『黒』であった。

 『黒』は自罰的な『白』と反して、リディアを渇望して止まない。

 リディアに心底見限られたせいで、7年前に夜の関係を結んだあの夜以来。

 エッジの意識に働きかけてきたと思われる。

 —— —— ——

 

 まさか『黒』から、リディアを襲うなと言われるとは。

 知恵がついたのか何なのか知らないが、ずいぶん偉そうなことを言う。

 

 それでも『黒』が言った通り。エッジは一心不乱にリディアの背中を追いかける。

 過去には戻れない。過去は変えられない。

 頭でそれがわかっていても、湧き上がる感情はまた別。

 

 リディアに謝りたい。

 この先、まともに話すことは出来ないだろう。せめて最後に、自分自身の声と姿で……。

 

「待て! リディアっ!!」

 

 リディアが魔導船の中に入るまで、あと10数メートルほど。

 間に合う。そう確信すると大声で叫びながら足を踏み込み、空高くジャンプする。

 

「ふぇっ!?」

 

 こちらを振り返り、驚くリディアを上空でぴょいと飛び越えて。行く手を阻むように着地した。

 

「な、なに……?」

「謝りにきた」

「えっ!?」

 

 戸惑うリディアの前で両膝をつき、人生二度目となる土下座の姿勢になる。

 

「おまえの気持ち無視して、ひとりで突っ走って悪かった……明日から、おまえに命賭けないよう……出来る限り……努力する」

「それじゃ、前と変わらないよ」

 

 リディアから困惑したような声でそう返事された。

 

(これじゃ納得しねえよな)

 いずれ同じ轍を踏む。そう思っているのだろう。

 数日前にエブラーナ城で答えた『気を付ける』と何ら変わらないのだから。

 

「……おまえを見捨てることになっちまう。二度とやらねえとは答えられねえ」

「それじゃ、だ」

「——前みてえに、ひとりで突っ走らねえ。生きて帰る前提で明日から戦う」

「本当……?」

「ああ。オレが譲れるのはここまでだ……それが嫌なら黙って魔導船に帰ってくれ」

 

 頭を下げたまま、リディアの返答を待つ。

 これでも納得しないだろうが、『もう二度と命賭けません』とは答えられなかった。

 

 —— —— ——

 あれはリディアが『ひとりで』ミストに一旦帰った日。

 母と再会し、幻獣を取り返すために再び旅立とうとする。

 そんなリディアの背中に向かって、エッジはこう誓っていた。

 

『オレの命に代えてでも、おまえを絶対に護ってやる』

 

 もっとも姿を隠した状態だったから。リディアは知る由もないけれど。

 —— —— ——

 

 エッジはどうしてもその誓いを撤回したくなかった。

 リディアを見捨てるだけでなく、好きな女への思いまでも捨ててしまう気がして。

 

「エッジが前と違って真剣なのはわかるけど、やっぱり納得出来ない」

「そうか……」

 

 しばしの沈黙を破り、頭上からリディアの声が降り注いだ。

 やはり、こちらの譲歩を受け入れる気はないようだ。

 

 エッジは頭の中で、この先の展望を悲観的に予測する。

 交渉決裂と言い残し、この場を立ち去るのも時間の問題かもしれない、と。

 

「——だから、他のみんなを巻き込むことにする」

「……!」

「朝が来たらギルバートやセシルたちに相談して、エッジが先走らないような方法考えてもらうよ」

 

 なんとリディアから妥協——第三者介入案を提示された。

 

(オレとリディアは引き離されるな)

 明日から総力戦。ここにやってきた者の大半が探索メンバーになる。

 リディアのそばにローザを配置する。エッジの周りを戦い慣れていない若者で囲む……。

 エッジがリディアに命を賭けるような状況に陥らないように。ギルバートたちに頼むのだろう。

 しかし、その理由をたずねられたらリディアはどうするつもりなのか。

 

「事情……あいつらに全部話すのか……?」

「余計なことは言わないよ。それならいいでしょ?」

 

 恋情云々を避けて相談してくれるなら、何も問題はない。

 

「……十分だ」

「じゃあ、これで一件落着だね」

 

