※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点


モーニングムーン

 

 

——7の月17日 午前5時

 

 

 エッジの左目がぱちりと開いた。

 『短眠の術』を使って、泥のように眠っていたが時間切れのようだ。

 エッジも、自身の腕の中でまだ眠っているリディアも一糸まとわない状態である。

 

 リディアの身体をぎゅうと抱きしめて、柔らかい肌を全身で堪能しつつ。

 つい数時間前のことを思い出す。

 

 —— —— ——

 朝までヤると予告したのに、すぐにリディアが眠ってしまうとは思わなかった。

 さすがに、叩き起こしてまで続きを強要するような鬼畜さは持ち合わせていない。

 結局エッジも術を用いて、リディアの後を追うように眠りについた。

 —— —— ——

 

 今のおおよそな時刻を知ろうと、首を動かして東の窓を見やる。

 そうしたら、小さな白い半月と金星が、すぐ近くに並んでいるのが見えた。

 

 半月はつい数時間前まで、この部屋と好きな女の肢体を薄白く照らしてくれていた。

 それなのに、今は所在なげに薄青に浮かんでいる。

 そんな有明月と明けの明星が、どこか自分たちの関係と被って見えた。

 

(……乙女思考も大概だな)

 ほんの一瞬でも、似つかわしくないことを発想してしまった。

 そんな自分に呆れて、首を軽く横に振った。

 

 リディアの額にそっと触れて、前髪を上にかきあげた。

 濃紺の布で隠されている目元を、じっと見つめる。

 

 この状態で、この距離で……。

 互いの視線を交わすことが出来れば、どれだけ幸せだろう。

 最後に視線を交わしたのは、昨夜リディアがこの家の扉を開けた瞬間だった。

 それ以来、夜空を思わせるかのような濃紺の瞳を見ることは叶わない。

 

(だめだな……欲張りになっちまってる)

 エッジは遠巻きでなら、リディアの顔や瞳を見ることが出来る。

 それを込みで、彼女の近くにいられる猶予をもらったのだから、十分だと思わねば。

 

 壊れ物を扱うようにリディアの額に唇を落として、エッジはベッドから抜け出した。

 着替えを済ませると、床に膝をついてベッドにもたれかかった。

 左手で、シーツに隠れていないリディアの右手をそっと包み込む。

 

 人を傷付けた瞬間という生々しい感触を抱えたままの、小さな白い右手。

 エッジに抱かれている間、その手が救いを求めていたように見えたのは気のせいだろうか?

 

「……なんとかしてやるからな」

 

(オレの顔を見たら、現れる症状は難しいかもしれねえが)

 自国のいざこざに、リディアを巻き込んだ責任を負わねばならない。

 今触れている右手は、必ず治してやる。

 すうすう寝息を立てているリディアに向かって、エッジはそんな誓いを立てた。

 

 この世界には、記憶や感触を消す術は一切存在しない。過去は消せない、変えられない。

 そのことをリディアもエッジも重々承知している。

 それならば、容易に思い出すことがないように。

 より強烈な印象や刺激で上書きしてあげればいい。

 

 ミゼルが工夫ひとつで、炎への恐怖を軽減出来るようになったのだから。

 リディアにも可能なはず。

 

 未だリディアに残された心の傷を、今後どう対処してあげたらいいか。

 今後リディアにどういった関わりをもつか。

 しばらくの間、そのままの姿勢をとりつつ、頭の中で策を巡らせていた。

 

「う……っ」

 

 突然リディアが小さなうめき声を上げて、ぱっと手を離した。

 お目覚めの時間がやってきたようで、様子を窺っていると……。

 

「いやああっ! 何するのよぉ! 離してったらぁ!」

 

 リディアが大声で叫びながら、跳ね上がるように起き上がった。

 

『リディア!?』

 

 拒否反応を示されないようにセシルの声色で名を呼ぶ。

 そして、暗闇の中をさまよう彼女の右手首を強く握りしめた。

 

「あぁ……夢かあ……よかった」

 

 ほうと息をつき、安心したようなリディアの姿にどきりとする。

 起き上がった拍子にシーツがはがれて、上半身が晒されている……!

