※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点


24年後
それは突然やってくる


 

 

24 years later

 

 

——11の月下旬 午後

 

 

 元来鋭い目付きをますます鋭くさせて、人を今から殺すのでは?

 そう周囲に誤解されかねないぐらいの険しい表情で。

 エッジは『世界各国における食品摂取頻度・摂取量に関する調査報告書』と。

 長い題名がついた書類を手にしながら。ずらずら並ぶ小さな文字の羅列を追っていた。

 

「長っげえなぁ……」

 

 思わず不満たらたらにつぶやいてしまったが。

 こういうことはよくあるを通り越して、ほぼ毎日である。

 

 長年こうして書類とにらめっこを続けているが、やはり文字は苦手。

 結論だけ5……いや、3行にまとめて、お館様用の書類として作り直して欲しい。

 

(そういえば……)

 やっと書類を最後まで読み終えたところで。

 脳内にふと、先日バロンで開かれた戦友との会合での一場面が浮かんできた。

 以前は4人とも国王さまだったが、数年前にセシルとヤンは国王の座を退いている。

 

 —— —— ——

 その日は書類を読んでから、4人で話し合いをすることになった。

 するとヤンが箱から眼鏡を取り出し、それを掛けている。

 ギルバートも小さなルーペを使って書類を読んでいる。

 セシルまで難しい顔をしながら、書類を顔に近付けたり離したりしている。

 

 変だと思い、3人にたずねたら。揃いも揃って『老眼』と答えてくれた。

 老眼は別名遠視。

 加齢による生理現象のひとつ。歳を取ると、近くのものが見えにくくなる。

 —— —— ——

 

 ヤンは還暦一歩手前。ギルバートはエッジと同年生まれ。

 セシルはエッジたちより3つ年下。3人とも老眼になってもおかしくない。

 

「老眼って、どんな感じなんだ……?」

 

 他人事のように独り言をつぶやきながら。

 書類の決裁欄に見ました代わりのサインを入れた。

 

 —— —— ——

 エッジもとい、エドワード・ジェラルダインも気が付けば51歳。

 還暦とかいう人生の大きな節目がちらちら見える年代に差し掛かった。

 

 しかし、その歳にしては若々しい風貌ともっぱらの評判。

 現在も続けている修行の賜物か。身体も至って健康そのもの。

 数多の加齢現象と未だ縁がなく、遠視——俗称老眼の感覚もまだわからない。

 —— —— ——

 

「こんで終わり……っと」

 

 見終わった書類を足元にあった、大きなかごの中にぽいっと放り投げたら。

 本日の公務と言う名のノルマは全て終了。

 

 片付いた書類を床にぽいぽいっと放り投げて、じいに拾わせる。

 昔はそんな配慮のないことをやっていたが、じいから話を聞いたのだろう。

 かご制度の首謀者——タツミのおかげで、かごに入れる癖が身についた。

 

「……まだ2時間近くあんのかよ」

 

 壁掛けの時計を見れば、午後3時17分。

 珍しく仕事が早く片付き、今から『うち』に帰るかどうか考える。

 

 —— —— ——

 『うち』とは、リディアとクオレが暮らす家のこと。

 エブラーナ国内で公にしていないだけで、エッジもその家の住民である。

 

 ちょうど7年前。リディアとクオレが城下町の北区画に移り住んでから。

 エッジはほぼ毎日と言っていいほど、夕方『うち』に帰って。

 翌朝この城に帰ってくるという二重生活を続けている。

 

§

 

 リディアとエッジの娘、クオレは現在(推定)16歳。

 7年前にエブラーナ移住と同時に忍者学校に入学し、飛び級を繰り返してたった5年で卒業。

 一昨年からはエブラーナ城の事務方、会計係の一員として働いている。

 

 忍術の才にも恵まれたが、突出した知能を買われて内勤での採用となった。

 なお、クオレがエッジの娘と知る使用人は、タツミや御伽衆など数人だけ。

 

§

 