(最初っからこうして話し合えばよかったのに……)

 リディアの妥協案を受け入れた。けれど、頭を下げたまま己の不甲斐なさを呪い続ける。

 

「ねえ」

「……」

「いい加減、頭上げてよ」

 

 『リディアに死ぬ気で命賭けます問題』が一定の解決を見せた。

 リディアから声をかけられたにもかかわらず。エッジは未だ地べたにつけたまま。

 

「まだだ」

「もう解決したでしょ。上げてちょうだい」

「だめだ。——今日のこと許してもらえるまで、頭上げられねえ」

 

 許してもらえるまでは頭を下げたままでいたい。

 そう思ってリディアの勧めを拒絶した瞬間。

 

「ぐっ!?」

 

(マフラーか!)

 首回りに強い圧がかかり、息が出来ない。その場で悶えたが、すぐに窒息状態は解かれた。

 

「もう許したよ」

 

 けほ、けほと咳をしながら頭を上げると。

 予想通り、首元に巻かれた炎のマフラーがぐちゃぐちゃになっている。

 

「……っ、おまえなぁ……もうちょい丁寧に……」

「頑固なエッジが悪いの」

 

 悪びれもなく答えるリディアに、それ以上言い返せなかった。

 ここまで幾度となく非礼を見せたせいで、後ろめたさを感じていたから。

 

(むちゃくちゃやりやがって!)

 仕方なくマフラーを直しながら、心の中で文句を叫んでいると。

 リディアが力尽きたように、その場にぺたんと座った。

 

「おい、どうした」

「……さっきはひどいこと言って……ごめんなさい」

 

 リディアがうつむき、しゅんとしたような声で詫びの言葉を口にした。

 

「おまえは謝んなくていいんだよ」

「え、っ……?」

 

(撫ぜるのもこれが最後だ。許してくれな)

 エッジは心の中でそう詫びながら、リディアの髪をくしゃくしゃっと軽く撫ぜた。

 

「オレは……戦い始まってからさっきまで、自分に酔ってた」

「まともに戻った??」

「ああ。おまえに突き放されて、やっと目ェ覚めた。ありがとな、リディア」

「あぁ、よかったぁ……!」

 

 顔をほころばせるリディアをそのままに。額に巻いていた濃紺の布を外す。

 すると傷のある右半分の顔を覆いながら、包帯のごとく頭に巻き始める。

 

「何してるの?」

「オレの顔。傷がねえ方からしょっちゅう見てたよな」

「気付いてたの?」

「視線ですぐにわかる。こうすりゃ、おまえも顔見られるだろ」

 

 エッジは気付いていた。

 度々リディアが、エッジの左側——傷のない顔左半分に視線を向けていたことに。

 

「っ、やっぱり忍者、きらい……」

 

(何でもかんでも忍者のせいにすんなよ……)

 そうぼやくリディアに、布を巻きながら心の中で反論する。

 好きな相手から熱い視線を向けられたら、大抵の者は気付くはず。忍者全然関係ない。

 

「これならいいだろ」

「あ、やっぱり痛くな……っ?」

 

 布を巻き終え、すかさず両手をリディアの肩に乗せてから。顔をじっと見つめる。

 

 素顔のままでリディアの顔を見たのは、実に7年ぶりのことである。

 片目でしか、リディアを視界に入れられないのが正直残念だ。

 けれど、そっぽを向いて大切なことを伝える訳には行かないから仕方がない。

 

「どうしたの?」

「大事なことぐれえ、面と向かって言わねえと失礼だからな」

 

 宇宙を思わせる藍色の双眸がふるりと揺れる。

 

「——リディア」

「え」

 

 リディアの瞳を視界に入れながら、エッジは好きな女の名を呼んだ。

 

「おまえのことが好きだ」

「……!!」

 

 突然そんなことを言われて驚いたように、リディアが目を見開かせる。

 身体をかすかに震わせたのも、両肩に乗せた手から振動を感じた。

 

「一目見た時に……すっかり惚れちまってな。ずっとおまえしか見えねえ」

 

