※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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桜の花が咲く頃に・2

 

 

——1時間後

 

 

「——着いたぞ」

 

 操縦席の前方に広がる光景が、空の青から緑や茶色に変わっていく。

 

 程なくして、エンジンの音が止まった。

 エッジに声をかけられて、操縦席の前方を覆うガラスの向こうに視線を移す。

 

「ええっ!?」

 

 目の前に広がる光景に、目を疑う。どこからどう見てもここは……。

 

「ミストじゃない!?」

 

 勢いよく立ち上がると前のめりになって、ガラスの向こう側の光景を改めて凝視する。

 

 桃色の花を咲かせた樹木が、一面だたっ広い原っぱの周囲を取り囲んでいる。

 毎年この時期になるとミストで目にする光景、そのまんまだ。

 

 —— —— ——

 真月の戦いや復興を経て、リディアとクオレがエブラーナへ移住した翌年。

 復興支援のお礼に、エブラーナがミストへさくらの苗木を数百本寄贈してくれた。

 それ以降も、交流目的で毎年苗木数十本の苗木を寄贈されている。

 —— —— ——

 

 それまで集落の入口にぽつんと咲いていただけだったさくらの木が。

 今は発着場の周囲や墓地、集落の中央広場に公民館……。

 古来よりミストは召喚士の村。そう有名だが、この時期だけはさくらの村になる。

 

「おい」

「何よ」

「『ぎゃふん』はどうした」

「そんなのどうだっていいよっ!」

 

 望んでいた一言——『ぎゃふん』を引き出せず。

 つまらなさそうにたずねてきたエッジへ思わず怒鳴り返した。

 実際に驚いたところで『ぎゃふん』なんて言う人、この世にいない。

 

「……どうしてミストなの??」

「おまえの親父さんとおふくろさんの墓にも参らねえとな」

「え……?」

 

 妻の両親の墓参のために、ミストを最初の目的地に選んでくれたようだ。

 全然悪い気はしない。むしろ嬉しい。

 それでもエスタとニクスの墓参を、新婚旅行一番手に持ってきたことを不思議に思う。

 

「行くぞ」

「あっ、待って……!」

 

 呆然とするリディアをよそに、エッジが一言言い残すとスペースの出口へ向かった。

 リディアも慌てて、夫の後を追いかけて飛空艇を降りた瞬間。

 

「うわぁ……!」

 

 目の前に広がる、毎年恒例春のミストの光景に感嘆の声を上げると共に。

 先ほど頭に浮かんだ疑問がすっ飛んでしまった。

 

§

 

 

 発着場を取り囲むように、さくらが満開の花を咲かせている。

 

(綺麗だなぁ……!)

 3日前、ここに来た時はまだつぼみ状態。しかも月末恒例、雨降りの2日目だった。

 それでも激しい雨に耐えて、無事に花を開かせたようだ。

 向こう数日間は桃色の風景を楽しめるだろう。

 

「……??」

 

 エッジと肩を並べて墓地に向かいながら、あちらこちらに視線を向けて。

 さくら鑑賞していたが、少しの違和感を感じて首をかしげる。

 

「どした」

「え? ウリエル先生たち、いないと思って……」

 

 ウリエルを筆頭とした、吞んべえ軍団の姿が見当たらない。

 

 彼らは毎年この時期になると花見酒と銘打って、発着場のどこかのさくらの木の下で。

 飲めや飲めやのどんちゃん騒ぎをしているのに。

 

「二日酔いでぶっ倒れてんだろ」

「みんなうわばみだから、ならないよ」

「歳とりゃ多少酒も弱くなる」

 

(適当だなあ……)

 エッジは歳を取っても、お酒を水のようにぐびぐび呑んでいるではないか。

 じいも亡くなる直前まで昼間からお酒を呑んでいたのを、しかとこの目で見ているのだが。

 

「そんなものなの?」

「そんなもん」

「……??」

 

 改めてエッジに確かめてみたが、適当な答え。まるで、のれんに腕押し状態だ。

 結局それ以上そのことについて触れぬまま、墓地の入口を通過した。

 

§

 

 発着場と同じように、さくらの木で周囲を取り囲まれた敷地内を歩き続けて。

 やっとエスタとニクスの墓に到着したが、またまた首をひねる。

 

「……お掃除されてる」

 

(一昨日まで雨だったし、今もさくらがちょっと散ってるのに)

 ここに来るまで、泥やさくらの花びらで汚れているお墓が多かったのに。

 エスタとニクスのお墓だけはきれいになっている。

 

(おばちゃん。今日はおじちゃんのお手伝いだし……)

 このふたりの墓『だけ』をきれいにするのは、リディアかジャンヌぐらいしかいない。

 一体、誰が掃除してくれたのだろう?