 

 裸体の彼女をじっと見ようものなら、また欲情しかねない。

 極力身体を見ないようにしながら、仰向けに寝かせて首元までシーツをかぶせてあげた。

 リディアも自身が裸でいることに気付いたようで、シーツの端を両手で握りしめている。

 

『怖い夢でも見た?』

「うん、あたしが眠れる森の美女の王女で……エッジが王子さまで……」

 

 それから、リディアが夢の内容を話してくれた。

 昨夜と同じくエッジに襲われてしまう夢を見て、叫び声を上げたのだろう。

 そんな予想を立てていたら……。

 

『それのどこが怖いのかな……?』

 

(頭ん中メルヘンチックすぎるだろ……)

 リディアが話してくれた夢の内容は、予想とは裏腹。

 いかにも夢といわんばかりのおとぎ話もどきで脱力してしまった。

 

「最初はまだよかったの。そうしたら、最後の最後に王子さまが——!?」

『どうしたの』

 

 リディアが言葉を途中で止めて、動かなくなってしまった。

 口は半開き、天井を見上げたままの彼女に声をかけたが返事がない。

 

「あのね……」

 

 1分ほど経ってから、ようやくリディアがエッジがいる方向に首を動かして口を開いた。

 

「カルミネにさらわれた時、あの人に……」

 

 —— —— ——

『しかし、この物語の結末は大間違い……王子の正体は実は魔物だったのだ』

『目が覚めた王女は王子のふりをした魔物に地獄へ連れられ、二度と戻ってこなかった。これが正しい結末だ』

『じきに魔物がここに現れる。王女のきみに、奴を地獄へ追い払う方法を授けてあげよう……』

 —— —— ——

 

 リディアの言う、あの人とは言わずもがなエミールのことだ。

 童話の結末は間違い。そんな持論を展開していたと話してくれた。

 

『夢を見たから思い出したんだね』

「うん。続きはまだ……」

『もういい。何を言われたか大体わかるから』

「あのぉ……」

『何だい?』

「そろそろ、エッジの声に戻さない?」

 

 ほんの数時間前、パニックに陥っていたリディアを落ち着かせたセシルの声。

 ……ではなく、エッジ本人の声がいいとリディアが言う。

 

 許しをもらって以前と同じ関係を続けると決めただけで、こうも変わるものなのか?

 それでも、声だけでも自分が必要とされていることに喜びを感じてしまう。

 

『……いいのかい?』

「途中で1回戻った時、怖かったけど平気だったよ。それに今日は何もしないって、声ですぐわかるもん」

 

 視覚を遮られて、聴覚が鋭くなっているのだろう。

 口布を通すためにこもりがちな声で、エッジが着替えを済ませた。

 リディアはそう判断したようだ。

 

『じゃあ……「これでいいか?」』

 

 ヤリたいのは山々だが、今日はリディアと共にやりたいことがある。

 ヤるつもりはないので、声を本来のものに戻した。

 

「うんうん。ずっとセシルだと調子狂っちゃって」

「つっても、昼間も目隠しはきついだろ」

 

 すいと指で、リディアの目を覆う濃紺の布を撫でる。

 すると、後を追うようにリディアも自身の目元を左手でそっと押さえた。

 

「そうなの。これじゃ何にも出来ない……」

 

(オレは昼も目隠しで構わねえんだけどさ)

 それでは毎回ここにやってくる度に、リディアを抱きっぱなしになるのが目に見える。

 今までと同じがいい。リディアのそんな望みは叶えられない。

 

「さっき考えたんだけどよ」

「なあに」

「昼にオレが来た時は、帽子かぶりゃいいんじゃねえの?」

 

 この提案は、先ほどエッジが思案を巡らせていた時に浮かんできたものだ。

 

