フェイクラバーズ 作:かえで
「ふたりとも、明後日頼むよー」
「はーい」
「……がんばります」
明後日、ミストで白魔法巡回指導の打ち合わせが行われる。
バロンにある巡回指導の運営本部から訪れる職員と、ライザとミゼル。
そして、ライザにどうしてもとせがまれて、リディアも参加する予定だ。
「おばちゃんたちによろしくね」
「はいはい、伝えとくよ」
「——おみやげ開けちゃだめだよっ!?」
「開けませんってー」
ばたん
「はぁ……」
最後にリディアから、きっとにらまれたが笑って見送ってあげてから。
玄関の扉を閉めると同時に大きなため息をついてしまった。
「やっぱり、わかんなかったか」
ミゼルは苦笑を浮かべながら、居間机の端に木箱を置いた。
(あの人が言った通りだったな)
木箱に入っている、青い石。
その正式名称——撒菱は、忍者によほど興味がある者でないとわからない。
リディアはその名を知っていても、実物はおそらく見たことがない。
本日の昼間、そう話してくれた人物が脳裏によぎった。
この撒菱が青く塗られている理由。青い撒菱を使う人物や使用目的。
これをライザ経由でリディアに託した人物とその理由……。
ミゼルは、撒菱にまつわる事情を全部知っていたけれど。
リディアたちの前では、あえて知らないふりをした。
近いうちに、名称だけは教えてあげるつもりでいる。
§
「さて、晩ごはん食べますかぁ」
居間机周辺の床に散らばっている紙くずを集める。
それらをどさどさごみ箱に投げ入れてやった。
引き続き、取っ散らかった机の上を片付け始める。
ミゼルは、妻のようなずぼらさを一切持ち合わせていない。
散らかった場所では、ごはんが食べられない人間であった。
机に転がる、ブリキ缶ふたつを視界に入れた途端。表情を渋くさせた。
缶同士が長い糸で繋がれているそれは、ある男性がくれたものである。
—— —— ——
男性は、誰かさんを支える年配おふたり様の片割れ。
彼は本日、ミストにリディアもノアもいない。
それをわかった上で、ミゼルに会いにわざわざやってきてくれた。
男性は、ある会へミゼルを勧誘するためにミストにやってきたという。
ミゼルが快く入会に応じると、すすり泣くような声でこう話してくれた。
『会が存続出来るのも、ミゼル殿のおかげであります……うう、っ』
—— —— ——
はっきり言おう。あの名称と入会条件では、会員が増える訳がない。
遠い国からここに足を運んでいただいたから、男性に何も言わなかったけれど。
(分断に必死だなあ……ぼくたちは邪魔するつもりないのに)
ブリキ缶は、その男性と会話するために必要不可欠なアイテムだった。
ただ、この家は狭すぎたので、長い廊下がある公民館へ行った。
そんなしち面倒くさいことをしないと、あの人たちと連絡が取れないとは……。
そういう風にしてしまった誰かさんに呆れてしまう。
§
リディアから預かった木箱を、ブリキ缶の片割れの中に入れてから。
それらを両手に抱えて隣の寝室へ向かった。
寝室内は居間から漏れる照明の光に薄く照らされている。
部屋の奥へ進み、自分用引き出しの前で腰を降ろした。
引き出しを開けて、手にしていたブリキ缶を隠すように奥にしまい込むと。
突然、頭の中に何かがひらめいた。
「『 会』なんてどうかなあ……?」
まるで童心に帰ったように、ミゼルは楽しそうにつぶやいた。
今度あの人たちに連絡を取れたら、進言してあげよう。
これなら会員は増えに増えて、会長も副会長も大喜びするだろう。
ミゼルは引き出しを閉めて立ち上がると、片付けの続きを行うため。
明るい居間に戻ったのであった。
亡き幼なじみの娘であり、妹分のリディアが幸せになれるなら。
村長でいられる間、出来る限りのことをしてやりたい。
それと共に、リディアに思いを寄せる誰かさんにも……。
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