 妻のリディアは、今もミストで召喚術の指導を続けている。

 数年前にオリバが召喚術の指導者として独り立ちしたことで。

 ほぼ毎日だった指導日数が、現在はその半分ほどに減っている。

 今年の春から、ベスもリディアの補佐として指導者の一員に加わった。

 こちらも将来独り立ちするとなると、更に指導日数は減るだろう。

 —— —— ——

 

(今帰ってもやることねえな)

 エブラーナ城の事務方は月初めと月終わり以外、基本5時までの業務。

 リディアも本日はミストで召喚術の授業がある。帰ってくるのは早くて5時半すぎ。

 夕食の下ごしらえを済ませてからミストに向かっただろう。

 ……逡巡した結果、早めの帰宅はやめておくことにした。

 

「本でも読むか……」

 

 ぶつぶつつぶやきながら、執務机の足元にある引き出しを荒っぽく開けた。

 

 緊急の所用が入って来るといけないから、5時までここで待機。

 そんな大義名分を掲げた、時間つぶしの始まり始まり。

 

 

——それから1時間後

 

 

 今は冬の季節に入る直前。日の入りが早い。

 時間を追うごとに、室内が少しずつ薄暗くなっていくのをよそに。

 エッジは椅子を回転させ、机に背を向けた状態で読書にふけっていた。

 

 —— —— ——

 ……麺をお湯の中に入れたら、ばらばらに崩れたことはありませんか?

 そば打ちの難しさは、『水回し』を十分に行ったつもりでも。

 見た目では粉に水がなじんだかどうかわからず、後で修正が利かないことです。

 慣れないうちは10割そばではなく、そば粉8に対して小麦粉2の二八そばをおすすめ……

 —— —— ——

 

「……店のもんでいいや」

 

 そば打ちは難易度が高い。それがわかった途端。

 つまらなさそうにつぶやくとページをめくった。

 

 お城の食事で出るおそばは、もちろん10割そば(まかないも同じ)。

 その味を知っていたら、二八そばで妥協出来ない。

 

「……!!」

 

 引き続き、誌面の文字を追っていたら。

 うつろだった目つきが、徐々に好奇心あふれるものに変わっていく。

 

 —— —— ——

 ……材料は小麦粉、水、塩だけ。

 こねると小麦粉に含まれるたんぱく質と水が結びつき、グルテンが生成されます。

 そば打ちと違って茹でる際に麺がばらばらにならないのは、グルテンのおかげです。

 太さがまちまちになるのも、また一興。ぜひご家庭で一度お試し……

 —— —— ——

 

 このページには、ある麺の作り方が書かれていた。

 材料は『うち』に普段置いてあるものばかり。しかも、そば打ちよりはるかに難易度が低い。

(これなら今度の休みに……!)

 

「——お館様」

「っ!?」

 

 胸を躍らせていたら、名を呼ばれると同時に肩をつつかれた。

 

 気配察知をすっかり忘れて読書に没頭するとは、何たる不覚。

 そう思いながら、恐る恐る肩越しに振り返ってみれば。最側近のタツミが笑みを浮かべていた。

 

「なんだよ。びっくりさせんじゃねえよ」

「熱心に読書とは素晴らしいお心がけですね」

「……はいはい、どうも」

 

 タツミが何か褒めてくれているようだが。

 再び開いている雑誌に視線を戻して、棒読みで返事してやった。

 

 この男は生まれ持った血の影響で、エッジを崇拝レベルで敬っている。

 大したことないことでも賞賛してくるので、いちいち真に受けていられない。

 

「一体何をお読みになっておられるのですか」

「……うどんの打ち方」

「はい??」

「店で売ってる奴じゃ物足んねえから、うどんを打とうと思ってな」

「……」

 

 今読んでいるのは、エブラーナの出版社が毎月刊行している料理雑誌だ。

 エブラーナの移民向けに、世界各地の名物料理の作り方。

 加えて各食材の入手方法まで載せてくれる、とても親切な雑誌である。

 

 —— —— ——

 二重生活が始まって7年。エッジが夕食を手掛ける日もまれにある。

 ここ数年で大抵の料理を作れるようになり、簡単なパンも焼けるようになった。

 