 

「ねえ」

「——おまえの両親にまず挨拶しねえとな」

「えっ」

 

 先ほどといい、お墓といい。不思議が続いて戸惑いがちのリディアをよそに。

 エッジが一歩前に踏み出して、エスタとニクスの墓の前で片膝をついた。

 

「……挨拶に訪れるのが遅くなったことを、深くお詫び申し上げます」

 

 挨拶とは一体何のことだろう?

 頭の中にそんな疑問が浮かぶも、とりあえずエッジの隣に座ろう。

 そう思って、リディアが足を踏み出した瞬間。

 

「——お嬢さんをオレに下さい」

「っ!?」

 

 エッジが口にした言葉に身体が固まってしまい、その場から動けない。

 そんなリディアに気付いているのかいないのか。

 エッジがエスタとニクスの墓へ向かって、なおもこう続けた。

 

「これからも、リディアとふたりでこれまで以上に幸せを欲張り、一度きりしかない生を終える所存でおります。——どうか見守っていて下さい」

 

 最後に墓前に向かって深々と頭を下げてから、立ち上がった。

 そんなエッジの姿を、リディアはただただ見ているだけしか出来ない。

 

「こういう時ぐれえ、素じゃねえとなぁ」

 

 リディアに背を向けたまま、エッジが独り言をつぶやいてから。

 こちらを向いてくれたが、顔が全て露わになっている。

 つぶやいている最中に、顔半分を覆っていた口布をおろしたようだ。

 

「あ、あの……」

 

 いつもの鋭い目付きではなく、凪いだ海のような穏やかな視線で。

 エッジがリディアを見下ろしている。

 

「リディア」

「なに……」

「——オレと『結婚』してくれ」

「!!」

 

 低く落ち着いた声でエッジの口から紡がれたのは、求婚の言葉だった。

 それも本来の形としての、だ。

 

 まるで死んだ者が生き返ったような驚きのあまり、しばし言葉が出なかった。

 それでも昨年暮れからの、エッジの不審な動きにようやく合点が行った。

 

「……エッジは……今のままじゃ満足できなかったんだね」

「昨日言ったろ? これからは正々堂々と生きてえって」

「わたしやクオレのことも……」

「ああ。国王のままじゃ、おまえやクオレは本当のオレの嫁や娘にはならねえからな」

 

 自身が掲げた宣言にのっとって『独り身』を徹底していたが。

 譲位を経て、王籍離脱したことで宣言の縛りを解いたようだ。

 

(これもジェラルダインの血のせいなのかな)

 事実上の夫婦になれただけで、リディアはすっかり満足していたのに。

 エッジは全くそうではなかったのだ。

 

「……エブラーナやみんなのこと、大事じゃなかった訳じゃ……ないよね?」

「国王辞めちまいてえってたまに思ったことはあったが、それはねえよ」

「そ、そうだよね……」

 

 少しの恥ずかしさから、リディアは目を伏せてしまった。

 

 この25年間、エッジが国王として祖国のために、そこで暮らす民のために。

 どれだけがんばってきたか知っていたつもりだったのに。

 何を今更わかり切ったことを聞いてしまったのだろう。

 もしかしたら、今はそれだけ気が動転しているのかもしれない。

 

こつん

 

「っ……」

 

 いつものデコピンではなく、額を人差し指で小突かれてしまった。

 もちろん痛くもなんともないけれど、咄嗟に右手で額を押さえる。

 

「おまえがちっともオレになびかねえから、早々に王妃にすんの諦めたが。——それでよかった」

「どうして?」

「『息抜き』って言いながらここに通ってたが、おまえと一緒にいりゃ『普通』が味わえるって気ィ付いた」

「っ、やっぱりエッジも……!!」

「ああ。オレも若けえ頃から『普通』ってもんにあこがれてたんだよ」

 

