フェイクラバーズ 作:かえで
—— —— ——
復興に励むエッジのそばで支えてあげられないのは心苦しいけれど。
巡回艇が動き出したら、エブラーナに遊びにくるよ。
……今度は、わたしがお弁当を作って『あの子』と一緒に。
—— —— ——
「ええーーーっ!?」
エブラーナを離れたらしばらくの間、遠距離恋愛生活が始まってしまう。
せっかく恋人に向けて、しばしのお別れの挨拶を事前に考えていたのに。
リディア自身の叫びをもって、それが水の泡と化してしまった。
「でっけえ声出すな……そんな驚くことか??」
わざとらしく指で耳をふさぐ仕草を見せるエッジを、信じられない表情で見上げる。
—— —— ——
『オレがミストに送ってく』
『今夜、おまえん家。泊まらせてくれよ』
—— —— ——
エッジのそんな提案は、平時なら容易に受け入れていた。
しかし今の状況が状況だけに、答えはひとつしかない。
「だめだよ」
「なんで」
「エッジは明日から復興始めなきゃだめだもん」
「リディアさーん」
「え?」
「この人。死ぬつもりでお国のこと準備して出てったの知ってるでしょ?」
「じい様もタツミもおります。何も心配することはございませぬぞ」
「どうせ、朝帰りだ。半日ぐらいどうってこたねえよ」
(味方いなくなっちゃった……)
ミゼルだけでなく、ザンゲツまでもエッジの肩を持つとは。
先ほどまではエッジが孤立無援だったはずなのに。
たったひとつの発言を機に、リディアがその立場に変わってしまった。
それでも、エッジには国王として最初から復興に取り組んでもらいたい。
再度気を奮い立たせて、改めてエッジを見上げる。
「どうやってミスト行くの?」
「そりゃー、アレしかないでしょ」
「それも最後ですな」
ミゼルとザンゲツが立て続けにそう答えてくれたことで。
ミストへの移動手段に見当がついてしまった。
「——あの術使うのっ!?」
「そうだが」
エッジの胸元の服をぐっとつかんで問いただすと。
秘伝忍術のひとつ、瞬間移動術を使うとあっさり認めてしまった。
「だめだめ、やっぱりだめだって」
当の『出』の巻物がミストになぜあるかなど考えもせず。
エッジの服をつかんだまま、首を振って拒否した。
「まだ言うのか。オレがミスト行っちゃだめなのかよ」
「そういう訳じゃないけど……。ミスト帰るために最後の術使うなんて、もったいないよっ」
瞬間移動術は、人生で三度しか使えない。
一度目は動作確認テスト。二度目はカルミネからの脱出。
そして、三度目が……今からとは。
私的理由に、そんな大事で貴重な術を使わせる訳にはいかない。
「使い渋ってるうちに急に死んじまったらどうすんだ。そっちの方がよっぽどもったいねえだろが」
「っ、それは……」
「今が術の使い時なんだよ」
(おじちゃんのせいだ!!)
ミゼルがザンゲツに『やらずの後悔』と言ったからか。手紙を読んで何か気付きを得たのか。
エッジが何かしらミゼルの影響を受けたのは間違いない。
「おいミゼル」
「巻物?」
「ああ。捨ててねえよな」
「そっちはどうなの。文殿にはなかったよ」
「別んとこに隠してある」
「……好きにどうぞ。奥さんに殴られてもいいなら」
「へっ、それぐらい我慢するさ」
(確か瞬間移動術って……)
巻物を使って、もう片方の巻物が置いてある場所へ瞬時に移動するものだったはず。
「どうして、おじちゃん家に巻物があるの!?」
「それは……あぁー、あとでミゼルから聞いとけっ」
「そんなぁ……」
慌ててエッジに理由をたずねるも、すげなく一蹴されてしまった。
(ま、まだ断る理由あるもん!!)
行くのはいい。しかし、どうやってエブラーナに帰るつもりでいるのか?