 リディアやクオレからの評判は上々。ふたりからもっと褒めてもらいたくて。

 隙間時間になると、定期購読しているこの雑誌を読みながら。

 少しずつ料理のお勉強をしていることは、ふたりには内緒である。

 —— —— ——

 

 これまでうどんやそば——麺類は既製品頼りで、一から作ったことがなかった。

 そんなエッジにとって、今月の特集『自家製麺を作ろう!』は、目からうろこの内容だった。

 

「そばは難しいみてえだし、ラーメンは本場で食うに限るしでパスってなると、うどんしかねえし」

「っ……う、う」

「成功したら、次はパス……」

 

 返事のような、独り言のようなつぶやきを続けていたら。

 背後からぐずぐず泣いているような声が聞こえてきて、言葉を切った。

 

「おい」

 

 正面を向いてみれば。タツミが顔を両手で覆って身体を震わせている。

 

「っ……はい」

「そんなんで泣くなよ」

「お、お館様直々に……うどんを打ってもらえるなんて……リディア様やクオレは……幸せ者だと思いまして……!」

「泣いてもおまえにゃ作んねえぞ」

「……わかっております」

 

 涙を手の甲でぬぐいながら、タツミがなおもこう続ける。

 

「僕はお館様に何かをしていただくより、お館様のため」

「——今時、主君の後追いなんか流行んねえぞ」

「っ……」

「てめえの命、大事にしろ」

 

 すかさず厳しい口調でとがめると、タツミが姿勢を正してこう告げてきた。

 

「ご心配なさらずとも、父親と同じ轍は踏みません」

「……それならいい」

「ソイにもよく念押しされております」

 

 タツミが真っ先に殉死を否定してくれて安堵する。

 

 殉死とは、仕えていた主人や夫の後を追って部下や妻が自ら命を絶つこと。

 昔はエブラーナをはじめに、世界各地でそんな慣習があった。

 

 タツミの父イヌイも時間差はあるが、殉死のようなものだった。

 この男も献身を通り越して、父親と同じ道を辿ってもおかしくない。

 そう思っていたが、妻のソイから釘を刺されているのなら大丈夫だろう。

 

 壁時計に視線を向けると、午後4時37分を指していた。

 

「……書類取んに来たか」

「はい。その前に、ひとつ報告がございます」

「っ、なんだよ」

 

 足元に置かれている処理済みの書類が入ったかごを渡すために。

 上体をかがめて、かごの取っ手部分に手を伸ばそうとした時。

 

「ツキノワ君。免許皆伝いたしました」

「……マジか!」

「はい」

 

 机の上に両手をついて勢いよく立ち上がり、再確認すれば。

 タツミが目を細めながら、同じ答えを返してくれた。

 

 相変わらずツキノワは謙虚で真面目な御伽衆。

 現在はお城勤と同様の業務——国内外の特殊任務と並行して。

 タツミの下で結界術の修行に励んでいたが、全て習得し終えたということだ。

 

「ツキノワ君を見かけたら、ぜひ褒めてあげて下さい」

「ああ、もちろんだ……!」

「それにしても彼はすごいです。任務の合間、それもたった7年で……」

 

 10年以内と聞いていたが、予想以上に早かった免許皆伝に驚きながらも。

 エッジは目を輝かせながら、心の中でタツミに同意する。

 

「おまえも長い間ご苦労だったな」

「いえ、僕は別に……」

「んな謙遜すんなって」

「それより、明日からいかがいたしましょう」

「あー、時間が空くな」

「引き続き、感知能力を底上げしましょうか?」

「それはいいって、昔言ったろ」

 

 嗅覚や聴覚、気配察知……この能力は、防犯や探索に欠かせないが。

 ツキノワではなく、今後この国を担う若者に託すことにしていた。

 

 忍者学校は学業と忍術などの修行と並行して、様々な専科が設けられている。

 感知能力の専科卒業生数名が、数年前から毎年お城勤に採用されている。

 人が集まり次第、専用の部署を新たに設ける予定になっている。

 

「でしたら、その時間は忍者学校で生徒に指南を」

「——それもいい」

「では、一体何を……?」

 