 室内で帽子をかぶるとは、なんともおかしな話である。

 しかし、目深にかぶれば、うっかりエッジの顔を見ることも減るだろう。

 回避率は、高ければ高い方がいいに決まってる。

 慣れたら帽子を外して、少しずつ慣らしていけばいいのだ。

 ……それまで、リディアとの関係が続いていたら、の話だが。

 

「あ……そういうことかあ。でも、帽子持ってないからどこかに買いに行かなきゃ」

「おまえ、今日休みだろ?」

「うん」

「だったらさ。帽子買うついでに、今日は1日オレに付き合え」

「ええ? デートみたいでやだ……」

 

 誘ったと同時に、リディアがシーツを頭からかぶって不満をもらした。

 

「おま……! なんでセックスの時より嫌そうにすんだよ!?」

「痛っ! もう、下品なこと言わないでちょうだい……」

 

 晒されているリディアの右手の指を、エッジはぴんと中指で軽く弾いてやった。

 

(デートが嫌って、今更すぎだろ!)

 旅を続けていた頃は、ほぼ毎回エッジと組んで町に買い出しに回っていたくせに。

 不定期ながら通い婚もどきを、この先も続けたいと意思表示したくせに。

 

「……付き合うって……他に何するの……」

 

 シーツの中からぼそぼそと、リディアが本日の予定をたずねてきた。

 リディアが断る訳がない盤石のスケジュールを、既に思案済みである。

 エッジはしめしめとほくそ笑んでから、口を開いた。

 

「そうだな。まずはエブラーナに戻って、風呂に入る」

「……!」

 

(よし!)

 軽めの牽制で、早速シーツが大きく揺れた。

 それを見届けると、したり顔で言葉を続ける。

 

「あとは、甘いもん食わせてやんねえとなあ」

「……ほんと?」

 

 大好物をちらつかせてやると。

 これまた予想通り、リディアがシーツから顔半分をのぞかせた。

 

「ああ。ケーキまるごとでも構わねえぞ?」

 

 昨夜、処女卒業祝いにと予告しておいた。

 そのおかげで、リディアの食い付きがとってもいい。

 

「どうする? 行くか、やめとくか」

「……しょうがないなあ。エッジに付き合ってあげる」

 

(やったぜ!)

 これで今日1日は、リディアを独り占め出来る。

 もうひとつ、喜びそうな場所に連れて行くことだけは隠しておくことにした。

 

「じゃ、決まりな。昨日遅かったし、もうちょい眠っとけ」

「もう起きるよ。お腹空いちゃって……」

「なら、あっちで待ってるから」

 

 さすがに着替えに立ち会うのもどうなのか。

 エッジが寝室を立ち去ろうと背を向けた瞬間、「待って」と呼び止められた。

 

「なんだよ」

「……ちょっと顔貸して」

 

(……あれだな)

 先ほどと一転して、リディアの声が低くなり、不穏な気配を漂わせている。

 それでも、エッジは言われるがまま、「どーぞ」と、自身の顔を彼女の近くに寄せた。

 

 気配を察知したのか、リディアが手を伸ばしてきた。

 手探りでエッジの顔……特に左頬をぺたぺたと触り始める。

 顔の傷に配慮して、狙い場所を定めているようだ。

 

「目、つむっててよ」

 

 エッジは左目を開けたまま、軽く歯をくいしばるだけに留める。

 

 —— —— ——

 冗談交じりの口説き文句、いたずらやちょっかい……。

 初めて出会った頃から、エッジはこれでもかと言うぐらいリディアに干渉していた。

 時折度を超えた罵詈雑言を浴びせたこともある。

 

 それは、リディアの気を引くためではない。

 張り手を食らったり、大嫌いと目いっぱい大声で叫ぶようにわざと仕向けることで。

 旅の道中、どうしても溜め込んでしまうリディアの負の感情を解放させるためであった。

 —— —— ——

 

 こうして自身を差し出すのも、ずいぶん久しぶりだ。

 そうつらつら、昔を思い出していると……。

 

「——エッジのばかっ!!」

 

ばちーん!!