国有艇は全て動かない。誰もエッジを迎えに来ることが出来ないのに。
リディアがエッジをそう問い詰めたところ。タツミが所有する小型飛空艇は動く。
それを借りて、誰かに明朝ミストに迎えに来させると言われてしまった……。
「これでよーく、わかったろ」
両腕を組んで勝ち誇ったように、エッジが仁王立ちしている。
その前でリディアは肩を落として小さくなるばかりだ。
「しっかり考えた上で提案してんだ。抵抗しても無駄なんだよ」
「……わかりました。ミストまで連れて行ってください」
断る理由がついになくなり、白旗を上げざるを得ない。
ちなみにザンゲツはエッジの命令により、お城へ帰ってしまった。
じいへの報告並びに飛空艇を貸してもらうよう、タツミに頼みに行ったと思われる。
「ったく、最初っからそう言えっつーの」
「だったら、おじちゃんも一緒に連れて帰ってもいい??」
「ええ、なんでぇー!?」
リディアの提案を聞くやいなや、ミゼルが抗議の声を上げた。
それまで横たわっていたのに、上体を勢いよく起こしてまでの反応に。
よほどエブラーナから離れたくないのが、ありありと見て取れた。
しかし、これ以上この男にわがままを言わせるつもりはない。
「いいよね、エッジ?」
「おう。とっととエブラーナから出てけ」
「……まだ入院中なんだけど」
「おばちゃん、お母さんが消えてから毎日ひとりなんだよ? かわいそうだと思わないの??」
「ぼくが帰ったら毎日、あの人大変だよ? 今のうちに休ませてあげようって思わないの??」
(ああ言えばこう言うなんだから!!)
ミゼルがミストに帰ったら、ジャンヌは介助生活が始まってしまう。
自分が退院してミストに帰るまで妻には休息期間をあげたい。
ミゼルはそう言いたいようだが、それは表向きの理由。
本音はここの入院生活が気に入って、まだ帰りたくないのだ。
「1日中ベットで休んでるだけじゃない。当分おばちゃんは楽ちんだよっ」
「うー……」
糸の切れた凧を体現するこの男に、これ以上勝手なことをさせられない。
亡き親友の魂もあの世へ行ってしまった。
ひとりで夫の帰りを待ち続けるジャンヌと、早く再会させてあげたい。
「決まりだな。ソイとセシルに連絡だろ? あとは巻物に……明日……」
「あっ」
エッジが何かぶつぶつ言いながら、軽やかな足取りで扉に向かう。
「ちょっくら準備してくる」
「え、ちょっと……」
「——『あいつ』も連れてくっから、ここで待ってろ」
最後にそう言い残して、病室から出て行った。
「あー、行っちゃったぁ……」
「リディアさん」
「え」
「よかったね。おめでとう」
エッジが出て行った扉を見つめていると、ミゼルに呼ばれて。
振り返ってみれば、口元を大きく歪ませながら祝福された。
「何が? エッジのこと?」
「初夜」
「っ!?」
「声でわかる。あの人、今晩やる気満々だよ」
「ええっ……!?」
ミゼルの一言を耳にした途端。
スイッチが入ってしまい、リディアの頭の中でただれた映像が流れ始める。
ただし、一度もご本人の姿ではヤッたことがないため。
相手の男の顔は黒い影に覆われており、声も『ツクヨミ』のまま。
数年先に『ごほうび』は延期されたけれど。
今晩はそれに迫る勢いで、エッジからあんなことやこんなことを……!