 好きな女が暮らしている村だから。

 当初エッジは、そんな理由でミストにやってきていた。

 それがいつの間にか、好きな女と一緒に『普通』を味わうために。

 『息抜き』と称して、ミストに足を運ぶようになっていた。

 今ここでそれがはっきりとわかって、胸がほわほわ暖かくなる。

 

「おまえやクオレと家族になれて、一緒にいる間だけ『普通』味わえたらそんでいいって思ったが、やっぱ足りなくなってな」

「……国王さま、辞めたくなったんだ」

「おまえやエブラーナの奴らは、オレが死ぬまで国王やると思ってたようだな」

「うん。エッジは責任感が強いから」

「——エブラーナの国王は、譲位か死んでから王位継承。どっちか選べるぞ」

「っ、初代さま……!!」

「まあ、2代目からおやじまで死後継承が続いてたから、慣習に従い……って思い込んじまうわな」

 

 エッジはカルミネの事件が起こる前後から。

 譲位——存命中に継承者へ王位を譲ることも視野に入れていたという。

 

 —— —— ——

 将来、何が起こるかわからない。

 2代目のように、病気にかかって寝たきりになるかもしれない。

 3代目や6代目——父親のように、ある日突然命を落とすかもしれない。

 

 そういった歴史があったことを振り返れば。

 初代国王のように国造りをすすめて、民に安定した暮らしをさせること。

 生きている間に、次の者へ国を託すこと。

 このふたつが本来、国王に与えられた使命の根本なのかもしれない、と。

 —— —— ——

 

「つっても、初代を真似るか、死ぬまで国王続けるかずっと迷っててな」

「どうして?」

「おまえに嫌われっかもしれねえと思って……怖かった」

「っ!?」

 

 困ったような笑いを見せながら、エッジからそう言われた途端。

 リディアの頭の中で、昨日の帰り際の記憶が蘇る。

 

 —— —— ——

『あいつに幻滅しないのー?』

『え……』

『あんた。王子か国王のあいつしか知らないでしょー? 今日でなーんにもなくなっちゃったわよ?』

 —— —— ——

 

 リディアは、エッジがエブラーナの国王さまだったから好きになった。

 エッジの『芯』のひとつ、『国王』がなくなったら。リディアに幻滅されるかもしれない。

 

 エッジがそう不安に思って、譲位か死後王位継承か。

 そのどちらにするか、ずっと悩んでいたとは……。

 

「っ、ごめんなさい」

「なんで謝んだよ」

 

 エッジと事実上の夫婦になってから、幾度となく会話を交わしてきた。

 けれどリディアは、エッジの公私の『私』の時間を守ろうと。

 極力仕事の話題を出さないようにしていた。

 そのせいでエッジを長い間、ずるずる迷わせていたような気がしたのだ。

 

「エブラーナのこと……エッジともっと話しておけばよかっ」

「——もういい」

「わぁっ……!」

 

 エッジが両手でぐしゃぐしゃっと頭をかき混ぜて、リディアを遮ってきた。

 荒っぽい手つきで撫ぜられたせいで、ぼっさぼさになってしまった髪を両手で直していると。

 

「おまえ昨日、オレの味方してくれたじゃねえか」

「っ、するよ。わたしエッジの奥さんだもん」

「ほれみろ。——お互い歩み寄りが足りなかったってことにしとこうぜ」

 

(昔はなんでもかんでも『オレがわるい』だったのに……)

 そんなエッジが、夫婦ともに責任ありと遠回しに言ってくれた。

 

「っ、うん……!」

 

 リディアも笑みを浮かべながら、エッジにうなずき返した。

 

 昨日までリディアは、エッジに気を遣って話さなかった。

 エッジもリディアに嫌われまいと、心の底に秘めていた本音を話せなかった。

 リディアもわるいし、エッジもわるい。どっちもおあいこ。

 

「ツキノワ育てながら、国と好きな女で両てんびん掛け続けてきたが……じいが死んで……我慢できなくなっちまってな」

「お墓参りの時には、もう決めてたんだね」

「国と違って好きな女にゃ代わりはいねえ。おまえと『普通』の夫婦になれなかったって後悔したまま死にたくねえんだよ」

 

 昨年の晩秋、エッジが提示していた次期国王の条件をツキノワが達成した。

 しかし、まるでそれを見届けたかのように、じいがこの世を去った。

 

 それを機にエッジは生前譲位の決意を固めたが、今は有事ではなく平時だ。

 今日決めたから、では明日から、と。そう簡単に譲位は出来ない。

 