 今、真月で青き星を守るために戦う者たちの生死。

 青き星やそこに住む者たちの未来。

 ふがいない己を突き放してくれたリディアとの今後……。

 全てがお先真っ暗な状況に追い込まれたことで。

 エッジはやっと自身の姿で直接思いを伝える勇気が持てた。

 

「いろいろ事情があって……今まで言えなかったんだね」

「ああ。黙ったまま墓場に持ってくつもりだったが、最後に伝えておきたかった」

「どうして最後なの?」

「『覆水盆に返らず』って、ことわざ……知らねえか」

「うん、知らない」

「一度起きたことは元には戻らないってことだ」

「……」

「『オレ』はおまえと縁を切ってる。『ツクヨミ』も正体がバレちまった。どっちも元には戻れねえ。真月追っ払ったら、おまえと会うこともなくなるからな」

 

 苦笑を浮かべながらそう告げて、小さな両肩から手を離した。

 

 エッジに言われたことを反すうしているのだろう。

 リディアがきょとんとしたような表情でこちらを見ている。

 

 —— —— ——

 かねてからエッジはこう考えていた。

 リディアの前から逃げたのだ。けじめとして、以前のような関係には戻してはならない、と。

 

 『ツクヨミ』として関係を持っていたけれど、今日で終わった。

 今後は新たな泡沫の存在を作り上げて、ミストに出入りしようと目論んだ。

 しかし、それすらもリディアに見破られてしまった。

 —— —— ——

 

(結局『白』の思い通りになっちまったな)

 エッジに残された道は『隠れ身の術』を使い、時折ミストを訪れて。

 遠巻きからリディアを眺めることだけ……。

 

「っ、ふふっ……」

「おい」

「っ、あははは……っ!!」

 

 突然リディアがぷっと吹き出し、腹を抱えて笑い出した。声をかけても笑い続けている。

 

「何もおもしろいこと言ってねえぞ?」

「っ、だ……だって、わたしと『エッジ』は友だちだったじゃない。夫婦や恋人でもないのに……っ、過去にどうやって戻るの………?」

「!!」

「また、独りよがりなこと……言っちゃって……!」

 

 リディアが笑いながら、エッジの欠点をまたまた指摘すると共に。

 それまで持っていた認識をごっそり変えてくれた。

 

 —— —— ——

 『エッジ』として、リディアと性的関係を持っていた時期があった。

 けれど、あれはセフレと呼ばれるもので恋人ではなかった。

 

 『元には戻らない』が適用されるのは、恋人だった『ツクヨミ』。

 『エッジ』は恋人でもなかったから、適用されない。

 —— —— ——

 

 程なくして笑いが収まり、リディアが姿勢を正してから。にいと笑みを浮かべた。

 

「わたしも、エッジのことだいすきだよ」

「……!」

 

 予期せぬリディアの告白に、大きく左の目を見開かせる。

 てっきり嫌われたと思っていたのに。

 

「……そこは過去形じゃねえのか」

 

 戸惑いながらたずねると、リディアが首をぶんぶん振って否定した。

 

「今も好きじゃなきゃ話し合いしない。エッジが追っかけてきても無視してたよ」

「……言われてみれば」

「どっちみち、今日で『ツクヨミ』さんとはお別れするつもりでいたの」

「何だと?」

「もっと穏便にばらすつもりでいたんだけど……エッジがあんな真似したから、ついかっとなっちゃった」

 

 リディアがいたずら気な笑みを浮かべている。

 その表情を見て、ものすごく嫌な予感がしてたまらない。

 

「おまえ、まさか……っ!?」

 

 問い詰めようとしたら、リディアが身を乗り出してきただけでなく。

 エッジの両頬をがっちりつかみ、こちらにじりじり顔を近付けてくる。

 

「『ツクヨミ』さんや違うひとになりすますのは、今日でもうおしまい」

 

 リディアの藍色の双眸が、かすかに愉悦に染まっているように見える。

 

「……」

 

 これから何を言われるのかわからず。緊張のあまり、ごくりと息を呑み込む。

 そんなエッジの眼前すれすれで、リディアが動きを止めた。

 すると目を細めて楽しそうな表情を見せてからこう言った。

 

「今からエッジは——」

 

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