※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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オリキャラがエッジに宛てた手紙/短文注意


最後の手紙

 

 

 奥さんとほんの一握りの人たちだけが、ぼくがこうなることを知っていた。

 つい先日、事後報告になるけどリディアさんにもほとんど事情を話してある。

 

§

 

 事の始まりは、今からちょうど4年前。

 火災から9年が過ぎて、冬から春に変わろうとする中。

 ぼくの家を1組の老夫婦が訪ねてきた。

 春からミストの定住医になるから、家探しにきたという。

 

 もうお分かりだろう。

 おふたりはウリエル先生とアイリス先生。ぼくの命の恩人です。

 先生たちは長年バロン領内の僻村を転々としながら、その地で医療に携わり、若い人材を育ててきた。

 火災の頃はミストから一番近いバロンの村で診療所を開いていて、ぼくはそこに運ばれた。

 そして先生たちの手当のおかげで命を取り留めることが出来た。

 

 けれどぼくが退院してからどこか違う村に移ったのか。ずっと行方知れずだった。

 そんなおふたりが、なぜミストの定住医になってくれたのか経緯を話してくれた。

 

§

 

 この1年前。ウリエル先生がたまたま出席した医師の集まり——学会でこんな論文が発表された。

 

『世界各地の眼科医を対象に聞き取り調査を行った結果、怪我などの外因によって片眼の視力を失った患者は、将来的に反対側の目も失明する可能性が高いことが明らかになった』

 

 この発表を聞いて、ウリエル先生は真っ先にぼくのことを思い出したという。

 片目を失損、かつ大火傷した患者はそうそう現れないから強く印象に残っていたようだ。

 

 その後、先生たちはバロン国がミストの通勤医を募集しているという情報を入手した。

 当時おふたりが暮らしていた村は、既に後進が育っていたからいつでも引っ越し出来たらしい。

 夫婦揃って応募して、バロン国王ご夫妻同席の面接で定住医希望をアピールした結果。

 見事お眼鏡にかない、即採用が決まったという。

 

「ここでおまえさんの面倒を診ながら、酒浸りの余生を過ごそうと思ってなぁ」

 

 ぼくのことを気にかけてくれただけでなく。

 終の棲家にミストを選んでくれたことが、すごくうれしかった。

 それからぼくは定期的に診療所で診察を受けて、目薬も処方されるようになった。

 先生たちのおかげでこのまま見える人生を送れそう。しばらくはそう思っていた。

 

§

 

 この年の夏の終わり。ある出来事で眼球を打撲してから、急にモノが見え辛くなった。

 

「失明はもう避けられんなぁ……激しい運動を控えて目薬の処方を変えれば、数年先延ばし出来ると思うが……」

 

 診察を受けたら、先生からそう宣告されてしまった。

 唯一の救いは、思った以上に失明するまでの猶予期間をもらえたこと。

 もちろん、家に帰ってから奥さんにも話した。呆れたようにこう言われただけだった。

 

「しょうがないね……そのうちノアもいなくなるし、一生おまえの面倒見てやるよ」

 

 それから夫婦で今後の人生設計を改めて練り直した。

 ちょうどその頃、ミストの大掃除が終わったばかり。

 残り少ない見える人生を、自分のために使おう。

 そう考えて、ラルフくんに任せて任期の途中で村長を辞めた。

 

 ところが、ライザくんと娘さんたちが理不尽な理由でミストを去ってから。

 リディアさんまで幻獣界に閉じ込められてしまった。

 すぐにライザくんと接触して、離婚とミスト再移住のサポートを約束した。

 けれどリディアさんがいる場所は異世界。ぼくが出来ることは帰りを待つことだけ。

 ただただ時間だけが過ぎていく。

 

 そんなある日、奥さんや住民から話を聞いた。

 時折ミストに『ツクヨミ』さんがやってきてくれる。その帰りに幻獣の洞窟にも足を運んでいる、と。

 

「あの人、リディアのことが本当に好きなんだねー」

「いつか報われるといいのになあ」

 

 きみも重々承知だと思うけれど、『ツクヨミ』さんの献身的な姿に心打たれて。

 ぼくの奥さんはじめ、ミストのほぼ全ての住民は彼のことを応援していた。

 

 一方で『エッジ様』は、例の女性との婚約解消もあって散々な言われようだ。

 自分の悪口を言われてまで、演技を続ける理由は一体何なんだ。

 何度『ツクヨミ』さんや、きみ本人に真意を問い質したくなったかわからない。

 それでも、ぼくはどちらからも露骨に嫌われていたからどうしようもない。

 諸問題の解決や失明後の生活の準備を進めることで、きみと距離を置いていた。

 

 それらにも一段落つき、失明までの猶予期間の過ごし方を考え始めるようになった頃。

 ザンゲツさんからこんな手紙が届いた。

 

『我がエブラーナ城で、歴史書編纂の臨時職員として働く気はありませぬか』

 

 こんな絶好の機会を逃すものかと、身元を偽ってエブラーナ城で働き始めることにした。

 

 『タタラ』としての3年間は、新鮮かつ貴重な経験ばかりだった。

 人生で初めて労働で賃金をいただき、満足感や達成感が得られた。かけがえのない友人にも恵まれた。

 『ノア』もとい、ツキノワくんの成長を日々確かめることも出来た。

 