 よって、ごく内々で翌年4の月1日——昨日付でツキノワに譲位する。

 そう日時を定めて、リディアには『当分の間』と称して。

 公務と同時並行で、譲位の準備を急ピッチで進めることにしたという。

 

「それ、クオレも知ってるの?」

「ああ。最初っから全部な」

「ええ……?」

「計画話したら、マジで家族になれるって協力申し出てくれたぜ?」

 

 既にこの時点でクオレから『ふたりで旅行行ってこい』と言われていた。

 旅行も1ヶ月となると、さすがにリディアの仕事の都合もつけねばならない。

 そのためミストの村長アリサと交渉し、リディアの長期休暇をゲットしたという。

 

(クオレだけじゃないかも……)

 ミストの長をつとめる親友の片割れ。兄姉同然のお隣さん夫婦。

 そのふたりと懇意にしている、元御伽衆の老忍者……などと。

 頭の中で、計画を知る者たちの見当をつけていたら。

 エッジが肩をすくめながら、自らを嘲笑うようにこう言った。

 

「つっても、今更プロポーズされたところで、おまえも困っちまうわなぁ」

 

 もう手遅れ。エッジがそう言いたげで、眉をひそめる。

 

「……どういうこと?」

「オレも若けえ若けえ思ってたが、じじい一歩手前だ」

「っ、何言っ……?」

「——おまえはハネムーンにこだわって、じじいと結婚ってごめんみてえだしよ」

「それとこれと」

「——王籍抜けても王族だった過去は消えねえ。オレと結婚したら、苗字がついちまう」

「!?」

 

 エッジがお断りされる理由を一方的に述べていたが。

 最後の理由を聞いて、リディアはきっとにらみつける。

 

 —— —— ——

 苗字は、別名ラストネーム。家族やご先祖さまから受け継がれた血統を表す。

 エッジの場合はエドワードが名、ジェラルダインが苗字にあたる。

 

 しかし、この世には苗字が存在しない町や村があちこちに点在している。

 火災発生前のミストもそれで、リディアたちは出生時に名を与えられただけであった。

 その後、移民を受け入れた影響もあったのだろう。

 先住民のローレルやミネルバは、結婚と同時に配偶者の苗字をいただいている。

 —— —— ——

 

 プロポーズをお断りされるのが怖いのか?

 だから、こんな時までカマをかけてきたのか?

 リディアがそうにらみを利かせても、エッジは意にも介さない。

 

「そんなオレと結婚してみろ。今までリディアだったのが、リディア・ジェラ」

「——いい加減にしてっ!!」

「っ……」

 

 とうとう堪忍袋の尾が切れてしまい、怒鳴ることでエッジの自嘲を遮った。

 

 その途端、怒りやかなしさまぜこぜの感情がこみあげてきて。

 涙をにじませながらも、エッジの姿をしかと視界に留めながらこう言った。

 

「苗字つくの嫌だって言ったことも……思ったこともないのに……! 勝手に決めつけないでよっ!!」

「おい、っ」

 

 リディアはエッジめがけて、ぴょんと跳ねるように飛びついた。

 エッジが身体をしかと受け止めてくれたが、声からしてやや驚いているように感じた。

 

 —— —— ——

 確かにエッジからの求婚——本当の結婚——は、不意打ちの出来事だ。

 それでも、正式な形ではないけれど、既に夫婦の誓いを交わしている。

 結婚指輪もお揃いでつけている。

 

 苗字がついたら、夫婦の証がまたひとつ増える。

 これを喜ばない人間がどこにいる??

 カマをかけられようが、かけられなかろうが……答えはひとつしかない。

 —— —— ——

 

 それでも今から告げる言葉を聞いたら、大喜びするに違いない。

 リディアはそう信じて、涙をぼろぼろ流しながらエッジを見上げる。

 

「あ、あたし……エッジのことが好きになってから、何がなんでも……味方でいようって決めて、ずっと……」

「ああ。昨日もそうだったな」

「だから、これもエッジに賛成……っ! あたしを、リディア……ジェラルダインにして……っ!!」

 

 エッジの服を両手で強く握りしめながら。

 咄嗟に考えたプロポーズの返事を、途切れ途切れに伝えてあげると。

 エッジが目を細めながら顔に近付いてきて、頬に唇を寄せてくれた。

 

「ありがとな」

「う、っ……!」

「これから、またよろしく頼むぜ」

「それは、っ……こっちの台詞だよ……!」

 

(ありがとう……!!)