 

 左頬に強い衝撃。

 同時に、エッジの左目の前に大きな火花がぱちぱちと飛んだ。

 

(くっそ……胸、隠しやがって……!)

 張り手を食らう瞬間に、リディアがかぶっているシーツがぽろりとはがれるだろう。

 そう思っていたら、左手でしっかり握って隠していた。

 

 当分拝めないので、最後にリディアの白く柔い胸を左目に焼き付けてやる。

 そんなエッジの下卑た狙いは大外れ。

 最初から目を閉じておけばよかったと後悔したのであった。

 

 

——1時間後

 

 

 ミストの朝は早い。

 農業を営む住民が、そろそろ動き出してもおかしくない時間である。

 

 リディアの自宅は林に囲まれており、周辺には民家も畑も何もない。

 昼間は、その付近を通る者がそこそこ多い。

 しかし、それ以外の時間帯はリディアに用がある者ぐらいしか通らない。

 よって、ミストの住民が気付くことはないだろう。

 ……あのリディアが、男を自宅に連れ込んでいるだなんて。

 

 物干し竿に吊るされた大小の白い布が、ばっさばっさと大きく激しい波を立たせている。

 エッジは少し離れた場所でしゃがみ込み、その様をぼんやりと眺めていた。

 

(もういいか)

 最初動きが鈍かった白い波は、今や風一つで軽々と浮き上がるようになった。

 十分乾いたと見越して、両手で組んでいた印を解くと、風が止んだ。

 それまで波と化していた白い布は、秒を追うごとに竿にぶら下がるだけに落ち着いた。

 

「まさかこうなっちまうとはなあ」

 

 エッジは、膝の上で頬杖をついて、にやにや笑いながらそうぼやいた。

 

 —— —— ——

 リディアがエッジの頬を平手打ちしてから、こんなことを訴えてきた。

 

『シーツ汚れちゃったじゃない!』

『タオル何枚使ったと思ってるの!』

『ああ、身体……動かない……』

 

 恨み混じりの苦情や抗議のほとんどは、生活感あふれる内容であった。

 おまけに捨て台詞が、『みんなに気付かれないうちに洗濯してきてっ!』ときた。

 

 何が不思議かといえば、よくも騙した! 処女を奪った!

 ……などといった、性的行為について一切触れやしなかったこと。

 —— —— ——

 

(6年前と同じオチだったら、今頃オレはエブラーナで泣きながら修行してたな)

 という訳で、エッジは洗濯をして、ただいま裏庭で干しているところである。

 

「……よっこらせ」

 

 腰を上げるために、うっかり掛け声を上げてしまった。

 

 昨夜の誰かさんの言葉は、エッジの精神年齢を2、30年跳ね上げるほどの威力があったらしい。

 

 年寄りじみた自身の挙動に、がっくりと肩を落とす。

 すると、背後から笑いをかみ殺すような声がかすかに聞こえてきた。

(誰のせいでこうなっちまったと思ってんだよ!)

 

「おいリディア」

「……!」

「黙って突っ立ってても、全部オレには筒抜けだぞ」

「もうっ……! ほんと、忍者って……だいっきらい!」

 

 ざりざりと土を蹴り飛ばすような荒っぽい足音からして。

 リディアが憤慨しているのがバレバレである。

 

 長年慣れ親しんだリディアの気配が、背後で止まった。

 しかし、エッジは振り返らずにこう口を開いた。

 

「本職を差し置いてのぞき見たぁ、おまえも怖いもん知らずだな」

「違うもん。きちんとやってるのか見にきただけ」

「信用出来ねえなら、最初っから頼むなよ……」

「だって、お茶汲みも洗い物も出来たら洗」

「——だったら、触ってみろ」

「え」

「ぜってえ驚くぞ?」

「……ほんとかなあ」

 

 エッジを通り越して、リディアがと不審げに物干し竿に近付く。

 そして、白いタオルをひとつ手に取った。

 

