※この作品はR-18です。

フェイクラバーズ   作:かえで

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エッジ視点
次から新章(半分超えました)


君を待っている

 

 

——11の月12日 

 

 

 この日の午後。ツキノワからこんな報告書がエブラーナ城に届いた。

 

 —— —— ——

 11の月11日。

 リディアはこの日、ルカの送迎で幻獣界に日帰り帰郷した。

 夕方、地底へ戻ってくることになっていたはずなのに。

 その時間になっても、夜になっても、リディアは幻獣の洞窟から出てこない。

 

 ルカが回復の壺を持参して、父ドワーフ王と共に洞窟の奥に向かってみれば。

 地上と幻獣界を結ぶ唯一の通路——転送盤が跡形もなく消えていた。

 

 翌12日。

 ルカは早朝から、村長ラルフに昨日の出来事を報告するため、ミストへ。

 報告を受けて、ラルフは村中にこう発表した。

 リディアが幻獣界から帰ってきていない。転送盤が撤去されており、幻獣界にも入れない、と。

 —— —— ——

 

 報告書を読み、エッジが居ても立っても居られず。単身城を飛び出したのは言うまでもなく。

 

 

——夕方

 

 

 幻獣の洞窟にある、地下3階の最奥エリアに向かって。エッジは通い慣れた道を突き進む。

 自身の行く手を阻むモンスターを、二刀流でざくざく切り刻みながら。

 城から持ち出したアイテムで、歩けば歩くほど削られる体力を時折回復しながら。

 

§

 

 目的地に辿り着くと、中央にあったはずの転送盤が消えていた。

 それがなければ、幻獣界に入れない。

 

(やっぱり……)

 エッジは届いた報せを信じたくなかった。どうか間違いであってくれ。

 そう思いながら、自身の目で確かめにきた。しかし、報告書に書いてあった通りであった。

 

 ふらふらした足取りで、エリアの中央に進んだ。

 力尽きたように、その場に両膝をつくと、転送盤があったと思われる箇所を見つめる。

 

 はじめから転送盤など存在していなかった。

 そう勘違いしてしまいそうなぐらいの綺麗な撤収ぶりに、怒りが止まらない。

 

「っ、リヴァイアサン……!!」

 

 絞り出すような声で、今の状況を招いた主犯格と思われる存在の名を呼ぶと。

 拳を強く握りしめて、宙高く両手をぶんと振り上げた。

 

「——リディアを閉じ込めやがってっ!! こっち帰せっ!!」

 

 出せ、帰せ、中に入れろ。怒りに任せて、思いのたけを叫びながら。

 主犯格の存在に見立てた転送盤の跡地を、両拳で何度も何度も叩き続ける。

 

 —— —— ——

 これは幻獣界を統べる、あの王の仕業に違いない。

 リディアはたまに幻獣界へ里帰りしながら、ミストで普通の女として一生を終えるつもりでいたのに。

 みんなに黙って、幻獣界に残ろうとする訳がない!

 —— —— ——

 

 どれだけエッジが地面を叩いても、叫んでも、反応はない。

 自身の嗚咽寸前の声が、洞窟内に響き渡るだけ。

 

 異世界に、この叫びが届いていないのか? 届いていても無視しているのか? 

 それすらも、エッジには見当がつかない。

 

「……っ、頼む……! リディアを……帰してくれ、っ……!!」

 

 エッジは自身の無力さに絶望して、その場にうずくまった。

 目を閉じて地面に額をつけた姿勢で、失意と絶望のどん底に浸る。

 

 —— —— ——

 こんなことになるぐらいなら。

 9年前にミストへ戻ってくるように、リディアをそそのかさなければよかったのか?

 時間がズレたまま、地上で暮らす自分たちが先に年老いていけばよかったのか?

 

 このままでは、リディアがミストで暮らした9年間は何の意味もなくなってしまう。

 人間では太刀打ちできない力で、リディアの意志と行動を縛るなんて、あんまりだ!

 —— —— ——

 

 ……どれぐらい、そうしていただろう。

 エッジはやがて、ぐっと握りしめた両拳を支えにしながら、おもむろに立ち上がった。

 

 先ほどまで見せていた、怒りや無念と言った表情や気配は消えている。

 代わりに、視線の先に想い人がいる。そんな愛しさにあふれた表情で。

 転送盤の跡地へ向かって、静かな声でこう語りかけた。

 

「……また……来るからな……」

 

 エッジはそう言い残すと、背を翻して最奥エリアを後にしたのであった。

 

 

——11の月13日

 

 

 この日の未明。

 エブラーナ城に、バロンとファブールに常駐する諜報からそれぞれ報告書が届いた。

 

 —— —— ——

 12日の午後。

 ミストの村長ラルフがドワーフ国の王女ルカを伴い、バロン城を訪れた。

 