「あれは鎖が外れた野獣だ。覚悟しておいた方がいいよ」
「……」
「ぼくもミスト帰ったら、ジャンヌさ」
「——おじちゃんのばかっ!」
脳内で繰り広げられる、いががわしい光景を一掃するかのごとく。
ミゼルへ罵声を浴びせると共に、拳で痛々しい足元をぶっ叩いた。
「うぎゃああああ!!」
病室内に叫び声が響き渡ったのは言うまでもない。
「動けないのに出来る訳ないでしょ!」
「じょ……女性上位という手法も」
「——もうやだっ! おじちゃんの口からそんな話聞きたくないっ!」
「……!?」
「……!」
それでもお互い長く近しい間柄。
怒りはすぐに治まり、ふたりは何事もなかったかのように。
エッジとかいう鬼の居ぬ間に、歓談を始めたのであった。
—— —— ——
ツキノワが、あの『ノア』だったこと。
ツキノワがつけているヒスイのピアスは『ノア』の目印でもあったこと。
現在ミゼルの自宅に、『出』の巻物が置いてある理由も教えてもらった。
ツキノワは『ノア』としての任務が始める前。
『ツクヨミ』からお守り代わりに、瞬間移動術の『出』の巻物を渡された。
ツキノワはそれを本気でお守りだとずっと信じて止まず。
任務を終える直前。その巻物をミゼルたちにお礼に渡してミストを去ったという。
更にはザンゲツが口にした『あのこと』——真月で引き取った幼児のことや。
リディアとエッジと幼児の新たな関係。
エッジが再び『エッジ』として、ミストに出入りするにはどうしたらいいか。
そんな相談を持ちかけてから。最後に今後のミゼル夫婦の予定を……。
—— —— ——
積もりに積もった話をお互い大方消化すると、1時間が経っていた。
「帰ったぞ」
ちょうどいいタイミングで、エッジが幼児を連れて病室に戻ってきた。
ところが、幼児と一緒にいたツキノワはいない。
「あれ? ツキノワくんは?」
「お役御免。城に帰った」
「……そう」
ツキノワとミゼルの再会は実現されなかった。残念だが、仕方がない。
お城勤は任務終了後、依頼人と接点を持ってはいけない決まりがある。
ミゼルからそう聞いたばかりだったから。
『エッジ、あれは誰だ』
「あれはなぁ……自称リディアの兄貴だ」
『あに……リディアと一緒に暮らしているのか?』
「んな訳ねえだろ! オレがさせねえわ!」
『そうか』
「ほれ、適当でいいからあっち行って挨拶してやれ」
『わかった』
小さな子どもがエッジからとんと背中を押された。
すると、リディアとミゼルのそばにとたとた早足で近付いてきた。
「ちょ! 適当ってなんだよ!?」
「おじちゃん、来てくれたよ」
「あっ、ほんと?」
『——なぜ顔を隠している』
「ええっ??」
開口一番、幼児から猫の半面をかぶる理由を問われて。ミゼルが驚いた表情を見せた。
「相手に失礼だから、初めて会った人には最初は『はじめまして』って言おうね」
『……ごめんなさい』
「いいの。これから気を付けたらいいんだから」
『わかった。気を付ける』
ミゼルに改めて挨拶するよう、幼児の肩をやさしく叩いてあげた。
人と会った時は『はじめまして』、『こんにちは』などと挨拶するように。
魔導船の中で幼児に教えたが、さすがにすぐには身に付かない。
「はじめまして、おちびちゃん」
『……はじめまして』
「名前付けてもらったんでしょ? 教えてちょうだい」
『——クオレ』
—— —— ——
青き星に戻る途中。魔導船の地下室で、エッジにこんな提案を持ちかけた。
元の名前——マイナスは、どうもイメージが悪い。
ちょうどいい機会なので、幼児に新しい名を付けてあげよう、と。
エッジは提案を聞いて『おまえが付けてやれ』と言って聞かなかったため。
リディアは数十分悩んだ末。直感で『クオレ』と名付けたのであった。
—— —— ——
「おぉ、いい名前付けてもらったじゃないの!」
「そうなの?」
「『心』を表す言葉はいくつかあるけど、『クオレ』もそのひとつなんだよ」
『心』は『ハート』や『マインド』など、様々な別名がある中。
ダムシアンのある村では『クオレ』と呼ぶこともあるという。
(今のクオレの心は空っぽだけど、これからいろんなものを詰め込んであげたらいいんだ……!)