 嬉し涙を止められない。リディアはエッジの胸に顔を埋めた状態で。

 ひっくひっくと嗚咽を続けながら、自身の胸に固く誓う。

 

 —— —— ——

 エッジと本当に夫婦になれるなんて、まるで夢のよう。

 けれど、夢のままでは終わらせない。

 

 エッジと出会ってから25年が経った。

 気がついたら、お互いに人生折り返し地点を過ぎてしまったけれど。

 これからも今まで以上に、エッジとふたりで幸せをいっぱいつかみ取って。

 何も思い残すことないように、たった一度きりの人生を終えてやる!

 —— —— ——

 

「おい」

「っ……」

「おい、リディア」

「っ……」

「顔上げてみろ」

「え……っ!?」

 

 エッジに何度もちょんちょん身体をつつかれて頭を上げた瞬間、思わず息を呑んだ。

 

 墓地にいたはずなのに、視界一面に広がるのは桃一色の世界。

 辺りをぐるりと見回せば、左右正面後方……。

 リディアとエッジの周囲を取り囲むように、桃色の花びらが無数に舞い散っている。

 

「祝いにしちゃあ、粋じゃねえか……」

「お母さん……」

「? なんか言ったか」

「このさくら。——お母さんとお父さんかも!?」

 

 ***

 

——12年前

 

 真月の戦いが終わってから、しばらく経ったある日。

 ジャンヌと雑談していたら、リディアの母エスタの話題に移った。

 

「お母さんに身体を貸していた間、お話出来た?」

「ああ。おまえやミゼル、ミストのこととか……たくさんな」

「よかったね……!」

 

 真月の戦いの最中、ジャンヌは魂と化したエスタと再会。

 ミストとミストドラゴンのたまごを守りたい。

 無二の親友からのそんな要請を受け入れて、身体を貸してあげた。

 そしてエスタとともに、隕石をも弾く霧を集落一帯に発生させていた。

 

「ひとつ朗報があるぞ」

「なになに?」

「おまえ、だいぶ前に墓で不思議な風が吹いたって言ってたろ」

「うん」

 

 リディアはこれまで何度ともなく墓地に訪れているが。

 一度だけ自然発生とは思えない現象を出くわしたことがある。

 

 —— —— ——

 エッジと夜の関係を結んでから、はじめて幻獣界へ里帰りした日。

 ミストを発つ前に、エッジとふたりでこの墓地を訪れた。

 

 エスタとニクスの墓の前で、リディアが黙とうを済ませた直後。

 エスタの墓に置かれたコスモスの花が数本、ふわりと浮いて隣——ニクスの墓にぽとぽと落ちた。

 —— —— ——

 

「エスタに確かめたらな。その風、ニクスの仕業に違いないってさ」

「ほんと……!?」

 

 ジャンヌの話を聞いた時、とても喜んだものだ。

 あの日、風が吹かなかったら。エッジと結ばれていなかったかもしれない。

 顔も見たことがない父親、ニクスが縁を結んでくれたのだ、と。

 

 ***

 

「ああ、そういうこともあったな……!」

 

 エッジも当時のことをすぐ思い出してくれたらしい。

 にやりと笑みを浮かべてから、再びこちらに視線を戻した。

 

「ってことは、オレはおまえのおふくろさんや親父さんからお許しをもらえたってこった」

「よかったね、エッジ……!!」

「まあ、このオレがアウトなら誰もおまえの旦那にゃなれねえって」

「ふふっ……確かにそうだねっ……!」

 

 お互いに顔を見合わせて笑い合ってから。エッジに肩を抱かれながら眺め続ける。

 桃色の花びらがくるくるふわふわ舞い飛ぶ様を。

 

 —— —— ——

 リディアとエッジが主演と演出をつとめる舞台『たった一度きりの人生』。

 25年前に始まった舞台は、これから先もまだまだ続く。

 

 けれど、いつか必ず終幕は訪れる。

 その時カーテンコールの拍手と喝采を浴びながら幕を閉じるために。

 ふたりは本日から正真正銘の夫婦として新たな生活をスタートさせる。

 このさくら吹雪は、舞台の幕間にもってこいの演出……!

 —— —— ——

 

.

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