 帝王学の教育はとうに終わっており、修行する必要もなくなった。

 空いた時間、ツキノワに一体何をさせるのか。

 神妙そうな顔つきでたずねてきたタツミへ、にやりと笑みを見せながら席に着く。

 

「魑魅魍魎の相手だ」

「陳情対応ですか?」

「即位したら、嫌でも付き合わなきゃならねえ。どんな奴らか、事前に確かめさせておいた方がいいだろ」

「……みながみな、我がシビエン家のようにはいきませんからね」

 

 毎日エブラーナ城には、国内の権力者や部族の長たちが陳情しにやってくる。

 お願いの大半は私利私欲丸出し。

 そんな彼らのことを、以前からエッジは魑魅魍魎と称していた。

 

 さすがに復興中は余裕がなかったようで、彼らは陳情を自粛していたが。

 それが終わった途端。再び城にうじゃうじゃやってくるようになった。

 

 そんな魑魅魍魎どもに、次期国王を事前にお披露目する目的で。

 しばらくの間、ツキノワを陳情対応に当たらせよう。エッジはそう考えた。

 

「ツキノワ君と彼らを対面させたいのでしたら、国王生誕祝賀晩餐会を復活させるのもひとつの手段かと思われます」

「……おまえ、わざと聞いてるだろ」

「はい」

「わかってんなら、いちいち聞くなよ」

 

 国王即位後に行われるお披露目晩餐会。年に一度の国王生誕を祝う晩餐会。

 エブラーナ王室の社交行事と言えば、それぐらいしかなかった。

 

 —— —— ——

 エッジは若い頃からそういった行事が大嫌いだった。

 そのため、即位してすぐ、復興を理由にお披露目晩餐会の中止を発表。

 生誕晩餐会も、毎年何かしら理由をつけて中止していたため。

 この20数年間、王室の社交行事は一度も開催されていない。

 —— —— ——

 

(晩餐会を開けば、魑魅魍魎どもが集まってくるがな……)

 ツキノワも前国王にならい、即位しても社交行事を開催しないだろう。

 ならば、今のうちに次期国王本命と名高いツキノワを陳情対応につかせて。

 魑魅魍魎の存在と、人となりを認識させておいた方がいい。

 

「申し訳ございません。念のため確認させていただかないと気が済まないのです」

「ったく、骨の髄まで犬に染まりやがって……」

 

 タツミに何を言っても無駄。

 そうわかっていながらも、ぼやくことで仕返ししてやった。

 

 じいは若様の思惑を察すると、知らぬ間に根回しして事後報告で済ませていた。

 一方タツミは、石橋をがんがん叩いてからでないと渡れない人間。

 お館様の考えに気付いていても、こうして逐一確認を取らないと物事を進められない。

 

「実は僕から、もうひとつ提案がございます」

「言ってみろ」

「クオレに陳情対応についてもらおうと思っております」

「!?」

 

 不意打ちのようなタツミの提案に、目を見開いた。

 

「陳情対応に関しては、ツキノワ君よりクオレの方が適任です……違いますか?」

「いや、おまえの言う通りだ」

 

 じいの教育の甲斐あって、クオレは政治経済や国内の事情に詳しい。

 瞬時の判断力も高く、すげない口ぶりや態度も魑魅魍魎どもには効果てきめん。

 私利私欲からくる陳情の数々を、ばっさばっさと切り捨てていくだろう。

 

「ただ彼女はまだ未成年です。当面は今の業務に差し支えない程度、週に1、2日ほどついてもらおうと思っております」

「……任せる。仕事に関しちゃ、おまえの方があいつをよく見てる」

 

 クオレの上司でもあるタツミが、適性を見抜いてくれていて安心した。

 

 クオレは将来的に陳情対応を任されるかもしれない。

 エッジはかねてよりそんな予想をしていたが、出自がバレてしまう恐れがある。

 身内贔屓にもつながりかねないので、クオレの仕事に関して口を出したことは一度もなかったのだ。

 

「ありがとうございます。明日以降、そのように手配いたします」

「頼んだぞ」

 

(これでエブラーナはほぼ安泰だ……!)