 ふたりはバロン国王夫妻セシルとローザに面会。

 リディアが幻獣界から帰ってこないこと。

 幻獣界唯一の出入り口、幻獣の洞窟の転送盤が消失したこと。

 ラルフは以上2点を、セシルとローザに報告。

 続けて、リディア帰還の協力——幻獣界への干渉——を要請した。

 セシルから快諾の返事をもらうと、ラルフはバロン城を後にしたという。

 

 ラルフはその後、単身ファブール城に向かった。

 ファブール国王ヤンにもセシルと同じ報告をして、協力を要請。

 こちらも良返事をいただいたという。

 —— —— ——

 

(新しい村長、なかなかやるじゃねえか……)

 報告を読んで、エッジは感心した。

 ミストの村長としてラルフが取った初動対応は正しい。

 

 リヴァイアサンに実力を認めてもらえた、バロン国王セシル。

 城へ遊びにやってくるぐらい、シルフと懇意なファブール国王ヤン。

 

 ミストには、幻獣界と直接関わる者がリディア以外いない。

 そのリディアがいない以上、ミストはセシルとヤンに協力を要請するしかない。

 

 

——11の月14日

 

 

 日にちが変わってすぐ。

 前日に続き、バロンとファブールの諜報。そして、ミストにいるツキノワから報告書が届いた。

 

 —— —— ——

 13日。セシルとローザが、赤い翼の飛空艇に乗って幻獣の洞窟へ。

 洞窟の最奥に辿り着くも、転送盤はなかった。

 セシルが、リヴァイアサンやオーディンの名を呼んでも無反応。

 

 それでも、いつか転送盤が復活するかもしれない。今後も様子を窺いに、ここへ足を運ぶことにしよう。

 セシルとローザはそんな結論を出してから、洞窟から撤退してバロン城へ帰還した。

 

§

 

 ヤンもシルフの洞窟に赴き、シルフたちに幻獣界に潜入してもらうことにした。

 ところが、結界が張ってあり、彼女たちも幻獣界に入れなかった。

 

 今後も定期的に幻獣界へ潜入を試みて欲しい。何かあったらファブール城に連絡を。

 ヤンはシルフたちにそんなお願いを残して、シルフの洞窟を後にしたという。

 

§

 

 同じく13日。ラルフがミゼルほか一部の先住民を交えて、緊急会議を開いた。

 

 ただ、ツキノワが会議があったことを知ったのは、ミゼルが会議を終えて帰宅してから。

 そのため盗聴出来ず、話し合いの内容まではわからないという。

 —— —— ——

 

 このように、エッジは世界各地にばら撒いた諜報のおかげで。

 ミストやセシルたちの動きを追うことが出来ていた。

 

§

 

 午前中、朝早くから執務室で新聞を読んでいたら。

 バロンの新聞A、B、Cに、それぞれこんな記事が載っていた。

 

 —— —— ——

 召喚士リディア嬢が幻獣界から未帰還。現在、幻獣界に入れず、連絡すら取れない状況。

 以上2点を、バロン城が公式発表した。

 —— —— ——

 

 3紙全て、バロン城が発表した内容をそのまま報じただけであった。

 なぜリディアは帰還出来ないのか? なぜ幻獣界と連絡が取れないのか?

 そういった記者の主観による意見は、どこも書いていなかった。

 何にせよ、これを機に召喚士リディアの不在が世界中に広まるだろう。

 

(そういや、明日ミスト行く日だったな……)

 『ツクヨミ』として、ミストでどのような態度を取ればよいのだろう。

 書類作業を進めながら、エッジがそんな思案に暮れていたら。じいが執務室に現れた。

 

「若様に面会したいと、お客様が……」

「誰だよ」

「ミストの村長ラルフ殿です」

「!!」

 

 面会希望客の名前を聞いた途端。エッジは耳を疑った。

 

 —— —— ——

 10の月から、ミストの村長がミゼルからラルフに変わった。

 時同じくして、ミストが安全面で頼る国が、エブラーナからバロンに変わった。

 しかも夏以降。ミストの住民の間でエッジの評価が悪くなった。

 —— —— ——

 

 ミストはエブラーナ——というより、エッジとの縁を切った。

 だからリディアがいなくなったという連絡をエブラーナ城に送ってこないのだろう。

 そんな予測を立ててていたエッジにとって、ラルフの来訪は驚きでしかない。

 

「どうされますかな? ミストのお客様ですから、お帰りに」

「——ここに通してくれ」

 

 ラルフを謁見の間ではなく、この執務室に通すよう伝えてから。

 数分もかからず、じいの案内でふくよかな青年が執務室に現れた。

 

「リディアと縁が深いエッジ様へ、真っ先にご連絡せねばと思いましたが……まずは幻獣界と縁がある方々が先だと判断させていただきました。こちらの連絡が遅くなりましたことを、どうぞお許しください」