ミゼルのそんな説明を聞いて、胸がじいんと熱くなる。
これは天におわす神さまが、直感という形で名を授けてくれたに違いない。
そう思ったことだけは、自身の胸だけに秘めておくことに決めた。
既にされたけれど、だいすきな人から女神さま扱いされるのは気恥ずかしい。
『おまえの名前は』
「ぼくはミゼルです。おじさんでも名前でも好きに呼んでいいよ」
『じゃあ、ミゼルと呼ぶ』
「どうぞどうぞ……」
『——だからミゼル、さっきの質問に答えてくれ』
クオレに答えを催促されて、ミゼルが自身の猫のお面を指さしている。
「お面のこと?」
『そうだ。なぜそれで顔を隠している』
「……ははっ、今は答えられないなあ」
ミゼルがおどけたようにクオレの催促を拒否した。
『なぜだ』
「すぐ答え教えたらつまんないじゃん。考える癖もつかないしね」
『??』
クオレが首をひねっている。
彼女は生まれてまだ1日経っていない。言葉の意味がわからないようだ。
「これから自分で答えを探してねってことだよ」
「ミストで暮らしてたら嫌でもわかる」
将来自分から動かない指示待ち人間にならないように。
ミゼルのそんな意図を更にわかりやすく、リディアとエッジが説明してあげれば。
クオレは小さく首をうなずかせた。
「わかったら、リディアさんたちと一緒に答え合わせしてちょうだいよ」
『ああ。早く答え見つける』
「偉いねぇ。これから頑張ってね」
ミゼルがクオレの頭を手探りで見つけて、よしよしと撫ぜている。
そんなふたりの姿を見ていたら、胸に一陣のからっ風が吹いた。
ミゼルが話したことは、『自分たちはミストを離れる』と暗に示唆していたから。
—— —— ——
先ほどリディアはミゼルから、その話を聞かされたばかり。
ほぼ身内のようなふたりがミストを離れるとわかり、また泣いてしまった。
『そんな泣かなくても……さっきも飲み会やるって言ったし、いつでもおちびちゃん連れて遊びにおいでよ』
『っ、いいの……?』
『いいよ。でも、エドワードくんやみんなには全部内緒にしておいてちょうだい』
移住先も今後の計画も教えてもらえたから、リディアはまだいい方かもしれない。
—— —— ——
エッジがリディアの隣を離れて、気だるげに部屋の端に向かう。
「自己紹介済んだな」
「あ、うん……」
「早く帰らねえと暗くなっちまう」
そう言いながら、すぐにまた元の場所に戻ってきた。
今度は部屋の端に置かれていた、大人半分ほどある大きな布袋をふたつ抱えて。
「その荷物、なあに?」
「何って。おまえ、あのベットでクオレと一緒に寝るつもりか?」
「あっ……!!」
エッジに指摘されて、リディアの顔がみるみるうちに青ざめていく。
(晩ごはんも朝ごはんも……!)
クオレを引き取る。堂々とそう宣言したにもかかわらず。
クオレを迎え入れる準備はおろか。ミストに帰ってからのことを考えていなかった。
「ミスト着いたら、おまえらのベッド作ってやらねえとな」
「作れるの!?」
「若けえ頃に2週間だけ家具職人に弟子入りしたことあってな。大工道具一通り持ってくからなんとかなるだろ」
「そんなこともしてたんだ……!」
「非常食も分けてもらったしな。今夜と明日の朝はメシ作る必要ねえぞ」
エッジの近くにいる人物はもちろんのこと。エッジが触れている物体も一緒に移動する。
瞬間移動術にはそんな効果があるという。
クオレ用のシーツや毛布大工道具や今晩と明朝の食事などをミストに運ぶために。
布袋の中に、それらをぎゅうぎゅう詰め込んできたという。
「すごい……エッジさまさまだぁ……!!」
「おう、オレはすごいんだ。——そんじゃ、帰るぞ」
救いの手を差し伸べてもらい、喜ぶリディアをよそに。
エッジが懐から瞬間移動術に使われる『入』の巻物を取り出し、ひもを外してから。
ミゼルが寝ているシーツの上にそれをぽいっと投げ捨てた。
「えー、本当に帰るのー?」
会話と感触で気付いたのだろう。ミゼルが頼りなさげな声をもらしている。
「てめえ、話聞いてなかったのか」
「じいやさんとまだお別れしてないよ。ザンゲツさんともあれっき」
「——巡回艇乗って会いにこれるだろ。ちったあ我慢しろよっ」
親しい人たちに別れを告げぬまま、即時ミスト帰還。
不満をもらすミゼルを、エッジは吐き捨てるように一蹴した。
「ちょっと、そんな言い方しなくてもいいじゃない」
「ほんとだよ。鬼かな? 暴君かな?」
「がたがたがたがたうるせえんだよ。前科もんがっ」
「だから、そういうとこが」
「——てめえはメシ抜きな」
「あっ、それは困るよ。帰ってもごはんない……!」
「だったら黙ってろ」
エッジとミゼルの子供じみたやりとりを聞いて、くすりと笑う。
(エッジ……言うほど、おじちゃんのこと嫌ってないよね)
今は無理でも、エッジとミゼルは遠い将来友人になっているかもしれない。
リディアがそんな予感をおぼろげに感じていると。
隣でエッジが懐からまた何かを取り出して、ミゼルの手元にそれを投げ捨てた。
「……何これ」
ミゼルがその何かを手に取ったものの、首をかしげている。
正体は分厚い茶色い封筒だが、ミゼルは目が見えないからわからない。
「ごめん、リディアさん。何が入ってるか確かめてくれる?」
「うん、いいよ」
(これは……!!)