「うそぉ……!」

 

 身体をびくりと震わせてから、次々と他の布も触って確認している。

 驚いているようなリディアの様子を確認してから、エッジはくるりと背を向けた。

 

「……ふかふかしてる!」

「干す前に、これでもかってぐらい振ってやりゃいいだけだ」

 

 ちらりと振り返ると、信じられないと言った表情でリディアが驚いている。

 エッジはすぐに視線を戻して、にやりとほくそ笑んだ。

 

 —— —— ——

 エッジは本来、自国で家事を一切やる必要がない。

 ところが、若い頃に脱走と放浪を何度も繰り返し、セシルたちと旅をした。

 それらの経験のおかげで、料理以外の家事を難なくこなせる。

 

 ついでに、リディアを啼かすことが出来たのも、幾人かの女性と夜を共にしたおかげ……。

 —— —— ——

 

(このために、今までオレは生きてきたんだな……!)

 そんな都合のいい錯覚を覚えるぐらいには。

 若かりし頃の無謀な行動が、今こうしてリディアと関わりを持たせてくれている。

 

「国王さまなのに、家事も完璧に出来ちゃうんだあ。本当すご」

「——今日だけだぞ」

「そう……」

「あのなぁ。客にこんなことさせるって、常識じゃありえねえんだぞ?」

「……エッジはお客さんじゃないもん」

「じゃあ、オレは一体何なんだ?」

 

 リディアに背を向けているが、気配と声で彼女の感情と行動は大方つかめる。

 最初はやたら上機嫌だった声の抑揚が、まあ下がること下がること。

 今後ここを訪れた際、エッジにあれやこれやさせるつもりだったようだ。

 

 今のリディアは頬を膨らませているに違いない。

 エッジがそう思っていたら。

 

「うそっ、わかんないの?」

 

 リディアがけらけら笑い出して、辛辣な言葉を言い放った。

 

「エッジはあたしのヒモだよ」

「……くそっ!」

「やだあっ!!」

 

 後ろ手で大方の位置を探って、リディアの髪をぐしゃぐしゃ荒っぽく撫ぜてやった。

 

「どいつもこいつもヒモヒモ言いやがって!」

「やめてっ! 冗談だってば!」

 

 怒声は上げたが、心底怒ってはいない。

 ただ、リディアには、『みんなひどいこと言っちゃだめ! エッジはヒモじゃないよ!』と。

 真っ先に、自分をかばう立場に回ってほしかった。

 それが、ミストの住民と同様にからかってきたのが面白くない。

 

「……ま、全部洗って下さいって、頭下げたら考えてやってもいいけどな」

「絶対頼まない! それぐらい自分でやるもん!」

 

 洗濯を押し付けられたといっても、ベッドのシーツやタオルと言った布製品だけ。

 リディアが身に付けている衣類は一切洗っていない。

 そもそも、服は異世界製だから洗濯する必要がないと以前聞いたことがある。

 

「朝メシ出来てんのか?」

「……うん……パン焼いただけだけど……」

「上等。さっさと食っちまおうぜ」

「……じゃあ、エッジが先歩いて」

「はいはい」

 

 お互い顔を見ないよう配慮し合っているせいで、傍目にはぎこちなく映るかもしれない。

 それでも、会話そのものは以前とほとんど変わりはない。

 

 リディアと生を共に過ごす望みはもう捨てた。

 けれど、彼女が許す限り、たくさん思い出を作っても許されるだろう。

 ……それが、どんなにささやかなものだとしても。

 

「振り向いちゃだめだよ」

「わーってるって」

 

 帽子さえ手に入れることが出来れば、配慮の応酬もかなり減るだろう。

 今日1日、リディアと共に目的地を巡って、いかに彼女を満足させられるか。

 エッジは、後ろを歩くリディアの気配を背後で感じつつ。

 頭の中でデートもどきの段取りを練り始めたのであった。

 

(もどきじゃなくて、デートでいいだろ)

 

.

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