「いい。おまえの判断は間違ってねえよ」

「あとですね。妻からツクヨミさんが、明日ミストに来る予定だと聞いておりますので、彼にも伝えていただきたいのです」

 

 ラルフは連絡が遅くなった謝罪に続いて。この日までの動きを事細かく報告してくれた。

 

(全部知ってるって言えねえ……)

 エッジは初めて聞いたふりを装い続けた。

 密かに状況を把握している。ラルフにそんなこと言えない。

 

 その後ラルフは、幻獣界が地上との往来を遮断した目的。

 その主犯とも言うべき存在。今後起こりうる可能性に、最悪の展開……。

 昨日、先住民と話し合った内容だけでなく。

 そこから導き出した持論を、包み隠さず話してくれた。

 

「……以上は、あくまでも僕の推論です」

「すげえな、おまえ。そこまで予想してなかったぜ」

「とんでもありません。ミゼルさんはじめ先住民のみなさんのおかげです」

 

(あいつの言った通りだ。伊達に幻獣界専門家やってねえ……)

 ラルフを称賛しながらも、エッジはひとつだけ嘘をついた。

 

 実は彼が語った持論は、エッジが予測していた内容とほぼいっしょ。

 けれど、正直に『一緒のこと考えてたぜ』と答えなかった。

 『エッジ』は、リディアと関係を絶ってしまっている。

 にもかかわらず『オレも幻獣界に詳しいんだぜ!』とアピールするようで気が引けたのだ。

 

「これからもセシルやヤンと連絡、密に取れよ」

「もちろんです。リディアや幻獣界のことで何かわかり次第、いえ、それ以外のことでもエッジ様にも逐一書状を送らせていただきますよ」

「……なんで」

「えっ」

「これからミストが仲良くするのはバロンだろ」

 

 ラルフからの意外な申し出に、思わず眉をひそめる。

 

「確かにバロンには何かと助力を仰ぐつもりでおりますが、それとは別です。ミストと縁を切るつもりはないですし、僕はエッジ様を施政者として尊敬しておりまして……」

 

 『施政者として尊敬』という部分が、心にぐっときた。

 エブラーナと関係ない民から、そう言われる機会はなかなかない。

 

(だから、こいつはオレの悪口言わねえんだな)

 ヤリ逃げした。リディアを、ミストを見捨てた。

 現在ミストの住民の大多数は、エッジへそんな低い評価を下している。

 ラルフは彼らに追随しない、極めてまれな住民であった。

 

「おまえの個人的な希望ってことか?」

「ええ、そうです」

「嫁はいいのか。あいつオレのこと嫌いだろ」

「ははっ! 妻はギルバート様以外全ての男性が苦手なのです。エッジ様だけではありませんから、どうぞご安心下さい」

 

(甘っちょろい奴だな!)

 苦手ではない。あれは忌み嫌うレベルだ。そう思ったが、ツッコまないでおいた。

 

「それにですね。多忙を極めてお越しになることが出来ないだけで、今でもミストのことが気になると思いましてね。『ツクヨミ』さんから報告をもらっているでしょうし、彼と併せたら完全にカバーできますよ」

「……そういうことな。いいぞ、送ってこい」

 

 エッジはラルフのお願いを受け入れた。

 

 —— —— ——

 諜報——ツキノワを、いつまでもミストにいさせるつもりはない。

 問題はツキノワの後任だ。ミストに置きたい諜報は、女性のお城勤。

 ところが、スカウト担当のじいは、まだ候補すら見つけていない状況。

 —— —— ——

 

 ラルフの厚意に甘えたら、『ツクヨミ』との二枚看板で情報収集出来る。

 ミストには諜報を置かなくてもよさそう。

 

「気に入らないようでしたら、読まずに捨てていただいて構いません」

「そんなことするかよ」

「そうですか」

 

(手紙の相手、こいつじゃなかったから別にいいだろ)

 また嘘をついたが、罪悪感はなかった。

 実は一度、捨てたことがある。それも、焼き捨て……。

 

 その後もしばらくの間、ラルフと雑談を続けてから。

 

「今後もミストとお付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 最後にそう言い残して、ラルフが執務室から出ていった。

 

(デブってるけど、聖人だな……)

 ラルフは公私の分別が出来る。しかも、同調圧力に屈しない人間のようだ。

 

 首の皮一枚状態だが、彼のおかげで『エッジ』はミストと再びつながりが持てた。

 それが、この日唯一の収穫であった。

 

§

 

 その日以降、エッジは公務をこなしながら、時折『ツクヨミ』としてミストを訪問。

 並行して、ツキノワとラルフから届く書面でミストの情勢を知る。

 そんな日々を過ごしているうちに、月日が流れて……。

 

 *11年後につづく

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