§

 

 その後『タタラ』に扮したリディアさんが訴えてくれたおかげで、クビは回避。

 事務方、それも勘定方として働かせてもらえるようにまでなった。

 けれど、日増しに右目の状態は悪くなる一方。

 ついに今年に入って早々、もって半年以内と先生たちからさじを投げられた。

 

 目については、だいぶ前から諦めがついていた。

 先生たちは、出来うる限り手を尽くして下さったから感謝しかないし。

 ミネルバの花嫁姿やリディアさんのドレス姿を見ることが出来たから、思い残すことはない。

 

 それよりも、これから失明するまでどう過ごすかの方が問題だった。

 今年に入って隕石が頻繁に落ちてきて、日増しに雲行きが怪しくなっていく。

 今後の情勢次第では、巡回艇も止まるかもしれない。

 そうなると『タタラ』は、エブラーナ城に通勤出来ない。

 きみもエブラーナを飛び出して、原因を探りに行くのが目に見える。

 仮にそうなった場合。じいやさんは御伽衆をきみに同行させるつもりでいたんだ。

 

 結果エブラーナ城を守るのは、じいやさんひとりだけになってしまう。

 あの方をほっといてミストでのうのうと過ごすのは嫌だった。

 情勢が落ち着くまで、エブラーナ城に滞在して働こう。

 何度悩んでもそんな結論に落ち着いて、奥さんと話し合うことにした。

 

 ミストドラゴンのたまごには亡き親友の気配が漂っている。それが割れたら親友に会える。

 奥さんは本気でそう信じていたから、たまごをほっといてぼくについてくる訳がない。

 ぼくはじいやさん。奥さんはミストドラゴンのたまごを優先して。

 お互いその日が来るまで、好きなこと——遠距離生活——をすることに決めた。

 

『奥方が良いと言うなら……』

 

 ラルフくんやじいやさんからも許可をもらい、リディアさんが幻獣界に向かった同じ日。

 ぼくはエブラーナに渡り、お城で仮住まいを始めた。

 

 それから数日経った、あの日。

 イフリートがエブラーナ城を襲撃してきた。

 外に逃げようとしたら、崩壊した天井の一部が落ちてきて身体中……。

 何より頭に直撃した衝撃で、右目がついに見えなくなってしまった。

 怪我をして動けない使用人のみなさんと一緒に謁見の間で救助を待っていたら。

 きみやリディアさんたちが駆けつけてくれた。

 

§

 

 この際だから、書いておこう。

 イフリートを引きつける。きみがそう言い出したのを聞いて。

 身体の痛みや失明した悲しさよりも、きみにがっかりした。

 

 『タタラ』が文面で独りよがりだと指摘したのに、何も伝わっていなかった。

 エブラーナの民や仲間のみなさん……特にリディアさんを守るための自己犠牲なんてばかげている。

 リディアさんに対する病的に近い愛念。そんな王族特有の血の影響を差し引いても許せなかった。

 リディアさんがきみの後を追ってくれて、どれだけほっとしたか。

 

 その後、避難所で手当を受けて病室で休んでいたら、リディアさんがお見舞いに来てくれた。

 きみが『ツクヨミ』さんとの対比で嫌われ役を演じているから、ろくに相手にしてもらえない。

 そんな中、きみがイフリートの囮となると死にに行こうとしていた。

 ミストの集落に行かないふりをしながら、ザンゲツさんに影武者をやらせて隠密術を使って。

 リディアさんの後を追い、集落の様子をこっそりのぞきに行っていた……。

 

 きみと久しぶりに再会してからの経緯を聞いて、きみにますます呆れた。

 リディアさんも相当不満を持っていたから、ふたりできみの愚痴をこぼし合っていたら。

 突然リディアさんがこうつぶやいたんだ。

 

「やっぱり『ツクヨミ』さんじゃなくて、エッジがいい……」

 

 ご本人と再会して行動を共にすることで、心境に変化が起こったんだろうね。

 一度きりの人生なのに、『ツクヨミ』さんで妥協するなんてもったいない。

 前々からそう思っていたぼくにとって、そのつぶやきは朗報だった。

 

「『ツクヨミ』さんと別れる覚悟があるなら、本人に恋人になってもらいなよ」

「闇雲にアタックしても、あの人は落ちないから頭を使うんだ。『ツクヨミ』さんをゲットしたきみなら、それぐらい出来るよ」

「恋人になってもらったら、あの人をここに連れておいで。一緒に事情説明してあげるから」

 

 兄代わりとして最後にそんな助言を送ったけど、果たして上手く行っただろうか?

 

§

 

 もし今、これを読んでいたら、どうかリディアさんを死ぬまで幸せにしてあげてください。

 あの子の両親も同じことを望んでいるはずです。

 ぼくも愛する奥さんに支えられながら、これからも幸せな人生を歩むつもりです。

 

 最後に。

 お館様には多方面において大変お世話になり、心から感謝しております。

 どうかお元気で、さようなら。

 

 追伸

 

「若様が、『タタラ』を自身の秘書にするかどうか考えておられたよ」

 

 じいやさんからそんな話を聞きました。

 秘書になることは出来なかったけれど、きみに認めてもらえたような気がしてすごくうれしかった。

 

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