フェイクラバーズ 作:かえで
「……っ」
窓の向こうから強い朝日が射しているのを感じて。リディアは目をぱちりと開かせた。
シーツの中で一糸まとわぬ姿なのは、昨夜エッジとセックスしていたから。
朝までヤる。そう言われていたのに、途中で起こされることもなく。
2回目が終わってから意識を失い、そのままベッドで眠っていたようだ。
(怒ってるかな。知らないふりされちゃうのかな……?)
エッジがどんな反応を見せるか、すごく怖い。
睦事中に禁じられていた、エッジの名を呼んだだけではない。
絶対言わない。そう心に決めていたのに。『だいすき』と、思いを告げてしまったから。
シーツを肩から羽織るように、気だるい上体を起こしてから、ベッドから降りた。
エッジは今、隣の部屋——台所兼居間か外にいるだろうから。
—— —— ——
セックスした翌朝は、いつもエッジが先に起きる。
汚れたタオル、ごみや飲みっぱなしの食器の片付け。
リディアが寝ている間に、まるで童話の『こびとのくつや』さながらに。
昨晩致した形跡を一切消してくれている。
—— —— ——
「何これ」
(置き手紙……)
隣の部屋へ向かおうとしたら、書机の上に何か置かれているのを見つけた。
書いた記憶も置いた記憶もない、1枚の用箋。
とても嫌な予感がする。
リディアは書机に近付いて、恐る恐る用箋を手にした。
『授業料完済』
用箋に書かれていた、たったの5文字で察した。
(とうとう、気が済んじゃったんだ……)
昨日限りで、夜の関係が終わったことを。
おそらく、昼もエッジはミストに来ることはないことを。
ルールを破って名を呼んだからだろうか?
そう思ったが、罰ゲームにしてはこれは厳しすぎる。
(やっぱり、昨日で最後のつもりだったんだ……!)
この春から、いよいよ終わりがくる予兆は見られていた。
朝までヤるなんて、冗談交じりの脅し文句みたいなもの。
最初から黙って帰るつもりだったに違いない。
そう結論付けた途端、双眸がじわっと潤んできた。
やがて、涙の雫がぼたぼたと床にこぼれ落ちると共に、身体の力も抜けていく。
上半身裸のままで、ぺたりとその場に座り込んだ。
とてもではないが、今シーツを羽織っている余裕はない。
「……う、っ……!」
『終わりは突然やってくる』とは、よく言ったものだ。
こうなる覚悟も決めていたはずなのに。
いざ、この日が来てみれば、胸が痛い。涙も止まらない。
「ず、ずるいよ……エッ……ジ……!」
何が悲しいかと言えば、エッジが黙って消えてしまったこと。
—— —— ——
カルミネの事件に巻き込まれた。策略で身体の関係を持たされた。
そんなこと、全部許せるぐらいには。
ミストに戻ってきてから、エッジにしてもらったことを数え上げたらキリがない。
せめて最後に、『ありがとう』ぐらい言わせて欲しかった。
—— —— ——
エッジがいる日常が、ついに終わってしまった。その寂しさや悲しみに襲われながら。
お礼どころか、エッジに何もしてあげられなかった。そのことを悔やみながら。
夏の陽光に照らされた部屋で、リディアはひとり泣き続けたのであった。
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