ミゼルから封筒を受け取り、リディアは中身をのぞいてみた。
「ギル札」
「えっ!?」
「それもいっぱい入ってる!」
確認を終えて、ミゼルに封筒を持たせながら中身を答えてあげた。
「ちょ、まさかこれ!?」
「処分差し替えだ。——これより国外強制退去を命じる」
「!!」
「先立つものがありゃ越したこたねえ。退職金だと思って受け取っとけ」
「受け取れないよ。国外強制退去じゃ軽す」
「——『王命は法以上の効力を持つ』。じいもオレに上申する気でいたんだと」
「じいやさんが……!?」
封筒を持つミゼルの両手が小刻みに震えている。
エッジは、身元詐称によるミゼルの罰金処分を取り消し。
今からミストに瞬間移動をすることで、国外強制退去処分に変えた。
同時に既に支払っていた罰金を返してあげたのだ。
端的に言えば、お館様の権限——王命で実質無罪に変えてもらったようなもの。
「う、っ……!」
じいまでエッジと同じことを思っていた。それを知り、心にくるものがあったのだろう。
ミゼルが上体をかがめて、額に封筒を当てながら声を上げて泣き始めた。
静まり返った病室には、ず、ずっとすすり泣く声だけが響く。
エッジやじいが見せた温情や、ミゼルの姿を目の当たりにして。
リディアも胸を打ち震わせずにはいられなかった。
§
しばらくしてからミゼルが泣き止み、背筋をぴんと伸ばした。
「お館様」
「なんだよ」
「こちら……ありがたく受けとらせていただきます。今までお世話になりました……!」
「最初っからそう言っときゃいいんだよ」
エッジの声が聞こえる方へ深々と頭を下げながら、ミゼルが感極まったような声でお礼を述べた。
「おじちゃん……」
「ん?」
「もう思い残すこと、ない?」
「ないよ。お館様が民から慕われる理由が、最後の最後でよくわかったもん」
「よかったね……」
「うん。これで第二の人生に全力投球出来るよ」
最後にお館様の温情に触れることが出来て、感無量。
ミゼルの声や表情から、それがひしひしと伝わってくる。
—— —— ——
イフリートを制してから、この避難所を訪れたら。
既にミゼルは光を失っており、リディアにこう話してくれた。
『エドワードくんのお館様ぶりや人となりを、近くで見ることが出来てよかったよ』
失明することがわかっていたから、目が見えるうちに出来ることをやっておく。
ミゼルはそう考えて、犯罪行為に手を染めてまで行動を起こしたのだろう。
—— —— ——
先ほどミゼルからの手紙を読んで、エッジもそれを察したから。
罪状を軽いものに変えてくれた。リディアはそう思っている。
「よーし、ちゃちゃっとミスト帰るぞ」
病室内に漂っていたしんみりとした空気は、エッジの声でかき消された。
その数秒後。彼の人生最後となる瞬間移動術が発動されたのであった。
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