 ほぼ盤石の体制が整い、いつ何が起こってもツキノワにエブラーナを託せる。

 それがわかり、かねてより考えていたことをタツミに命じることにした。

 

「なあ、タツミ」

「はい」

「おまえにやってもらいてえ超重要任務があんだが、頼んでいいか」

「……何なりとお申し付け下さい」

 

 タツミがその場に片膝をつき、服従の意を見せた。

 

(こいつ気付いてんな)

 殉死せぬよう遠回しに告げてからの、先ほどの報告内容からして。

 お館様から何を命じられるか。この男は既に察しているように見受けられる。

 

「ツキノワが国王に即位したら、そばでずっと支えてやってくれ」

「——かしこまりました」

 

 タツミが即座に了承の言葉を返し、頭を下げながら続けてこう口にした。

 

「このタツミ・シビエン。お館様のご命令に従い、命尽きるまで任務を全ういたします」

「頼んだぞ」

「はい」

 

 敬愛するお館様にこうして直々に命じられたのだから。

 タツミはツキノワが国王に即位した暁には、全力でサポートしてくれるだろう。

 この男だけではない。クオレもツキノワの強い味方になってくれるだろう。

 

 —— —— ——

 クオレがエブラーナに移住後、真っ先に親しくなったのはツキノワだった。

 ツキノワもクオレも子どもなのに、能力や知能は大人並み。

 そんな特殊な境遇や体質が、ふたりを引き合わせたのかもしれない。

 

 それから数年後。クオレは、忍者学校の卒業が決まって早々。

 エッジやリディアにお城勤の試験を受けると宣言した。

 

『クオレはツキノワが次の国王になると思ってる。学校のみんなもそう言ってるぞ』

『お城勤になってツキノワも助けてあげたいんだ』

 

 そんな志望動機を抱えて試験を受けた結果、成績はトップだったが。

 能力的にお城勤、いわゆる現場忍者ではもったいない。

 そう判断したタツミの一存で、事務方の配属が決まった。

 —— —— ——

 

(ずっとダチのままでいてくれっといいんだが……)

 今でも休憩中に歓談するクオレとツキノワの姿を度々見かけるも。

 どちらも相手への恋情はちっとも感じられない。

 仲良きことはいいことだが、娘を持つ父親の感情が先立って。

 これ以上関係が進展せぬよう密かに願ってしまう。

 

「しかしながら、お館様」

 

 タツミが頭を上げてから、声をかけてきた。

 

「あ?」

「果たして、その時期はいつに……」

「あぁ、それなぁ」

 

 痛いところを突かれてしまい、天井を見上げた。

 

 ツキノワを次期国王に据えよう。

 前々からそう決めていたが、王位継承のタイミングだけは未だ決めかねていた。

 自分が生きているうちに国王の座を譲るか、それとも死んでからにするか。

 

 生前だろうが死後だろうが、王位継承は行事や手続きがとても多い。

 タツミは事務方はじめ城内を取り仕切る立場で、引き継ぎの際は段取りを組まねばならない。

 大まかでもその時期を知っておいて、心構えをしておきたいのだろう。

 

 さて、どう答えてよいのやら。エッジがそう思案を巡らせ始めた矢先。

 

ちりん

ちりん

 

 机の上に置いてあった連絡用の鈴が、青い光を放ちながら音を鳴らし始めた。

 

(事務方からか)

 鈴は当初、事務方と執務室の連絡専用だった。

 後年ソイが試行錯誤した末に他部署にも設置、なおかつ会話が可能となった。

 更に光る色によって、どこからの連絡なのかわかるようになっている。

 

「おまえに用じゃね?」

「そうかもしれません」

 

 タツミが青く光る鈴を手にし、そこにいくつか並ぶボタンをひとつ押した。

 

「はい、執務室」

『ああっ、タツミさん。お館様は……?』

 

 鈴から聞こえる事務方の女性の声が、どこか焦っているように聞こえる。

 

(何か大事でも起こったか?)

 エッジは目配せして、女性に続きを話させるように促すと。

 タツミがうなずきで返してから、鈴を自身の顔に近付けた。

 

「ここにおられますが、一体どうしました?」

『……そっ、それが……!』

 

.

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